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7.言葉の魔術師 サイコパス
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◆ ◆ ◆
三日後、ストーカーを放置していた弊害がついに社内で大きく現れた。
宇佐神さんが人の彼氏を取ったという内容のメールが昼過ぎに社内メールで一斉送信されたのだ。送信者は匿名だった。
「あの宇佐神さんが? まさか?」
「匿名ですからね、信憑性低いですよね?」
メールを受け取った社員からはそういう意見が多かったけれど、あきらかに、周囲の空気はおかしくなっていた。宇佐神さんとの距離を少し取っているような。
当の本人はいつも通りニコニコして仕事もそつなくこなすし、なんの問題もなさそうな感じだけど、数時間後には上司に呼び出されていたし、少し心配になる。
――でも、なんで社内メール? ストーカーって、この会社の人ってこと?
社内メールはこのビルのゲートを社員証を使って通過し、キーイベンティアの入っている28Fから30Fのフロアに入って、社内専用のパソコンを使う必要がある。
だから、犯人は社内の人間ってことになるんだけど、一体、誰が?
「28F裏の扉のほう? 分かった、いま行きます」
夕方になって、宇佐神さんの社用スマホに誰かから電話が掛かってきた。さらっと返答して、宇佐神さんが席から消える。
俺は隣の席だから聞こえてしまった。
俺たちが普段居るフロアは30Fだから、二階分下がる必要がある。
裏の扉っていうのはオフィスの前と後ろに扉があって、後ろのほうの扉のことだ。裏表それぞれ出るとそこに非常階段への扉がある。さらに裏にはフロアごとのゴミ箱と業者用の大きなエレベーターがあって、表にはエレベーターフロアがあるから表側に比べて、非常階段とゴミ箱しかない裏側は人が来にくい。
人がいないところに呼び出されたということは、まさか、ストーカーに呼び出されたのかなと思って、俺はトイレに行くフリをして席を立ち、こっそりと宇佐神さんの後を追った。
宇佐神さんはエレベーターを使って下に下りたみたいだったけど、俺は30Fの裏の非常階段から下に下りた。そして、気になるから申し訳ないけど非常階段の扉の内側から盗み聞きする。
「宇佐神さん、すみません。俺のために」
電話してきたのに相手のほうが遅れてきたようで、俺が盗み聞きし始めたときにちょうど会話が始まったみたいだった。
「内野くんは気にすることないよ? あの人、なかなか諦めないね」
いつもと変わらない宇佐神さんの穏やかな声が聞こえる。
どうやら、いま話してる人はストーカーではないみたいだ。寧ろ、会話の内容から予想するにその被害者……。
もしかして、宇佐神さん、この人を守るために付き合ってるフリをしてあげてるのだろうか? 他人のために自分がサンドバッグに?
そりゃ、宇佐神さんは大丈夫かもだけど、守ってもらうほうは徐々に申し訳なくなって、耐えられなくなってくるよね。
「ありがとうございます。宇佐神さん、俺、思うんです。彼女、今日、ここに居るんじゃないかって……」
そんな怯えた言葉が聞こえたときだった。
ガチャッとフロア側の扉が開く音が聞こえて
「啓介くん、会いたかった」
誰か女性が入ってきたみたいだった。
「ま、愛実、君はもうこの会社を辞めてるはずだろ? どうやって、ここに入ったんだ? ゲートは?」
内野さんのほうが焦っているような声音で言う。たぶん、この女の人がストーカーなんだ。
「早朝の警備が薄いときにゲートの下をくぐったの。それから、フロアの扉を誰かが開けたときに後ろからついて入ったんだ」
女性の嬉しそうな声が聞こえる。言ってることは相当やばい。
「しゃ、社内メールは?」
「ゲスト用のパソコン。ずっとパスワード変わってないんだもん」
二人の会話は続いた。退職者への対応がちゃんとされてなかったパターンか。よくあるんだよな。面倒だから、そのままにして、少ししてから何台か同時に変えるみたいなこと。
「啓介を守るためにメールに写真は貼らなかったんだよ? 私、優しいでしょ?」
宇佐神さんもサイコパスだけど、この扉の向こう側にいる彼女は別の意味でやばそうだ。
「私、なにされても諦めないですよ?」
見えてないから確かじゃないけど、彼女が宇佐神さんに詰め寄った気がする。それも強気な様子で。
「啓介とあなたが付き合ってる限り、あなたが諦めるまで私は……」
「残念、実はもう僕は振られてるんです」
ずっと黙っていた宇佐神さんの声が聞こえたと思ったら、そんなことを言った。
三日後、ストーカーを放置していた弊害がついに社内で大きく現れた。
宇佐神さんが人の彼氏を取ったという内容のメールが昼過ぎに社内メールで一斉送信されたのだ。送信者は匿名だった。
「あの宇佐神さんが? まさか?」
「匿名ですからね、信憑性低いですよね?」
メールを受け取った社員からはそういう意見が多かったけれど、あきらかに、周囲の空気はおかしくなっていた。宇佐神さんとの距離を少し取っているような。
当の本人はいつも通りニコニコして仕事もそつなくこなすし、なんの問題もなさそうな感じだけど、数時間後には上司に呼び出されていたし、少し心配になる。
――でも、なんで社内メール? ストーカーって、この会社の人ってこと?
