【完結】皇帝との密会映像が、手違いで全世界に流出しました ~「拷問されている」と元婚約者が騒いでいますが、これただの溺愛です~

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舞踏会の夜は、記録されていなかった

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【速報】皇后様の過去が気になりすぎて眠れない

1:名無しの帝国民
 昨日の映像ログ見た

2:名無しの帝国民
 日記返却のやつな

3:名無しの帝国民
 皇后様「最初は信じていた」って言ってたよな

4:名無しの帝国民
 >>3
 アルベルトのことだろ

5:名無しの帝国民
 そりゃそうだ
 婚約者だったんだから

6:名無しの帝国民
 でも陛下との出会いの方が気になる

7:名無しの帝国民
 「あの舞踏会の夜」ってやつ

8:名無しの帝国民
 どんな出会いだったんだろうな

9:名無しの帝国民
 ロマンチックだったに決まってる

10:名無しの帝国民
 >>9
 陛下だぞ

11:名無しの帝国民
 「退屈そうだな」って声かけたらしい

12:名無しの帝国民
 >>11
 それナンパか?

13:名無しの帝国民
 陛下のナンパ想像できん

14:名無しの帝国民
 でも皇后様はそれで救われたって言ってた

15:名無しの帝国民
 どういう状況だったんだ

16:名無しの帝国民
 記録残ってないのかな

17:名無しの帝国民
 フローレンスの舞踏会だろ
 帝国の記録には残ってないんじゃね

18:名無しの帝国民
 つまり真相は闇の中

19:名無しの帝国民
 でも二人は覚えてる

20:名無しの帝国民
 それで十分だろ

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 帝国歴四〇三年 冬 第二の月 13日 午前10:00】

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 新婚生活6日目。

 陛下は、今日も膝枕から動かない。

 しかし、その表情がいつもと違った。

 どこか、真剣だった。

「ハインリヒ」

「はい」

「昨夜、皇后から話を聞いた」

「話、ですか」

「うむ。フローレンスにいた頃の話だ」

 私は、姿勢を正した。

「殿下の過去について、でございますか」

「ああ」

 陛下は、天井を見上げた。

「あの女性は、余が思っていた以上に、辛い日々を過ごしていた」

「……そうでございましたか」

「余は、あの夜のことを覚えている」

 陛下の声が、低くなった。

「フローレンスの舞踏会。余が、あの女性に初めて会った夜のことを」

「舞踏会、ですか」

「ああ」

 陛下は、ゆっくりと目を閉じた。

「あの夜のことは、どこにも記録されていない。フローレンスの公式記録には、余が『早々に退席した』としか残っていないだろう」

「そうなのですか」

「だが、真実は違う」

 陛下の手が、そっと自分の胸に当てられた。

「あの夜、余はあの女性に出会った。そして、一目で心を奪われた」

 私は、息を呑んだ。

「陛下が、一目惚れを」

「そうだ」

 陛下は、静かに頷いた。

「余の人生で、最も大切な夜だった。なのに、記録には何も残っていない」

「それは」

「だから、記録しろ」

 陛下が、私を見た。

「余が話す。お前が記録しろ。あの夜のことを」

 私は、深く頭を下げた。

「畏まりました」

 そして、羽ペンを取った。

 これから語られるのは、公式記録には残されなかった真実。

 二人の出会いの物語だ。

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【回想記録 帝国歴三九九年 秋 フローレンス王国 王宮舞踏会】

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記録者:帝国記録官 ハインリヒ
情報源:皇帝陛下および皇后殿下の証言
注記:本記録は公式文書には含まれない。極秘扱いとする。

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 その夜、フローレンス王宮は華やかな光に包まれていた。

 秋の収穫祭を祝う舞踏会。

 各国から賓客が集い、音楽と笑い声が響いていた。

 しかし、その華やかさの中に、一人の令嬢がいた。

 蜂蜜色の髪。翠色の瞳。

 壁際に立ち、誰とも踊らない。

 ティアラは、孤独だった。

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    (以下、皇后殿下の証言に基づく)

