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第4話「舞踏会の策略」
深紅のドレスが、鏡の中で揺れていた。
肩を露出したデザイン。ウエストを絞ったシルエット。
スカートの裾には、金糸の刺繍。
聖女らしい白ではなく、挑発的な赤。
「お嬢様、本当にこれで?」
侍女が不安そうに尋ねる。
「ええ」
私は髪を結い上げる。
首元に、小さなルビーのネックレス。
今夜は、王宮主催の大舞踏会だ。
貴族たちが集まる社交の場。
そして——政治の場でもある。
私は悪女を演じる。
ならば、服装も悪女らしく。
馬車が王宮に到着する。
降りると、周囲の視線が集まった。
「あれが聖女?」
「なんという色を」
囁き声が聞こえる。
気にしない。
これでいい。
大広間に入ると、シャンデリアの光が眩しかった。
オーケストラの優雅な音楽。
ダンスを楽しむ貴族たち。
テーブルには豪華な料理。
私が入ると、音楽が一瞬止まった。
全員の視線が、私に集中する。
深紅のドレスを着た聖女。
前代未聞だ。
貴族令嬢たちが、顔を見合わせる。
「聖女様、赤だわ」
「挑発的ね」
「第一王子派閥への当てつけかしら」
第一王子エドウィンが、私に近づいてくる。
白い礼服。
穏やかな笑顔。
でも、その目は笑っていない。
「聖女殿」
彼が一礼する。
「お美しい」
「ありがとうございます」
私は冷たく返す。
「一曲、踊っていただけませんか」
エドウィンが手を差し伸べる。
周囲の貴族たちが、固唾を呑んで見守る。
私は微笑んだ。
でも、冷たい笑顔で。
「申し訳ございません、殿下」
「今夜は既に予定が」
エドウィンの手が、宙で止まる。
だが今度は——彼の表情が変わった。
苦笑ではなく、冷たい笑みを浮かべる。
「そうですか」
その声には、諦めではなく——確信が含まれていた。
「あなたの『予定』
、興味深いですね」
周囲がざわつく。
「聖女が王子を断った!」
「二度目だ……」
エドウィンは優雅に一礼し、去っていく。
その背中に——冷たい空気が漂っていた。
私は人混みを掻き分けて進む。
目的地は決まっている。
大広間の隅。
壁際に、一人の男性が立っていた。
黒い礼服。
シャンパングラスを持って、一人で佇んでいる。
アルセイン・セイヴラン。
推し。
彼は舞踏会に興味がなさそうだ。
人混みを避け、静かにグラスを傾けている。
その孤独な姿が、切ない。
私は近づいた。
心臓がドキドキする。
推しに話しかける。
ダンスを申し込む。
「公爵」
声をかけると、アルセインが振り向いた。
銀色の瞳が、私を見る。
一瞬、驚きの色が浮かぶ。
「聖女殿」
彼が一礼する。
相変わらず、冷たい態度だ。
「私と踊って頂けますか?」
私は手を差し伸べた。
アルセインの眉が、わずかにひそめられる。
その目が、私を見つめる。
鋭く。
探るように。
「……聖女殿」
彼の声が低くなる。
「これは政治的な示威行動ですか?」
心臓が跳ねる。
やっぱり、彼は鋭い。
私の意図を見抜いている。
「いいえ」
私は微笑む。
「単にあなたと踊りたいだけです」
アルセインは、長い沈黙の後——
「……分かりました」
「お受けしましょう」
彼がグラスを置く。
手を取る。
推しの手。
大きくて、温かい。
心臓がバクバクする。
二人、ダンスフロアへ。
周囲の貴族たちが、息を呑む。
「聖女が第一王子を断って」
「第二王子派閥の公爵と!」
「これは……」
オーケストラが、優雅なワルツを奏でる。
アルセインの手が、私の腰に添えられる。
もう一方の手が、私の手を包む。
ダンスが始まる。
ステップを踏む。
アルセインのリードは完璧だ。
優雅で、力強い。
私は推しと踊っている。
夢みたい。
ゲームの画面越しにしか見られなかった彼と。
今、こうして。
「聖女殿」
アルセインの声が、静かに響く。
「率直にお聞きします」
「あなたの真の目的は何ですか?」
真剣な目で、私を見つめる。
警戒している。
疑っている。
「……真の目的?」
「第一王子を断り、私と踊る」
「これは明確な政治的メッセージです」
「第二王子派閥に接近する意図があるのでしょう?」
彼は何でもお見通しだ。
さすが、軍師。
「もしそうだとしたら?」
私は問い返す。
「ならば」
アルセインの声が低くなる。
「あなたは危険な賭けをしている」
「第一王子派閥は容赦しません」
ステップを踏みながら、私を見つめる。
「あなたは私を心配してくれているのですか?」
私は少し微笑んだ。
アルセインの目が、わずかに揺れる。
「……警告しているだけです」
曲が終わりに近づく。
最後のステップ。
そして——
音楽が止まる。
二人、離れる。
アルセインが一礼する。
「ありがとうございました」
その表情は、相変わらず冷たい。
でも——
その目の奥に、何かがあった。
興味?
