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第十一話 チャラ
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目を覚ました時には、僕は保健室のベッドにいた。
室内はよく冷房が効いていて、薄手の掛布団が心地いい。閉められたベッド周りのカーテンの向こうからは、いく分和らいだ室内灯の光が差し込んできて、そのちょうどいい明るさに思わず寝直してしまいそうになる。
「頭は打ってないみたいだから大丈夫だと思うけど……クマが酷いのが、ちょっと気になるわね」
「ああ、なんか最近寝れてないみたいっす」
「そうなの? ストレスとかだったら、話聞いてあげてね」
「っす」
受け答えしているのは相良だ。その後すぐに足音が近づいてきて、そっと静かにカーテンが開く。
「なんだ、起きたか」
目が合うと、大して興味なさそうなセリフとは裏腹に、相良はずいぶんとほっとした顔になった。そのまま長い手足を折り曲げて、枕元の丸椅子に窮屈そうに腰を下ろす。
「お前下見にいくって言って、階段から落ちたんだぞ。覚えてるか?」
「うんまあ、なんとなく」
記憶をたどりながら、僕は上半身を起こして厚手の枕に寄りかかる。
「すれ違った女子がMEN-DAKOのドームツアーの話してて――そうだっ、ドームツアー!」
慌ててポケットに手を突っ込んだが、入っているはずのスマートフォンが見つからない。バタバタと腰回りのシーツを叩きながら周囲を見回し、ベッド脇に自分のスクールバッグが置かれていることに気づく。
手を伸ばした瞬間、相良がひと足先にスクールバッグを奪い去ってしまった。「スマホ見たいから返してくれ」と訴えても首を横に振り、しまいには僕が触れないように、後ろ手に隠してしまう。
「おい相良、ほんとに。MEN-DAKOの初めてのドームツアーが決まったらしいんだ。情報チェックしなきゃだし、公式にコメントして、お祝いポストして、オタ仲間に反応して……」
「駄目だ。こんな時くらい推し活から離れろ」
ぴしゃりと言われて、無性に腹がたった。むっと相良を睨みつけたが、相良も相良で譲らない。
「お前さすがに、のめり込みすぎだろ。元からヤベえやつだとは思ってたけど、ドームツアーくらいで動揺して階段から落ちるとか、命がいくつあっても足んねーぞ」
「相良はドームツアーのすごさがわかってないんだよ。MEN-DAKOはな、下積み時代からドーム夢見て、何年も何年も努力して、それでやっと……やっとなあ……っ」
話しているうちに泣けてきた。一度言葉を切って、歯を食いしばって涙の波をやり過ごす。
うう、本当によくやった。早くスマートフォンを開いて、MEN-DAKOメンバーの、荒川ナミの個人アカウントを見にいきたい。きっと涙涙のあついコメントが投稿されているはずだ。
そのためには、やはりさっさとスマートフォンを取り返さなければならない。
「とにかく返せ。僕の荷物だぞ」
「駄目だ。今日は帰ってからもスマホ禁止」
「はあ? 無理に決まってるだろ」
右の手のひらを上向きに差し出して、もう一度「返せ」と強めに言う。相良は険しい顔で、負けじと僕を睨み返してくる。
「お前最近、寝れてないんだろ。夜電気消してからも、いつまでもガサゴソ動いてるの知ってるんだからな」
「当然だ。めんちゃんキーホルダープレミアムを失くしたショックが、そんなにすぐに癒えてたまるか」
「そういうとこだよ。たかがキーホルダーごときで――」
「たかが?」
被せるように疑問を呈すと、相良ははっと気づいて口をつぐんだ。気まずそうにまぶたを伏せて「悪い」と謝ってくる――がしかし、もう遅い。
たかが。たかがキーホルダー。
相良のセリフが、ぐるぐると僕の脳内を回る。
めんちゃんキーホルダープレミアムが届いた日、「よかったな」と頭に置かれた手のひらを思い出す。一緒に喜んでくれていたのにと思ったら、ただひたすらに心の底が冷えた。
