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第11話「仮面の綻び」
第11話「仮面の綻び」
月が、王都を冷たく照らしていた。
私は黒いマントに身を包む。
フードを深く被る。
顔を隠すため。
誰にも気づかれないように。
禁書庫の調査は、延期になった。
アルセインから連絡があった。
「急な軍務で動けません」
短い伝言だった。
残念だけれど、仕方がない。
代わりに今夜は、いつもの場所へ。
孤児院。
私が密かに通い続けている場所。
袋を抱える。
パン。果物。チーズ。毛布。
侍女には内緒で用意した。
館の裏口から、こっそりと出る。
静かな夜。
足音を殺して歩く。
裏通りを抜ける。
人目を避けて。
孤児院は、王都の東側にある。
古い建物。
壁は剥がれている。
窓はひび割れている。
でも、子供たちの笑顔がある。
扉をノックする。
「誰?」
中から声が聞こえる。
「私よ」
優しく答える。
扉が開く。
子供たちが、笑顔で駆け寄ってくる。
「お姉さん!」
「来てくれた!」
小さな手が、私のマントを掴む。
温かい。
心が、満たされる。
「今日も、いっぱい持ってきたわ」
袋を開ける。
パンを取り出す。
子供たちの目が、輝く。
「わあ!」
「ありがとう、お姉さん!」
一人ひとりに配る。
みんな、嬉しそうに食べる。
その笑顔を見るだけで、疲れが吹き飛ぶ。
一人の男の子が、手を見せる。
「これ、痛いの」
擦り傷だ。
赤く腫れている。
「見せて」
手を取る。
優しく、傷に触れる。
淡い光が溢れる。
聖女の力。
頭を撫でる。
他の子供たちも、集まってくる。
「僕も!」
「私も見て!」
一人ずつ、丁寧に診る。
小さな怪我。風邪の症状。
全て、治していく。
光が、部屋を照らす。
温かい光。
子供たちの笑顔。
これが、私の本当の姿。
悪女の仮面を脱いだ、本当の私。
---
屋根の上。
一つの影が、動いた。
黒い服。
月明かりに照らされた、銀色の瞳。
アルセイン。
彼は、全てを見ていた。
孤児院の窓から漏れる光。
子供たちの笑い声。
そして──
フードを取った、聖女の優しい顔。
温かい笑顔。
子供たちを抱きしめる姿。
治癒の光。
全てを。
彼は息を呑んだ。
あれが、昼間の冷酷な聖女?
第一王子を拒否した、傲慢な女性?
いや。
違う。
あれが、本当の彼女だ。
優しくて。
慈悲深くて。
誰よりも、人を思いやる心を持っている。
では、なぜ。
なぜ、昼間は冷たく振る舞うのか。
理由が、分からない。
だが──
確信した。
彼女は、敵ではない。
むしろ──
胸に、温かいものが広がる。
今まで感じたことのない、感情。
これは──
アルセインは、自分の心臓に手を当てた。
速く打っている。
彼女を見るだけで、こんなにも。
これが、恋なのか。
彼は、今まで恋をしたことがなかった。
軍務に明け暮れる日々。
孤独な戦略家としての人生。
だが──
今、確かに感じている。
彼女に惹かれていると。
窓辺に立つ聖女の姿。
月明かりに照らされた、銀色の髪。
美しい。
そして──
謎だ。
彼女の秘密を、知りたい。
なぜ、二つの顔を持つのか。
なぜ、孤立を選ぶのか。
全てを。
---
孤児院を出ると、夜風が冷たかった。
私はフードを被り直す。
帰らないと。
朝になる前に。
裏通りを歩く。
静かな夜。
その時──
気配を感じた。
振り返る。
誰かが、いる。
暗闇に、人影。
黒いローブを纏った人物。
フードで顔を隠している。
心臓が、速くなる。
誰?
人影が、動き出す。
別の方向へ。
私は、咄嗟に後を追った。
足音を殺す。
距離を保つ。
人影は、王都の西側へ向かう。
廃墟が多い場所。
危険な地区。
なぜ、こんな場所に。
古い建物の前で、人影が止まる。
扉をノックする。
中から、別の人影が現れる。
もっと大柄な男性。
マントを羽織っている。
二人、何か話している。
声は聞こえない。
だが──
最初の人影が、フードを取った。
月明かりが、顔を照らす。
私は、息を呑んだ。
リリアナ。
優しい平民の少女。
原作のヒロイン。
なぜ、こんな場所に。
そして、あの冷たい表情。
昼間の優しい顔とは、別人だ。
もう一人の男性も、フードを取る。
マーカス伯爵。
第一王子派閥の重鎮。
二人が、密会している。
リリアナが、何かを手渡す。
小さな袋。
マーカスが、受け取る。
満足そうに頷く。
そして──
リリアナの顔が、邪悪に歪む。
笑っている。
冷たく。
恐ろしく。
あれが、リリアナ?
