【完結】皇帝との密会映像が、手違いで全世界に流出しました ~「拷問されている」と元婚約者が騒いでいますが、これただの溺愛です~

チャビューヘ

文字の大きさ
18 / 22

日記の中の私は、まだ夢を見ていた

しおりを挟む
【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

-----

【速報】陛下が皇后様の日記読破中らしい件

1:名無しの帝国民
 昨日の続き

2:名無しの帝国民
 日記読んでるんだっけ

3:名無しの帝国民
 そう
 フローレンスから返ってきたやつ

4:名無しの帝国民
 元婚約者のこと書いてあるんだろ

5:名無しの帝国民
 >>4
 普通なら嫉妬案件

6:名無しの帝国民
 でも陛下は「全て受け止める」らしい

7:名無しの帝国民
 器がでかすぎる

8:名無しの帝国民
 氷の皇帝の器、大陸並み

9:名無しの帝国民
 うまいこと言うな

10:名無しの帝国民
 でも正直気になる

11:名無しの帝国民
 何が

12:名無しの帝国民
 皇后様がアルベルトをどう思ってたか

13:名無しの帝国民
 そりゃ婚約者だったんだから好きだったろ

14:名無しの帝国民
 >>13
 だよな

15:名無しの帝国民
 でも今は陛下一筋

16:名無しの帝国民
 結果オーライ

17:名無しの帝国民
 フローレンスの損失、帝国の利益

18:名無しの帝国民
 それな

19:名無しの帝国民
 アルベルトは何を考えていたのか

20:名無しの帝国民
 何も考えてなかったんじゃね

-----

【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 帝国歴四〇三年 冬 第二の月 14日 午前9:00】

-----

 新婚生活7日目。

 陛下は、昨夜から日記を読み続けていたらしい。

 私が執務室に入った時、陛下はソファに座っていた。

 手には、古い日記帳。

 その表情は、複雑だった。

「陛下、お休みになりましたか」

「……少しだけ」

 陛下の目の下に、わずかな隈があった。

「日記を、読んでおられたのですか」

「ああ」

 陛下は、日記を閉じた。

「アルベルトという男が、どれほどの屑だったか。よく分かった」

 その声には、静かな怒りがあった。

「殿下の婚約者時代のことですか」

「うむ」

 陛下は、深く息を吐いた。

「あの女性は、あんな男のために涙を流していた。それを思うと、余は……」

 陛下の手が、日記を強く握りしめた。

「今すぐフローレンスに兵を送りたくなる」

「陛下」

「分かっている。今は皇后が止めている」

 陛下は、苦い笑みを浮かべた。

「だが、いつか必ず。あの男に、報いを受けさせてやる」

-----

【映像ログ018-A 帝国宮殿 皇帝私室 同日 午後2:00】

-----

送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

-----

    (映像開始)

