【完結】前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが

チャビューヘ

文字の大きさ
1 / 20

第1話「聖女の目覚め、運命の記憶」

 断頭台の上で、彼は微笑んでいた。

 銀色の瞳が、最期まで誇り高く輝いている。

 刃が振り下ろされる——その瞬間、私は叫んだ。

「いやあああああっ!」

 目を開けると、そこは大聖堂だった。

 白い大理石の床。天井から降り注ぐ光。祭壇の前に立つ聖職者たち。

 私は両手を見下ろす。震えていた。

 今のは——

「ノエリア様」

 聖職者の声が遠くから聞こえる。

 ノエリア?

 その名前に、記憶が雪崩のように流れ込んできた。

 前世。日本。大学生。

 深夜まで乙女ゲーム『聖女の試練』

 をプレイしていた。

 推しキャラは、冷酷な軍師アルセイン・セイヴラン。

 黒髪。銀色の瞳。整った顔立ち。孤高の天才。

 だが、彼のルートは全て悲劇で終わる。

 理由は——聖女が第一王子派閥に協力するから。

 第二王子派閥の軍師である彼は、孤立し、最後は反逆罪で処刑される。

 そして今。

 私は、そのゲームの世界にいる。

 聖女ノエリア・リュミナリアとして。

「ノエリア様、聖女認定の儀式を続けますが」

 老司祭の声が耳に入る。

 周囲を見渡すと、貴族や聖職者が大勢集まっていた。

 辺境貴族の娘が、聖女の力を覚醒させた。

 それがこの儀式の意味だったはず。

「は、はい」

 声が震える。

 老司祭が祈りの言葉を唱え始めた。

 私の手から、淡い光が溢れ出す。

 聖女の力。

 祭壇に置かれた枯れた花々が、一瞬で満開になった。

 観衆がどよめく。

「これは……なんという力だ」

「聖女様だ」

 称賛の声が響く。

 だが、私の心は別のことでいっぱいだった。

 さっき見た光景。

 あれは前世でプレイしたゲームの、アルセインルートのバッドエンドだ。

 断頭台で処刑される彼。

 何度プレイしても、どのルートを選んでも、彼は死ぬ。

 理由は単純だった。

 原作の聖女が、第一王子エドウィンの派閥に協力したから。

 聖女の力を得た第一王子派閥が、第二王子派閥を粛清する。

 その過程で、アルセインは処刑される。

 つまり——

 私が第一王子派閥に協力しなければ、歴史は変わる。

 儀式が終わり、観衆が拍手する。

 私は祭壇を降りた。

 第一王子エドウィンが、穏やかな笑顔で近づいてくる。

「聖女殿、おめでとうございます」

 金髪。青い瞳。優しげな表情。

 原作では、この人が最終的にアルセインを処刑する。

「後日、改めてお話を」

 彼が軽く一礼する。

 私は冷たく頷いた。

「はい」

 短く。そっけなく。

 エドウィンの眉が、わずかに動く。

 驚いているのだろう。

 聖女が、こんなに無愛想だとは思わなかったはずだ。

 貴族たちが囁き合う声が聞こえる。

「聖女様、随分と冷たい方だ」

「第一王子殿下にあの態度」

「高慢なのでは」

 視線が痛い。

 だが、私は決めた。

 推しを救うためなら、悪女になればいい。

 第一王子派閥の敵になればいい。

 原作の聖女は謙虚で従順だった。

 だから取り込まれた。

 ならば私は、正反対になる。

 高圧的で、傲慢で、誰の命令も聞かない聖女に。

 大聖堂を出ると、夕日が美しかった。

 王宮が遠くに見える。

 あそこに、推しがいる。

 まだ会ったことはない。

 でも、彼を守る。

 絶対に。

「お嬢様」

 侍女が声をかける。

「聖女の館へご案内いたします」

「ありがとう」

 私は歩き出した。

 聖女の館。

 そこで、作戦を立てよう。

 アルセインの処刑フラグを、全て回避する計画を。

 原作のイベントを思い出す。

 北方反乱。

 宮廷陰謀。

 数々の罠。

 全ての破滅フラグを、私が潰す。

 館に着くと、一人の少女が待っていた。

 平民らしき、質素な服装。

 長い茶色の髪。優しそうな目。

 彼女は深くお辞儀をした。

「初めまして、聖女様。私はリリアナと申します」

 原作ヒロインだ。

 第一王子と恋に落ちる、心優しい平民の少女。

 確か、原作では聖女と仲良くなるはずだった。

 でも、私は悪女を演じる。

 冷たく言った。

「初めまして。私は貴族です。敬語を使いなさい」

 リリアナの目が、一瞬だけ驚きに見開かれた。

 すぐに涙が浮かぶ。

「も、申し訳ございません」

 彼女は慌てて頭を下げ、走り去った。

 侍女が困惑した顔で私を見る。

 私は内心で謝った。

 (ごめんなさい、リリアナさん)

 (でも、これも演技なの)

 (悪女を演じなければ、推しが死ぬ)

 部屋に入ると、窓から王宮が見えた。

 あの中に、アルセインがいる。

 明日、王宮の戦略会議がある。

 そこで、初めて彼と会える。

 推しとの初対面。

 緊張する。

 でも、悪女を演じなければ。

 第二王子派閥に接近しなければ。

 彼を救うために。

 私は机に向かい、ノートを開いた。

『悪女作戦』

 と書く。

 目標:第一王子派閥から嫌われる。

 目標:第二王子派閥に接近。

 目標:アルセインの処刑フラグを全て回避。

 ペンを走らせながら、心の中で誓う。

 私は悪女になる。

 推しを救うために。

 どんな代償を払っても。

 窓の外で、星が瞬き始めた。

 長い戦いの、始まりだった。

--------

新作『前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが』の1話を見つけて読んでいただき、ありがとうございます。

本日は7時、8時、9時、10時にも投稿予定で、計5話お届けします!
気に入りましたら、ぜひいいねやお気に入り登録をお願いします!​​​​​​​​​​​​​​​​

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま

藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。 婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。 エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。