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【第2章】絶望の烙印
エピソード.9
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残り四日。
拓海は毎日、図書館と訓練場を往復した。
朝から晩まで、ダンジョン攻略の情報を集め、美咲とスキルの訓練を重ねる。食事の時間以外、ほとんど休まなかった。
美咲も必死だった。
浄化スキルの範囲を広げ、発動速度を上げ、効果の持続時間を延ばす。毎日少しずつ、確実に成長していた。
「今日は、五メートル四方を浄化できた」
美咲が嬉しそうに報告した。
「いい調子だ」
拓海は頷いた。
「ダンジョン内では、もっと広範囲の浄化が必要になるかもしれない」
「頑張る」
美咲の目には、以前にはなかった強い光があった。
諦めていない。前を向いている。
それが、拓海の支えにもなっていた。
-----
一方、他のクラスメイトたちは着々とパーティを固めていた。
高瀬のパーティは毎日、高難度の訓練をこなしている。模擬戦闘、魔法の連携、回復のタイミング。全てが洗練されていく。
田中のパーティも、それに負けじと訓練していた。
他の四つのパーティも、それぞれに準備を進めている。
六つのパーティ、三十名。
そして、拓海と美咲の二人。
クラスは完全に分断されていた。
-----
残り二日。
拓海は最後の情報収集を終え、戦略を完成させた。
ゴブリンの巣窟の地図を頭に叩き込み、モンスターの配置パターンを分析し、罠の位置を予測する。
そして、最も重要なこと。
戦わずに最深部に到達するルート。
拓海は訓練場で、美咲に説明した。
「ゴブリンは音に敏感だ。だから、物音を立てずに移動する」
地面に棒で簡単な地図を描く。
「入り口から右に進み、第一分岐を左。そこにゴブリンの見張りがいるが、視界の死角を通れば避けられる」
美咲が真剣に聞いている。
「第二分岐は直進。ここに罠があるが、お前の浄化で無効化できるはずだ」
「罠も、浄化できるの?」
「魔法的な罠なら、可能性がある」
拓海は断言した。
「物理的な罠は避ける。俺が分析して、安全なルートを見つける」
「分かった」
美咲が頷いた。
「最深部には、ゴブリンのボスがいる」
拓海の声が低くなった。
「そこが最大の難関だ」
「どうするの?」
「戦わない」
拓海は即答した。
「ボスを倒す必要はない。最深部に到達して、魔力結晶を回収すればいい」
「でも、ボスがいたら……」
「囮を使う」
拓海は静かに言った。
「音や光で注意を逸らし、その隙に結晶を回収する」
「……危険だね」
「ああ」
拓海は頷いた。
「でも、他に方法がない」
美咲は黙っていた。
そして、深呼吸をして顔を上げた。
「やろう。拓海くんを信じる」
「ありがとう」
拓海は小さく笑った。
「絶対に、生きて帰ろう」
-----
残り一日。
その日の夕食時、食堂で高瀬が再び宣言した。
「明日、俺たちは『影の迷宮』に挑戦する」
食堂がざわついた。
影の迷宮。中級ダンジョンの中でも、特に難易度が高いとされている場所だ。
「高瀬、本気かよ……」
「いきなりそんな難しいダンジョンに?」
「俺たちなら余裕だ」
高瀬は不敵に笑った。
「弱いダンジョンで時間を無駄にしたくない」
彼の視線が、一瞬だけ拓海たちに向いた。
「俺たちは、一番最初に攻略する」
その宣言に、クラス全体が緊張した。
帰還できるのは一つのパーティだけ。
高瀬は明確に、一番乗りを狙っている。
「他のパーティも、早く攻略しないとやばいぞ」
誰かが焦ったように呟いた。
「俺たちも明日、挑戦しよう」
「いや、準備が足りない」
「でも、高瀬に先を越されたら……」
不安と焦りが、食堂を満たしていく。
拓海は黙って、その様子を観察していた。
パニックが始まっている。
冷静さを失えば、ミスが増える。死者も出るだろう。
しかし、それを止める術はない。
-----
その夜、拓海は部屋で最終確認をしていた。
持ち物リスト、ルート、緊急時の対応。全てを頭に叩き込む。
ノックの音が聞こえた。
「拓海くん?」
美咲の声だ。
扉を開けると、彼女が不安そうな顔で立っていた。
「どうした?」
「その……眠れなくて」
美咲は俯いた。
「明日のこと考えたら、怖くなっちゃって」
「……入れ」
拓海は部屋に招き入れた。