 皇帝私室。

 午後の光が、窓から差し込んでいる。

 ソファには、ジークハルトとティアラが並んで座っている。

 ジークハルトの手には、古い日記帳。

「ティアラ」

「はい」

「この日記、一緒に読んでもいいか」

 ティアラは、少し驚いた表情をした。

「一緒に、ですか」

「ああ。お前の声で聞きたい」

「恥ずかしいですわ」

「構わん」

 ジークハルトは、日記を開いた。

「余が読む。お前が補足しろ」

「……仕方ありませんわね」

 ティアラは、ため息をついた。

 しかし、その口元には微笑みがあった。

-----

【日記朗読 その一 帝国歴三九一年 春】

-----

 ジークハルトが、最初のページを開く。

 そこには、幼い文字で書かれた記述があった。

「読むぞ」

「お手柔らかに」

 ジークハルトが、声に出して読み始めた。

-----

『帝国歴三九一年 春 第一の月 15日

 今日、アルベルト様にお会いしました。

 とても素敵な方でした。

 金色の髪が、太陽みたいにきらきらしていて。

 優しい笑顔で、私に話しかけてくださいました。

 「君が、僕の婚約者になるんだね」

 そう言われた時、私の心臓はどきどきしました。

 いつか、この方と結婚できたら、どんなに幸せでしょう。

 お母様、お父様。

 天国から見ていてくださいね。

 私、幸せになります』

-----

 ジークハルトが、日記から目を上げた。

「……12歳の頃か」

「ええ。婚約が決まった日ですわ」

 ティアラの声は、どこか遠かった。

「両親を亡くして4年。叔父の家で肩身の狭い思いをしていた頃です」

「叔父というのは」

「父の弟ですわ。財産目当てで後見人になりました」

 ティアラは、淡々と語った。

「私が成人するまで、公爵家の財産を管理する権利がありましたから」

「……なるほど」

 ジークハルトの目が、冷たく光った。

「それで、婚約が決まった時は嬉しかったのか」

「ええ。夢のようでしたわ」

 ティアラは、小さく笑った。

「叔父の家から出られる。王太子妃になれる。将来が約束される」

「愛していたのか」

「……今思えば、愛ではなかったかもしれません」

 ティアラは、窓の外を見た。

「希望だったのですわ。私にとって、アルベルト様は唯一の希望でした」

-----

【日記朗読 その二 帝国歴三九三年 夏】

-----

 ジークハルトが、ページをめくった。

『帝国歴三九三年 夏 第四の月 8日

 今日は、アルベルト様のお誕生日でした。

 私、一生懸命刺繍をしたハンカチをプレゼントしました。

 三ヶ月もかかったんです。

 でも、アルベルト様は「ありがとう」とだけ言って、すぐに別の方と話し始めました。

 私のハンカチ、使ってくださるかな。

 きっと使ってくださいますよね。

 だって、私たちは婚約者同士ですもの』

-----

 ジークハルトが、読み終えた。

「……三ヶ月かけた刺繍を、『ありがとう』の一言か」

「ええ。後日、侍女の一人が使っているのを見ましたわ」

「何」

「捨てられたのでしょうね。侍女が拾ったのだと思います」

 ティアラの声は、穏やかだった。

 しかし、ジークハルトの表情は穏やかではなかった。

「……余なら、その刺繍を額に入れて飾る」

「陛下」

「三ヶ月だぞ。お前が三ヶ月かけて作った物を」

 ジークハルトの声が、低くなった。

「捨てるなど、あり得ん」

「陛下は、お優しいですわね」

「優しくない。当たり前のことを言っているだけだ」

 ジークハルトは、次のページをめくった。

-----

【日記朗読 その三 帝国歴三九五年 秋】

-----

『帝国歴三九五年 秋 第三の月 22日

 今日、アルベルト様から花をいただきました。

 初めてのプレゼントです。

 嬉しくて、嬉しくて、泣いてしまいました。

 ……でも、お花は少し枯れていました。

 きっと、忙しくて買いに行く時間がなかったのですね。

 それでも、私のことを思ってくださった。

 それだけで、十分です。

 私、もっと頑張ります。

 アルベルト様に、ふさわしい令嬢になります』

-----

 ジークハルトが、日記を閉じた。

「枯れた花だと」

「ええ。おそらく、誰かへの贈り物の余り物だったのでしょう」

「それを、喜んでいたのか」

「当時の私には、それが精一杯の愛情だと思えたのですわ」

 ティアラは、静かに微笑んだ。

「今思えば、馬鹿みたいですわね」

「馬鹿ではない」

 ジークハルトが、ティアラの手を取った。

「お前は、愛されることを知らなかっただけだ」

「陛下」

「余が教えてやる。愛するとは、どういうことか」

 ジークハルトの目が、真剣だった。

「枯れた花など、絶対に贈らん。お前には、いつも最も美しい花を贈る」

「……ふふ」

 ティアラは、口元を綻ばせた。

「陛下は、本当に変な方ですわ」

「変で結構だ」

    (映像終了)

-----

【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

-----

【悲報】アルベルトのプレゼントセンスが絶望的すぎる件

21:名無しの帝国民
 聞いてくれ

22:名無しの帝国民
 どうした

23:名無しの帝国民
 アルベルトが皇后様に贈ったプレゼント

24:名無しの帝国民
 何贈ったんだ

25:名無しの帝国民
 枯れた花

26:名無しの帝国民
 >>25
 は?

