義姉の身代わりだった私

雨雲レーダー

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これからのこと

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 翌朝は早めに目が覚めてしまった。
 窓から差し込む陽光が、庭に咲く花々を優しく照らしている。美しく整えられた部屋にも、どこか心落ち着く温もりがあった。

 身支度を整え、エレナが食堂に入ると、公爵夫妻とヴィクトルがすでに席についていた。セリーナ夫人が明るく微笑みながら声をかける。

「おはようございます、エレナさん。ゆっくり眠れた?」

「はい、おかげさまで。とても落ち着くお部屋でした」

 温かな雰囲気の中で朝食が始まり、公爵夫妻はエレナの様子を伺いながら、静かに話を切り出した。

「君が王宮を出なければならなかった経緯については、ヴィクトル殿下から詳しく聞いている。君自身が何も悪くないことも、私たちは理解している」

 公爵の穏やかな声に、エレナは背筋を伸ばしたまま小さく頷いた。セリーナ夫人が紅茶を注ぎながら、続ける。

「だからこそ、提案があるの。もしエレナさんさえよければ、正式に……ノルステッド家の養女にならない?」

「……え?」

 思ってもみなかった言葉に、エレナは息を呑んだ。カップを持つ手が、わずかに揺れる。

 公爵が、はっきりとした口調で重ねる。

「今のままでは、君がどれほど努力しても届かない壁がある。だけど、ノルステッドの名があれば、誰も君を軽んじたりはしない。それが……私たちが示したい答えだよ」

「ですが、私は……もう何も持っていません」

「そんなに自分を卑下しないで」

 セリーナ夫人がそっと手を取った。

「実はあの日、慈善パーティーでお会いする前から、エレナさんのことは知っていたのよ。そしてこうして直接お会いしてみて……やっぱり素敵な方だと感じたわ。思慮深くて、あたたかいところがとても好ましく思えるの」

 エレナは視線を落とし、言葉を探した。けれど、胸の奥に込み上げてくるのは、安心や喜びだけではなかった。ここまでしてもらっていいのだろうかという戸惑いと、けれどようやく見えた居場所への、ほんの小さな希望。

 目の前に差し出された手を見つめながら、静かに息を吸い込んだ。その手は、エレナにとって新たな人生の扉を開く鍵となるものだ。
 これまでの経験から、慎重に物事を判断することを学んだはすだ。だけど今この瞬間、心には確かな決意が芽生えていた。

「……ありがとうございます。私のような者を、そこまで思っていただけるなんて。身に余るお言葉です……本当は、まだ私には恐れ多いとも思います。でも、もしお二人がそれでも良いとおっしゃってくださるなら……そのお申し出を、受けさせていただきたいと思います」

 セリーナ夫人は、エレナの手を優しく握りしめ、微笑んだ。その瞳には、母のような温かさが宿っていた。

「もちろんよ、エレナさん。あなたがそう決めてくれて、本当に嬉しいわ」

 公爵もまた、穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。彼の眼差しには、エレナへの信頼と期待が込められていた。

 ヴィクトルは、エレナの隣に座り、静かに言葉を紡いだ。

「これで、君は正式にノルステッド家の一員だ。どんな困難があっても、俺が支える。だから、安心して前に進んでほしい」

 エレナは、ヴィクトルの言葉に胸が熱くなるのを感じた。彼の存在が、彼女にとってどれほど大きな支えとなっているかを、改めて実感した。

 その夜、エレナは自室で静かに過ごしていた。窓の外には、星々が瞬いている。彼女は、これまでの出来事を思い返しながら、新たな生活への期待と不安を胸に抱いていた。

 ふと、扉がノックされた。ヴィクトルが、彼女の部屋を訪ねてきたのだ。

「エレナ、少しだけ話せるか?」

「はい」

 エレナはは短く返事をしてから、ゆっくりと扉を開けてヴィクトルを部屋に招き入れた。

「改めて、養子縁組を受け入れてくれてありがとう。君の決断が、俺たちにとってどれほど嬉しいことか……」

 エレナは、ヴィクトルの言葉に微笑みながら答えた。

「私こそ、感謝しています。ヴィクトル様がいてくださったから、私は自分の未来を信じてみようと思えたのです」

 ヴィクトルは、少し照れたように笑いながら、エレナの手をそっと握った。

「これからも、君のそばで支え続けたい。それが、俺の願いだ」

 エレナの頬が、ほんのりと紅潮する。彼の言葉が、彼女の心に深く響いた。

 その瞬間、二人の間に静かな時間が流れた。言葉はなくとも、互いの想いが通じ合っていることを、二人は確かに感じていた。
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