心臓が、凍りつく。
彼女は──
何かを企んでいる。
確実に。
二人が別れる。
マーカスが、去っていく。
リリアナも、反対方向へ。
私は、壁に身を隠す。
息を殺す。
リリアナが、目の前を通り過ぎる。
その表情は──
まだ、冷たいままだ。
彼女が去る。
私は、深呼吸した。
震える手を見る。
リリアナ。
彼女の正体を、探らないと。
危険だ。
確実に、何か企んでいる。
急いで、館に戻る。
この情報を、誰かに伝えないと。
でも、誰に?
信用できるのは──
アルセイン。
彼しかいない。
---
翌日。
王宮の図書館。
私は、約束の時間に到着した。
書架の間。
静かな空間。
アルセインが、既に待っていた。
黒い服。
銀色の瞳が、私を見る。
心臓が、跳ねる。
推しと、二人きり。
「公爵」
声をかける。
アルセインが、振り向く。
「聖女殿」
彼が、近づいてくる。
距離が、近い。
顔が、熱くなる。
落ち着け、私。
「昨夜のことですが」
私は、小さく言う。
「リリアナと、マーカス伯爵が」
「密会していました」
アルセインの目が、鋭くなる。
「密会?」
「はい。王都西側の廃墟で」
「何か、渡していました」
アルセインが、腕を組む。
考え込む表情。
「リリアナが、マーカスと」
彼が呟く。
「つまり──」
「第一王子派閥と、繋がっている」
私が答える。
アルセインが、私を見る。
長い沈黙。
そして──
「聖女殿」
彼の声が、少し柔らかくなる。
「なぜ、そこまで」
「なぜ、秘密にするのですか?」
真剣な目で、問う。
「あなたは昼間、冷酷に振る舞う」
「でも、夜は──」
私の心臓が、止まる。
彼は、知っている。
私の二つの顔を。
「……見ていたのですか」
小さく問う。
アルセインが、頷く。
「孤児院で」
「あなたの本当の姿を見ました」
顔が、熱い。
恥ずかしい。
推しに、秘密を知られた。
「なぜ、隠すのです?」
アルセインが、一歩近づく。
「あなたの優しさを」
「善行を」
「全てを」
私は、答えられない。
理由を言えば、全てがバレる。
悪女を演じている理由。
彼を救いたい理由。
全て。
「いつか」
私は、勇気を出して言う。
「全てを、お話しします」
「でも、今は」
「まだ、言えません」
アルセインの目が、揺れる。
困惑している。
理解できない。
でも──
「分かりました」
彼が、小さく答える。
「待ちます」
「あなたが、話してくれる日を」
心臓が、温かくなる。
彼は、待ってくれる。
信じてくれる。
嬉しい。
「ありがとうございます」
私は、微笑んだ。
本当の笑顔。
冷たい仮面ではなく。
アルセインの目が、わずかに見開かれる。
その頬が、少し赤い。
可愛い。
推し、最高。
「では」
アルセインが、咳払いをする。
「リリアナの件」
「調査を続けましょう」
「はい」
二人、本を広げる。
並んで座る。
肩が、触れそうなほど近い。
ドキドキする。
でも、幸せだ。
推しと、一緒に。
秘密を共有して。
戦っている。
---
その夜。
マーカス伯爵の屋敷。
密室で、彼は一人座っていた。
机の上には、リリアナから受け取った袋。
中身を確認する。
黒い粉末。
魔法の触媒。
禁じられた、闇の魔術の材料。
マーカスの口元が、歪む。
「これで、準備は整った」
彼が呟く。
「聖女を」
「あの傲慢な女を」
「必ず、陥れる」
机の上には、計画書。
「聖女失墜計画」
詳細な手順が、書かれている。
罠。
陰謀。
全てが、動き始めている。
マーカスが、立ち上がる。
窓の外を見る。
王宮が、見える。
あそこに、敵がいる。
聖女。
そして、あの軍師。
二人とも。
必ず、葬り去る。
マーカスの笑みが、月明かりに浮かぶ。
不気味な笑み。
静かな夜。
王都は、眠っている。
でも、闇は動いている。
陰謀が、確実に進行していた。
月が、王都を冷たく照らしていた。
私は黒いマントに身を包む。
フードを深く被る。
顔を隠すため。
誰にも気づかれないように。
禁書庫の調査は、延期になった。
アルセインから連絡があった。
「急な軍務で動けません」
短い伝言だった。
