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6.宇佐神 紳一郎の朝は早い
②※瑠生視点
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◆ ◆ ◆
※瑠生視点
看守に面会だと言われて連れ出された。こんな朝早くから誰が俺に面会に来るというのだろうか。まさか、響が? そうだよな、自分が間違ってたって言いに来てくれたんだよな? だって、俺は絶対正しかったじゃん。
「入れ」
面会室の扉が開き、看守に言われて中を見る。
「響……」
透明なアクリル板を隔てた向こう側を見た瞬間、俺は言葉を失った。
「あんた……」
そこに座っていたのは、あの日、俺を捕まえた宇佐神という男だった。響を俺から奪った頭のイカれたサイコパス。
「やあ、瑠生くん。まあ、座って」
初めて見たときと同じ笑顔を浮かべて、宇佐神は言った。言われなくても、どこにも逃げられない。何をしに来たのか知らないが、早く帰ってもらうために俺も椅子に座った。
拒否も出来るらしいが、奴が響からのメッセージを持ってきている可能性もある。
「十年くらい前なら知り合いだったら誰でも面会できたけど、いまは家族とか限定された人しか面会できなくて、ここまで来るの大変だったよ」
スーツを着た宇佐神は両手の指を組んで、優雅に言った。
「一体、なんの用だよ?」
ふんぞり返りながら尋ねる。こんなの真面目にやってられない。
「今日はね、君にお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
この宇佐神という男が俺にお願いだなんて、思わず、ふっと笑ってしまう。
「そう。……瑠生くん、ここを出られたとしても、もう響くんには会いに来ないでほしい」
穏やかな表情のままで、そんなことを言われて、心底腹が立った。
「なんであんたにそんなふうに言われなきゃいけないんだよ?」
「僕は響くんが大好きだから」
即答されて、さらに腹の中が煮えくり返る。
「響はなんであんたなんか……!」
――なんで、こんなサイコパス野郎なんかに惹かれた? どうして、こんな男に取られなきゃいけなかった?
ぐっと両方の拳に力が入る。だが
「ううん、響くんは僕のことなんか好きじゃないよ。眼中にない」
宇佐神のその言葉に力が抜けた。笑顔で、よくそんなことをあっさりと言えるな。自分が好かれてないなんて。ざまぁない。
「なら、俺にもまだチャンスはあるだろう?」
今度こそ、響とやり直して、断られたら一緒に死のう。そう思ったのに
「ないよ」
宇佐神はハッキリと言った。
「は?」
「お願いを聞いてもらえないなら、いまから手紙を読むね」
困惑する俺の前で、宇佐神はスーツの内ポケットから細長い封筒を取り出し、中から一枚の白い便せんをつまみ出す。
「言っとくけど、これは僕からの手紙じゃない」
便せんを開きながら、宇佐神はにっこりと俺に笑い掛けた。淡い期待が浮かぶ。
――まさか、響から……?
「”瑠生くんへ”」
そこで止めて、まるで、俺の期待をさらに煽っているみたいだ。でも、待てよ? 響は俺のことを瑠生くんとは呼ばない。
「”君が刑務所を出たとき、もし、響くんに近付こうものなら、僕の持てる力すべてを使って、君を社会的に生きられないようにする”」
『殺してやる』
宇佐神の言葉に被って、そんな言葉が聞こえた気がした。怖気が走る。
「おい、あんたの言葉だろ、それ! 白紙なんだろ、その手紙!」
俺は宇佐神の持っている手紙を指差しながら言った。
看守に自分の言葉として記録されないように白紙の手紙を読んでるんだろ?
「この手紙は嘘は吐かない。分かったね?」
俺の言葉を無視して、宇佐神の言い方は小さな子供に言い聞かせるみたいだった。
「ふざけんな!」
思わず、アクリル板を拳で殴る。
「落ち着きなさい!」
記録をしていた看守が俺の腕を掴んで止めた。本当にふざけるな。こんなんで諦められるわけがない。
「おい、こいつはな、サイコパスなんだ!」
抵抗し、勢い良く立ち上がって、宇佐神のことを指差す。
「殺人鬼なんだよ! 人を殺してるんだ!」
叫び続ける。
「やだな、僕もれっきとした人間だよ?」
俺を恐れるような素振りを見せながら宇佐神は椅子から立ち上がった。とんだ嘘つきだ。
「サイコパスなんだ! 捕まえろよ!」
ドンドンとアクリル板を両の拳で叩けば
「やめなさい! 落ち着きなさい!」
記録係の看守と扉の外に居た看守が俺を両脇から押さえて止める。
――こんな、こんな壁さえなければ……!