「……そうだよ。たかがキーホルダーだよ」
なんとか喉の奥から絞り出した声は、自分の鼓膜にも、ずいぶんと弱々しく響く。
「だけど、だけどなあっ」
一度は引っ込んだ涙が、言葉に引きずられてぼろぼろと零れ出てくる。
それはMEN-DAKO初ドームツアーへのお祝いの涙ではなくて、僕自身の悔しさや悲しさがあふれ出した結果だ。
「あれは僕が、本物のファンになった証だったんだよ! グッズもライブも、親からもらう小遣いで楽しんでるうちは偽物だってずっと思ってて、だから高校生になったら絶対に地元出たくて、どうせならナミたんと同じ高校がよくて、死ぬほど勉強して、だけど駄目で、土下座して、マジ情けなくて、でも毎日学校もバイトも頑張って、給料もらって、ようやくちょっとは自分で稼いだって言えるかもって思えて、そういう記念も兼ねて注文して……」
荒川ナミを推し始めてからの日々、その中でも特に大変だった受験期の記憶が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
ただの量産型キーホルダーだけど、僕にとっては特別だった。すごく、すごく大事なものだった。
大事なんだから、部屋から出さずにしまっておけばよかった。だけど本当に嬉しかったから、どうしてもずっと眺めていたくなってしまった。
「相良なんかもう知らない。さっさと先に帰れよ、馬鹿」
最後に口をついて出たのは、子どもみたいな捨て台詞だ。なんだか情けないが、言い直す気力もない。
とにかく相良にはさっさと席を外してほしい。今は一人になりたい。つい飛び出してしまった本心には、指一本たりとも触れてほしくない。
「……ん」
不機嫌極まりない低い声が聞こえたかと思うと、視界の隅に突然、相良の拳が突き出された。
反射的に向けた視線の先で、くるりと拳がひっくり返って指が開く。
大きな手のひらの上に、小さなピンク色の物体が姿を現す。
「なに、これ」
「偽物。お前にやるから、いらないなら捨てろ」
涙をぬぐってもう一度見れば、赤いストラップのキーホルダーだということがわかった。
そっと持ち上げて、本体部分の造形を確認する。ビーズで作られたピンク色のめんだこだ。胸に白いリボンをつけて、きゅるんと愛らしい瞳でこちらを見つめており、マルカンの部分からはもう一つ、小さなマイクがつり下がっている。
「え、これって、」
泣きはらした目をしていることも、言い合いをしていたことも忘れて、僕は相良の顔をまじまじと見つめる。
相良は眉間にシワを寄せたまま、機嫌悪そうに口を開く。
「お前があんまりずっと落ち込んでるから、なんとなく作っちまったんだ。新妻たちに絡まれたのは俺のせいだし――だけど俺は、所詮偽物しか作れないからな。イヌでもネコでもカエルでも、ビーズで作れるものはどうせ全部偽物だ。代わりになるわけないってわかってるから、一応渡すけど、いらないなら捨てろ」
そう言った相良は、自分の荷物を持って立ち上がった。僕のスクールバッグは自分が座っていた丸椅子の上に置いて、シャッと勢いよくベッド周りのカーテンを開け、足早に保健室を出ていこうとする。
「まっ、待って!」
考えるよりも先に、ベッドを飛び出していた。
一歩、二歩と踏み出した瞬間、左の足首が鋭く痛んで、僕は相良の背中に向かって勢いよく倒れ込んだ。
「な……っ、痛ってえなオイ!」
「捨てない!」
「あ?」
僕の下敷きになったまま、相良が上半身を捻ってこちらを見上げてくる。戸惑う黒い瞳をまっすぐ見下ろして、僕は続ける。
「『偽物』って、嫌な気持ちにさせたならごめん。そういう意味じゃないんだ。ただ僕がずっと、自分のことそう思ってたってだけで。相良の作品は偽物じゃないよ。だって、そこに込められてる思いは本物だろ」