それとも、困惑?
「こちらこそ」
私も一礼する。
アルセインは去っていく。
壁際に戻り、再びシャンパンを手に取る。
私から目を逸らす。
胸が少し痛い。
もっと踊りたかった。
もっと話したかった。
でも——
彼はまだ、私を警戒している。
仕方ない。
信頼を得るには、時間がかかる。
周囲の貴族たちが、大騒ぎしていた。
「聖女が第一王子を断って」
「第二王子派閥の公爵と踊った!」
「これは、第二王子派閥への接近か!」
「政治的な転換だ!」
令嬢たちも噂話に花を咲かせる。
「聖女様、大胆ね」
「公爵様、素敵だったわ」
「でも、第一王子派閥が黙っていないでしょう」
第二王子ヴィクターが、私に近づいてきた。
茶色の髪。緑色の瞳。
兄とは対照的な、野性的な雰囲気。
「聖女殿」
彼が笑顔で言う。
「素晴らしいダンスでした」
「ありがとうございます」
「アルセインと踊るとは」
ヴィクターが意味深に笑う。
「興味深い選択です」
「あなたは、我が派閥に協力してくれるのですか?」
「協力……ではありません」
私は冷静に答える。
「ただ、私は正しいと思うことを支持するだけです」
ヴィクターの目が、鋭くなる。
「なるほど」
「あなたは中立を保つと」
「賢い選択です」
彼は去っていく。
私は一人、テラスに出た。
夜風が心地いい。
月が美しい。
今夜は、大胆な行動をした。
第一王子を断り、アルセインと踊る。
これで、第二王子派閥への接近は明確になった。
でも——
アルセインは、まだ信用してくれない。
その時、背後に気配を感じた。
振り返ると——
リリアナが立っていた。
白いドレス。
優しそうな笑顔。
でも——
その目が、冷たい。
「聖女様」
リリアナが近づいてくる。
「素敵なドレスですね」
「ありがとう」
私は短く答える。
「公爵様と踊られて」
リリアナの声が、少し低くなる。
「皆さん、驚いていました」
「そう」
リリアナが微笑む。
でも、その笑顔が——怖い。
何かが、違う。
「お気をつけくださいね」
リリアナが囁く。
「公爵様は、冷酷な方だと聞きます」
「……忠告、ありがとう」
リリアナは去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、私は考える。
彼女、何か隠している。
あの目は——
いや、気のせいかもしれない。
月を見上げる。
今夜は、一歩前進した。
推しと踊れた。
話せた。
まだ、信用されていない。
でも——
いつか、必ず。
その時、遠くから咳き込む声が聞こえた。
舞踏会の使用人が、廊下で苦しそうに咳をしている。
侍女たちが慌てて駆け寄る。
「貧民街で病が流行っているそうですよ」
「王宮にも広がるかもしれません」
不穏な予感が、胸をよぎる。
私は拳を握った。
頑張る。
推しを救うために。
肩を露出したデザイン。ウエストを絞ったシルエット。
スカートの裾には、金糸の刺繍。
聖女らしい白ではなく、挑発的な赤。
「お嬢様、本当にこれで?」
侍女が不安そうに尋ねる。
「ええ」
私は髪を結い上げる。
首元に、小さなルビーのネックレス。
今夜は、王宮主催の大舞踏会だ。
貴族たちが集まる社交の場。
そして——政治の場でもある。
私は悪女を演じる。
ならば、服装も悪女らしく。
馬車が王宮に到着する。
降りると、周囲の視線が集まった。
「あれが聖女?」
「なんという色を」
囁き声が聞こえる。
気にしない。
これでいい。
大広間に入ると、シャンデリアの光が眩しかった。
オーケストラの優雅な音楽。
ダンスを楽しむ貴族たち。
テーブルには豪華な料理。
私が入ると、音楽が一瞬止まった。
全員の視線が、私に集中する。
深紅のドレスを着た聖女。
前代未聞だ。