 あの夜のことは、今でも鮮明に覚えていますわ。

 私は、壁際に立っていました。

 誰も私に話しかけない。

 いいえ、正確には、誰も私と話したがらない。

 なぜなら、私は「悪女」だったから。

 アルベルト様の心を奪おうとした、醜い女。

 マリア様を陥れようとした、卑劣な令嬢。

 そう、噂されていましたわ。

 私が何をしたわけでもない。

 ただ、婚約者がいただけ。

 ただ、その婚約者が、別の女性を愛してしまっただけ。

 それだけのことで、私は「悪女」になりましたわ。

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 舞踏会の中央では、アルベルト様がマリア様と踊っていた。

 二人は、本当に美しかった。

 金色の髪のアルベルトと、銀色の髪の天使。

 まるで、絵画から抜け出したような二人。

 周囲は、二人を祝福していましたわ。

「お似合いですわね」

「あの方こそ、アルベルト様の運命の相手ですわ」

「婚約者の令嬢は、どこにいるのかしら」

「ほら、あそこ。壁際で一人で立っていますわよ」

「みじめですわね」

「自業自得ですわ」

 声は、私に聞こえていました。

 わざと聞こえるように言っている。

 それが、分かっていましたわ。

 でも、何も言えなかった。

 言い返す気力も、残っていなかった。

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 私は、バルコニーに出ましたわ。

 外は、雪が降っていました。

 秋なのに、雪。

 おかしな天気でしたわ。

 後で聞いた話では、その年は異常気象だったとか。

 でも、あの時の私には、どうでもいいことでした。

 私は、バルコニーの手すりに手をかけた。

 下を見た。

 遠い。

 でも、飛び降りれば、楽になれる。

 そう、思いましたわ。

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    (以下、皇帝陛下の証言に基づく)

「余は、外交のためにフローレンスを訪れていた」

 陛下は、低い声で語り始めた。

「くだらん夜会だと思っていた。形式的な挨拶を済ませれば、さっさと帰るつもりだった」

「しかし」

「ああ。バルコニーに立つ、一人の女性を見つけた」

 陛下の目が、遠くを見た。

「雪の中、薄いドレスで立っていた。凍えるような寒さの中で。周囲には誰もいなかった」

「それが、皇后殿下で」

「ああ」

 陛下は、深く息を吸った。

「最初、余は何をしているのか分からなかった。だが、彼女の目を見て、理解した」

「目を」

「死のうとしていた」

 私は、息を呑んだ。

「あの女性は、あの夜、死のうとしていたのだ」

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    (以下、皇后殿下の証言に基づく)

