職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

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【第18章】国境の緊張

エピソード.85

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 警報は誤報だった。

 鹿の群れが、警報魔法陣に触れただけだった。

 しかし、その夜から基地の緊張は極限まで高まった。

-----

 深夜。

 月が雲に隠れ、闇が基地を包んでいた。

 拓海は仮眠室で目を閉じていたが、眠れない。

 転移者たちも、各自の部屋で不安な夜を過ごしていた。

 その時だった。

 警報が鳴り響いた。

 今度は、本物だ。

「敵襲!敵襲!全員配置につけ!」

 拓海が飛び起きる。

 廊下に出ると、兵士たちが走っていく。

 美咲も部屋から出てきた。

「拓海くん!」

「来たのか……」

 拓海が窓の外を見る。

 森の方角で、何かが動いている。

 松明の光。

 人影。

「田中、中村、橋本たち!」

 拓海が叫ぶ。

 転移者たちが次々と集まってくる。

 全員、恐怖で顔が強張っている。

 グラント司令官が現れた。

「蒼井!敵の規模は?」

 拓海がスキル「情報収集」を発動させる。

 松明の数、足音、金属音。全てを分析する。

「約三十名。小規模部隊です」

「よし」

 グラントが命令を下す。

「第一防衛ラインの罠を発動させろ!」

 兵士が魔法陣を起動させる。

 森の入り口で、光が走った。

 爆発音。

 悲鳴が上がる。

「敵、混乱しています!」

 監視塔から報告が入る。

「しかし、まだ進んでいます!」

 グラントが拓海を見た。

「第二防衛ラインは?」

「森の中に伏兵を配置してあります」

 拓海が地図を指す。

「ここで、敵を足止めします」

「転移者たちは?」

「基地の壁で、魔法支援を」

 拓海が転移者たちを見る。

 橋本が震えている。

 田中が剣を握りしめている。

 中村が呼吸を整えようとしている。

「みんな、壁の上へ!」

 拓海が指示を出す。

 転移者たちが階段を駆け上がる。

-----

 壁の上。

 拓海、美咲、田中、中村、橋本、そして定住派の三名が並ぶ。

 眼下に、森が広がっている。

 松明の光が、こちらに近づいてくる。

 橋本の歯が、カチカチと音を立てた。

「怖い……怖いよ……」

 定住派の仲間が、彼女の手を握る。

「大丈夫。一緒だから」

 しかし、その手も震えている。

 田中が剣を抜いた。

 刀身が、月明かりを反射する。

「田中」

 中村が声をかける。

「準備はいいか?」

「ああ……」

 田中の声が掠れている。

 森から、人影が現れた。

 人間国家の兵士たち。

 鎧を着て、剣を構えている。

 拓海が叫んだ。

「構えろ!」

 転移者たちが、それぞれの武器を構える。

 橋本が杖を握る。手が震えて、杖が落ちそうになる。

「橋本さん!」

 美咲が支える。

「落ち着いて!」

「で、でも……」

 橋本の目から涙が溢れる。

「私……人を……」

「やるしかないの!」

 定住派の仲間が叫ぶ。

「やられる前に!」

 人間の兵士たちが、基地に向かって突撃してくる。

 グラントが命令した。

「魔法、発射!」

 魔王軍の魔法使いたちが、一斉に魔法を放つ。

 火球、氷槍、雷撃。

 兵士たちが倒れていく。

「転移者も続け!」

 拓海が叫ぶ。

 橋本が杖を構える。

 震える手。

 涙で視界が滲む。

「私……私……」

「橋本!」

 田中が叫ぶ。

「今やらなきゃ、俺たちが死ぬ!」

 橋本が目を閉じた。

 そして、魔法を発動させる。

「火球!」

 杖の先から、炎の球が放たれた。

 それは弧を描き、兵士の一人に向かって飛んでいく。

 命中。

 炎が爆ぜる。

 兵士が倒れた。

 動かない。

 橋本の顔が青ざめた。

「あ……あ……」

 杖が手から滑り落ちる。

「私……私、人を……」

 膝から崩れ落ちる。

 仲間が駆け寄る。

「橋本!」

「私……殺したかもしれない……」

 橋本が嘔吐した。

 壁の端で、胃の中のものを全て吐き出す。

-----

 一方、田中は壁を降りていた。

 基地の門が開き、魔王軍の近接戦闘部隊が出撃する。

 田中もその中に混ざっていた。

「田中!何してる!」

 中村が叫ぶ。

 しかし田中は答えない。

 剣を構え、人間の兵士に向かっていく。

 兵士が剣を振り下ろす。

 田中が受ける。

 金属音が響く。

 兵士の顔が、月明かりに照らされた。

 若い。

 田中と同じくらいの年齢だ。

 恐怖に歪んだ表情。

 兵士が叫ぶ。

「く、来るな!」

 剣を振り回す。

 田中が避ける。

 そして、反撃する。

 剣が、兵士の腕を切った。

 血が飛び散る。

 兵士が悲鳴を上げる。

「ぎゃあああ!」

 腕を押さえ、地面に倒れ込む。

 血が、地面を染めていく。

 田中の剣が、血で濡れている。

 彼は、その剣を見つめた。

「俺は……」

 声が震える。

「俺は、同胞を……」

 兵士が苦しそうに呻いている。

 その顔を見て、田中の胸が締め付けられた。

「田中!ぼんやりするな!」

 中村が駆けつける。

「後ろ!」

 別の兵士が、田中の背後から剣を振り下ろそうとしていた。

 中村が間に入り、剣で受ける。

「しっかりしろ!」

 中村が田中を突き飛ばす。

 田中が地面に転がった。

 呼吸が荒い。

 手が震えている。

 剣を、握りしめることができない。

-----

 拓海は壁の上から、戦況を分析していた。

 スキル「傾向分析」が、全ての情報を処理する。

 敵の数、配置、動き。

 味方の戦力、損耗率。

 全てが数値化されていく。

「敵、退却し始めています!」

 監視塔から報告が入る。

 人間の兵士たちが、森へ逃げ込んでいく。

 松明の光が、遠ざかっていく。

 グラントが拳を上げた。

「勝ったぞ!」

 魔王軍の兵士たちが歓声を上げる。

「転移者たちも良く戦った!」

 しかし、転移者たちは喜んでいない。

 橋本は、まだ吐き続けている。

 田中は、地面に座り込んだまま動かない。

 中村が、彼の肩を支えている。

 美咲が、拓海の隣で震えていた。

 拓海が彼女の手を握る。

「終わった……」

 美咲が呟く。

「私たち……戦ったんだね……」

 拓海は何も言えなかった。

 ただ、美咲の手を握り返すことしかできない。

 遠くで、兵士の呻き声が聞こえる。

 傷ついた者たちの声。

 人間の、魔族の。

 区別なく、苦しみの声が夜に響く。

 拓海が呟いた。

「これが……戦争か……」

 胸が、痛い。

 息が、苦しい。

 俺は今、何をした?

 人間を傷つけるための戦略を立てた。

 そして、仲間たちに人を傷つけさせた。

 拓海の拳が、震えていた。
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