職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

チャビューヘ

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【第18章】国境の緊張

エピソード.82

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 世界が統合されて、三日が経った。

 魔王軍領土の辺境。かつて障壁で隔てられていた森の中を、人間国家の偵察隊が進んでいた。

 隊長が手を上げ、部隊を止める。

「ここだ」

 彼は地図を確認した。古い羊皮紙に描かれた境界線。しかし今、その線は意味を失っている。

「この先に、魔王軍の前線基地がある」

 部下の一人が頷く。

「はい。監視を続けます」

 五名の偵察隊。全員が緊張した面持ちだ。

 彼らの任務は、魔王軍の動向を探ること。そして何より、転移者の情報を収集すること。

 隊長が木々の間から、基地を見下ろす位置へ移動した。

 そこに見えたのは、石造りの要塞。魔王軍の旗が風になびいている。

「あれが……」

 部下が双眼鏡を覗き込む。

「訓練場が見えます」

 隊長も双眼鏡を手に取った。

 訓練場では、魔王軍の兵士たちが剣を振るっている。その中に、明らかに異質な集団がいた。

 服装が違う。動きが洗練されていない。しかし、魔法を使っている。

「転移者……」

 隊長が呟く。

 その中の一人、橋本らしき女性が火球を放つ。標的に命中し、炎が上がる。

「やはり……魔王軍は転移者を兵士にしているのか」

 部下が報告する。

「隊長、人数を確認します。一、二、三……約十名、訓練に参加しています」

 隊長が記録を取る。

「転移者の訓練状況、確認。魔法使用可能。戦闘能力、中程度」

 彼は更に観察を続けた。

 訓練を指導しているのは、魔王軍の将校らしき人物。厳しい表情で指示を出している。

 転移者たちは、その指示に従って動いている。

 まるで、兵士のように。

「これは……」

 隊長の胸に、嫌な予感が走る。

「魔王軍は、本気で転移者を戦力にするつもりだ」

 部下が不安そうに言う。

「隊長、このまま観察を続けますか?」

「ああ。もう少し……」

 その時だった。

 訓練場の端で、一人の魔王軍兵士が森の方角を見た。

 隊長と目が合う。

 一瞬の沈黙。

 そして、兵士が叫んだ。

「侵入者だ!」

 隊長が即座に判断する。

「撤退!」

 偵察隊が一斉に走り出す。

 森の中を、全速力で駆け抜ける。

 背後から、魔王軍兵士たちの追跡の声が聞こえる。

「逃がすな!」

「捕らえろ!」

 隊長が部下に叫ぶ。

「分散しろ!ルート3で集合!」

 五名がそれぞれ違う方向へ散っていく。

 追跡の声が遠ざかる。魔王軍の兵士たちは、どの方向を追えばいいか迷っている。

 隊長は木々の間を縫うように走り続けた。

 息が上がる。足が重い。

 しかし、止まれない。

 ようやく追跡の気配が消えた。

 隊長は大きな木の陰に身を隠し、呼吸を整える。

 手が震えている。見つかっていたら、捕まっていた。

 そして、転移者たちと同じ運命を辿っていたかもしれない。

 彼は地図を確認した。

 集合地点まで、あと三キロ。

 慎重に、音を立てないように移動を再開する。

-----

 一時間後。

 集合地点に、五名全員が無事に辿り着いた。

「全員、怪我はないか?」

 隊長が確認する。

「はい、大丈夫です」

「こちらも」

 全員が頷く。

 隊長が安堵の息を吐いた。

「よし。では帰還する」

 彼は報告書を頭の中でまとめながら、人間国家の領土へ向かった。

 魔王軍は、転移者を訓練している。

 戦力として。

 これは、戦争の準備だ。

 間違いない。

 隊長の足取りが速くなる。

 一刻も早く、この情報を上層部に伝えなければ。

-----

 同じ頃。

 魔王軍前線基地。

 基地司令官が、発見された侵入者の報告を受けていた。

「人間国家の偵察隊ですか」

 兵士が頷く。

「はい。五名、確認しました。しかし逃げられました」

 司令官が舌打ちする。

「追跡は?」

「森に逃げ込まれ、見失いました」

 司令官が地図を広げた。

「ここを見られたということは……」

 彼の指が、訓練場を指す。

「転移者の訓練も、見られたな」

「おそらく」

 司令官が拳を握る。

「これは、本部に報告しなければならない」

 彼は魔法通信機を手に取った。

「本部へ。緊急報告」

 通信が繋がる。

「人間国家の偵察隊が、基地に侵入しました。転移者の訓練を視察された可能性があります」

 通信機の向こうから、緊迫した声が返ってくる。

「了解した。すぐに緊急会議を招集する」

 通信が切れる。

 司令官は窓の外を見た。

 遠くに、人間国家の領土が見える。

 かつては障壁で隔てられていた。

 しかし今、その壁はない。

 戦争は、すぐそこまで来ている。

 司令官の胸に、重い予感が広がっていった。
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