残念だけれど、仕方がない。
代わりに今夜は、いつもの場所へ。
孤児院。
私が密かに通い続けている場所。
袋を抱える。
パン。果物。チーズ。毛布。
侍女には内緒で用意した。
館の裏口から、こっそりと出る。
静かな夜。
足音を殺して歩く。
裏通りを抜ける。
人目を避けて。
孤児院は、王都の東側にある。
古い建物。
壁は剥がれている。
窓はひび割れている。
でも、子供たちの笑顔がある。
扉をノックする。
「誰?」
中から声が聞こえる。
「私よ」
優しく答える。
扉が開く。
子供たちが、笑顔で駆け寄ってくる。
「お姉さん!」
「来てくれた!」
小さな手が、私のマントを掴む。
温かい。
心が、満たされる。
「今日も、いっぱい持ってきたわ」
袋を開ける。
パンを取り出す。
子供たちの目が、輝く。
「わあ!」
「ありがとう、お姉さん!」
一人ひとりに配る。
みんな、嬉しそうに食べる。
その笑顔を見るだけで、疲れが吹き飛ぶ。
一人の男の子が、手を見せる。
「これ、痛いの」
擦り傷だ。
赤く腫れている。
「見せて」
手を取る。
優しく、傷に触れる。
淡い光が溢れる。
聖女の力。
頭を撫でる。
他の子供たちも、集まってくる。
「僕も!」
「私も見て!」
一人ずつ、丁寧に診る。
小さな怪我。風邪の症状。
全て、治していく。
光が、部屋を照らす。
温かい光。
子供たちの笑顔。
これが、私の本当の姿。
悪女の仮面を脱いだ、本当の私。
---
屋根の上。
一つの影が、動いた。
黒い服。
月明かりに照らされた、銀色の瞳。
アルセイン。
彼は、全てを見ていた。
孤児院の窓から漏れる光。
子供たちの笑い声。
そして──
フードを取った、聖女の優しい顔。
温かい笑顔。
子供たちを抱きしめる姿。
治癒の光。
全てを。
彼は息を呑んだ。
あれが、昼間の冷酷な聖女?
第一王子を拒否した、傲慢な女性?
いや。
違う。
あれが、本当の彼女だ。
優しくて。
慈悲深くて。
誰よりも、人を思いやる心を持っている。
では、なぜ。
なぜ、昼間は冷たく振る舞うのか。
理由が、分からない。
だが──
確信した。
彼女は、敵ではない。
むしろ──
胸に、温かいものが広がる。
今まで感じたことのない、感情。
これは──
アルセインは、自分の心臓に手を当てた。
速く打っている。
彼女を見るだけで、こんなにも。
これが、恋なのか。
彼は、今まで恋をしたことがなかった。
軍務に明け暮れる日々。
孤独な戦略家としての人生。
だが──
今、確かに感じている。
彼女に惹かれていると。
窓辺に立つ聖女の姿。
月明かりに照らされた、銀色の髪。
美しい。
そして──
謎だ。
彼女の秘密を、知りたい。
なぜ、二つの顔を持つのか。
なぜ、孤立を選ぶのか。
全てを。
---
孤児院を出ると、夜風が冷たかった。
私はフードを被り直す。
帰らないと。
朝になる前に。
裏通りを歩く。
静かな夜。
その時──
気配を感じた。
振り返る。
誰かが、いる。
暗闇に、人影。
黒いローブを纏った人物。
フードで顔を隠している。
心臓が、速くなる。
誰?
人影が、動き出す。
別の方向へ。
私は、咄嗟に後を追った。
足音を殺す。
距離を保つ。
人影は、王都の西側へ向かう。
廃墟が多い場所。
危険な地区。
なぜ、こんな場所に。
古い建物の前で、人影が止まる。
扉をノックする。
中から、別の人影が現れる。
もっと大柄な男性。
マントを羽織っている。
二人、何か話している。
声は聞こえない。
だが──
最初の人影が、フードを取った。
月明かりが、顔を照らす。
私は、息を呑んだ。
リリアナ。
優しい平民の少女。
原作のヒロイン。
なぜ、こんな場所に。
そして、あの冷たい表情。
昼間の優しい顔とは、別人だ。
もう一人の男性も、フードを取る。
マーカス伯爵。
第一王子派閥の重鎮。
二人が、密会している。
リリアナが、何かを手渡す。
小さな袋。
マーカスが、受け取る。
満足そうに頷く。
そして──
リリアナの顔が、邪悪に歪む。
笑っている。
冷たく。
恐ろしく。
あれが、リリアナ?