そこまで言い切って、僕はようやく息をついた。少し落ち着いたことで我に返って、慌てて相良の体から自分の身を退かす。
こんなに大きな声を出して、先生がいたらどうしようと思い立ち部屋中を見回したが、僕と相良以外には誰もいなかった。
僕は内心、ほっと胸を撫でおろす。「他に誰かいるかも」なんて、考える余裕ないくらい、必死になってしまった。喧嘩していたことなんてどうでもよくなるくらい、相良に伝えなきゃって思った。
――だけど俺は、所詮偽物しか作れないからな。
そう言った時の相良の顔が、なぜかひどく、寂しそうに見えたから。相良がわざわざストラップに選んでくれた赤色は、荒川ナミのイメージカラーだったから。
「ごめん。僕が八つ当たりした。相良がスマホ見るなって言ったのは、僕を心配してくれてたからだってわかってたのに」
僕は、相良が優しいことを知っている。
夜眠れないでいたことに気づいてもらえて、本当は嬉しかった。
SNSが気になるのは、もちろん心から応援したいという気持ちが一番だけど、大人のファンみたいにお金を出せない自分に負い目があったのも事実だ。それくらいできなきゃ、即レスじゃなきゃ、自分にMEN-DAKOファンとしての価値を見出せなかった。
「悪かった。ほんとに……なあ、まだ怒ってる?」
うつむいたまま何も言わない相良に、恐る恐る問いかける――返事がないので四つん這いになって近づいた瞬間、ぐいっと頭を引き寄せられた。
ちゅ、と控えめな音をたてて、唇と唇が優しく触れ合う。脳内処理が追いつかなくて、僕の口からは「へ?」と間抜けな声が出る。
「……わかった。怒ってたけど、これでチャラな」
ふっと目を細めて笑い、相良は立ち上がった。ぱんぱんと制服のホコリを払い、自分のスクールバッグを肩にかけて、こちらを見下ろしてくる。
「帰るぞ。今度は転ばないように、気をつけろよ」
なにごともなかったかのように手を差し伸べられてしまえば、こちらもなにも聞かずに、引き起こしてもらうことしかできなかった。
長い指先に触れた瞬間、首元がぱっと熱くなって、僕は相良の顔を見れなかった。
室内はよく冷房が効いていて、薄手の掛布団が心地いい。閉められたベッド周りのカーテンの向こうからは、いく分和らいだ室内灯の光が差し込んできて、そのちょうどいい明るさに思わず寝直してしまいそうになる。
「頭は打ってないみたいだから大丈夫だと思うけど……クマが酷いのが、ちょっと気になるわね」
「ああ、なんか最近寝れてないみたいっす」
「そうなの? ストレスとかだったら、話聞いてあげてね」
「っす」
受け答えしているのは相良だ。その後すぐに足音が近づいてきて、そっと静かにカーテンが開く。
「なんだ、起きたか」
目が合うと、大して興味なさそうなセリフとは裏腹に、相良はずいぶんとほっとした顔になった。そのまま長い手足を折り曲げて、枕元の丸椅子に窮屈そうに腰を下ろす。
「お前下見にいくって言って、階段から落ちたんだぞ。覚えてるか?」
「うんまあ、なんとなく」
記憶をたどりながら、僕は上半身を起こして厚手の枕に寄りかかる。
「すれ違った女子がMEN-DAKOのドームツアーの話してて――そうだっ、ドームツアー!」
慌ててポケットに手を突っ込んだが、入っているはずのスマートフォンが見つからない。バタバタと腰回りのシーツを叩きながら周囲を見回し、ベッド脇に自分のスクールバッグが置かれていることに気づく。
手を伸ばした瞬間、相良がひと足先にスクールバッグを奪い去ってしまった。「スマホ見たいから返してくれ」と訴えても首を横に振り、しまいには僕が触れないように、後ろ手に隠してしまう。
「おい相良、ほんとに。MEN-DAKOの初めてのドームツアーが決まったらしいんだ。情報チェックしなきゃだし、公式にコメントして、お祝いポストして、オタ仲間に反応して……」
「駄目だ。こんな時くらい推し活から離れろ」
ぴしゃりと言われて、無性に腹がたった。むっと相良を睨みつけたが、相良も相良で譲らない。
