推しが神様になりまして

チャビューヘ

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五年分の言葉

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 大銀杏の葉が、風に揺れていた。

 朔さんの言葉が、頭の中で繰り返されている。

 俺は、お前の「重い」を見たいんだ。

 五年間。

 私は朔さんのことを書き続けた。

 ライブの感想。新曲の考察。雑誌のインタビューへの感想。朔さんの笑顔がどれだけ好きか。朔さんのダンスがどれだけ綺麗か。朔さんの声がどれだけ心地いいか。

 誰にも見せるつもりはなかった。

 自分のために書いていた。

 溢れる感情を、どこかに置いておくために。

「お前」

 朔さんの声が聞こえた。

「無理しなくていい」

「無理じゃないです」

「顔、強張ってるぞ」

 そうかもしれない。

 でも、逃げたくなかった。

「朔さん」

「ん」

「私、見せます」

 言葉が、勝手に出た。

「明日、持ってきます」

 朔さんの光輪が、静かに白く輝いた。

「ありがとう」

 その声が、どこか柔らかかった。

「一つ、聞いていいですか」

「何だ」

「朔さんは、怖くないんですか」

「怖い?」

「私のブログを読んで、引くかもしれないですよ」

 朔さんは少し笑った。

「引かねえよ」

「どうして」

「お前の文章、もう読んでるから」

 SNSの投稿文のことだ。

「あれで、お前がどういう奴かわかった」

「どういう奴ですか」

「感情を閉じ込めてる奴」

 その言葉に、胸がざわついた。

「でも、閉じ込めきれてない。行間から滲み出てる」

「それは」

「俺と同じだ」

 朔さんは私を見た。

「俺も、感情を閉じ込めるタイプだった。アイドルだったから、余計に」

「はい」

「だから、お前の文章が落ち着くのかもな」

 光輪が、淡い夕焼け色を帯びている。

「同じ種類の奴が書いた文章だから」

 その言葉の意味を、私は考えた。

 同じ種類。

 感情を閉じ込めて、一人で抱え込むタイプ。

 朔さんも、そうだったのか。

 夜、布団の中で考えた。

 明日、ブログを見せる。

 五年分の感情を、朔さんに見せる。

 怖い。

 でも、見せたい。

 朔さんが「確かめたい」と言った。俺とお前の縁が、いつから始まってたのか。

 私も、知りたい。

 朔さんが私のブログを読んでいたなら、私たちは生きている頃から繋がっていたことになる。

 一方通行だと思っていた。私が朔さんを見ていただけだと思っていた。

 でも、もし朔さんが私の文章を読んでいたなら。私の言葉が、朔さんに届いていたなら。

 それは、ただのファンと推しの関係じゃない。

 何か、もっと別の何かだ。

 夏が、もうすぐそこに来ている。

 窓の外で、虫の声が聞こえる。

 明日、私は五年分の言葉を、朔さんに渡す。

 それが、どういう意味を持つのか。

 考えるだけで、胸の奥がざわついた。

 でも、逃げない。

 朔さんが知りたいと言っている。俺とお前の縁が、いつから始まってたのか。

 私も、知りたいから。
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