【完結】前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが

チャビューヘ

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第16話「運命の選択」

 光が、まぶしい。

 目を開けると、天井が見えた。

 白い天井。

 見覚えがある。

 聖女の館。

 私の部屋。

 身体を起こそうとする。

 重い。

 でも、痛みはない。

 視線を巡らせる。

 窓から差し込む、午後の光。

 机の上には、花が飾られている。

 誰が?

 そして──

 ベッドの横に、椅子がある。

 その椅子に──

 アルセインが座っていた。

 机に突っ伏して、眠っている。

 黒い髪が乱れている。

 いつもの凛とした姿ではない。

 疲れた様子。

 心臓が、跳ねる。

 推しが、ここにいる。

 私のそばに。

 どのくらい、ここにいたのだろう。

 手を伸ばす。

 彼の髪に、触れそうになる。

 でも、止める。

 起こしてしまう。

 アルセインの顔を見つめる。

 眠っている顔は、穏やかだ。

 いつもの冷たさがない。

 優しい表情。

 こんな顔をするんだ。

 胸が、温かくなる。

 どのくらい見つめていただろう。

 アルセインが、目を開けた。

 銀色の瞳。

 一瞬、焦点が定まらない。

 そして──

 私と目が合う。

「ノエリア」

 彼が、飛び起きる。

 椅子が倒れる。

「目を覚ましたのですか」

 その声は、震えていた。

 安堵と、驚きと。

「……アルセイン」

 私の声は、かすれている。

 喉が渇いている。

 アルセインが、すぐに水差しを取る。

 グラスに水を注ぐ。

 私に差し出す。

「どうぞ」

 グラスを受け取る。

 手が震える。

 アルセインが、手を添えてくれた。

 温かい。

 優しい。

 水を飲む。

 冷たくて、美味しい。

 喉が、潤う。

「ありがとう」

 グラスを返す。

 アルセインが、椅子を起こして座る。

 私を見つめる。

 その目には、心配が宿っている。

「三日間、眠っていました」

 彼が静かに言う。

「三日?」

 そんなに。

「心配しました」

 アルセインの声が、わずかに震える。

「もう、目を覚まさないのではないかと」

 その言葉に、胸が熱くなる。

 心配してくれていた。

 推しが。

「ごめんなさい」

 私は、小さく謝った。

 アルセインが、首を横に振る。

「謝る必要はありません」

「あなたは、王国を救った」

「私を救った」

 その目が、私を見つめる。

 深く。

 真剣に。

「私は……処刑される寸前だったのですね」

 アルセインの声が、静かに響く。

「マーカスの計画書を読みました」

「来週、処刑される予定だった」

 彼の手が、拳を握る。

「もし、あなたがいなければ」

「もし、あなたが全てを止めてくれなければ」

 言葉が、途切れる。

 涙が、溢れそうになる。

 でも、堪える。

「でも、大丈夫です」

 私は、微笑む。

「もう、その運命は変わりました」

 アルセインが、私の手を取った。

 突然。

 温かい。

 大きな手が、私の手を包む。

「ありがとう」

 彼が、深く頭を下げる。

「命を救ってくれて」

 私の手を、強く握る。

「あなたがいなければ、私は……」

 その声が、震えている。

 胸が、苦しい。

 嬉しくて。

 切なくて。

「アルセイン」

 私は、彼の手を握り返す。

「顔を上げてください」

 アルセインが、顔を上げる。

 その目に、涙が浮かんでいた。

 初めて見る。

 推しの涙。

 胸が、締め付けられる。

「泣かないでください」

 私は、もう一方の手で彼の頬に触れる。

 涙を、拭う。

 アルセインが、その手に自分の手を重ねる。

「ノエリア」

 彼が、私を見つめる。

 銀色の瞳が、揺れている。

 そして──

 何かを決意したように。

「あなたのことを、もっと知りたい」

 真剣な声。

「なぜ、そこまでしてくれたのか」

「なぜ、私を救おうとしたのか」

「あなたの秘密を、聞かせてください」

 心臓が、止まりそうになる。

 ついに。

 この時が来た。

 全てを話す時。

 でも──

 怖い。

 拒絶されたら。

 信じてもらえなかったら。

 異世界転生なんて、信じられるはずがない。

「私は……」

 声が震える。

 アルセインが、優しく言う。

「どんな秘密でも、私は受け入れます」