心臓が、凍りつく。
彼女は──
何かを企んでいる。
確実に。
二人が別れる。
マーカスが、去っていく。
リリアナも、反対方向へ。
私は、壁に身を隠す。
息を殺す。
リリアナが、目の前を通り過ぎる。
その表情は──
まだ、冷たいままだ。
彼女が去る。
私は、深呼吸した。
震える手を見る。
リリアナ。
彼女の正体を、探らないと。
危険だ。
確実に、何か企んでいる。
急いで、館に戻る。
この情報を、誰かに伝えないと。
でも、誰に?
信用できるのは──
アルセイン。
彼しかいない。
---
翌日。
王宮の図書館。
私は、約束の時間に到着した。
書架の間。
静かな空間。
アルセインが、既に待っていた。
黒い服。
銀色の瞳が、私を見る。
心臓が、跳ねる。
推しと、二人きり。
「公爵」
声をかける。
アルセインが、振り向く。
「聖女殿」
彼が、近づいてくる。
距離が、近い。
顔が、熱くなる。
落ち着け、私。
「昨夜のことですが」
私は、小さく言う。
「リリアナと、マーカス伯爵が」
「密会していました」
アルセインの目が、鋭くなる。
「密会?」
「はい。王都西側の廃墟で」
「何か、渡していました」
アルセインが、腕を組む。
考え込む表情。
「リリアナが、マーカスと」
彼が呟く。
「つまり──」
「第一王子派閥と、繋がっている」
私が答える。
アルセインが、私を見る。
長い沈黙。
そして──
「聖女殿」
彼の声が、少し柔らかくなる。
「なぜ、そこまで」
「なぜ、秘密にするのですか?」
真剣な目で、問う。
「あなたは昼間、冷酷に振る舞う」
「でも、夜は──」
私の心臓が、止まる。
彼は、知っている。
私の二つの顔を。
「……見ていたのですか」
小さく問う。
アルセインが、頷く。
「孤児院で」
「あなたの本当の姿を見ました」
顔が、熱い。
恥ずかしい。
推しに、秘密を知られた。
「なぜ、隠すのです?」
アルセインが、一歩近づく。
「あなたの優しさを」
「善行を」
「全てを」
私は、答えられない。
理由を言えば、全てがバレる。
悪女を演じている理由。
彼を救いたい理由。
全て。
「いつか」
私は、勇気を出して言う。
「全てを、お話しします」
「でも、今は」
「まだ、言えません」
アルセインの目が、揺れる。
困惑している。
理解できない。
でも──
「分かりました」
彼が、小さく答える。
「待ちます」
「あなたが、話してくれる日を」
心臓が、温かくなる。
彼は、待ってくれる。
信じてくれる。
嬉しい。
「ありがとうございます」
私は、微笑んだ。
本当の笑顔。
冷たい仮面ではなく。
アルセインの目が、わずかに見開かれる。
その頬が、少し赤い。
可愛い。
推し、最高。
「では」
アルセインが、咳払いをする。
「リリアナの件」
「調査を続けましょう」
「はい」
二人、本を広げる。
並んで座る。
肩が、触れそうなほど近い。
ドキドキする。
でも、幸せだ。
推しと、一緒に。
秘密を共有して。
戦っている。
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その夜。
マーカス伯爵の屋敷。
密室で、彼は一人座っていた。
机の上には、リリアナから受け取った袋。
中身を確認する。
黒い粉末。
魔法の触媒。
禁じられた、闇の魔術の材料。
マーカスの口元が、歪む。
「これで、準備は整った」
彼が呟く。
「聖女を」
「あの傲慢な女を」
「必ず、陥れる」
机の上には、計画書。
「聖女失墜計画」
詳細な手順が、書かれている。
罠。
陰謀。
全てが、動き始めている。
マーカスが、立ち上がる。
窓の外を見る。
王宮が、見える。
あそこに、敵がいる。
聖女。
そして、あの軍師。
二人とも。
必ず、葬り去る。
マーカスの笑みが、月明かりに浮かぶ。
不気味な笑み。
静かな夜。
王都は、眠っている。
でも、闇は動いている。
陰謀が、確実に進行していた。
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