27:名無しの帝国民
 枯れた花だと

28:名無しの帝国民
 喧嘩売ってるだろ

29:名無しの帝国民
 それを皇后様は喜んでたらしい

30:名無しの帝国民
 >>29
 泣ける

31:名無しの帝国民
 愛されることを知らなかったんだな

32:名無しの帝国民
 陛下は「枯れた花など絶対贈らん」って言ったらしい

33:名無しの帝国民
 >>32
 当たり前だろ

34:名無しの帝国民
 でもその当たり前ができなかったのがアルベルト

35:名無しの帝国民
 屑の見本市かよ

36:名無しの帝国民
 三ヶ月かけた刺繍も捨てられたらしいぞ

37:名無しの帝国民
 >>36
 マジ?

38:名無しの帝国民
 侍女が拾って使ってたって

39:名無しの帝国民
 三ヶ月の刺繍って気が遠くなる

40:名無しの帝国民
 >>39
 毎日2時間やっても90時間だぞ

41:名無しの帝国民
 それを侍女が拾える場所に捨てるって

42:名無しの帝国民
 人の心どころか人の形してないだろ

43:名無しの帝国民
 アルベルト、人の心ないのか

44:名無しの帝国民
 ないんだろ

-----

【陛下の怒りが静かすぎて怖い件】

45:名無しの帝国民
 陛下、日記読んで怒ってるらしい

46:名無しの帝国民
 そりゃ怒るだろ

47:名無しの帝国民
 「今すぐフローレンスに兵を送りたい」って

48:名無しの帝国民
 >>47
 やめて

49:名無しの帝国民
 皇后様が止めてるらしい

50:名無しの帝国民
 皇后様がいなかったら戦争だな

51:名無しの帝国民
 平和の守護者、皇后様

52:名無しの帝国民
 でも陛下の気持ちも分かる

53:名無しの帝国民
 愛する人が酷い目に遭ってたの知ったらな

54:名無しの帝国民
 普通キレる

-----

【映像ログ018-B 帝国宮殿 皇帝私室 同日 午後4:00】

-----

送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

-----

    (映像開始)

