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迫る不安 ※ユリウス
王宮の私室。
薄紅色のカーテンが揺れ、春の陽射しが柔らかく差し込んでいる。
その穏やかな光景の中で、ユリウス・クローネンブルクは静かに扉を閉めた。
視線の先には、ベッドの上で本を読んでいるリナリアの姿があった。
華奢な肩がわずかに揺れ、薄い寝巻きの袖口からのぞく腕が細くて頼りない。
ページをめくる指先も、どこか力が抜けているように見えた。
顔色は悪くないものの、ほんのりと頬に赤みが差しているのがわかる。
呼吸が浅く、胸元が静かに上下するたび、体の奥に熱がこもっているのが伝わってきた。
ユリウスはため息をつきながら、そっと彼女の隣に腰を下ろす。
無意識に襟元を整え、ちらりとリナリアの顔色をうかがった。
平静を装ってはいるが、指先にわずかな力が入っているのを自覚している。
心配だった。けれど、何よりもその不安を隠そうとする自分自身が少し厄介だった。
「リナリア……大丈夫?」
声をかければ、彼女はいつものように微笑んでみせる。
けれど、その笑顔に力がないことは、すぐにわかった。
「ええ。少し疲れているだけです」
その言葉に、ユリウスは胸がざわつくのを抑えられなかった。
なぜ、そんなに無理をするのか。
どうして、自分にもっと頼ってくれないのか。
ふと、彼女の額に手を伸ばしかけるが、リナリアはその手をふわりと取って、首を振った。
「大丈夫です。本当に。殿下を心配させたくありません」
その拒絶の柔らかさに、ユリウスはわずかに言葉を詰まらせる。
守りたい。支えたい。そう思っているのに、どうして彼女はそれを受け入れてくれないのか――
そんな思いが、喉の奥に澱のように溜まっていく。
「でも、顔が赤い。熱……あるんじゃないか?」
もう一度食い下がるように問いかけると、リナリアは変わらず穏やかに笑った。
「そこまでではありません」
ユリウスはその言葉に反論できなかった。
彼女が無理をしていることはわかっている。
だが、王宮の中で彼女はまだ〝平民の少女〟だった。
医師を呼べば、噂になり、余計な注目を集めてしまう――
そんな理屈を自分に言い聞かせながら、結局彼は何もできない。
「……でも、無理はしないで」
せめてその言葉だけは伝えた。
自分の不安を、どうにか形にしようとするように。
「はい」
リナリアは静かに頷いた。
その返事が心に沁みたのは、彼女が従ってくれる安心感だったのか、それともその瞳に一瞬よぎった痛みのせいだったのか――ユリウスはよくわからなかった。
彼女の手を握った。
その手は細く、少し冷たかった。
守りたいと、改めて思った。
自分の腕の中に彼女を閉じ込めてしまいたいと、そんな衝動さえ覚えた。
「僕は……君とこうしていられるだけで嬉しいんだ」
その言葉には、本音と同時に、どこか押し付けがましい感情が混ざっていた。
自分は満たされたいのだ、とどこかで気づいていた。
彼女の隣にいることで、自分が安心したいのだと。
「クラリスとは、こうして穏やかに話すことなんてできなかった」
リナリアが目を伏せる。
その表情に、ユリウスは微かな戸惑いを覚えたが、言葉を止められなかった。
「……私は、殿下のそばにいられるだけで十分です」
その返事に、ユリウスは胸が締めつけられた。
彼女が無理をしていることはわかっている。
でも、それを指摘すれば、彼女の穏やかな微笑みを壊してしまいそうで、怖かった。
「いつか……君と本当に自由になりたい」
それは彼の願望だった。
自分のための、彼女との未来の理想だった。
「誰の目も気にせず、好きなところに行って、好きなことをして」
リナリアは静かに笑った。
けれど、その笑顔には遠くを見ているような哀しみが滲んでいた。
それに気づきながらも、ユリウスはその意味を深く考えなかった。
彼はただ、彼女の言葉にすがりたかった。
「きっと、その日が来ます」
そう言う彼女の声に、一抹の疑いが含まれていることにも気づかずに。
ユリウスはリナリアの手を強く握りしめる。
「君と一緒なら、僕は何も怖くない」
そう呟いた彼の手は、ほんの少し震えていた。
リナリアはその震えに気づいていたが、何も言わなかった。
ただ静かに、その手を包み込む。
ユリウスがその温もりを自分のものだと信じたままでいられるように。