「あなたを疑いません」

「あなたを信じます」

 その言葉が、胸に染みる。

 涙が、溢れ出す。

 もう、止められない。

 堪えていた涙が、次々と。

「ノエリア?」

 アルセインが、慌てる。

「どうしたのですか」

「嬉しい……んです」

 私は、涙を拭おうとする。

 でも、止まらない。

「信じてくれると、言ってくれて」

 アルセインが、ハンカチを差し出す。

 私は、受け取る。

 涙を拭う。

 深呼吸。

 落ち着く。

「……分かりました」

 私は、決意する。

「全てを、お話しします」

 アルセインの目が、わずかに見開かれる。

 そして、頷く。

「ありがとう」

 彼が、優しく微笑む。

 初めて見る。

 推しの、本当の笑顔。

 温かくて。

 優しくて。

 胸が、いっぱいになる。

「でも」

 私は、窓の外を見る。

「ここでは、落ち着かないので」

「どこか、静かな場所で」

 アルセインが、少し考える。

 そして──

「礼拝堂はどうですか」

 彼が提案する。

「夜なら、誰もいません」

「静かに話せます」

「礼拝堂……」

 私は、頷いた。

「そこで、お願いします」

 アルセインが、立ち上がる。

「では、夜に」

「あなたが十分に休んでから」

「今はまだ、身体を休めてください」

 彼が、扉に向かう。

 その背中に、声をかける。

「アルセイン」

 彼が、振り返る。

「はい」

「ずっと、そばにいてくれたのですか」

 私は、問う。

 アルセインが、少し照れたように視線を逸らす。

「……はい」

「三日間、ずっと」

 小さく答える。

「ありがとう」

 私は、心から言う。

 アルセインが、微笑む。

「当然のことです」

 そう言って、扉を開ける。

「夜に、また」

 扉が閉まる。

 一人になる。

 私は、ベッドに横になった。

 天井を見つめる。

 今夜。

 今夜、全てを話す。

 異世界転生のこと。

 前世のこと。

 ゲームのこと。

 推しだったこと。

 破滅フラグを回避しようとしたこと。

 全て。

 信じてもらえるだろうか。

 怖い。

 でも──

 彼は、信じると言ってくれた。

 どんな秘密でも、受け入れると。

 それを信じよう。

 推しを、信じよう。

 窓の外を見ると、夕日が沈んでいく。

 美しい。

 オレンジ色の空。

 雲が、ピンク色に染まっている。

 今日が終わる。

 そして、夜が来る。

 全てを告白する、夜が。

 侍女がノックする。

「お嬢様、お食事をお持ちしました」

「入って」

 侍女が入ってくる。

 トレイには、スープとパン。

 優しい食事。

「アルセイン公爵が、毎日来られていました」

 侍女が、トレイを置きながら言う。

「一日中、ここにいらして」

「お嬢様の手を握って」

「ずっと、話しかけていらっしゃいました」

 心臓が、温かくなる。

 推しが、ずっとそばにいてくれた。

 私のために。

「そうだったの」

 私は、スープを飲む。

 温かくて、美味しい。

「公爵様は、とてもお優しい方です」

 侍女が、微笑む。

「お嬢様を、本当に大切に思っていらっしゃる」

 頬が、熱くなる。

 照れくさい。

 でも、嬉しい。

 食事を終える。

 侍女が、トレイを持って去る。

 一人になる。

 私は、窓辺に立つ。

 もう、夜だ。

 星が、瞬き始めている。

 礼拝堂。

 そろそろ、時間だ。

 深呼吸。

 覚悟を決める。

 全てを、話そう。

 推しに。

 真実を。

 私は、部屋を出た。

 ---

 礼拝堂は、静かだった。

 月明かりが、ステンドグラスを通して差し込む。

 美しい光が、床に映る。

 祭壇の前に、アルセインが立っていた。

 黒い服。

 月明かりに照らされて、神秘的だ。

 彼が、私に気づく。

 振り返る。

 銀色の瞳が、私を見つめる。

「来てくださったのですね」

 彼が、優しく微笑む。

「はい」

 私は、祭壇に近づく。

 二人、ベンチに座る。

 隣同士。

 沈黙が流れる。

 でも、居心地は悪くない。

 月明かりだけが、私たちを照らす。

「ノエリア」

 アルセインが、静かに言う。

「準備ができたら、話してください」

「焦らなくても、いいですから」

 その優しさに、勇気が湧く。

 私は、深呼吸した。

 そして──

 長年の秘密を、語り始めた。

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