貴族令嬢たちが、顔を見合わせる。
「聖女様、赤だわ」
「挑発的ね」
「第一王子派閥への当てつけかしら」
第一王子エドウィンが、私に近づいてくる。
白い礼服。
穏やかな笑顔。
でも、その目は笑っていない。
「聖女殿」
彼が一礼する。
「お美しい」
「ありがとうございます」
私は冷たく返す。
「一曲、踊っていただけませんか」
エドウィンが手を差し伸べる。
周囲の貴族たちが、固唾を呑んで見守る。
私は微笑んだ。
でも、冷たい笑顔で。
「申し訳ございません、殿下」
「今夜は既に予定が」
エドウィンの手が、宙で止まる。
だが今度は——彼の表情が変わった。
苦笑ではなく、冷たい笑みを浮かべる。
「そうですか」
その声には、諦めではなく——確信が含まれていた。
「あなたの『予定』
、興味深いですね」
周囲がざわつく。
「聖女が王子を断った!」
「二度目だ……」
エドウィンは優雅に一礼し、去っていく。
その背中に——冷たい空気が漂っていた。
私は人混みを掻き分けて進む。
目的地は決まっている。
大広間の隅。
壁際に、一人の男性が立っていた。
黒い礼服。
シャンパングラスを持って、一人で佇んでいる。
アルセイン・セイヴラン。
推し。
彼は舞踏会に興味がなさそうだ。
人混みを避け、静かにグラスを傾けている。
その孤独な姿が、切ない。
私は近づいた。
心臓がドキドキする。
推しに話しかける。
ダンスを申し込む。
「公爵」
声をかけると、アルセインが振り向いた。
銀色の瞳が、私を見る。
一瞬、驚きの色が浮かぶ。
「聖女殿」
彼が一礼する。
相変わらず、冷たい態度だ。
「私と踊って頂けますか?」
私は手を差し伸べた。
アルセインの眉が、わずかにひそめられる。
その目が、私を見つめる。
鋭く。
探るように。
「……聖女殿」
彼の声が低くなる。
「これは政治的な示威行動ですか?」
心臓が跳ねる。
やっぱり、彼は鋭い。
私の意図を見抜いている。
「いいえ」
私は微笑む。
「単にあなたと踊りたいだけです」
アルセインは、長い沈黙の後——
「……分かりました」
「お受けしましょう」
彼がグラスを置く。
手を取る。
推しの手。
大きくて、温かい。
心臓がバクバクする。
二人、ダンスフロアへ。
周囲の貴族たちが、息を呑む。
「聖女が第一王子を断って」
「第二王子派閥の公爵と!」
「これは……」
オーケストラが、優雅なワルツを奏でる。
アルセインの手が、私の腰に添えられる。
もう一方の手が、私の手を包む。
ダンスが始まる。
ステップを踏む。
アルセインのリードは完璧だ。
優雅で、力強い。
私は推しと踊っている。
夢みたい。
ゲームの画面越しにしか見られなかった彼と。
今、こうして。
「聖女殿」
アルセインの声が、静かに響く。
「率直にお聞きします」
「あなたの真の目的は何ですか?」
真剣な目で、私を見つめる。
警戒している。
疑っている。
「……真の目的?」
「第一王子を断り、私と踊る」
「これは明確な政治的メッセージです」
「第二王子派閥に接近する意図があるのでしょう?」
彼は何でもお見通しだ。
さすが、軍師。
「もしそうだとしたら?」
私は問い返す。
「ならば」
アルセインの声が低くなる。
「あなたは危険な賭けをしている」
「第一王子派閥は容赦しません」
ステップを踏みながら、私を見つめる。
「あなたは私を心配してくれているのですか?」
私は少し微笑んだ。
アルセインの目が、わずかに揺れる。
「……警告しているだけです」
曲が終わりに近づく。
最後のステップ。
そして——
音楽が止まる。
二人、離れる。
アルセインが一礼する。
「ありがとうございました」
その表情は、相変わらず冷たい。
でも——
その目の奥に、何かがあった。
興味?