 皇帝私室。

 日記の朗読は、続いていた。

-----

【日記朗読 その四 帝国歴三九六年 春】

-----

『帝国歴三九六年 春 第二の月 3日

 今日、不思議な方にお会いしました。

 銀色の髪をした、天使のような方です。

 マリア様とおっしゃるそうです。

 アルベルト様が、とても嬉しそうに紹介してくださいました。

 「この方は、僕の大切な友人なんだ」

 そうおっしゃっていました。

 マリア様は、とても優しい方でした。

 私にも、にこにこと笑いかけてくださいました。

 でも、なぜでしょう。

 アルベルト様がマリア様を見る目が、私を見る時と違う気がします。

 ……気のせいですよね。

 きっと、気のせいです』

-----

 ジークハルトが、読み終えた。

「マリアが現れた時か」

「ええ。17歳の春でしたわ」

 ティアラの声は、淡々としていた。

「最初は、本当に天使のような方だと思いましたわ」

「そうか」

「アルベルト様の『大切な友人』。私は、それを信じていました」

「信じていた」

「ええ。半年間は」

 ティアラは、小さくため息をついた。

「半年後、二人が密会しているところを目撃しましたの」

「……」

「それでも、私は信じようとしましたわ」

 ティアラは、窓の外を見た。

「何かの間違いだと。アルベルト様が、私を裏切るはずがないと」

「馬鹿な男だ」

 ジークハルトが、低く呟いた。

「お前のような女性を裏切るなど」

「当時の私は、自分に価値がないと思っていましたから」

「価値がない?」

「ええ。両親に先立たれ、叔父に疎まれ、婚約者にも愛されない」

 ティアラは、淡々と語った。

「私に価値があるなら、なぜ誰も私を愛してくれないのだろうと」

「ティアラ」

「でも、違いましたわね」

 ティアラは、ジークハルトを見た。

「価値がなかったのは、私ではなく、彼らの方でしたわ」

-----

【日記朗読 その五 帝国歴三九九年 秋】

-----

『帝国歴三九九年 秋 第三の月 10日

 今日、舞踏会がありました。

 私は、いつものように壁際に立っていました。

 誰も私と話さない。

 誰も私を見ない。

 アルベルト様は、マリア様と踊っていました。

 私は、もう疲れました。

 もう、何もかもが嫌になりました。

 バルコニーに出たら、雪が降っていました。

 秋なのに、雪。

 おかしな天気。

 でも、綺麗でした。

 このまま、雪に溶けてしまえたら。

 そう思いました。

 ……でも、変な方が現れたのです。

 「退屈そうだな」

 そう言って、私に話しかけてきたのです。

 氷の皇帝という方でした。

 怖い方だと聞いていました。

 でも、全然怖くありませんでした。

 変な方でした。

 でも、少しだけ、救われた気がします。

 あの方と踊った時、音楽が聞こえました。

 本当は、音楽なんてなかったのに。

 不思議です。

 あの方は、私に言いました。

 「帝国で待っている」

 どういう意味なのでしょう。

 でも、なぜか、その言葉が胸に残っています。

 今夜は、雪の夢を見そうです』

-----

 ジークハルトが、日記を閉じた。

 しばらく、無言だった。

「……余のことを、『変な方』と書いていたのか」

「ええ。当時は、本当にそう思いましたもの」

 ティアラは、小さく笑った。

「怖いと噂の皇帝が、壁際の令嬢に声をかける。普通ではありませんわ」

「普通ではなかったか」

「ええ。でも、その『普通ではない』が、私を救いましたわ」

 ティアラは、ジークハルトの手を取った。

「あの夜、陛下に会わなければ、私は……」

「言うな」

 ジークハルトが、ティアラを抱きしめた。

「過去の話だ。今は、余がいる」

「はい」

「お前は、もう一人ではない」

「はい、陛下」

 ティアラは、ジークハルトの胸に顔を埋めた。

「私も、陛下に会えてよかったですわ」

    (映像終了)

-----

【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 同日 午後6:00】

-----

 日記の朗読が終わった。

 私は、その場にいなかった。

 しかし、後に殿下からお話を伺った。

 殿下は、こう仰った。

「あの日記には、私の愚かさが詰まっていますわ」

「愚か、ですか」

「ええ。愛されていないのに、愛していると信じ続けた」

 殿下は、穏やかに微笑んでいた。

「でも、もう後悔はしていませんわ」

「なぜでしょう」

「あの経験があったから、今の私がいるのですもの」

 殿下の翠色の瞳が、窓の外を見た。

「愛されないことの痛みを知っているから、愛されることの幸せが分かる」

「なるほど」

「陛下が私を愛してくださる。その重みが、分かるのですわ」

 殿下は、微笑んだ。

「だから、過去の私に感謝していますの。辛かったけれど、無駄ではなかった」

-----

 私は、殿下のお言葉を聞いて、胸が熱くなった。

 過去を恨むのではなく、感謝する。

 それは、とても難しいことだ。

 しかし、殿下はそれをやってのけた。

 陛下も、殿下の過去を受け入れた。

 「お前の過去が、今のお前を作ったのだから」

 そう仰ったらしい。

 二人の愛は、本物だ。

 過去の傷を、互いに癒やし合っている。

 私は、その証人だ。

-----

【極秘ログ──送信者不明】

-----

記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第二の月 14日 深夜11:59
ファイル名:[解析不能]
送信元:[解析不能]
送信先:[解析不能]

-----

    (音声のみ)