 手すりに手をかけた時、背後から声がしましたわ。

「退屈そうだな」

 低い声。

 振り返ると、銀髪の男性が立っていました。

 切れ長の瞳。冷たい表情。

 でも、その目は、私を見ていました。

「退屈、ですか」

 私は、笑いましたわ。

 自分でも、おかしな笑い方だったと思います。

「ええ、退屈ですわね。とても」

「そうか」

 男性は、私の隣に立ちました。

「余も退屈だ。くだらん夜会だ」

「……陛下」

 私は、ようやく気づきましたわ。

 この方が誰なのか。

 氷の皇帝。

 ヴァルトシュタイン帝国の若き支配者。

 冷酷で、慈悲がなく、笑わない。

 そう、噂されている方でしたわ。

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「なぜ、一人で立っている」

 陛下は、そう尋ねましたわ。

「踊らないのか」

「誰も、私と踊りたがりませんので」

「なぜだ」

「私は、悪女ですから」

 私は、また笑いました。

 自分でも、何を言っているのか分からなかった。

 でも、なぜか、この方には正直に話せた。

「婚約者に捨てられた、哀れな悪女ですの。誰も近づきたがりませんわ」

「そうか」

 陛下は、私の顔をじっと見ました。

「余には、悪女には見えんが」

「お世辞は結構ですわ」

「世辞ではない」

 陛下の声が、少し強くなりました。

「余は、世辞など言わん」

「では、何に見えますの」

「疲れている女に見える」

 私は、言葉を失いました。

「誰にも理解されず、誰にも味方されず。一人で戦い続けて、疲れ果てている」

 陛下の目が、私を見つめていました。

「違うか」

「……どうして」

 声が、震えていましたわ。

「どうして、そんなことが分かるのですか」

「分かる」

 陛下は、落ち着いた声で言いました。

「余も、同じだからだ」

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    (以下、皇帝陛下の証言に基づく)

「余は、孤独だった」

 陛下は、ゆっくりと語った。

「皇帝という立場は、余を孤独にした。誰もが余を恐れ、誰もが余に媚びる。余の本当の姿を見ようとする者は、誰もいなかった」

「陛下」

「だから、あの女性が分かった」

 陛下の目が、どこか懐かしげに細められた。

「あの女性も、同じだった。周囲から孤立し、誰にも理解されず。一人で全てを抱え込んでいた」

「なるほど」

「余は、あの瞬間に思った」

 陛下が、私を見た。

「この女性を、余の元に連れていきたい、と」

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    (以下、皇后殿下の証言に基づく)

 陛下は、私に手を差し出しましたわ。

「踊れ」

「え」

「余と踊れ。退屈しのぎだ」

 私は、驚きました。

「でも、私と踊れば、陛下の評判が」

「余の評判は、余が決める」

 陛下の声は、揺るぎなかった。

「他人の噂など、どうでもいい。余がお前と踊りたいと思った。それだけだ」

 私は、しばらく黙っていました。

 そして、ゆっくりと、陛下の手を取りましたわ。

「変な方」

「何」

「変な方ですわ。私を『悪女』と呼ばないなんて」

「悪女かどうかは、余が判断する」

 陛下は、私の手を握りました。

 冷たい手。

 でも、どこか温かかった。

「そして、余の目には、お前は美しい女性にしか見えん」

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 舞踏会場に戻った時、周囲が凍りつきましたわ。

 比喩ではなく、本当に。

 陛下の足元から、霜が広がっていましたもの。

「あ、あれは」

「氷の皇帝」

「なぜ、あの女と」

 ざわめきが、広がっていました。

 でも、陛下は気にしませんでした。

 私の手を取り、舞踏会場の中央へ。

 音楽が、止まりました。

 誰もが、私たちを見ていました。

 アルベルト様も。

 マリア様も。

 そして、陛下は、音楽もないのに踊り始めました。

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「陛下」

「何だ」

「音楽が、止まっていますわ」

「そうか」

 陛下は、私を見ました。

「では、余が歌おう」

「え」

「嘘だ。歌は苦手だ」

 私は、思わず笑いましたわ。

 本当に、笑ってしまった。

「ふふ。陛下、冗談を言うのですね」

「珍しいか」

「ええ。とても」

「お前だけだ」

 陛下の声が、少し低くなりました。

「お前の前では、なぜか、口が軽くなる」

 私は、何も言えませんでした。

 ただ、陛下と踊っていました。

 音楽もない、静寂の中で。

 でも、あの瞬間、私には音楽が聞こえていましたわ。

 心臓の鼓動が、二人分。

 それが、私たちの音楽でしたわ。

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    (以下、皇帝陛下の証言に基づく)

「あの瞬間、余は確信した」

 陛下は、穏やかに言った。

「この女性を、余の元に連れていく。何があっても」

「しかし、殿下はフローレンスの令嬢でした」

「ああ。だから、待った」

「待った」

「うむ」

 陛下の目が、鋭くなった。

「フローレンスが、あの女性を追い出すのを待った。余が奪うのではなく、あの女性が自由になるのを待った」

「それは」

「余は、あの女性の意思を尊重したかった。無理やり連れ去るのは、余の流儀ではない」

 陛下は、深く息を吸った。

「だから、あの夜、余はこう言った」

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    (以下、皇后殿下の証言に基づく)