それとも、困惑?
「こちらこそ」
私も一礼する。
アルセインは去っていく。
壁際に戻り、再びシャンパンを手に取る。
私から目を逸らす。
胸が少し痛い。
もっと踊りたかった。
もっと話したかった。
でも——
彼はまだ、私を警戒している。
仕方ない。
信頼を得るには、時間がかかる。
周囲の貴族たちが、大騒ぎしていた。
「聖女が第一王子を断って」
「第二王子派閥の公爵と踊った!」
「これは、第二王子派閥への接近か!」
「政治的な転換だ!」
令嬢たちも噂話に花を咲かせる。
「聖女様、大胆ね」
「公爵様、素敵だったわ」
「でも、第一王子派閥が黙っていないでしょう」
第二王子ヴィクターが、私に近づいてきた。
茶色の髪。緑色の瞳。
兄とは対照的な、野性的な雰囲気。
「聖女殿」
彼が笑顔で言う。
「素晴らしいダンスでした」
「ありがとうございます」
「アルセインと踊るとは」
ヴィクターが意味深に笑う。
「興味深い選択です」
「あなたは、我が派閥に協力してくれるのですか?」
「協力……ではありません」
私は冷静に答える。
「ただ、私は正しいと思うことを支持するだけです」
ヴィクターの目が、鋭くなる。
「なるほど」
「あなたは中立を保つと」
「賢い選択です」
彼は去っていく。
私は一人、テラスに出た。
夜風が心地いい。
月が美しい。
今夜は、大胆な行動をした。
第一王子を断り、アルセインと踊る。
これで、第二王子派閥への接近は明確になった。
でも——
アルセインは、まだ信用してくれない。
その時、背後に気配を感じた。
振り返ると——
リリアナが立っていた。
白いドレス。
優しそうな笑顔。
でも——
その目が、冷たい。
「聖女様」
リリアナが近づいてくる。
「素敵なドレスですね」
「ありがとう」
私は短く答える。
「公爵様と踊られて」
リリアナの声が、少し低くなる。
「皆さん、驚いていました」
「そう」
リリアナが微笑む。
でも、その笑顔が——怖い。
何かが、違う。
「お気をつけくださいね」
リリアナが囁く。
「公爵様は、冷酷な方だと聞きます」
「……忠告、ありがとう」
リリアナは去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、私は考える。
彼女、何か隠している。
あの目は——
いや、気のせいかもしれない。
月を見上げる。
今夜は、一歩前進した。
推しと踊れた。
話せた。
まだ、信用されていない。
でも——
いつか、必ず。
その時、遠くから咳き込む声が聞こえた。
舞踏会の使用人が、廊下で苦しそうに咳をしている。
侍女たちが慌てて駆け寄る。
「貧民街で病が流行っているそうですよ」
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不穏な予感が、胸をよぎる。
私は拳を握った。
頑張る。
推しを救うために。
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