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14.宇佐神さん、俺はあなたのためなら死ねます
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「宇佐神さん? 生きてる?」
俺自身もっと取り乱すと思ったけれど、間抜けな声が出た。いや、幻を見てると思ってるから、いまの俺、結構、ぽやぽやしてるんだろうな。
「そうだよ? アメリカで心臓の手術を受けてきたんだ」
逆さに映る宇佐神さんも俺と別れたのは昨日、みたいな感じで話してくる。
「だって、お葬式……」
ぽやぽやのままで口走る。
だって、お通夜で見た宇佐神さんはたしかに死んでいた。酷い言い方をすれば、あれは死体特有の蝋人形化だった。
「あれはね、生前葬だよ。本当に生きて帰って来られるか分からなかったし。まあ、すぐアメリカに飛んだから、棺桶に入ってたのは僕そっくりの蝋人形だけど」
優雅な動きで説明して、宇佐神さんは「すごいよね-」とか言っている。
――まさかの本物の蝋人形……!
「でも、三重野は嘘吐かない!」
ガバッと起き上がって、俺は宇佐神さんのほうを向いた。これだけは言える。三重野は真面目だから、嘘は吐かないんだ。
「ああ。三重野くん、真面目だからさ、響くんを出来るだけ傷付けないようにしたいから協力してって言ったら、約束守ってくれたんだよね、律儀に」
悪気はなにもございません、みたいな顔で宇佐神さんが俺に言う。三重野まで利用するなんて最低だ。
「いや、十分傷付いたんですけど? じゃあ、あの、お葬式に参加されてたあの人たちは? だって、生前葬なら、なんであんなにみんな泣いて……」
「あれは全員知り合いの劇団の皆さん」
「全員ってことは、お母様も?」
「そう」
――笑顔でなに言ってんだ、この人。
あのお通夜は本当に雰囲気も暗くて、所々ですすり泣いている人がいた。お母様まで役者だったなら、俺に宇佐神さんの蝋人形を見せたのはわざとだったのだろう。
「なんでこんなことばっかりするんですか!」
腹が立って、俺は力強く宇佐神さんの両腕を掴んだ。
「君にもっと想ってほしかったから」
嘘だらけのニコッと笑った顔が俺に近付く。そして、「っていうのもあるけど」と今度は優しい笑みを浮かべて続けた。
「もし、生きて帰って来れなくて僕が急に消えてしまうより、お葬式っていう目に見えるお別れが出来たほうが、君も心の整理がつくと思ったんだ」
「……っ」
すべては君のため、という瞳に見つめられて、思わず、むむっという顔をしてしまう。
三重野はこの説明を聞いて、納得したのか。だから、宇佐神さんに協力したんだな。俺もこれ聞いたら、たしかにって思ってしまうもん。実際はぜんぜん心の整理つかなかったけど。
いや、それとも、もしかして三重野、俺が冷たく振ったのに嫌いにならないでいてくれたってこと? 三重野はやっぱり王子様なんだな。
それに比べて、このサイコパスは……
「あと、君が僕を追って死んでしまわないように毛利くんと名雪くんには定期的に監視をちゃんとお願いしてたんだよ? 部屋にだって、何台もカメラセットしてるし」
当然のことのように、とんでもないことを口にしてくる。
「カメラ?」
「そう、まあ、ペットカメラかな。ずっと見てたよ、響くん」
「なっ!」
開いた口が塞がらない。
ぜんぜん気付かなかった。半年間、ずっと遠隔で様子を見られてたってこと? 俺が「うしゃみしゃん……」とか酔っ払って泣いてるところも?
さらには大家さんとかも巻き込んで? 本当に最低なサプライズだ。歪んでる。こっちは気持ちがぐちゃぐちゃになったっていうのに。
「ふざけないでくださいよ! 生きて帰ってくるなら、連絡くらい――」
「手術中に一回心停止してるから、ほんとに地獄の底から這い戻ってきたんだけど」
「え……」
さっきとは別の意味で唖然としてしまって、俺は掴んでいた宇佐神さんの腕を離した。暗黒の地獄の底から這い戻ってくる宇佐神さんを想像してしまう。
「僕は死ぬ気なかったんだけど、こればっかりは運だから。確率的には死ぬほうが高かったし、安定してから君に会おうと思って」
雨に濡れて冷たくなった大きな両手が俺の頬に触れる。
よく考えてみれば、アメリカでしか出来ない手術なんて、きっと大きな手術だったんだ。リハビリとかも毎日あったんだろうな。必死にそれに耐えていて、俺に連絡する余裕なんてなかったかも。
「もう大丈夫なんですか?」
急に自分がわがままばかり言っている気がして、罰が悪くなり、視線を逸らしながら尋ねる。
「うん」
「本当に?」
宇佐神さんの返事が軽くて、嘘じゃないですよね? と詰め寄ってしまった。
――あ……。
とんっと額と額がくっ付き、嬉しそうに笑う瞳と視線が合致する。
「うん、激しい運動も出来るよ? ――エッチなこととか」
至近距離でそんなことを言われて、ぶわわっと顔が熱くなった。本当にこの人は……!