「お前さすがに、のめり込みすぎだろ。元からヤベえやつだとは思ってたけど、ドームツアーくらいで動揺して階段から落ちるとか、命がいくつあっても足んねーぞ」
「相良はドームツアーのすごさがわかってないんだよ。MEN-DAKOはな、下積み時代からドーム夢見て、何年も何年も努力して、それでやっと……やっとなあ……っ」
話しているうちに泣けてきた。一度言葉を切って、歯を食いしばって涙の波をやり過ごす。
うう、本当によくやった。早くスマートフォンを開いて、MEN-DAKOメンバーの、荒川ナミの個人アカウントを見にいきたい。きっと涙涙のあついコメントが投稿されているはずだ。
そのためには、やはりさっさとスマートフォンを取り返さなければならない。
「とにかく返せ。僕の荷物だぞ」
「駄目だ。今日は帰ってからもスマホ禁止」
「はあ? 無理に決まってるだろ」
右の手のひらを上向きに差し出して、もう一度「返せ」と強めに言う。相良は険しい顔で、負けじと僕を睨み返してくる。
「お前最近、寝れてないんだろ。夜電気消してからも、いつまでもガサゴソ動いてるの知ってるんだからな」
「当然だ。めんちゃんキーホルダープレミアムを失くしたショックが、そんなにすぐに癒えてたまるか」
「そういうとこだよ。たかがキーホルダーごときで――」
「たかが?」
被せるように疑問を呈すと、相良ははっと気づいて口をつぐんだ。気まずそうにまぶたを伏せて「悪い」と謝ってくる――がしかし、もう遅い。
たかが。たかがキーホルダー。
相良のセリフが、ぐるぐると僕の脳内を回る。
めんちゃんキーホルダープレミアムが届いた日、「よかったな」と頭に置かれた手のひらを思い出す。一緒に喜んでくれていたのにと思ったら、ただひたすらに心の底が冷えた。
「……そうだよ。たかがキーホルダーだよ」
なんとか喉の奥から絞り出した声は、自分の鼓膜にも、ずいぶんと弱々しく響く。
「だけど、だけどなあっ」
一度は引っ込んだ涙が、言葉に引きずられてぼろぼろと零れ出てくる。
それはMEN-DAKO初ドームツアーへのお祝いの涙ではなくて、僕自身の悔しさや悲しさがあふれ出した結果だ。
「あれは僕が、本物のファンになった証だったんだよ! グッズもライブも、親からもらう小遣いで楽しんでるうちは偽物だってずっと思ってて、だから高校生になったら絶対に地元出たくて、どうせならナミたんと同じ高校がよくて、死ぬほど勉強して、だけど駄目で、土下座して、マジ情けなくて、でも毎日学校もバイトも頑張って、給料もらって、ようやくちょっとは自分で稼いだって言えるかもって思えて、そういう記念も兼ねて注文して……」
荒川ナミを推し始めてからの日々、その中でも特に大変だった受験期の記憶が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
ただの量産型キーホルダーだけど、僕にとっては特別だった。すごく、すごく大事なものだった。
大事なんだから、部屋から出さずにしまっておけばよかった。だけど本当に嬉しかったから、どうしてもずっと眺めていたくなってしまった。
「相良なんかもう知らない。さっさと先に帰れよ、馬鹿」
最後に口をついて出たのは、子どもみたいな捨て台詞だ。なんだか情けないが、言い直す気力もない。
とにかく相良にはさっさと席を外してほしい。今は一人になりたい。つい飛び出してしまった本心には、指一本たりとも触れてほしくない。
「……ん」
不機嫌極まりない低い声が聞こえたかと思うと、視界の隅に突然、相良の拳が突き出された。
反射的に向けた視線の先で、くるりと拳がひっくり返って指が開く。
大きな手のひらの上に、小さなピンク色の物体が姿を現す。
「なに、これ」
「偽物。お前にやるから、いらないなら捨てろ」
涙をぬぐってもう一度見れば、赤いストラップのキーホルダーだということがわかった。
