【完結】前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが

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第9話「策謀の罠」

 鐘が、鳴り響いた。

 緊急の鐘。

 王宮中に響く。

 私は窓辺で振り返った。

 何事か。

 侍女が、駆け込んでくる。

「お嬢様!」

 息を切らしている。

「宝物庫で、事件です!」

「事件?」

「聖遺物が、盗まれました!」

 心臓が跳ねる。

 聖遺物。

 王家に代々伝わる、貴重な品。

 それが盗まれた。

 大事件だ。

「いつ?」

「昨夜です」

 侍女が答える。

「今朝、発覚して」

「王宮中が、大騒ぎです」

 胸騒ぎがする。

 嫌な予感。

 これは──

 罠かもしれない。

 夜会の後。

 私が第一王子を断った後。

 タイミングが、良すぎる。

「分かりました」

 私は、立ち上がる。

「何か情報があったら、すぐに」

「はい」

 侍女が、頷いて去る。

 私は、窓の外を見た。

 王宮が、慌ただしく動いている。

 衛兵が、走り回っている。

 不安が、胸に広がる。

 これは──

 私への罠かもしれない。

 ---

 数日が過ぎた。

 犯人は見つからない。

 王宮は、緊張している。

 私も、警戒していた。

 何かが起こる。

 そう感じていた。

 その日の朝。

 突然、侍女が青ざめて入ってきた。

「お嬢様!」

「衛兵が!」

「何?」

 立ち上がる。

 扉が開く。

 衛兵たちが、なだれ込んできた。

 鎧の音。

 剣の輝き。

 緊張した顔。

「聖女ノエリア様」

 隊長が一歩前に出る。

「王命により」

「お部屋を捜索させて頂きます」

 捜索。

 私の部屋を。

 なぜ。

「理由は?」

 冷静に問う。

「お答えできません」

 隊長が頭を下げる。

「失礼します」

 衛兵たちが、部屋に入る。

 引き出しを開ける。

 棚を調べる。

 箱を開ける。

 私は、じっと見ていた。

 侍女が、震えている。

 私の手を握る。

 大丈夫だと、伝える。

 何も出ない。

 私は何もしていない。

 盗んでいない。

 だから──

「隊長!」

 衛兵の一人が叫んだ。

「これを!」

 彼の手には、小さな箱。

 見覚えがない。

 隊長が、箱を開ける。

 中から、光が溢れる。

 美しい光。

 聖なる力。

 それは──

「聖遺物……!」

 隊長が驚愕する。

「盗まれた、聖遺物です!」

 衛兵たちが、ざわつく。

 侍女が、悲鳴を上げる。

 私は──

 凍りついた。

 なぜ。

 なぜ、私の部屋に。

 私は盗んでいない。

 誰かが、置いたのだ。

 罠だ。

 陥れられた。

「聖女様」

 隊長が、厳しい顔で言う。

「王宮へ、ご同行願います」

 ---

 大広間は、既に多くの貴族で埋まっていた。

 玉座に、国王。

 右に、第一王子エドウィン。

 左に、第二王子ヴィクター。

 貴族たち。

 聖職者たち。

 みんなが、私を見ている。

 冷たい視線。

 疑いの目。

 非難の声。

 私は、中央に立たされた。

 まるで、犯罪者のように。

 マーカス伯爵が、前に出る。

 彼の顔には、勝利の笑み。

 隠しきれていない。

「陛下」

 マーカスが、深くお辞儀をする。

「証拠は明白です」

「聖女の部屋から」

「盗まれた聖遺物が発見されました」

 貴族たちが、ざわめく。

 国王が、私を見る。

 厳しい目。

「聖女殿」

「説明を」

 私は、まっすぐに答える。

「陛下」

「私は盗んでいません」

「では、なぜあなたの部屋に?」

 マーカスが詰め寄る。

「誰かが、置いたのです」

「誰かが?」

 マーカスが嘲笑する。

「証拠は?」

「……ありません」

 貴族たちが、声を上げる。

「言い訳だ」

「聖女が盗んだ」

「許せない」

 非難の嵐。

 第一王子エドウィンが、苦しそうに言う。

「聖女殿……」

「証拠がある以上」

「弁明を」

 彼も、私を疑っている。

 胸が、痛む。

 孤立している。

 誰も、信じてくれない。

 第二王子ヴィクターは、黙っている。

 表情は冷静で、何も語らない。

 彼の視線は、私ではなく──

 マーカス伯爵を見ている。

 鋭く。

 観察するように。

 (彼は、裏で動いている)