 蝋燭が揺れる音。
 羽ペンを置く気配。

「……日記、全て読み終わりましたわ」

 女の声。
 穏やかな響き。

「ああ」

 低い男の声。

「お前の過去が、よく分かった」

 衣擦れの音。
 寄り添う気配。

「アルベルトという男が、いかに屑だったか」

「陛下」

「そして、お前がいかに強かったか」

 男の声が、優しくなった。

「あんな環境で、お前はよく耐えた」

「耐えた、というより」

 女の声が、少し冷たくなった。

「諦めていただけですわ」

「諦めていた」

「ええ。私には価値がない。愛される資格がない」

 女が、小さく笑う気配。

「そう思い込んでいましたの。陛下に会うまでは」

「ティアラ」

「陛下が、私を見てくださった」

 女の声が、震えていた。

「誰も見ようとしなかった私を。陛下だけが、見てくださった」

 抱きしめる気配。

「だから、余も救われた」

 男の声が、低く響いた。

「お前が、余を見てくれたから」

「陛下」

「余も、誰にも見られなかった」

 沈黙。

 蝋燭が揺れる音。

「皇帝という鎧の中に閉じ込められて、誰も余の本当の姿を見ようとしなかった」

「陛下」

「だが、お前は見てくれた」

 男の声が、温かくなった。

「『変な方』と言いながら、余の本当の姿を見てくれた」

 女が、小さく息を漏らす気配。

「変な方は、今でも変わりませんわね」

「うむ。お前の前では、余はいつも変な男だ」

「ふふ。それが、好きですわ」

 衣擦れの音。
 口づけの気配。

 しばらくの沈黙。

「……ティアラ」

「はい」

「新しい日記を買え」

「新しい日記、ですか」

「ああ。過去の日記は、もう閉じていい」

 男の声が、穏やかになった。

「これからは、余が毎日を幸せで埋めてやる」

「陛下」

「お前の新しい日記が、幸せで溢れるようにしてやる」

 女の息が、震える気配。

「……ありがとうございます」

「礼など要らん。余がやりたいだけだ」

 沈黙。

 蝋燭が揺れる音。

 女が、ふと笑う気配。

「陛下」

「何だ」

「私、決めましたわ」

「何をだ」

「過去の私に、感謝することに」

 女の声が、はっきりと響いた。

「あの辛い日々があったから、今の幸せが分かる」

「ティアラ」

「愛されない痛みを知っているから、愛される喜びが分かりますの」

 男が、息を呑む気配。

「お前は」

「だから、もう過去を恨みませんわ」

 女が、穏やかに言った。

「……でも」

 女の声が、ほんの少しだけ、冷たくなった。

「私を傷つけた者たちのことは、忘れませんの」

「ティアラ」

「復讐はしませんわ。もう、する必要がなくなりましたもの」

 女が、喉の奥で笑う気配。

「彼らは自滅しました。私は何もしていませんのに」

「……」

「不思議ですわね。因果応報とは、よく言ったものです」

「ティアラ」

「ふふ。陛下、私は優しい妻ですわよ?」

「ああ。世界で一番優しい」

 男の声が、揺るぎなかった。

「そして、世界で一番可愛い策士だ」

「陛下、それは褒め言葉ですの?」

「最高の褒め言葉だ」

 女が、笑う気配。

「おやすみなさいませ、私の陛下」

「ああ。おやすみ、余の妻」

    (ログ終了)
    (このファイルは自動消去されました)