そっと持ち上げて、本体部分の造形を確認する。ビーズで作られたピンク色のめんだこだ。胸に白いリボンをつけて、きゅるんと愛らしい瞳でこちらを見つめており、マルカンの部分からはもう一つ、小さなマイクがつり下がっている。
「え、これって、」
泣きはらした目をしていることも、言い合いをしていたことも忘れて、僕は相良の顔をまじまじと見つめる。
相良は眉間にシワを寄せたまま、機嫌悪そうに口を開く。
「お前があんまりずっと落ち込んでるから、なんとなく作っちまったんだ。新妻たちに絡まれたのは俺のせいだし――だけど俺は、所詮偽物しか作れないからな。イヌでもネコでもカエルでも、ビーズで作れるものはどうせ全部偽物だ。代わりになるわけないってわかってるから、一応渡すけど、いらないなら捨てろ」
そう言った相良は、自分の荷物を持って立ち上がった。僕のスクールバッグは自分が座っていた丸椅子の上に置いて、シャッと勢いよくベッド周りのカーテンを開け、足早に保健室を出ていこうとする。
「まっ、待って!」
考えるよりも先に、ベッドを飛び出していた。
一歩、二歩と踏み出した瞬間、左の足首が鋭く痛んで、僕は相良の背中に向かって勢いよく倒れ込んだ。
「な……っ、痛ってえなオイ!」
「捨てない!」
「あ?」
僕の下敷きになったまま、相良が上半身を捻ってこちらを見上げてくる。戸惑う黒い瞳をまっすぐ見下ろして、僕は続ける。
「『偽物』って、嫌な気持ちにさせたならごめん。そういう意味じゃないんだ。ただ僕がずっと、自分のことそう思ってたってだけで。相良の作品は偽物じゃないよ。だって、そこに込められてる思いは本物だろ」
そこまで言い切って、僕はようやく息をついた。少し落ち着いたことで我に返って、慌てて相良の体から自分の身を退かす。
こんなに大きな声を出して、先生がいたらどうしようと思い立ち部屋中を見回したが、僕と相良以外には誰もいなかった。
僕は内心、ほっと胸を撫でおろす。「他に誰かいるかも」なんて、考える余裕ないくらい、必死になってしまった。喧嘩していたことなんてどうでもよくなるくらい、相良に伝えなきゃって思った。
――だけど俺は、所詮偽物しか作れないからな。
そう言った時の相良の顔が、なぜかひどく、寂しそうに見えたから。相良がわざわざストラップに選んでくれた赤色は、荒川ナミのイメージカラーだったから。
「ごめん。僕が八つ当たりした。相良がスマホ見るなって言ったのは、僕を心配してくれてたからだってわかってたのに」
僕は、相良が優しいことを知っている。
夜眠れないでいたことに気づいてもらえて、本当は嬉しかった。
SNSが気になるのは、もちろん心から応援したいという気持ちが一番だけど、大人のファンみたいにお金を出せない自分に負い目があったのも事実だ。それくらいできなきゃ、即レスじゃなきゃ、自分にMEN-DAKOファンとしての価値を見出せなかった。
「悪かった。ほんとに……なあ、まだ怒ってる?」
うつむいたまま何も言わない相良に、恐る恐る問いかける――返事がないので四つん這いになって近づいた瞬間、ぐいっと頭を引き寄せられた。
ちゅ、と控えめな音をたてて、唇と唇が優しく触れ合う。脳内処理が追いつかなくて、僕の口からは「へ?」と間抜けな声が出る。
「……わかった。怒ってたけど、これでチャラな」
ふっと目を細めて笑い、相良は立ち上がった。ぱんぱんと制服のホコリを払い、自分のスクールバッグを肩にかけて、こちらを見下ろしてくる。
「帰るぞ。今度は転ばないように、気をつけろよ」
なにごともなかったかのように手を差し伸べられてしまえば、こちらもなにも聞かずに、引き起こしてもらうことしかできなかった。
長い指先に触れた瞬間、首元がぱっと熱くなって、僕は相良の顔を見れなかった。
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