 私は、直感した。

 見捨てているのではない。

 政治的に、中立を装っているだけだ。

 第二王子派閥の長として。

 ここで私を庇えば、マーカスに警戒される。

 だから──

 沈黙している。

 絶望が、胸を締め付ける。

 その時──

「待ってください」

 低い声が、響いた。

 扉が開く。

 黒い礼服。

 銀色の瞳。

 アルセイン。

 彼が、大広間に入ってくる。

 貴族たちが、ざわつく。

 国王が、眉をひそめる。

「公爵」

「何か?」

「陛下」

 アルセインが、一礼する。

「この件について」

「調査した結果を報告します」

 彼が、書類を取り出す。

 マーカスの顔が、強張る。

 アルセインが、冷静に説明する。

「この聖遺物には」

「最近つけられた指紋があります」

「しかし」

 彼が、私を見る。

 その目は、冷たくない。

「聖女殿の指紋ではありません」

 ざわめきが、広がる。

「何だと?」

 マーカスが、声を荒げる。

「それは、証拠にならない」

「他人が触った可能性もある」

「いいえ」

 アルセインが、さらに続ける。

「聖女殿の私室の鍵が」

「複製されていた痕跡を発見しました」

 書類を提示する。

 国王が、手に取る。

 眉をひそめる。

「これは……」

「つまり」

 アルセインが、明確に言う。

「誰かが侵入し」

「聖遺物を置いた」

「聖女殿は、無実です」

 沈黙が、流れる。

 マーカスが、動揺している。

 額に、汗が浮かぶ。

「それは、憶測だ!」

 彼が叫ぶ。

「証拠はどこにある!」

「これです」

 アルセインが、別の書類を出す。

「鍵の複製痕跡」

「侵入者の足跡」

「全て、記録しました」

 国王が、書類を読む。

 長い沈黙。

 そして──

「……マーカス伯爵」

 国王の声が、重い。

「この件、説明を」

 マーカスが、言葉に詰まる。

「それは……」

「私は……」

「真犯人が見つかるまで」

 国王が、宣言する。

「この件は保留とする」

「聖女殿」

 国王が、私を見る。

「一時的に、嫌疑を晴らす」

「だが、軽率な行動は慎むように」

「はい」

 私は、深くお辞儀をした。

 胸が、熱い。

 涙が浮かぶ。

 でも、堪える。

 ここで泣いてはいけない。

 貴族たちが、不満そうにざわめく。

 でも、国王の決定は絶対だ。

 会議が、終わる。

 衛兵たちが、退室する。

 貴族たちも、去っていく。

 私も、立ち上がる。

 その時──

 アルセインが、近づいてきた。

「聖女殿」

 彼が、小さく言う。

 私は、振り返る。

 彼の銀色の瞳が、私を見つめる。

「ありがとうございました」

 心から、言う。

 アルセインは、少し間を置いて──

「……礼には及びません」

 冷たい声。

 でも、少しだけ柔らかい。

「なぜ、助けてくれたのですか?」

 私は、問う。

 アルセインが、視線を逸らす。

「証拠が矛盾していたからです」

「それだけです」

「私を信じているわけではない?」

 彼は、沈黙する。

 そして──

「……信じるには」

「まだ情報が足りません」

 正直な答え。

 私は、少し寂しそうに笑う。

「そうですか」

 でも──

「だが」

 アルセインが、続ける。

「あなたが犯人でないことは」

「確信しています」

 心臓が、跳ねる。

 彼の言葉。

 信じてくれている。

 完全ではないけれど。

 でも、少しだけ。

「それだけで、十分です」

 私は、微笑む。

 本当の笑顔。