 ダンスが終わった時、陛下は私の耳元で囁きましたわ。

「また会おう」

「え」

「帝国で待っている」

 私は、驚きました。

「陛下、それはどういう」

「いつか、お前がフローレンスを出る日が来る」

 陛下の目が、私を見ていました。

「その時は、帝国に来い。余が迎える」

「でも、私は」

「婚約者がいるのだろう。分かっている」

 陛下は、私の手を離しました。

「だが、あの男は、お前を幸せにしないだろう。余には分かる」

「陛下」

「その時が来たら、余のことを思い出せ」

 陛下は、踵を返しました。

 そして、振り返らずに言いました。

「余は、待っている」

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 陛下が去った後、私は立ち尽くしていましたわ。

 何が起きたのか、分からなかった。

 でも、一つだけ分かったことがありました。

 死にたくない。

 生きたい。

 もう一度、あの方に会いたい。

 そう、思いましたわ。

 あの夜、私は死ぬつもりでした。

 でも、陛下に会って、変わりました。

 生きる理由が、できたのですわ。

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【回想記録 終了】

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【極秘ログ──送信者不明】

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記録日時:帝国歴四〇三年 冬 第二の月 13日 深夜11:59
ファイル名:[解析不能]
送信元:[解析不能]
送信先:[解析不能]

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    (音声のみ)

