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三森まり

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2次会の会場に向かう途中、公園で一人立っている少女を見付けた。

タクシーを止めてもらい降りて近づくと雨の中寒そうに立っていた少女の横に腰を下ろし同じ高さの目線で声をかける。
その声に答えたのは少女では無く、彼女の抱いていた子猫だった。
少女の拙い説明で語られたのは
「学校帰りに冷たい雨の中子猫を拾った事」
「置いては帰れないけれどアパートに住む自分が飼えない事もわかっている事」
「どうしたら良いのとかと歩いているうちに迷子になってしまった事」
嗚咽を押さえて一生懸命説明する少女が目にいっぱい涙を浮かべている姿に一宮は胸を痛めた 。

すっかり冷えていたその小さな身体を猫ごと抱き上げ待たせていたタクシーに乗せると、二次会の幹事をしている松野に遅れる旨を伝える。
子猫を自分が育てる事を約束した一宮は送り届けたらすぐにさま皆の待つ会場に向かう予定だったが、自分のコートの端をぎゅっと握り閉めている少女のその細い指を解くことができなくて、彼女の両親が迎えに来るまで動けなかった。





胸に少女から託された猫を抱え2次会場のカラオケ屋にやっと辿り着く事の出来た一宮は久しぶりにあった面々と挨拶を交わしながら席に付く。

一宮に返される挨拶にコートから顔だけだし「ニャァ」と子猫が返事した。
家に2匹猫を飼っているという壁山が差し出す腕に自ら身を乗り出し移動する子猫は、手慣れたように首の下を擽る壁山にその青く美しい毛並みを震わせ満足気に甘える。

「凄く綺麗なロシアンブルーですね。
でも、雑種なんだ…瞳の色が茶色い…」

純血種は緑の瞳だと語る壁山が「だからといって捨てるなんて許せない」と真剣に怒る。
優しく何度も大きな壁山の手に撫でられる子猫がとても幸せそうに見えたので暫く預かってくれるよう彼に頼み、一宮は席に付いた。

事情を松野から聞いたのだろう、「両親が迎えに来てくれて良かったね」と、言いながら甘い匂いのするチュウハイを手渡てしてくれる水谷の横には相変わらず佐野がいる。

揃いのトラックジャケットを着ている二人… それと同じものを着ているもうひとりの人の姿を薄暗い店内に一宮は探し視線を巡られせた。

「祠堂は?」

スポットライトを浴び相変わらずハイテンションで歌いまくっている綱海の後でノリノリの松野とイヤそうな半田がタンバリンとカスタネットを叩くその爆音に消されかけた問に、近くにいる水谷が反応してくれた。

「祠堂くん?えっと、風祭くんの所に行くって出ていったよ
なんかえっと、自分の痴話喧嘩に巻き込んでしまったので謝りに行くとかねぇ?」

水谷の「ねぇ」の言葉に頷く佐野が、一宮の顔色が変わった事に気づき大丈夫かと声をかけてくる。
答えず席を立つ一宮を見上げていた水谷も続いて立ち上がり、座ったまま何事か飲み込めず妙な顔をしている佐野の腕を引っ張った。

「佐野くん車出してあげて、雨振ってるからタクシー捕まりにくいからさ
一宮くんもこっちこっち、ここの裏の100円パーキングに車停めてあるからね」

その言語に甘え裏の出口に向かって踵を返す一宮が、すまん…と、搾り出すように声を出すのに、間に合えば良いんだけど…と、苦い顔で水谷が呟いた。

相変わらず何が何やらわからないままらしい佐野は水谷に引っ張られ駐車場に向かう間、説明を求める事無く素早く運転席に乗り込んでくれる。

「安全にかつ急いで風祭のアパートに行って!」

助手席で安全ベルトを締めながらそう自分に命令する水谷に、「相変わらず無茶苦茶だな」と呟く佐野がアクセルを軽く踏んだ。
エンジンが始動すると一瞬キャビンが揺れ、日本車ではあり得ないサウンドと共に強くシートに強く押し付けられる。

力強すぎる車に揺られながら一宮がポケットからスマホを取り出した。

風祭へかけるが何度かけても繋がらず、同じセリフを繰り返す無機質な女性の声が一宮の苛立ちと焦りを増加させる。

その脳裏には、先ほど別れた友の不吉な言葉が何度も木霊していた。

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