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【第20章】冬の終わり
エピソード.92
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雪が降っていた。
魔王軍本部の訓練場では、転移者たちが黙々と剣を振っている。魔法陣を描き、的に向けて火球を放つ。誰も笑っていない。真剣な表情で、ただ訓練をこなすだけ。
田中が剣を構え、木製の人形に打ち込む。
ガン、ガン、ガン。
単調な音が響く。
中村が横で魔法を唱えている。
「集え、氷の刃よ……」
氷の槍が空中に現れ、的に突き刺さる。以前より精度が上がっている。訓練の成果だ。
しかし中村の表情に喜びはない。
定住派の女性たちも、離れた場所で魔法の訓練をしている。一人が火球を放ち、もう一人が防御障壁を展開する。実戦を想定した連携訓練。
「もう一回」
「うん」
短い言葉だけを交わし、何度も繰り返す。
拓海はその光景を、訓練場の隅から眺めていた。
幹部用の黒い外套を羽織り、腕を組んで立っている。
美咲が隣に立つ。
「拓海くん……みんな、変わっちゃったね」
拓海が小さく頷く。
「ああ。あの戦闘から、もう1ヶ月か」
前線基地での小競り合い。
人間国家の兵士と戦い、初めて人を傷つけた日。
あれから転移者たちは、誰も笑わなくなった。
美咲が続ける。
「橋本さんたちは……どうしてるかな」
脱出してから1ヶ月。
何の連絡もない。
生きているのか。
死んでいるのか。
誰も分からない。
拓海が呟く。
「分からない。でも、信じるしかない」
その時、田中が剣の訓練を止めて、拓海の方を見た。疲れた表情だ。汗が顔を伝っている。
「拓海……」
田中が近づいてくる。
「何か進展はあったのか?故郷と戦わない道」
拓海が首を振る。
「まだだ。機密書庫で資料を探してるけど……」
言葉を切る。
実際のところ、道は見つかっていない。
魔王軍は3月末に侵攻を開始する。
それを止める方法も、回避する方法も、見つかっていない。
田中が拳を握る。
「そうか……」
落胆の色が濃い。
中村も近づいてきて、小声で言った。
「拓海、俺たち……また戦うことになるのかな」
拓海が答えられずにいると、訓練場の入口から魔王軍の伝令兵が駆け込んできた。
「緊急召集!幹部の皆様、至急本部会議室へ!」
拓海の表情が引き締まる。
「分かった。すぐ行く」
美咲が不安そうに見上げる。
「拓海くん……」
「大丈夫。すぐ戻る」
そう言って、拓海は駆け出した。
-----
会議室には、既にゼノス、バルトス、セレスティア、グレイスが集まっていた。
拓海が最後に入室し、扉が閉まる。
ゼノスが立ち上がり、地図を広げた。
「本日、人間国家の偵察隊が再び我が領土に侵入した。前回より規模が大きい」
バルトスが眉をひそめる。
「また挑発か」
セレスティアが冷たく言う。
「挑発ではなく、偵察です。彼らは本格的な侵攻の準備をしている」
グレイスが地図を指す。
「この動きから見て、人間国家は我々の侵攻を予測している可能性が高い」
ゼノスが拓海を見た。
「蒼井拓海。お前の見解は?」
拓海が地図を見つめる。
偵察隊の侵入ルート、回数、規模。
全てがパターンを示している。
スキル「傾向分析」が自動的に働く。
「……人間国家は、春に我々が動くと読んでいます。だから偵察を強化している」
ゼノスが頷く。
「その通りだ。では、我々はどうする?」
拓海が一呼吸置く。
「予定通り、3月末に侵攻を開始すべきです。相手が準備しているなら、それを上回る戦力で」
言いながら、拓海の胸が痛む。
これは故郷を攻める作戦だ。
でも、断れば今の立場を失う。
美咲も、リリアも、仲間たちも危険にさらされる。
だから言うしかない。
ゼノスが満足げに笑った。
「良い答えだ。では、次回の会議で詳細な侵攻計画を提出してもらう」
拓海が頷く。
「分かりました」
会議が終わり、拓海は一人廊下を歩いていた。
窓の外では、雪が降り続けている。
冬の終わりが近づいている。
春が来れば、戦争が始まる。
拓海が窓に手をつく。
