【完結】前世の推しのために悪女を演じます、聖女として転生しましたが

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第18話「断罪の法廷」

 大法廷は、緊張に包まれていた。

 高い天井。

 壁には王国の紋章。

 中央に、裁判官席。

 その両脇に、貴族たちの席。

 そして──

 被告席には、二人の人物。

 マーカス伯爵。

 そして、リリアナ。

 鎖に繋がれている。

 マーカスの顔は、怒りに歪んでいた。

 リリアナは、うつむいたまま。

 魔女の力を失った少女。

 もう、あの禍々しい雰囲気はない。

 裁判長が、木槌を打つ。

 静寂が訪れる。

「では、裁判を開廷する」

 重々しい声が響く。

 私は、傍聴席に座っていた。

 アルセインが、隣にいる。

 手を繋いでいる。

 温かい。

 安心する。

 第一王子エドウィン。

 第二王子ヴィクター。

 国王。

 みんなが、出席している。

 この裁判は、王国の未来を決める。

 検察官が、立ち上がる。

「被告マーカス・アルトハイム伯爵」

 彼が、書類を読み上げる。

「反乱計画」

「魔女リリアナへの資金提供」

「聖女暗殺未遂」

「第二王子派閥粛清計画」

 一つずつ、罪状が読まれる。

 貴族たちが、息を呑む。

「そして……」

 検察官の声が、さらに重くなる。

「アルセイン・セイヴラン公爵処刑計画」

 法廷が、騒然となる。

 アルセインの手が、わずかに震える。

 私は、その手を強く握る。

 大丈夫。

 もう、大丈夫だから。

 検察官が、証拠を提示する。

 計画書が、法廷に回される。

「マーカス伯爵は」

 検察官が、続ける。

「アルセイン公爵を反逆者として処刑する計画を立てていました」

「罪状を捏造し」

「証拠を偽造し」

「証人を買収し」

「国王陛下に勅令を上奏する予定でした」

 書類が、国王の手に渡る。

 国王が、それを読む。

 その顔が、怒りに染まる。

「処刑予定日は……」

 検察官が、静かに言う。

「三日後でした」

 法廷が、静まり返る。

 三日後。

 もう、目前だった。

 あと少しで、推しは──

 涙が、浮かぶ。

 でも、堪える。

 今は、泣いてはいけない。

 国王が、立ち上がった。

「危うく」

 その声は、怒りと後悔に満ちている。

「忠臣を失うところだった」

 国王が、アルセインを見る。

「公爵」

「はい」

 アルセインが、立ち上がる。

「あなたは、私の最も信頼する臣下だ」

「このような陰謀に巻き込まれ」

「申し訳なかった」

 国王が、深く頭を下げる。

 アルセインが、慌てる。

「陛下、頭を上げてください」

「私は無事です」

 国王が、顔を上げる。

 そして、私を見た。

「聖女殿」

 私も、立ち上がる。

「あなたが警告してくれたおかげで」

「最悪の事態を回避できました」

「王国を代表して、感謝いたします」

 深く、一礼される。

 周囲の貴族たちも、立ち上がる。

 全員が、私に頭を下げる。

 胸が、熱くなる。

 間に合った。

 破滅フラグを、完全に回避できた。

 推しは、もう死なない。

 涙が、一筋だけ頬を伝う。

 アルセインが、優しく拭ってくれる。

 裁判長が、マーカスに向き直る。

「被告」

「何か申し開きはあるか」

 マーカスが、顔を上げる。

 その目は、憎悪に満ちている。

「私は……」

 彼が、叫ぶ。

「王国のためにやった!」

「第二王子派閥は危険だ!」

「あの軍師は、王国を乗っ取るつもりだ!」

 裁判長が、冷たく言う。

「証拠は?」

 マーカスが、言葉に詰まる。

 証拠など、ない。

 全ては、彼の妄想だ。

「私利私欲のための陰謀だ」

 国王が、断言する。

「王国のため? 笑わせるな」

 裁判長が、木槌を打つ。

「では、判決を言い渡す」

 法廷が、静まる。

「マーカス・アルトハイム伯爵」

「反逆罪により、有罪」

「終身投獄を命ずる」

 マーカスの顔が、蒼白になる。

「そんな……」

「財産は没収」

「爵位も剥奪」

 衛兵たちが、マーカスを連行する。

 彼が、最後に叫ぶ。

「これは不当だ!」

「私は正しかった!」

 だが、誰も耳を貸さない。

 マーカスの声が、遠ざかっていく。

 傲慢だった伯爵は、こうして終わった。

 次に、リリアナの番。

 彼女は、ずっとうつむいたままだった。

「被告リリアナ」

 裁判長が、呼ぶ。

 リリアナが、顔を上げる。

 その目には、涙が浮かんでいた。

