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縁という言葉

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 昼過ぎ、ちひろがやってきた。

「ひなたさん、見てください」

 スマホを突き出してきた。

「フォロワー、500人超えました」

「え、そんなに」

「週末の参拝者が投稿してくれたみたいで。口コミで広がってます」

 ちひろは嬉しそうに画面をスクロールしている。

「『温かい神社』ってタグまでできてるんですよ」

 温かい。参拝者が感じる温かさ。それは、朔さんの存在そのものだ。

「あと、気になるコメントがあって」

「何?」

「『前に来たことがある気がする』って人がいて。でも、初めて来たはずだって」

 私は黙った。朔さんも、同じことを言っていた。読んだことがある気がする。知っている気がする。

「不思議ですよね」

「うん」

 不思議。そういう言葉で片付けられない何かが、この神社には渦巻いている。

 夕方、大銀杏の下で朔さんと話した。

「500人か」

「はい」

「俺、前よりはっきりしてるだろ」

 確かに、朔さんの姿は以前より鮮明だった。光輪の色も、深みが増している。最初に会ったときは、透けて向こうが見えた。今は、ほとんど見えない。

「はい。前より、ずっと」

「力が出てきてる。それは、お前のおかげだ」

 私は首を振った。

「私じゃないです。参拝者の人たちが」

「お前が投稿してるからだろ」

 朔さんは私を見た。

「お前の文章が、人を呼んでる」

 返す言葉がなかった。

「だから」

 朔さんは続けた。

「俺は確かめたいんだ」

 光輪が、静かに白く光っている。

「俺とお前の縁が、いつから始まってたのか」

 縁。

 朔さんの口から、その言葉が出た。

 神様が使う言葉を、朔さんが自分のものにしている。

「縁、ですか」

「ああ」

 朔さんは大銀杏を見上げた。

「俺がお前のブログを読んでたなら、俺たちは生きてる頃から繋がってたってことだ」

「はい」

「一方通行じゃなかったってことだ」

 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 一方通行。

 私はずっと、そう思っていた。私が朔さんを見ていただけ。私が朔さんを追いかけていただけ。

 でも、もし朔さんが私の文章を読んでいたなら。

「お前の言葉が、俺に届いてたかもしれない」

 朔さんの声は、静かだった。

「覚えてねえけど、体が覚えてる。お前の文章を読むと落ち着く。初めてのはずなのに」

 私は何も言えなかった。

「だから、確かめたい」

 朔さんは私を見た。

「ブログ、見せてくれるか」

 昨日と同じ質問。でも、昨日より切実に聞こえた。

 私は息を吸った。

「考えてました」

「ああ」

「五年分、全部書いてあります。朔さんのこと」

「知ってる」

「恥ずかしいことも、重いことも」

「それでいい」

 朔さんの光輪が、穏やかに光っている。

「俺は、お前の『重い』を見たいんだ」

 その言葉に、喉の奥が詰まった。
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