「俺は……何をしてるんだ」
小さく呟いた言葉は、誰にも届かない。
ただ雪だけが、静かに降り続けていた。
魔王軍本部の訓練場では、転移者たちが黙々と剣を振っている。魔法陣を描き、的に向けて火球を放つ。誰も笑っていない。真剣な表情で、ただ訓練をこなすだけ。
田中が剣を構え、木製の人形に打ち込む。
ガン、ガン、ガン。
単調な音が響く。
中村が横で魔法を唱えている。
「集え、氷の刃よ……」
氷の槍が空中に現れ、的に突き刺さる。以前より精度が上がっている。訓練の成果だ。
しかし中村の表情に喜びはない。
定住派の女性たちも、離れた場所で魔法の訓練をしている。一人が火球を放ち、もう一人が防御障壁を展開する。実戦を想定した連携訓練。
「もう一回」
「うん」
短い言葉だけを交わし、何度も繰り返す。
拓海はその光景を、訓練場の隅から眺めていた。
幹部用の黒い外套を羽織り、腕を組んで立っている。
美咲が隣に立つ。
「拓海くん……みんな、変わっちゃったね」
拓海が小さく頷く。
「ああ。あの戦闘から、もう1ヶ月か」
前線基地での小競り合い。
人間国家の兵士と戦い、初めて人を傷つけた日。
あれから転移者たちは、誰も笑わなくなった。
美咲が続ける。
「橋本さんたちは……どうしてるかな」
脱出してから1ヶ月。
何の連絡もない。
生きているのか。
死んでいるのか。
誰も分からない。
拓海が呟く。
「分からない。でも、信じるしかない」
その時、田中が剣の訓練を止めて、拓海の方を見た。疲れた表情だ。汗が顔を伝っている。
「拓海……」
田中が近づいてくる。
「何か進展はあったのか?故郷と戦わない道」
拓海が首を振る。
「まだだ。機密書庫で資料を探してるけど……」
言葉を切る。
実際のところ、道は見つかっていない。
魔王軍は3月末に侵攻を開始する。
それを止める方法も、回避する方法も、見つかっていない。
田中が拳を握る。
「そうか……」
落胆の色が濃い。
中村も近づいてきて、小声で言った。
「拓海、俺たち……また戦うことになるのかな」
拓海が答えられずにいると、訓練場の入口から魔王軍の伝令兵が駆け込んできた。
「緊急召集!幹部の皆様、至急本部会議室へ!」
拓海の表情が引き締まる。
「分かった。すぐ行く」
美咲が不安そうに見上げる。
「拓海くん……」
「大丈夫。すぐ戻る」
そう言って、拓海は駆け出した。
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会議室には、既にゼノス、バルトス、セレスティア、グレイスが集まっていた。
拓海が最後に入室し、扉が閉まる。
ゼノスが立ち上がり、地図を広げた。
「本日、人間国家の偵察隊が再び我が領土に侵入した。前回より規模が大きい」
バルトスが眉をひそめる。
「また挑発か」
セレスティアが冷たく言う。
「挑発ではなく、偵察です。彼らは本格的な侵攻の準備をしている」
グレイスが地図を指す。
「この動きから見て、人間国家は我々の侵攻を予測している可能性が高い」
ゼノスが拓海を見た。
「蒼井拓海。お前の見解は?」
拓海が地図を見つめる。
偵察隊の侵入ルート、回数、規模。
全てがパターンを示している。
スキル「傾向分析」が自動的に働く。
「……人間国家は、春に我々が動くと読んでいます。だから偵察を強化している」
ゼノスが頷く。
「その通りだ。では、我々はどうする?」
拓海が一呼吸置く。
「予定通り、3月末に侵攻を開始すべきです。相手が準備しているなら、それを上回る戦力で」
言いながら、拓海の胸が痛む。
これは故郷を攻める作戦だ。
でも、断れば今の立場を失う。
美咲も、リリアも、仲間たちも危険にさらされる。
だから言うしかない。
ゼノスが満足げに笑った。
「良い答えだ。では、次回の会議で詳細な侵攻計画を提出してもらう」
拓海が頷く。
「分かりました」
会議が終わり、拓海は一人廊下を歩いていた。
窓の外では、雪が降り続けている。
冬の終わりが近づいている。
春が来れば、戦争が始まる。
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