【完結】前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが

チャビューヘ

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第2話「悪女計画、最初の一歩」

 聖女の館は、予想以上に広かった。

 白い大理石の壁。美しいステンドグラス。天井の高い部屋。

 侍女たちが荷物を運び込む。

 私は窓辺に立ち、王宮を見つめた。

 あそこに、推しがいる。

 アルセイン・セイヴラン。

 冷酷な軍師として恐れられる、孤高の天才。

 でも、原作では誰にも理解されず、最後は処刑される。

 絶対に救う。

 そのためには、悪女になる。

「お嬢様」

 侍女が声をかける。

「お茶の準備が整いました」

「ありがとう。一人にしてください」

「かしこまりました」

 侍女が退室する。

 私は机に向かい、羽根ペンを手に取った。

 白い紙に、大きく書く。

『悪女作戦』

 そして、その下に目標を列挙する。

 目標1:第一王子派閥から嫌われる。

 目標2:第二王子派閥に接近する。

 目標3:アルセインの処刑フラグを全て回避する。

 原作のストーリーを思い出す。

 聖女は、最初に第一王子エドウィンと出会う。

 彼の優しさに心を開き、協力を約束する。

 その結果、第一王子派閥が力を得て、第二王子派閥を粛清。

 アルセインは反逆罪で捕らえられ、処刑される。

 ならば——

 私が第一王子派閥に協力しなければ、歴史は変わる。

 でも、どうやって?

 原作の聖女は、謙虚で従順で優しかった。

 だから、みんなに好かれた。

 そして、第一王子に取り込まれた。

 ならば、私は正反対になればいい。

 高圧的で、傲慢で、誰の命令も聞かない。

 第一王子派閥から嫌われる聖女になる。

 羽根ペンを走らせる。

『悪女キャラの特徴』

 ・高慢な態度

 ・他人を見下す発言

 ・命令を拒否

 ・感情を表に出さない

 ・笑顔を見せない

 書きながら、胸が痛む。

 こんなキャラ、本当の私じゃない。

 でも、推しを救うためなら。

 ノックの音。

「聖女様、お客様です」

 侍女の声が扉の向こうから聞こえる。

「どなた?」

「リリアナ様が」

 リリアナ。

 さっき泣かせてしまった少女だ。

 心が痛む。

 でも、悪女を演じなければ。

「通して」

 扉が開き、リリアナが入ってくる。

 目が少し赤い。

 泣いていたのだろう。

「聖女様、先ほどは失礼いたしました」

 丁寧な言葉遣い。

 震える声。

 私は冷たく言った。

「それで、用件は?」

 リリアナが顔を上げる。

「私は……聖女様のお世話係を仰せつかりました」

「お世話係?」

「はい。聖女様の身の回りのことを」

 原作では、リリアナと聖女は親友になる。

 でも、私は悪女を演じる。

 距離を取らなければ。

「結構です」

 リリアナの目が見開かれる。

「え……でも」

「私には侍女がいます。あなたは不要です」

 リリアナの顔が青ざめる。

「そんな……」

「以上です。お引き取りください」

 リリアナは唇を噛んだ。

 だが今度は——涙を流さなかった。

 ただ、深く一礼する。

「……かしこまりました」

 その声は、昨日より冷静だった。

 扉が閉まる。

 私は息をついた。

 (昨日より冷たくできた)

 (でも、これで本当にいいの?)

 罪悪感ではなく——不安が胸をよぎる。

 (彼女、何も感じていないように見えた)

 窓の外を見ると、リリアナが中庭を歩いていた。

 ハンカチで目を拭っている。

 胸が痛い。

 でも——

 一瞬、リリアナの表情が変わった。

 涙を拭う手が止まる。

 顔を上げる。

 その表情は——冷たかった。

 優しげな目が、鋭く細められている。

 まばたきをすると、また元の優しそうな顔に戻っていた。

 気のせい?

 いや、確かに今……

「お嬢様」

 侍女がノックする。

「王宮からの使者が」

「分かりました」

 リリアナのことは、後で考えよう。

 今は、第一王子との謁見だ。

 私は深呼吸して、部屋を出た。

 ---

 王宮の謁見室は、金色に輝いていた。

 天井から下がるシャンデリア。

 壁には豪華な絵画。

 赤い絨毯が奥まで続いている。

 第一王子エドウィンが、玉座に座っていた。

 その周りに、多くの貴族たち。

 みんなが私を見ている。

「聖女殿、よくいらっしゃいました」

 エドウィンが立ち上がり、笑顔で手を差し伸べる。

「こちらへ」

 上席を示す。

 私は動かなかった。

「ここで結構です」

 末席に立つ。

 貴族たちがざわつく。

 エドウィンの笑顔が、わずかに固まる。

「聖女殿、あなたは王国の宝です」

「もっと上座に」

「結構です」

 短く。冷たく。

 沈黙が流れる。

 エドウィンは苦笑を浮かべた。

「……分かりました」

 彼は座り直す。

「聖女殿、単刀直入に申し上げます」

 エドウィンの声が真剣になる。

「王国のために、私と共に働いていただけませんか」

「あなたの聖女の力は、民を救うことができる」

「私の派閥に協力していただければ——」

「お断りします」

 私は即答した。

 謁見室が静まり返る。

 貴族たちの顔が驚愕に染まる。

「聖女様……今、何と」

「お断りすると申しました」

 私は冷たく繰り返す。

 エドウィンが立ち上がる。

「なぜです?」

「私の力をどう使うかは、私が決めます」

「聖女だからといって、一つの派閥に縛られる理由はありません」

「しかし——」

「以上です」

 私は一礼して、背を向けた。

「待ってください!」

 エドウィンの声が背中に響く。

 でも、私は振り返らない。

 足を進める。

 謁見室を出ると、廊下で貴族たちの怒りの声が聞こえた。

「なんという傲慢!」

「聖女が王子の申し出を断るなど!」

「許されることではない!」

 私は歩き続けた。

 手が震える。

 でも、足は止めない。

 計画通りだ。

 第一王子派閥から嫌われた。

 これで、取り込まれることはない。

 館に戻ると、侍女が心配そうに迎えた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ええ」

 私は部屋に入り、扉を閉めた。

 机の上の作戦ノートを開く。

 目標1に、チェックマークをつける。

『第一王子派閥から嫌われる』

 ——達成。

 次は、目標2。

『第二王子派閥に接近する』

 そして——アルセインと会う。

 侍女がノックする。

「お嬢様、お知らせです」

「何?」

「明日、王宮で戦略会議があるそうです」

「聖女様も出席を求められています」

 戦略会議。

 それは——

 心臓が跳ねる。

「分かりました」

 侍女が去る。

 私は窓辺に立ち、夜空を見上げた。

 星が瞬いている。

 明日。

 明日、ついに会える。

 推しと。

 アルセインと。

 初対面で、どんな顔をすればいい?

 悪女を演じなければならない。

 でも、推しの前で冷たくなんてできるだろうか。

 いや、しなければならない。

 彼を救うために。

 私は机に向かい、日記を書く。

『明日、戦略会議。そこに、彼がいる』

『アルセイン・セイヴラン』

『初めて会う。緊張する』

『でも、悪女を演じる』

『推しのために』

 羽根ペンを置く。

 ベッドに入る。

 目を閉じても、眠れない。

 明日が、楽しみで。

 怖くて。

 でも、期待で胸がいっぱいだった。

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