義姉の身代わりだった私

雨雲レーダー

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壊れはじめる舞台 ※セシリア

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 カーラが、王宮から消えた。

 まるで風が止むように、ある朝を境にぱたりと姿を見せなくなった。理由を問おうとしても、誰もはっきりとは答えない。

「お加減が悪いとか」

「急用ができたらしいわよ」

 そんな言葉だけが、まるでつまらない芝居の台詞のように繰り返される。

「ねえ、カーラは?何か知ってる?」

 いつもなら声を弾ませて寄ってくる取り巻きの令嬢たちにそう聞いても、返ってくるのは曖昧な笑顔と「さあ……」というそっけない返事ばかり。

 おかしい。あの子たちはいつも私をを称える側だったはずなのに。

 苛立ちを押し殺しながら、セシリアは小さく深呼吸をした。

 昼下がりのサロン、窓辺に座っていたときだった。扇子で口元を隠したまま近づいてきた令嬢が、セシリアの耳元でそっと囁く。

「カーラのことだけど……レオナルド様とずいぶん親しかったらしいわよ」

 セシリアは眉をひそめた。

「何を言っているの? 」

「密会していたって。しかも、何度も」

 その言葉が耳に届いた瞬間、セシリアの手からティーカップがかすかに震えた。

 信じられなかった。あのカーラが、私に黙ってレオナルド様と?

 苛立ちと不安が混ざり合い、セシリアは立ち上がった。

「いい加減にしてちょうだい!レオナルド様は私の婚約者よ!」

 令嬢は薄く笑って、「そうね、失礼」とだけ返してすぐ離れていった。けれど、その表情にはどこか含みがあった。

 カーラが何かやらかしたのは確か。けれど、それが私にまで影響を及ぼしてくるなんて。

 焦りが胸の奥にじわじわと広がっていく。

 その足で、レオナルドを探して王宮の廊下を進む。ようやく控えの間で見つけたとき、セシリアはいつも通りの笑顔を作って声をかけた。

「レオナルド様、少しお時間をいただけますか?」

「……どうしたの?」

 表情は変わらず穏やかだった。だが、彼の瞳にはいつもの柔らかさがない。

「最近、カーラのことで変な噂が流れていて……レオナルド様のお名前まで出ていましたの。何か誤解があるのなら、きちんと説明していただきたいと思って」

 彼は小さく息をついた。

「誤解じゃないよ」

「……え?」

 笑顔が凍りついた。

「君が気にすることじゃない。僕とカーラのことは、君に話す必要はないから」

「でも……私、あなたの婚約者なのよ?それなのに……」

「関係ないだろ? 君が婚約者だろうと、僕が誰と親しくなるかは僕の自由だ」

 ぐさりと胸に刺さる冷たい一言。

 言い返そうとしたが、唇が動かない。どうして。どうしてこんな。

「それに最近は、エレナのほうが気になる。君よりずっと……興味深いから」

 その言葉で、すべてが崩れた。

 セシリアは何も言えないまま、ただそこに立ち尽くした。

 見渡せば、遠巻きにこちらを見る侍女や文官たちの視線が突き刺さる。誰も声をかけない。それが、何よりも残酷だった。

 どうして……みんな、あの子のほうを見てるの?

 爪が扇子に食い込み、表面の布が裂けた。
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