タイムカプセルを開けた日からサイコパスに愛されています。【社会人BL】

純鈍

文字の大きさ
4 / 56
2.宇佐神さんはサイコパス

しおりを挟む
 唖然とする俺と瑠生を見て、ニコニコと笑いながら「あんまり人の家、汚したくないんだよね。片付けが面倒だから」と言う宇佐神さんは、汚したくないと言いながらも土足で部屋に上がってきた。その理由はこのあとすぐに分かる。

 一体誰なのか、という考えと、一体これから何が起こるのか、という考えで瑠生も俺も黙ったまま宇佐神さんの行動をジッと追ってしまう。

 ゆっくりと宇佐神さんがキッチンに移動していく、そして、シンク近くのホルダーに刺さっていた包丁をおもむろに手に取った。

「え?」

 そう言ったのは俺に馬乗りになっていた瑠生だった。

「さて移動してもらおうか」

 宇佐神さんが瑠生の鼻先に包丁を突き付けたのだ。ニコニコと表情は変えないが、その瞳から放たれる殺気は凄まじく、これは本気だと思った瑠生が俺の上から飛び退き、ジリジリと後ろに追い詰められていく。

 向かう先は玄関ではなく、お風呂場で……

「うわぁ!」

 しばらくして、血だらけになった瑠生が顔面に恐怖を貼り付けた状態でお風呂場から飛び出して来て、玄関の外に一直線に走って逃げていった。

 怯えながらも一体何があったのか、と恐る恐るお風呂場に向かう俺。

 近付いていくとポタポタと雫が下に落ちる音が聞こえてきた。その音を聞きながら狭い脱衣場からお風呂場を覗き込むと、こちらを振り返る宇佐神さんと目が合った。そして

「響くん、僕と付き合ってよ」

 彼は手に持ったナイフを顔の横に持ち上げ、血に塗れた姿でニコニコと笑った。

「ひぃっ!」

 ――こ、この人! サイコパスだ! 人殺しだ! こ、ここ、殺される!

 恐怖を感じて、俺はその場から動けなくなった。

「その顔……嫌だな、もしかして、僕が本当に人を傷付けたと思った? 僕も一応れっきとした人間だよ?」

 宇佐神さんが表情を変えることなく言う。

 そんな彼に怯えながらも「そ、それ、何も否定してないですよ! ただ“自分人間ですよ”って言っただけですよ!」と、心の中で何故かツッコミを入れられる自分に驚いた。

「これね、豚の血。お肉の加工屋さんで仲良くしてくれてる人が居てさ、映画撮ってる友達が欲しいって言ってるって伝えたら用意してくれて、準備しておいて良かったなぁ。君の誕生日も聞いておいて良かった。あ、でも部屋のロックに誕生日を使うのはちょっと危険だね」

 パクパクと口を動かすだけの俺に対して、説明をしながら宇佐神さんは一層キラキラとした顔でニコッと笑い、「お風呂借りるね」と普通に人の家のお風呂に入り始めた。

 その間、俺は自分の心を落ち着かせるためと単純に部屋が汚れたために床に落ちた豚の血を雑巾で拭く羽目になり、宇佐神さんがバスタオルを腰に巻いただけの状態でお風呂から出て来たときにはソファでぐったりとなっていた。

 警察に通報しなかったのは、瑠生は消え、冷静になってちゃんと考えてみたら宇佐神さんが俺を助けてくれたってことだけは分かったから。

「……」

 そっと宇佐神さんが俺の隣に腰を下ろす。沈黙が流れる。

 ――なんだ、この状況。

 三重野を好きなことから分かるように俺の恋愛対象は男だ。恋人でもなんでもない今日知り合ったイケメンが半裸で自分の横に座っている、という状況にドギマギしてしまう。たとえ、宇佐神さんがぜんぜん俺のタイプじゃないとしても。

 そんな空気に気が付いたのか、宇佐神さんから口を開いた。

「ねえ、響くんの服貸してくれないかな? バスタオルだけだと変質者になっちゃうから」

 ――この人、何言ってんの? 俺の服なんか着たら明らかに変態になるじゃんかよ。帰れなくなるじゃんかよ。

 俺と宇佐神さんではサイズが違いすぎる。
 パツパツだし、へそが見えて、明らかに渋谷のギャルになるだろう。

「いや、俺の服だと小さいし、瑠生の服があるんで、それ着てください」

 と言いつつ、宇佐神さんの方を見ることなく立ち上がり、隣の部屋のクローゼットに入っていた瑠生のジャージを取り出して戻ってくる。そして、それを差し出すときに半裸の宇佐神さんの胸元に目立つ大きな傷跡のようなものがあって少しビクッとしてしまった。

 ――これ、これは刺し傷の跡では……? 一体、何者なんだ? このヒト……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...