職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

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【第18章】国境の緊張

エピソード.84

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 翌朝。

 魔王軍本部の中庭に、魔法の馬車が用意されていた。

 黒い外装に、魔王軍の紋章。四頭の魔獣が馬車を引いている。

 拓海は転移者居住区から、メンバーを連れてきた。

 美咲、田中、中村。そして橋本を含む定住派の三名。

 合計七名。

 橋本が馬車を見上げる。

「これに乗るの……?」

 彼女の声が震えている。

「ああ」

 拓海が頷く。

「前線基地まで、半日かかる」

 田中が荷物を馬車に積む。その動きが、どこかぎこちない。

 中村が田中に声をかけた。

「大丈夫か?」

「ああ……」

 田中が答えるが、表情は硬い。

 拓海が全員を見渡した。

「乗れ。出発する」

 一人ずつ、馬車に乗り込んでいく。

 最後に拓海が乗り込もうとした時、リリアが駆けてきた。

「拓海」

 彼女が小さな袋を手渡す。

「回復薬。もしもの時のために」

「ありがとう」

 拓海が受け取る。

 リリアが拓海の手を握った。

「必ず、無事に戻ってきて」

「ああ」

 拓海が馬車に乗り込む。

 御者が手綱を握り、馬車が動き出した。

-----

 馬車の中は静かだった。

 窓の外を、景色が流れていく。

 かつて見たことのない景色。障壁が解除されて、魔王領と人間領が繋がったことで、新しい風景が広がっている。

 橋本が窓際に座り、外を見つめていた。

「ねえ……蒼井くん」

 彼女が小さな声で言う。

「私たち、本当に戦うの?」

 拓海が答える。

「防衛だけだ。攻撃はしない」

「でも……」

 橋本の目に涙が浮かぶ。

「人を傷つけるかもしれないんでしょ?」

 拓海は何も言えなかった。

 美咲が橋本の隣に座った。

「大丈夫。拓海くんが守ってくれるから」

「でも……」

 橋本が両手で顔を覆う。

「怖い……」

 定住派の仲間が、彼女の肩を抱く。

「私たちも怖い。でも、一緒だから」

 田中は窓の外を見ていた。

 遠くに、人間の村が見える。

 煙突から煙が上がっている。平和な光景だ。

 あそこに、俺たちの故郷がある。

 守りたい人たちがいる。

 なのに、俺は今……

 田中が拳を握った。

 中村が彼の様子に気づく。

「田中……」

「何でもない」

 田中が短く答える。

 しかしその声には、力がなかった。

-----

 正午を過ぎた頃。

 馬車が森を抜け、開けた場所に出た。

 そこに、前線基地が見えた。

 石造りの要塞。高い壁。監視塔。

 まるで、戦争のための砦だ。

 馬車が基地の門に到着する。

 兵士たちが敬礼した。

「幹部殿、お待ちしておりました」

 拓海が馬車を降りる。

 転移者たちも、次々と降りていく。

 橋本が基地を見上げた。

「大きい……」

 彼女の声が小さい。

 基地の門が開き、一人の男が現れた。

 魔王軍の制服。肩章には、司令官の印。

 彼が拓海に歩み寄る。

「よく来てくれた」

 司令官が手を差し出す。

「君が噂の蒼井拓海か」

 拓海が握手を交わす。

「はい」

「私はグラント。この基地の司令官だ」

 グラントが転移者たちを見る。

「彼らが、転移者か」

「はい。防衛戦略の立案と、実戦訓練のために連れてきました」

「頼もしい」

 グラントが基地を指す。

「中へ。案内する」

-----

 基地の中は、想像以上に広かった。

 兵舎、武器庫、訓練場、食堂。全てが軍事施設として機能している。

 グラントが拓海を執務室へ案内した。

「ここが作戦室だ」

 部屋の中央に、大きな地図が広げられている。

 周辺の地形、森、川、村。全てが詳細に描かれている。

 拓海が地図に近づく。

「人間国家がいつ攻めてくるか、わからん」

 グラントが地図の一点を指す。

「最も可能性が高いのは、この森からの侵入だ」

 拓海がスキル「情報収集」を発動させた。

 地図の情報が、頭の中に流れ込んでくる。

 地形、距離、視界、遮蔽物。

 全てが数値化されていく。

「ここに罠を」

 拓海が地図の上に印をつける。

「ここに魔法陣を。監視塔は、ここ」

 グラントが目を見開いた。

「素晴らしい。よく考えられている」

「敵の侵入ルートを三つに絞ります」

 拓海が続ける。

「それぞれに対応した防衛ラインを構築する」

「具体的には?」

「まず第一防衛ライン。森の入り口に警報魔法陣を設置」

 拓海が説明を続ける。

「第二防衛ライン。森の中に罠と伏兵を配置」

「第三防衛ラインは?」

「基地の壁です。ここで最終防衛」

 グラントが何度も頷く。

「見事だ。さすがだ」

 彼が拓海の肩を叩く。

「君がいれば、この基地は安泰だ」

 拓海は何も答えられなかった。

 胸の奥が、締め付けられる。

 俺は今、何をしている?

 人間を殺すための戦略を、立てている。

 故郷の人たちを。

 拓海の手が、わずかに震えた。

-----

 夕方。

 拓海は基地の壁の上に立っていた。

 遠くに、人間国家の領土が見える。

 美咲が隣に立った。

「拓海くん……」

「ああ」

 拓海が答える。

「大丈夫か?」

「わからない」

 拓海が正直に答える。

「俺は今、人間を殺す準備をしてる」

 美咲が拓海の手を握る。

「でも、選択肢はなかったよ」

「わかってる」

 拓海が拳を握る。

「でも、それでも……」

 言葉が続かない。

 風が吹いた。

 遠くから、何かの音が聞こえる。

 拓海が耳を澄ます。

「何の音?」

 美咲も聞き耳を立てる。

 それは、馬の蹄の音だった。

 複数。

 そして、金属音。

 拓海の顔色が変わる。

「まさか……もう?」

 監視塔から、警報が鳴り響いた。

「敵襲!敵襲!」

 拓海と美咲が、同時に走り出す。

 戦いが、始まろうとしていた。
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