 雪が窓に当たる音。
 かすかな風の気配。

「……あの夜のことを、思い出しますわ」

 女の声。
 静かな、穏やかな響き。

「雪が降ると、いつも」

「うむ」

 低い男の声。

「余も、同じだ」

 衣擦れの音。
 寄り添う気配。

「あの夜、お前に会わなければ」

 男の声が、少し震えていた。

「余の人生は、どれほど空虚だったことか」

「陛下」

「お前は、余を救った」

 抱きしめる気配。

「お前が、死のうとしていたことは、分かっていた」

 女の息が、詰まる気配。

「だから、声をかけた。何としても、止めなければと思った」

「陛下は、気づいていたのですね」

「ああ」

 男の声が、苦しげになった。

「あの時、声をかけなければ、お前は」

「でも、声をかけてくださいましたわ」

 女の声が、温かくなった。

「陛下が、私を救ってくださいました」

「救ったのは、余ではない」

 男の声が、優しくなった。

「お前が、生きることを選んだのだ。余は、きっかけに過ぎん」

 沈黙。

 雪が窓に当たる音。

「ティアラ」

「はい」

「あの夜から、余はずっとお前を待っていた」

 抱きしめる力が、強くなる気配。

「フローレンスがお前を追い出すのを、密かに待っていた。余の元に来てくれる日を、待っていた」

「陛下」

「酷い男だろう。お前が苦しんでいるのを知りながら、ただ待っていたのだ」

「いいえ」

 女の声が、揺れていた。

「陛下は、私の意思を尊重してくださいました。無理やり連れ去るのではなく、私が自由になるのを待ってくださった」

「だが」

「それが、どれほど嬉しかったか」

 涙声。

「陛下は、私を一人の人間として見てくださいました。『悪女』でも『可哀想な令嬢』でもなく。ただ、私として」

 衣擦れの音。
 抱き返す気配。

「だから、私は帝国に来ましたわ。陛下の元へ」

「ティアラ」

「私の選択は、正しかったですわ」

 女の声が、はっきりと響いた。

「陛下の元で、私は幸せですもの」

 沈黙。

 雪が、静かに降り続ける気配。

「ティアラ」

「はい」

「余も、幸せだ」

 抱きしめる気配。

「お前がいてくれて、余は幸せだ」

 深く息を吸う音。

「もう二度と、お前を手放さん」

「はい」

「何があっても、余の傍にいろ」

「ずっと、おりますわ」

 衣擦れの音。
 口づけの気配。

 しばらくの沈黙。

 女が、ふと笑う気配。

「陛下」

「何だ」

「あの夜、私を救ってくださったこと。一生、忘れませんわ」

 沈黙。

「……でも」

 女の声が、ほんの少しだけ、冷たくなった。

「あの夜、私を追い詰めた者たちのことも、忘れませんの」

 男の息が、詰まる気配。

「ティアラ」

「大丈夫ですわ。復讐などいたしません」

 女が、くすりと笑う気配。

「もう、する必要がありませんもの。彼らは自滅しましたわ。私は何もしていませんのに」

「……ティアラ」

「ふふ。陛下は、そんな私でも愛してくださいますか」

「愚問だ」

 男の声が、揺るぎなかった。

「お前の全てを愛すると言った。それは、お前の闘い方も含めてだ」

「陛下」

「余の妻は、余が守る。だが、余の妻が自ら牙を剥くことを、余は止めん」

 女の息が、震える気配。

「……ありがとうございます」

「礼など要らん」

 抱きしめる気配。

「おやすみなさいませ、私の陛下」

「ああ。おやすみ、余の妻」

    (ログ終了)
    (このファイルは自動消去されました)

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 翌日 午前8:00】

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 昨日、陛下から直接お話を伺った。

 舞踏会の夜のことを。

 そして、皇后殿下からも、後に補足をいただいた。

 二人の証言を突き合わせて、私は一つの記録を作成した。

 【回想記録 帝国歴三九九年 秋 フローレンス王国 王宮舞踏会】

 この記録は、公式文書には含まれない。

 極秘扱いとする。

 だが、この記録が存在することに、意味がある。

 二人の出会いは、どこにも記録されていなかった。

 フローレンスの公式記録には、「氷の皇帝は早々に退席した」としか残っていない。

 しかし、真実は違う。

 あの夜、二人は出会った。

 そして、二人の運命は、交わった。

 私は、その真実を記録する。

 記録官として。

 そして、二人の側近として。

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 一つ、気になることがある。

 皇后殿下は、あの夜、「死のうとしていた」と仰った。

 陛下も、それを知っていたと仰った。

 あの華やかな舞踏会の裏で、そのようなことがあったとは。

 殿下が、どれほど追い詰められていたか。

 想像するだけで、胸が痛む。

 しかし、殿下は生きることを選んだ。

 陛下と出会い、生きる理由を見つけた。

 そして今、殿下は帝国皇后として、幸せに暮らしている。

 陛下の愛情を一身に受け、国政を支えている。

 これは、奇跡だ。

 二人が出会ったこと。

 二人が結ばれたこと。

 全てが、奇跡だ。

 私は、その奇跡の証人だ。

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【考察】陛下と皇后様の出会いが気になりすぎる件

21:名無しの帝国民
 続き
 昨日の話題引っ張ってすまん

22:名無しの帝国民
 いや分かる
 気になるよな

23:名無しの帝国民
 フローレンスの舞踏会で出会ったんだっけ

24:名無しの帝国民
 そう
 「退屈そうだな」って声かけたらしい

25:名無しの帝国民
 陛下のナンパ術

26:名無しの帝国民
 >>25
 ナンパって言うな

27:名無しの帝国民
 でも実質ナンパだろ

28:名無しの帝国民
 一目惚れだったらしいぞ

29:名無しの帝国民
 >>28
 マジ?