美咲は椅子に座り、膝を抱えた。
「私、本当に役に立てるかな」
「立てる」
拓海は断言した。
「お前の浄化スキルは、この数日で確実に成長した」
「でも……」
「美咲」
拓海は彼女の前にしゃがみ込んだ。
「お前は諦めなかった。毎日、必死に訓練した」
「それだけで十分だ」
美咲は涙を堪えていた。
「私、クラスのみんなから笑われて……すごく悔しかった」
「掃除係なんて、役立たずだって言われて」
「でも、拓海くんは信じてくれた」
彼女の声が震えた。
「だから、私も頑張れた」
「俺も同じだ」
拓海は静かに言った。
「お前がいたから、俺も諦めずに済んだ」
美咲が顔を上げた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「ありがとう、拓海くん」
「礼はいらない」
拓海は立ち上がった。
「明日、二人で生き延びよう」
「……うん」
美咲は涙を拭い、小さく笑った。
「絶対に、帰ってこよう」
彼女は部屋を出て行った。
拓海は窓辺に立ち、夜空を見上げた。
見知らぬ星々が、静かに輝いている。
明日。
初めてのダンジョン。
生きるか、死ぬか。
拓海は深く息を吐いた。
「俺たちは、生き延びる」
その言葉を、自分に言い聞かせた。
-----
翌朝。
ダンジョン挑戦の日。
食堂は異様な緊張感に包まれていた。
高瀬のパーティは早々に出発していった。自信に満ちた顔で、仲間たちと共に。
他のパーティも、次々と準備を整えている。
拓海と美咲は、最後に食堂を出た。
簡単な装備だけを身につけ、最低限の荷物だけを持つ。
武器は持っていない。どうせ使えないから。
代わりに、ロープ、松明、水、簡単な食料。
そして、拓海が図書館から借りた小さなメモ帳。
「行こう」
拓海が呼びかけた。
「うん」
美咲が頷いた。
二人は並んで、宿舎を出た。
街の外れ、ゴブリンの巣窟があるという場所へ。
小さな希望を胸に、二人は歩き出した。
拓海は毎日、図書館と訓練場を往復した。
朝から晩まで、ダンジョン攻略の情報を集め、美咲とスキルの訓練を重ねる。食事の時間以外、ほとんど休まなかった。
美咲も必死だった。
浄化スキルの範囲を広げ、発動速度を上げ、効果の持続時間を延ばす。毎日少しずつ、確実に成長していた。
「今日は、五メートル四方を浄化できた」
美咲が嬉しそうに報告した。
「いい調子だ」
拓海は頷いた。
「ダンジョン内では、もっと広範囲の浄化が必要になるかもしれない」
「頑張る」
美咲の目には、以前にはなかった強い光があった。
諦めていない。前を向いている。
それが、拓海の支えにもなっていた。
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一方、他のクラスメイトたちは着々とパーティを固めていた。
高瀬のパーティは毎日、高難度の訓練をこなしている。模擬戦闘、魔法の連携、回復のタイミング。全てが洗練されていく。
田中のパーティも、それに負けじと訓練していた。
他の四つのパーティも、それぞれに準備を進めている。
六つのパーティ、三十名。
そして、拓海と美咲の二人。
クラスは完全に分断されていた。
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残り二日。
拓海は最後の情報収集を終え、戦略を完成させた。
ゴブリンの巣窟の地図を頭に叩き込み、モンスターの配置パターンを分析し、罠の位置を予測する。
そして、最も重要なこと。
戦わずに最深部に到達するルート。
拓海は訓練場で、美咲に説明した。
「ゴブリンは音に敏感だ。だから、物音を立てずに移動する」
地面に棒で簡単な地図を描く。
「入り口から右に進み、第一分岐を左。そこにゴブリンの見張りがいるが、視界の死角を通れば避けられる」
美咲が真剣に聞いている。
「第二分岐は直進。ここに罠があるが、お前の浄化で無効化できるはずだ」
「罠も、浄化できるの?」
「魔法的な罠なら、可能性がある」
拓海は断言した。
「物理的な罠は避ける。俺が分析して、安全なルートを見つける」
「分かった」
美咲が頷いた。
「最深部には、ゴブリンのボスがいる」
拓海の声が低くなった。
「そこが最大の難関だ」
「どうするの?」
「戦わない」
拓海は即答した。
「ボスを倒す必要はない。最深部に到達して、魔力結晶を回収すればいい」