 もう、あの冷たい目ではない。

 ただの、少女の目。

「私は……」

 彼女の声が、震える。

「申し訳ございませんでした」

 初めて聞く、本当の感情。

「私は、間違っていました」

「マーカス伯爵に唆されて」

「でも……それは言い訳です」

 涙が、頬を伝う。

「私が、選んだことです」

「全て、私の罪です」

 法廷が、静まる。

 リリアナの謝罪。

 初めて見る、本当の彼女。

 私は、立ち上がった。

「裁判長」

 全員の視線が、私に集まる。

「何か?」

「リリアナに、更生の機会を与えてください」

 貴族たちが、ざわつく。

「聖女様、しかし……」

「彼女は魔女ですぞ!」

「お聞きください」

 私は、続ける。

「彼女は、もう魔女の力を失いました」

「ただの少女です」

「罪を犯したことは事実です」

「でも……彼女にも、未来を」

 リリアナが、驚いた顔で私を見る。

 涙が、溢れている。

「聖女様……」

 裁判長が、考え込む。

 長い沈黙の後──

「では、判決を修正する」

 彼が、宣言する。

「リリアナは、王都の修道院にて贖罪の日々を送ること」

「期間は、十年」

「その後、改めて判断する」

 リリアナが、深く頭を下げる。

「ありがとうございます」

 彼女が、私を見る。

「聖女様……本当に」

 その目には、感謝が宿っていた。

 衛兵が、彼女を連行する。

 優しく。

 もう、罪人としてではなく。

 裁判が、終わる。

 私は、席に戻る。

 アルセインが、私の手を取った。

「優しいですね」

 彼が、微笑む。

「あなたらしい」

 私も、微笑み返す。

 その時──

 エドウィンが、近づいてきた。

 彼は、複雑な表情をしている。

「聖女殿」

「殿下」

 エドウィンが、深く頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

 その声は、真摯だった。

「操られていたとはいえ」

「私は、あなたに冷たく当たりました」

「リリアナの言葉を信じて」

「第二王子派閥を敵視しました」

 彼が、顔を上げる。

 その目には、後悔がある。

「許してください」

 私は、首を横に振る。

「気にしていません」

「これからは、協力しましょう」

 エドウィンが、驚いた顔をする。

 そして──

 笑顔になった。

「ありがとうございます」

 彼が、アルセインに向き直る。

「公爵」

「殿下」

 二人が、向き合う。

 長年、敵対していた二人。

 エドウィンが、手を差し伸べる。

「これからは、共に王国のために」

 アルセインが、その手を取る。

「ええ」

 握手。

 第一王子派閥と第二王子派閥。

 ついに、和解した。

 ヴィクターも、笑顔で近づいてくる。

「これで、王国に真の平和が訪れる」

 彼が、宣言する。

 貴族たちが、拍手する。

 法廷に、温かい空気が流れる。

 全てが、決着した。

 平和が、戻ってきた。

 私は、アルセインの手を握った。

 彼も、握り返してくれる。

 全てを乗り越えた。

 推しを救えた。

 破滅フラグを、完全に回避できた。

 ---

 裁判の後。

 私とアルセインは、王宮の庭を歩いていた。

 手を繋いで。

 夕日が、美しい。

 オレンジ色の空。

 花々が、風に揺れる。

「ノエリア」

 アルセインが、立ち止まる。

「はい」

「私は……死ぬはずだったのですね」

 彼が、静かに言う。

 私は、頷く。

「三日後に」

「でも、もう大丈夫です」

 彼の手を、両手で包む。

「運命は変わりました」

 アルセインが、微笑む。

「あなたが……全てを犠牲にして」

「犠牲じゃありません」

 私は、首を横に振る。

「私がしたかったことです」

 アルセインが、私を抱きしめる。

 強く。

 優しく。

「ありがとう」

 彼が、囁く。

「命を救ってくれて」

「そして……愛してくれて」

 私も、彼を抱きしめる。

 温かい。

 安心する。

 推しのそばにいられる。

 それだけで、幸せ。

「これからは」

 アルセインが、私の顔を見る。

「ずっと一緒ですね」

「ええ」

 私は、微笑む。

「ずっと」

 二人で、夕日を見つめる。

 美しい空。

 新しい未来への、始まり。

 全ての戦いが終わった。

 平和が訪れた。

 そして──

 私たちの、新しい物語が始まる。

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