社内メールはこのビルのゲートを社員証を使って通過し、キーイベンティアの入っている28Fから30Fのフロアに入って、社内専用のパソコンを使う必要がある。
だから、犯人は社内の人間ってことになるんだけど、一体、誰が?
「28F裏の扉のほう? 分かった、いま行きます」
夕方になって、宇佐神さんの社用スマホに誰かから電話が掛かってきた。さらっと返答して、宇佐神さんが席から消える。
俺は隣の席だから聞こえてしまった。
俺たちが普段居るフロアは30Fだから、二階分下がる必要がある。
裏の扉っていうのはオフィスの前と後ろに扉があって、後ろのほうの扉のことだ。裏表それぞれ出るとそこに非常階段への扉がある。さらに裏にはフロアごとのゴミ箱と業者用の大きなエレベーターがあって、表にはエレベーターフロアがあるから表側に比べて、非常階段とゴミ箱しかない裏側は人が来にくい。
人がいないところに呼び出されたということは、まさか、ストーカーに呼び出されたのかなと思って、俺はトイレに行くフリをして席を立ち、こっそりと宇佐神さんの後を追った。
宇佐神さんはエレベーターを使って下に下りたみたいだったけど、俺は30Fの裏の非常階段から下に下りた。そして、気になるから申し訳ないけど非常階段の扉の内側から盗み聞きする。
「宇佐神さん、すみません。俺のために」
電話してきたのに相手のほうが遅れてきたようで、俺が盗み聞きし始めたときにちょうど会話が始まったみたいだった。
「内野くんは気にすることないよ? あの人、なかなか諦めないね」
いつもと変わらない宇佐神さんの穏やかな声が聞こえる。
どうやら、いま話してる人はストーカーではないみたいだ。寧ろ、会話の内容から予想するにその被害者……。
もしかして、宇佐神さん、この人を守るために付き合ってるフリをしてあげてるのだろうか? 他人のために自分がサンドバッグに?
そりゃ、宇佐神さんは大丈夫かもだけど、守ってもらうほうは徐々に申し訳なくなって、耐えられなくなってくるよね。
「ありがとうございます。宇佐神さん、俺、思うんです。彼女、今日、ここに居るんじゃないかって……」
そんな怯えた言葉が聞こえたときだった。
ガチャッとフロア側の扉が開く音が聞こえて
「啓介くん、会いたかった」
誰か女性が入ってきたみたいだった。
「ま、愛実、君はもうこの会社を辞めてるはずだろ? どうやって、ここに入ったんだ? ゲートは?」
内野さんのほうが焦っているような声音で言う。たぶん、この女の人がストーカーなんだ。
「早朝の警備が薄いときにゲートの下をくぐったの。それから、フロアの扉を誰かが開けたときに後ろからついて入ったんだ」
女性の嬉しそうな声が聞こえる。言ってることは相当やばい。
「しゃ、社内メールは?」
「ゲスト用のパソコン。ずっとパスワード変わってないんだもん」
二人の会話は続いた。退職者への対応がちゃんとされてなかったパターンか。よくあるんだよな。面倒だから、そのままにして、少ししてから何台か同時に変えるみたいなこと。
「啓介を守るためにメールに写真は貼らなかったんだよ? 私、優しいでしょ?」
宇佐神さんもサイコパスだけど、この扉の向こう側にいる彼女は別の意味でやばそうだ。
「私、なにされても諦めないですよ?」
見えてないから確かじゃないけど、彼女が宇佐神さんに詰め寄った気がする。それも強気な様子で。
「啓介とあなたが付き合ってる限り、あなたが諦めるまで私は……」
「残念、実はもう僕は振られてるんです」
ずっと黙っていた宇佐神さんの声が聞こえたと思ったら、そんなことを言った。
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