推しが神様になりまして

チャビューヘ

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星を継ぐもの

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 カフェ「木漏れ日」は、朝の光に包まれていた。

 カウンターに一颯さんがいた。

「いらっしゃい。珍しいね、一人?」

「聞きたいことがあって」

 窓際の席に座った。朔さんが座っていたという、この席に。

「前に話してくれた、銀髪の常連さんのこと」

「ああ、あの人」

「読んでた本のこと、覚えてますか」

「青い表紙の、分厚いやつ」

 一颯さんが、腕を組んだ。

「表紙に、星って文字が見えた気がする。金色で」

 星。金色の文字。

「あと、人の名前みたいなのが下にあった。外国人の。長い名前」

 それだけあれば、探せる。

「あの人、不思議だったよ」

 一颯さんの目が、少し遠くなった。

「この町が好きだって言ってた。誰も自分を知らないから、楽だって」

 トップアイドルだった朔さんにとって、それがどれだけ貴重だったか。

「また来るかな、って思ってたんだけど」

 私は、何も言えなかった。

「来るといいですね」

 それだけ言うのが、精一杯だった。

 神社に戻って、スマホで検索した。

 青い表紙、星、金色の文字、外国人の名前。

 星を継ぐもの。ジェイムズ・P・ホーガン。

 画像を見る。金色の文字。分厚いハードカバー。

 これだ。

 さつきばあちゃんに確認すると、首を傾げた。

「表紙の色までは覚えてないよ。でも、分厚かったねえ」

「難しそうな本だねえ、って言ったら」

「なんて答えたの」

「難しくないですよ、人類の話ですって」

 人類の話。月面で発見された5万年前の人類の遺体を巡るSF小説。

 本殿裏で、朔さんに報告した。

「星を継ぐもの」

 朔さんが、低い声で繰り返した。

「月面で、5万年前の宇宙服を着た死体が見つかる。調べたら、人類より古かった」

「覚えてるんですね」

「本の内容は覚えてる」

 光輪が、くすんだ色に変わった。

「でも、なんでこの本を読んでたのか、思い出せねえ」

「ゆっくりでいいですよ」

「ああ」

 朔さんは、遠くを見ていた。

「チャーリーって呼ばれてた。5万年前に死んだ奴」

「はい」

「こいつは、5万年誰にも見つからなかった。月面で、一人で」

 その言葉に、何かが重なった。

「俺は、こいつのことを考えながら、別の誰かのことを考えてた」

「誰ですか」

「わかんねえ。でも、その誰かは俺と同じだった」

 光輪が複雑に揺れている。

「孤独を抱えてた。一人で、黙って」

 孤独を抱えて、一人で、黙って。

 なぜか、他人事とは思えなかった。
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