タイムカプセルを開けた日からサイコパスに愛されています。【社会人BL】

純鈍

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14.宇佐神さん、俺はあなたのためなら死ねます

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「お帰りなさい。どこに行ってたんですか?」

 嬉しくて、俺はもっと宇佐神さんに近付いた。よかった、生きてる。

「ちょっと買い物に」

 俺の問いに宇佐神さんは優しく返してくれた。よく見たら、宇佐神さんはいつもの黒い買い物袋を肩から提げている。

「そうだったんですか」
「どうしたの? 響くん、随分嬉しそうだけど」

 ほころぶ俺の顔を見て、ふっと宇佐神さんは笑った。急に胸がぎゅっとなる。

「宇佐神さん、寂しかったです」

 まだ靴も脱いでないのに、俺は宇佐神さんを正面から抱きしめた。触れる、ここに居る。離れていた時間がすごく長かった気がする。本当に寂しかった。

「ふふっ、可愛いね」

 変わらない声が、変わらない手が俺に触れる。

「宇佐神さん」
「ん?」

 少しだけ身体を離して見上げると、不思議そうな顔をする宇佐神さんと視線が合った。今日もキラキラしてる。

「俺、宇佐神さんが好きです」

 笑顔でそう伝えた。やっと、伝えられた。ずっと、言いたかった。

「僕も響くんのこと大好きだよ」

 自然な笑顔が俺をぎゅっと抱きしめる。

「さあ、朝食を作ろうね。――最愛なる君のために」

 冷たい声がした。それは辺りが凍りつくような。

「……っ!」

 その言葉を聞いて、ハッと目が覚める。

 俺はさっきまで宇佐神さんのベッドの上で眠っていた。

 部屋の中が薄暗い。外で雨が降っている音がする。

「あんな夢を見せるなんて、つくづく愛が重たいよ……、宇佐神さん」

 両目を両手で塞ぎながら、俺は声を絞り出した。

 ――宇佐神さんに会いたい。好きだと言ってほしい。

 季節は宇佐神さんがこの世界から消えて、だいぶ進んだ。支えてくれる人たちは居た。でも、俺にとって半年が限界だった。宇佐神さんを忘れることなんてない。ただ寂しさが募っていっただけ。

 ――半年なんて頑張ったほうじゃんか。

 夢を見たいまは、土日に有給をプラスして四連休を取得した三日目の朝だ。休みに入ってから、トイレ以外は宇佐神さんのベッドから動いていない。

 そんな俺がいま、ある目的のために動き出す。

 宇佐神さんが会いに来てくれないなら、俺から行けばいい。

 死んでから宇佐神さんに会えるとして、そのときに髭面とか恥ずかしいから髭剃って、顔洗って、歯磨きくらいはしようと思った。半年で伸びた髪は自分で切ったら、たぶん、もっと酷くなるから、仕方なくこのままだけど。

 服も取り敢えず、パーカーとかだけど、整えて、屋上に向かう。

 鍵が閉まってると思ったけど、案外開いているものだった。扉から出ると、辺りは小雨になっていて、十月なのにかなり寒い。

 宇佐神さんもこんなに冷たい世界で死んでいったのだろうか。死ぬのは怖かっただろうな。俺だって怖い。

 でも、会いたい気持ちのほうが強い。

 心を決めて、俺は20階建てと同じ高さの柵の向こうに立った。下は見ないように、真っ直ぐ前を見つめる。

「宇佐神さん、俺はあなたのためなら死ねます」

 柵から手を離して、ゆっくりと身体が前に傾いていく。

 ――ああ……、ちゃんと会えるといいな……。

「……っ」

 目を閉じようとした瞬間、ガバッと顔の両横から二本の腕が伸びてきた。

 ――左手薬指に俺と同じ指輪……。

「僕の後を追ってこようとするなんて」

 ――え……?

 すべてがスローモーションに見える。なのに、その声だけは通常の速度で俺に届いた。

 二本の腕が俺の身体に巻きつき、そのまま柵の内側まで引きずり込む。

「その愛、純粋で綺麗で重たくていいなあ」

 濡れた屋上の床に仰向けに転がると、ニヤリと笑う顔と逆さまの状態で目が合った。
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