「うぁああああ!」
看守二人に引き摺られそうになるのを叫びながら堪える。視線はずっと宇佐神から離れない。
「それじゃあ、さよなら、瑠生くん」
後ろに下がり、影の中に入った宇佐神はニヤリと笑ったように見えた。
――悪魔だ……。
※瑠生視点
看守に面会だと言われて連れ出された。こんな朝早くから誰が俺に面会に来るというのだろうか。まさか、響が? そうだよな、自分が間違ってたって言いに来てくれたんだよな? だって、俺は絶対正しかったじゃん。
「入れ」
面会室の扉が開き、看守に言われて中を見る。
「響……」
透明なアクリル板を隔てた向こう側を見た瞬間、俺は言葉を失った。
「あんた……」
そこに座っていたのは、あの日、俺を捕まえた宇佐神という男だった。響を俺から奪った頭のイカれたサイコパス。
「やあ、瑠生くん。まあ、座って」
初めて見たときと同じ笑顔を浮かべて、宇佐神は言った。言われなくても、どこにも逃げられない。何をしに来たのか知らないが、早く帰ってもらうために俺も椅子に座った。
拒否も出来るらしいが、奴が響からのメッセージを持ってきている可能性もある。
「十年くらい前なら知り合いだったら誰でも面会できたけど、いまは家族とか限定された人しか面会できなくて、ここまで来るの大変だったよ」
スーツを着た宇佐神は両手の指を組んで、優雅に言った。
「一体、なんの用だよ?」
ふんぞり返りながら尋ねる。こんなの真面目にやってられない。
「今日はね、君にお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
この宇佐神という男が俺にお願いだなんて、思わず、ふっと笑ってしまう。
「そう。……瑠生くん、ここを出られたとしても、もう響くんには会いに来ないでほしい」
穏やかな表情のままで、そんなことを言われて、心底腹が立った。
「なんであんたにそんなふうに言われなきゃいけないんだよ?」
「僕は響くんが大好きだから」
即答されて、さらに腹の中が煮えくり返る。
「響はなんであんたなんか……!」
――なんで、こんなサイコパス野郎なんかに惹かれた? どうして、こんな男に取られなきゃいけなかった?
ぐっと両方の拳に力が入る。だが
「ううん、響くんは僕のことなんか好きじゃないよ。眼中にない」
宇佐神のその言葉に力が抜けた。笑顔で、よくそんなことをあっさりと言えるな。自分が好かれてないなんて。ざまぁない。
「なら、俺にもまだチャンスはあるだろう?」
今度こそ、響とやり直して、断られたら一緒に死のう。そう思ったのに
「ないよ」
宇佐神はハッキリと言った。
「は?」
「お願いを聞いてもらえないなら、いまから手紙を読むね」
困惑する俺の前で、宇佐神はスーツの内ポケットから細長い封筒を取り出し、中から一枚の白い便せんをつまみ出す。
「言っとくけど、これは僕からの手紙じゃない」
便せんを開きながら、宇佐神はにっこりと俺に笑い掛けた。淡い期待が浮かぶ。
――まさか、響から……?
「”瑠生くんへ”」
そこで止めて、まるで、俺の期待をさらに煽っているみたいだ。でも、待てよ? 響は俺のことを瑠生くんとは呼ばない。
「”君が刑務所を出たとき、もし、響くんに近付こうものなら、僕の持てる力すべてを使って、君を社会的に生きられないようにする”」
『殺してやる』
宇佐神の言葉に被って、そんな言葉が聞こえた気がした。怖気が走る。
「おい、あんたの言葉だろ、それ! 白紙なんだろ、その手紙!」
俺は宇佐神の持っている手紙を指差しながら言った。
看守に自分の言葉として記録されないように白紙の手紙を読んでるんだろ?
「この手紙は嘘は吐かない。分かったね?」
俺の言葉を無視して、宇佐神の言い方は小さな子供に言い聞かせるみたいだった。
「ふざけんな!」
思わず、アクリル板を拳で殴る。
「落ち着きなさい!」
記録をしていた看守が俺の腕を掴んで止めた。本当にふざけるな。こんなんで諦められるわけがない。
「おい、こいつはな、サイコパスなんだ!」
抵抗し、勢い良く立ち上がって、宇佐神のことを指差す。
「殺人鬼なんだよ! 人を殺してるんだ!」
叫び続ける。
「やだな、僕もれっきとした人間だよ?」
俺を恐れるような素振りを見せながら宇佐神は椅子から立ち上がった。とんだ嘘つきだ。
「サイコパスなんだ! 捕まえろよ!」
ドンドンとアクリル板を両の拳で叩けば
「やめなさい! 落ち着きなさい!」
記録係の看守と扉の外に居た看守が俺を両脇から押さえて止める。
――こんな、こんな壁さえなければ……!
「うぁああああ!」
看守二人に引き摺られそうになるのを叫びながら堪える。視線はずっと宇佐神から離れない。
「それじゃあ、さよなら、瑠生くん」
後ろに下がり、影の中に入った宇佐神はニヤリと笑ったように見えた。
――悪魔だ……。
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