 アルセインが、わずかに目を見開く。

 そして──

 小さく、頷いた。

「では」

 彼が、一礼して去る。

 その後ろ姿を、見送る。

 黒い礼服が、遠ざかる。

 私は、胸に手を当てた。

 心臓が、まだ速く打っている。

 彼が、助けてくれた。

 証拠で。

 論理で。

 感情ではなく。

 でも──

 それでも嬉しい。

 信頼への、第一歩。

 小さな一歩だけど。

 確かな一歩。

 ---

 廊下を歩いていると、誰かとすれ違った。

 リリアナだった。

 白いドレス。

 優しい笑顔。

 だが──

 その目が、一瞬だけ冷たく光った。

 まばたきをすると、また優しい顔に戻っている。

「聖女様」

 リリアナが挨拶する。

「無事で良かったですね」

 優しい声。

 だが、棘がある。

「ええ」

 私も短く返す。

 すれ違う。

 背中に、視線を感じる。

 振り返ると──

 リリアナは、まだこちらを見ていた。

 その顔には、笑顔がない。

 冷たい表情。

 鋭い目。

 敵意。

 明確な、敵意。

 まばたきをすると、また優しい顔に戻った。

 そして、去っていく。

 胸に、不安が残る。

 彼女は──

 何かを企んでいる。

 確実に。

 ---

 その夜。

 マーカス伯爵の屋敷。

 密室で、彼は一人座っていた。

 机を、拳で叩く。

 グラスが、震える。

「あの軍師が……!」

 憎悪に満ちた声。

「邪魔をした」

「証拠まで揃えて」

 彼の計画は、失敗した。

 聖女を陥れる計画。

 完璧だったはずなのに。

 アルセインが、全てを崩した。

「許せない」

 マーカスが、立ち上がる。

 窓の外を見る。

 王宮が見える。

 あそこに、敵がいる。

 聖女。

 そして、あの軍師。

「別の手を考えねば」

 彼の目が、鋭く光る。

 闇が、彼を包む。

 計画は、まだ終わっていない。

 次の罠を。

 より完璧な罠を。

 聖女を──

 そして、あの軍師を。

 必ず、陥れる。

 机の上には、報告書。

 夜会での聖女と公爵の密会。

 情報屋からの、最新の報告。

「監視を強化しろ」

 マーカスが、冷たく呟く。

「聖女の全ての行動を、記録しろ」

 彼の笑みが、月明かりに浮かぶ。

 不気味な笑み。

 静かな夜。

 王都は、眠っている。

 でも、闇は動いている。

 次の策謀が、既に始まっていた。

 ---

 私の部屋。

 夜。

 私は、机の前に座っていた。

 日記を開く。

 羽根ペンを取る。

『今日、大きな危機があった』

『マーカス伯爵の罠』

『でも、アルセインが助けてくれた』

『彼は、私が犯人でないと確信していると言った』

『完全に信じてくれているわけではない』

『でも、少しずつ、信頼を得ている』

 羽根ペンを止める。

 彼の顔が、脳裏に浮かぶ。

 銀色の瞳。

 冷たい、だが優しい。

 推しが、私を助けてくれた。

 嬉しい。

 温かい。

『これからも、戦い続ける』

『推しを守るために』

『悪女を演じ続ける』

『いつか、全てを打ち明ける日まで』

 羽根ペンを置く。

 窓の外を見る。

 月が、輝いている。

 美しい夜。

 明日も、戦いは続く。

 でも──

 一人じゃない。

 推しが、少しずつ味方になってくれている。

 それだけで、十分だ。

 ベッドに入る。

 目を閉じる。

 今日も、一日が終わる。

 また明日。

 推しに近づくために。

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