薄紅色のカーテンが揺れ、春の陽射しが柔らかく差し込んでいる。
その穏やかな光景の中で、ユリウス・クローネンブルクは静かに扉を閉めた。
視線の先には、ベッドの上で本を読んでいるリナリアの姿があった。
華奢な肩がわずかに揺れ、薄い寝巻きの袖口からのぞく腕が細くて頼りない。
ページをめくる指先も、どこか力が抜けているように見えた。
顔色は悪くないものの、ほんのりと頬に赤みが差しているのがわかる。
呼吸が浅く、胸元が静かに上下するたび、体の奥に熱がこもっているのが伝わってきた。
ユリウスはため息をつきながら、そっと彼女の隣に腰を下ろす。
無意識に襟元を整え、ちらりとリナリアの顔色をうかがった。
平静を装ってはいるが、指先にわずかな力が入っているのを自覚している。
心配だった。けれど、何よりもその不安を隠そうとする自分自身が少し厄介だった。
「リナリア……大丈夫?」
声をかければ、彼女はいつものように微笑んでみせる。
けれど、その笑顔に力がないことは、すぐにわかった。
「ええ。少し疲れているだけです」
その言葉に、ユリウスは胸がざわつくのを抑えられなかった。
なぜ、そんなに無理をするのか。
どうして、自分にもっと頼ってくれないのか。
ふと、彼女の額に手を伸ばしかけるが、リナリアはその手をふわりと取って、首を振った。
「大丈夫です。本当に。殿下を心配させたくありません」
その拒絶の柔らかさに、ユリウスはわずかに言葉を詰まらせる。
守りたい。支えたい。そう思っているのに、どうして彼女はそれを受け入れてくれないのか――
そんな思いが、喉の奥に澱のように溜まっていく。
「でも、顔が赤い。熱……あるんじゃないか?」
もう一度食い下がるように問いかけると、リナリアは変わらず穏やかに笑った。
「そこまでではありません」
ユリウスはその言葉に反論できなかった。
彼女が無理をしていることはわかっている。
だが、王宮の中で彼女はまだ〝平民の少女〟だった。
医師を呼べば、噂になり、余計な注目を集めてしまう――
そんな理屈を自分に言い聞かせながら、結局彼は何もできない。
「……でも、無理はしないで」
せめてその言葉だけは伝えた。
自分の不安を、どうにか形にしようとするように。
「はい」
リナリアは静かに頷いた。
その返事が心に沁みたのは、彼女が従ってくれる安心感だったのか、それともその瞳に一瞬よぎった痛みのせいだったのか――ユリウスはよくわからなかった。
彼女の手を握った。
その手は細く、少し冷たかった。
守りたいと、改めて思った。
自分の腕の中に彼女を閉じ込めてしまいたいと、そんな衝動さえ覚えた。
「僕は……君とこうしていられるだけで嬉しいんだ」
その言葉には、本音と同時に、どこか押し付けがましい感情が混ざっていた。
自分は満たされたいのだ、とどこかで気づいていた。
彼女の隣にいることで、自分が安心したいのだと。
「クラリスとは、こうして穏やかに話すことなんてできなかった」
リナリアが目を伏せる。
その表情に、ユリウスは微かな戸惑いを覚えたが、言葉を止められなかった。
「……私は、殿下のそばにいられるだけで十分です」
その返事に、ユリウスは胸が締めつけられた。
彼女が無理をしていることはわかっている。
でも、それを指摘すれば、彼女の穏やかな微笑みを壊してしまいそうで、怖かった。
「いつか……君と本当に自由になりたい」
それは彼の願望だった。
自分のための、彼女との未来の理想だった。
「誰の目も気にせず、好きなところに行って、好きなことをして」
リナリアは静かに笑った。
けれど、その笑顔には遠くを見ているような哀しみが滲んでいた。
それに気づきながらも、ユリウスはその意味を深く考えなかった。
彼はただ、彼女の言葉にすがりたかった。
「きっと、その日が来ます」
そう言う彼女の声に、一抹の疑いが含まれていることにも気づかずに。
ユリウスはリナリアの手を強く握りしめる。
「君と一緒なら、僕は何も怖くない」
そう呟いた彼の手は、ほんの少し震えていた。
リナリアはその震えに気づいていたが、何も言わなかった。
ただ静かに、その手を包み込む。
ユリウスがその温もりを自分のものだと信じたままでいられるように。
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