「宇佐神さんのあほ! いてこましたろか!」
自分の頬に触れていた宇佐神さんの手を振り払って、掴み掛かろうとした瞬間だった。
「うん、して。返り討ちにしてあげるから」
「……うぅっ」
ぎゅっと正面から抱きしめられて、なにも言えなくなった。
俺自身もっと取り乱すと思ったけれど、間抜けな声が出た。いや、幻を見てると思ってるから、いまの俺、結構、ぽやぽやしてるんだろうな。
「そうだよ? アメリカで心臓の手術を受けてきたんだ」
逆さに映る宇佐神さんも俺と別れたのは昨日、みたいな感じで話してくる。
「だって、お葬式……」
ぽやぽやのままで口走る。
だって、お通夜で見た宇佐神さんはたしかに死んでいた。酷い言い方をすれば、あれは死体特有の蝋人形化だった。
「あれはね、生前葬だよ。本当に生きて帰って来られるか分からなかったし。まあ、すぐアメリカに飛んだから、棺桶に入ってたのは僕そっくりの蝋人形だけど」
優雅な動きで説明して、宇佐神さんは「すごいよね-」とか言っている。
――まさかの本物の蝋人形……!
「でも、三重野は嘘吐かない!」
ガバッと起き上がって、俺は宇佐神さんのほうを向いた。これだけは言える。三重野は真面目だから、嘘は吐かないんだ。
「ああ。三重野くん、真面目だからさ、響くんを出来るだけ傷付けないようにしたいから協力してって言ったら、約束守ってくれたんだよね、律儀に」
悪気はなにもございません、みたいな顔で宇佐神さんが俺に言う。三重野まで利用するなんて最低だ。
「いや、十分傷付いたんですけど? じゃあ、あの、お葬式に参加されてたあの人たちは? だって、生前葬なら、なんであんなにみんな泣いて……」
「あれは全員知り合いの劇団の皆さん」
「全員ってことは、お母様も?」
「そう」
――笑顔でなに言ってんだ、この人。
あのお通夜は本当に雰囲気も暗くて、所々ですすり泣いている人がいた。お母様まで役者だったなら、俺に宇佐神さんの蝋人形を見せたのはわざとだったのだろう。
「なんでこんなことばっかりするんですか!」
腹が立って、俺は力強く宇佐神さんの両腕を掴んだ。
「君にもっと想ってほしかったから」
嘘だらけのニコッと笑った顔が俺に近付く。そして、「っていうのもあるけど」と今度は優しい笑みを浮かべて続けた。
「もし、生きて帰って来れなくて僕が急に消えてしまうより、お葬式っていう目に見えるお別れが出来たほうが、君も心の整理がつくと思ったんだ」
「……っ」
すべては君のため、という瞳に見つめられて、思わず、むむっという顔をしてしまう。
三重野はこの説明を聞いて、納得したのか。だから、宇佐神さんに協力したんだな。俺もこれ聞いたら、たしかにって思ってしまうもん。実際はぜんぜん心の整理つかなかったけど。
いや、それとも、もしかして三重野、俺が冷たく振ったのに嫌いにならないでいてくれたってこと? 三重野はやっぱり王子様なんだな。
それに比べて、このサイコパスは……
「あと、君が僕を追って死んでしまわないように毛利くんと名雪くんには定期的に監視をちゃんとお願いしてたんだよ? 部屋にだって、何台もカメラセットしてるし」
当然のことのように、とんでもないことを口にしてくる。
「カメラ?」
「そう、まあ、ペットカメラかな。ずっと見てたよ、響くん」
「なっ!」
開いた口が塞がらない。
ぜんぜん気付かなかった。半年間、ずっと遠隔で様子を見られてたってこと? 俺が「うしゃみしゃん……」とか酔っ払って泣いてるところも?
さらには大家さんとかも巻き込んで? 本当に最低なサプライズだ。歪んでる。こっちは気持ちがぐちゃぐちゃになったっていうのに。
「ふざけないでくださいよ! 生きて帰ってくるなら、連絡くらい――」
「手術中に一回心停止してるから、ほんとに地獄の底から這い戻ってきたんだけど」
「え……」
さっきとは別の意味で唖然としてしまって、俺は掴んでいた宇佐神さんの腕を離した。暗黒の地獄の底から這い戻ってくる宇佐神さんを想像してしまう。
「僕は死ぬ気なかったんだけど、こればっかりは運だから。確率的には死ぬほうが高かったし、安定してから君に会おうと思って」
雨に濡れて冷たくなった大きな両手が俺の頬に触れる。
よく考えてみれば、アメリカでしか出来ない手術なんて、きっと大きな手術だったんだ。リハビリとかも毎日あったんだろうな。必死にそれに耐えていて、俺に連絡する余裕なんてなかったかも。
「もう大丈夫なんですか?」
急に自分がわがままばかり言っている気がして、罰が悪くなり、視線を逸らしながら尋ねる。
「うん」
「本当に?」
宇佐神さんの返事が軽くて、嘘じゃないですよね? と詰め寄ってしまった。
――あ……。
とんっと額と額がくっ付き、嬉しそうに笑う瞳と視線が合致する。
「うん、激しい運動も出来るよ? ――エッチなこととか」
至近距離でそんなことを言われて、ぶわわっと顔が熱くなった。本当にこの人は……!
「宇佐神さんのあほ! いてこましたろか!」
自分の頬に触れていた宇佐神さんの手を振り払って、掴み掛かろうとした瞬間だった。
「うん、して。返り討ちにしてあげるから」
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ぎゅっと正面から抱きしめられて、なにも言えなくなった。
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