タイムカプセルを開けた日からサイコパスに愛されています。【社会人BL】

純鈍

文字の大きさ
49 / 56
14.宇佐神さん、俺はあなたのためなら死ねます

しおりを挟む
「宇佐神さん? 生きてる?」

 俺自身もっと取り乱すと思ったけれど、間抜けな声が出た。いや、幻を見てると思ってるから、いまの俺、結構、ぽやぽやしてるんだろうな。

「そうだよ? アメリカで心臓の手術を受けてきたんだ」

 逆さに映る宇佐神さんも俺と別れたのは昨日、みたいな感じで話してくる。

「だって、お葬式……」

 ぽやぽやのままで口走る。

 だって、お通夜で見た宇佐神さんはたしかに死んでいた。酷い言い方をすれば、あれは死体特有の蝋人形化だった。

「あれはね、生前葬だよ。本当に生きて帰って来られるか分からなかったし。まあ、すぐアメリカに飛んだから、棺桶に入ってたのは僕そっくりの蝋人形だけど」

 優雅な動きで説明して、宇佐神さんは「すごいよね-」とか言っている。

 ――まさかの本物の蝋人形……!

「でも、三重野は嘘吐かない!」

 ガバッと起き上がって、俺は宇佐神さんのほうを向いた。これだけは言える。三重野は真面目だから、嘘は吐かないんだ。

「ああ。三重野くん、真面目だからさ、響くんを出来るだけ傷付けないようにしたいから協力してって言ったら、約束守ってくれたんだよね、律儀に」

 悪気はなにもございません、みたいな顔で宇佐神さんが俺に言う。三重野まで利用するなんて最低だ。

「いや、十分傷付いたんですけど? じゃあ、あの、お葬式に参加されてたあの人たちは? だって、生前葬なら、なんであんなにみんな泣いて……」 

「あれは全員知り合いの劇団の皆さん」

「全員ってことは、お母様も?」

「そう」

 ――笑顔でなに言ってんだ、この人。

 あのお通夜は本当に雰囲気も暗くて、所々ですすり泣いている人がいた。お母様まで役者だったなら、俺に宇佐神さんの蝋人形を見せたのはわざとだったのだろう。

「なんでこんなことばっかりするんですか!」

 腹が立って、俺は力強く宇佐神さんの両腕を掴んだ。

「君にもっと想ってほしかったから」

 嘘だらけのニコッと笑った顔が俺に近付く。そして、「っていうのもあるけど」と今度は優しい笑みを浮かべて続けた。

「もし、生きて帰って来れなくて僕が急に消えてしまうより、お葬式っていう目に見えるお別れが出来たほうが、君も心の整理がつくと思ったんだ」
「……っ」

 すべては君のため、という瞳に見つめられて、思わず、むむっという顔をしてしまう。

 三重野はこの説明を聞いて、納得したのか。だから、宇佐神さんに協力したんだな。俺もこれ聞いたら、たしかにって思ってしまうもん。実際はぜんぜん心の整理つかなかったけど。

 いや、それとも、もしかして三重野、俺が冷たく振ったのに嫌いにならないでいてくれたってこと? 三重野はやっぱり王子様なんだな。

 それに比べて、このサイコパスは……

「あと、君が僕を追って死んでしまわないように毛利くんと名雪くんには定期的に監視をちゃんとお願いしてたんだよ? 部屋にだって、何台もカメラセットしてるし」

 当然のことのように、とんでもないことを口にしてくる。

「カメラ?」
「そう、まあ、ペットカメラかな。ずっと見てたよ、響くん」
「なっ!」

 開いた口が塞がらない。

 ぜんぜん気付かなかった。半年間、ずっと遠隔で様子を見られてたってこと? 俺が「うしゃみしゃん……」とか酔っ払って泣いてるところも?

 さらには大家さんとかも巻き込んで? 本当に最低なサプライズだ。歪んでる。こっちは気持ちがぐちゃぐちゃになったっていうのに。

「ふざけないでくださいよ! 生きて帰ってくるなら、連絡くらい――」
「手術中に一回心停止してるから、ほんとに地獄の底から這い戻ってきたんだけど」
「え……」

 さっきとは別の意味で唖然としてしまって、俺は掴んでいた宇佐神さんの腕を離した。暗黒の地獄の底から這い戻ってくる宇佐神さんを想像してしまう。

「僕は死ぬ気なかったんだけど、こればっかりは運だから。確率的には死ぬほうが高かったし、安定してから君に会おうと思って」

 雨に濡れて冷たくなった大きな両手が俺の頬に触れる。

 よく考えてみれば、アメリカでしか出来ない手術なんて、きっと大きな手術だったんだ。リハビリとかも毎日あったんだろうな。必死にそれに耐えていて、俺に連絡する余裕なんてなかったかも。

「もう大丈夫なんですか?」

 急に自分がわがままばかり言っている気がして、罰が悪くなり、視線を逸らしながら尋ねる。

「うん」
「本当に?」

 宇佐神さんの返事が軽くて、嘘じゃないですよね? と詰め寄ってしまった。

 ――あ……。

 とんっと額と額がくっ付き、嬉しそうに笑う瞳と視線が合致する。

「うん、激しい運動も出来るよ? ――エッチなこととか」

 至近距離でそんなことを言われて、ぶわわっと顔が熱くなった。本当にこの人は……!

「宇佐神さんのあほ! いてこましたろか!」

 自分の頬に触れていた宇佐神さんの手を振り払って、掴み掛かろうとした瞬間だった。

「うん、して。返り討ちにしてあげるから」
「……うぅっ」

 ぎゅっと正面から抱きしめられて、なにも言えなくなった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

処理中です...