30:名無しの帝国民
 ソースは

31:名無しの帝国民
 宮廷筋の噂

32:名無しの帝国民
 信憑性あるのか

33:名無しの帝国民
 でも陛下の溺愛っぷり見てると納得する

34:名無しの帝国民
 それな
 あれは一目惚れの男の行動だわ

35:名無しの帝国民
 皇后様も陛下に救われたって言ってたしな

36:名無しの帝国民
 運命の出会いってやつか

37:名無しの帝国民
 尊い

38:名無しの帝国民
 でも皇后様、当時は婚約者いたんだろ

39:名無しの帝国民
 >>38
 アルベルトな

40:名無しの帝国民
 その婚約者に捨てられて帝国に来たんだっけ

41:名無しの帝国民
 陛下が待ってたわけだ

42:名無しの帝国民
 >>41
 待ってた?

43:名無しの帝国民
 「帝国で待っている」って言ったらしい

44:名無しの帝国民
 >>43
 かっこよすぎないか

45:名無しの帝国民
 イケメン無罪

46:名無しの帝国民
 >>45
 それ

47:名無しの帝国民
 でも待ってる間、皇后様は辛かったんだよな

48:名無しの帝国民
 >>47
 それを思うと複雑

49:名無しの帝国民
 でも結果的には幸せになった

50:名無しの帝国民
 結果オーライ

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【陛下、実は待っていた説】

51:名無しの帝国民
 整理するぞ

52:名無しの帝国民
 頼む

53:名無しの帝国民
 1. 舞踏会で出会う
 2. 陛下「帝国で待ってる」
 3. 皇后様、フローレンスで苦労
 4. 追放される
 5. 陛下が迎える
 6. 溺愛生活スタート

54:名無しの帝国民
 分かりやすい

55:名無しの帝国民
 つまり陛下は最初から狙ってた

56:名無しの帝国民
 >>55
 待ってただけだろ

57:名無しの帝国民
 待つのも狙いのうち

58:名無しの帝国民
 陛下の忍耐力すごいな

59:名無しの帝国民
 4年くらい待ったのか?

60:名無しの帝国民
 >>59
 舞踏会から追放まで考えるとそのくらいか

61:名無しの帝国民
 4年間ずっと待ってたとか

62:名無しの帝国民
 一途すぎる

63:名無しの帝国民
 これが氷の皇帝の本性か

64:名無しの帝国民
 表は氷、中は炎

65:名無しの帝国民
 詩人気取りかよ

66:名無しの帝国民
 でも合ってる

67:名無しの帝国民
 皇后様限定で氷が溶けるんだな

68:名無しの帝国民
 なるほど

69:名無しの帝国民
 運命の相手ってやつだ

70:名無しの帝国民
 尊すぎて無理

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【映像ログ017-A 帝国宮殿 皇后のサロン 同日 午後2:00】

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送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 皇后のサロン。

 午後の光が、窓から差し込んでいる。

 ティアラは、ソファに腰掛け、書類に目を通していた。

 その向かいには、リリィが座っている。

「殿下、ご報告がございます」

 リリィが、姿勢を正して言った。

「何でしょう」

「救済事業の調査が進みました。帝都に流れ着いた方々の身元確認です」

「そうですか」

 ティアラは、書類を受け取った。

「現在、47名の身元が判明しております」

「47名」

 ティアラの指が、書類の上を滑った。

「フローレンスからの難民が、これほど多いとは」

「はい。皆、アルベルト様か、マリア様か、あるいは王国そのものに居場所を奪われた方々です」

 リリィの声が、少し震えた。

「私と、同じように」

「……そうですか」

 ティアラは、書類を閉じた。

「リリィさん」

「はい」

「彼らには、新しい居場所を用意してあげてくださいませ」

「はい。必ず」

「そして、彼らの話を、よく聞いてあげてくださいね」

 ティアラは、穏やかに微笑んだ。

「辛い経験を共有することで、心が軽くなることもありますから」

「……はい」

 リリィは、深く頷いた。

「殿下のお言葉、胸に刻みます」

「よろしくお願いいたしますわ」

 ティアラは、立ち上がった。

 窓辺に歩み寄り、外を眺める。

「リリィさん」

「はい」

「彼らの証言は、全て記録しておいてくださいませ」

「記録、ですか」

「ええ」

 ティアラは、振り返らなかった。

「いつか、役に立つかもしれませんから」

 その翠色の瞳が、一瞬だけ、冷たく光った。

 しかし、リリィの位置からは見えなかった。

    (映像終了)