-----

【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

-----

【まとめ】皇后様の過去が壮絶すぎる件

55:名無しの帝国民
 日記の内容まとめ

56:名無しの帝国民
 頼む

57:名無しの帝国民
 8歳で両親死亡
 叔父に引き取られるも冷遇
 12歳でアルベルトと婚約
 17歳でマリア登場
 そこから地獄

58:名無しの帝国民
 重い

59:名無しの帝国民
 アルベルトがしたこと
 ・三ヶ月かけた刺繍を捨てる
 ・枯れた花をプレゼント
 ・目の前でマリアと踊る

60:名無しの帝国民
 屑オブ屑

61:名無しの帝国民
 こんなやつが王太子とか終わってる

62:名無しの帝国民
 フローレンスの民も可哀想だな

63:名無しの帝国民
 でも皇后様は今幸せ

64:名無しの帝国民
 それが救い

-----

【陛下「余が毎日を幸せで埋めてやる」】

65:名無しの帝国民
 陛下のプロポーズ再び

66:名無しの帝国民
 いつもプロポーズしてるな

67:名無しの帝国民
 毎日が更新日

68:名無しの帝国民
 「新しい日記を買え。余が幸せで埋めてやる」

69:名無しの帝国民
 >>68
 何それ

70:名無しの帝国民
 かっこよすぎだろ

71:名無しの帝国民
 過去の日記は閉じて、新しい幸せを刻む

72:名無しの帝国民
 詩人かよ

73:名無しの帝国民
 でも行動が伴ってるから説得力ある

74:名無しの帝国民
 それな

75:名無しの帝国民
 俺もこういうこと言えるようになりたい

76:名無しの帝国民
 >>75
 まず相手を見つけろ

77:名無しの帝国民
 >>76
 正論やめろ

78:名無しの帝国民
 とにかく両陛下は幸せ

79:名無しの帝国民
 帝国万歳

80:名無しの帝国民
 両陛下万歳

-----

【次回予告】

新しい日記の最初のページ。

「今日から、新しい日記を始めますわ」
「余が、最初の一行を書いてやろう」
「陛下の字は読めませんわ」
「……練習する」

幸せな日々が、続いていく。

「殿下、お客様です」
「お客様?」
「闇国の使節が、お目通りを願っております」

しかし、世界は二人を放っておかない。

「ルシア。久しぶりですわね」
「お久しぶりでございます、皇后殿下」

かつてティアラに「壊された」協力者。

その彼女が、助けを求めてきた。

「闇国が、危機に瀕しております」
「危機、ですか」
「はい。皇后殿下にしか、お願いできないことがあるのです」

新たな陰謀の気配。

そして、ティアラの決断。

第19話「新しい日記と、古い影」

-----

【おまけ:帝国宮殿 皇后のサロン 翌朝】

-----

 朝日が、窓から差し込んでいる。

 ティアラは、新しい日記帳を手にしていた。

 革表紙の、上質な品。

 ジークハルトが昨夜、侍女に命じて用意させたものだ。

「陛下」

「何だ」

「最初の一行、何を書きましょうか」

「好きに書け」

「好きに」

 ティアラは、羽ペンを手に取った。

 しばらく考えて、書き始めた。

『帝国歴四〇三年 冬 第二の月 15日

 新しい日記を始めます。

 今日、夫が「毎日を幸せで埋めてやる」と言ってくれました。

 私も、そうありたいと思います。

 過去は、もう終わりました。

 これからは、未来だけを見つめます。

 陛下と一緒に。

 ずっと、一緒に』

-----

 ティアラが書き終えた。

 ジークハルトが、そっと覗き込む。

「……いい文章だ」

「本当ですか」

「ああ。だが、一つ足りない」

「足りない?」

 ジークハルトが、羽ペンを取った。

 そして、ティアラの文章の下に、何かを書き加えた。

『追記:余も、ずっと一緒にいる。何があっても』

 ティアラは、それを見て、目を丸くした。

「陛下、日記に追記するなんて」

「余の日記でもある」

「違いますわ」

「夫婦の日記だ。文句あるか」

 ティアラは、しばらく黙っていた。

 そして、くすりと笑った。

「……ありませんわ」

「よし」

 ジークハルトは、満足げに頷いた。

「明日も書け。余も追記する」

「毎日追記するおつもりですか」

「当然だ」

 ティアラは、ため息をついた。

 しかし、その口元には、幸せそうな笑みがあった。

「変な方」

「お前に言われたくはない」

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 新しい日記の最初のページ。

 それは、二人の幸せで溢れていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

王太子に求婚された公爵令嬢は、嫉妬した義姉の手先に襲われ顔を焼かれる

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『目には目を歯には歯を』 プランケット公爵家の令嬢ユルシュルは王太子から求婚された。公爵だった父を亡くし、王妹だった母がゴーエル男爵を配偶者に迎えて女公爵になった事で、プランケット公爵家の家中はとても混乱していた。家中を纏め公爵家を守るためには、自分の恋心を抑え込んで王太子の求婚を受けるしかなかった。だが求婚された王宮での舞踏会から公爵邸に戻ろうとしたユルシュル、徒党を組んで襲うモノ達が現れた。

処理中です...