「でも、ボスがいたら……」
「囮を使う」
拓海は静かに言った。
「音や光で注意を逸らし、その隙に結晶を回収する」
「……危険だね」
「ああ」
拓海は頷いた。
「でも、他に方法がない」
美咲は黙っていた。
そして、深呼吸をして顔を上げた。
「やろう。拓海くんを信じる」
「ありがとう」
拓海は小さく笑った。
「絶対に、生きて帰ろう」
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残り一日。
その日の夕食時、食堂で高瀬が再び宣言した。
「明日、俺たちは『影の迷宮』に挑戦する」
食堂がざわついた。
影の迷宮。中級ダンジョンの中でも、特に難易度が高いとされている場所だ。
「高瀬、本気かよ……」
「いきなりそんな難しいダンジョンに?」
「俺たちなら余裕だ」
高瀬は不敵に笑った。
「弱いダンジョンで時間を無駄にしたくない」
彼の視線が、一瞬だけ拓海たちに向いた。
「俺たちは、一番最初に攻略する」
その宣言に、クラス全体が緊張した。
帰還できるのは一つのパーティだけ。
高瀬は明確に、一番乗りを狙っている。
「他のパーティも、早く攻略しないとやばいぞ」
誰かが焦ったように呟いた。
「俺たちも明日、挑戦しよう」
「いや、準備が足りない」
「でも、高瀬に先を越されたら……」
不安と焦りが、食堂を満たしていく。
拓海は黙って、その様子を観察していた。
パニックが始まっている。
冷静さを失えば、ミスが増える。死者も出るだろう。
しかし、それを止める術はない。
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その夜、拓海は部屋で最終確認をしていた。
持ち物リスト、ルート、緊急時の対応。全てを頭に叩き込む。
ノックの音が聞こえた。
「拓海くん?」
美咲の声だ。
扉を開けると、彼女が不安そうな顔で立っていた。
「どうした?」
「その……眠れなくて」
美咲は俯いた。
「明日のこと考えたら、怖くなっちゃって」
「……入れ」
拓海は部屋に招き入れた。
美咲は椅子に座り、膝を抱えた。
「私、本当に役に立てるかな」
「立てる」
拓海は断言した。
「お前の浄化スキルは、この数日で確実に成長した」
「でも……」
「美咲」
拓海は彼女の前にしゃがみ込んだ。
「お前は諦めなかった。毎日、必死に訓練した」
「それだけで十分だ」
美咲は涙を堪えていた。
「私、クラスのみんなから笑われて……すごく悔しかった」
「掃除係なんて、役立たずだって言われて」
「でも、拓海くんは信じてくれた」
彼女の声が震えた。
「だから、私も頑張れた」
「俺も同じだ」
拓海は静かに言った。
「お前がいたから、俺も諦めずに済んだ」
美咲が顔を上げた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「ありがとう、拓海くん」
「礼はいらない」
拓海は立ち上がった。
「明日、二人で生き延びよう」
「……うん」
美咲は涙を拭い、小さく笑った。
「絶対に、帰ってこよう」
彼女は部屋を出て行った。
拓海は窓辺に立ち、夜空を見上げた。
見知らぬ星々が、静かに輝いている。
明日。
初めてのダンジョン。
生きるか、死ぬか。
拓海は深く息を吐いた。
「俺たちは、生き延びる」
その言葉を、自分に言い聞かせた。
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翌朝。
ダンジョン挑戦の日。
食堂は異様な緊張感に包まれていた。
高瀬のパーティは早々に出発していった。自信に満ちた顔で、仲間たちと共に。
他のパーティも、次々と準備を整えている。
拓海と美咲は、最後に食堂を出た。
簡単な装備だけを身につけ、最低限の荷物だけを持つ。
武器は持っていない。どうせ使えないから。
代わりに、ロープ、松明、水、簡単な食料。
そして、拓海が図書館から借りた小さなメモ帳。
「行こう」
拓海が呼びかけた。
「うん」
美咲が頷いた。
二人は並んで、宿舎を出た。
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小さな希望を胸に、二人は歩き出した。
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