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【映像ログ017-B 帝国宮殿 執務室 同日 午後4:00】

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送信元:帝国記録局 第一班
映像品質:良好
配信範囲:帝国内限定

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    (映像開始)

 執務室。

 ジークハルトは、今日も膝枕をしていた。

 ただし、今日は少し違う。

 彼の手には、一冊の古い日記があった。

「ティアラ」

「はい」

「この日記、読んでもいいか」

 ティアラは、少し驚いた表情をした。

「陛下がお読みになりたいのですか」

「ああ。お前の過去を、もっと知りたい」

「でも、恥ずかしいことばかり書いてありますわ」

「構わん」

 ジークハルトは、日記を胸に抱いた。

「お前の恥ずかしいところも、余は知りたい」

「陛下」

「お前の全てを、余のものにしたいのだ」

 ティアラは、しばらく黙っていた。

 そして、くすりと笑った。

「陛下は、欲張りですわね」

「ああ。お前に関しては、とても欲張りだ」

「では、どうぞ」

 ティアラは、日記を指さした。

「でも、笑わないでくださいませね」

「約束する」

 ジークハルトは、日記を開いた。

 最初のページ。

 幼い文字で、こう書いてあった。

『今日、アルベルト様にお会いしました。とても素敵な方でした。いつか、この方と結婚できたら、どんなに幸せでしょう』

 ジークハルトの眉が、ぴくりと動いた。

「陛下」

 ティアラが、慌てて言った。

「昔の話ですわ。今は、陛下だけを」

「分かっている」

 ジークハルトは、ページをめくった。

「続きを読む」

「でも、陛下」

「お前の過去だ。余が受け止める」

 ジークハルトの声は、穏やかだった。

「たとえ、他の男のことが書いてあっても。それも含めて、お前の全てだ」

 ティアラは、言葉を失った。

 そして、柔らかく微笑んだ。

「陛下は、本当に優しい方ですわ」

「優しくなどない」

「いいえ。とても優しいですわ」

 ティアラは、彼の銀髪を撫でた。

「だから、私は陛下を愛しているのですもの」

 ジークハルトは、日記から目を上げた。

 そして、ティアラを見つめた。

「余も、愛している」

「はい」

「お前の全てを。過去も、現在も、未来も」

 ティアラは、深く頷いた。

「私も、陛下の全てを愛しておりますわ」

 二人は、黙って見つめ合った。

 午後の光が、二人を優しく包んでいた。

    (映像終了)

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【帝国記録官 ハインリヒの私的メモ 同日 午後6:00】

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 今日、不思議なことがあった。

 陛下が、皇后殿下の日記を読み始めたのだ。

 殿下がフローレンスにいた頃の日記。

 アルベルトとの婚約時代のことも書いてあるはずだ。

 普通なら、嫉妬するところだろう。

 しかし、陛下は穏やかだった。

「お前の過去だ。余が受け止める」

 そう仰った。

 陛下の愛情は、本物だ。

 殿下の過去も、現在も、全てを受け入れようとしている。

 二人の絆は、日に日に深まっている。

 私は、その証人だ。

 そして、記録する者だ。

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【ヴァルトシュタイン帝国 城下町 掲示板】

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【速報】陛下、皇后様の元婚約者日記を読破中

71:名無しの帝国民
 陛下が日記読んでるらしい

72:名無しの帝国民
 皇后様の日記?

73:名無しの帝国民
 そう
 フローレンスから返却されたやつ

74:名無しの帝国民
 元婚約者のこと書いてあるんじゃね

75:名無しの帝国民
 >>74
 陛下、嫉妬しないのか

76:名無しの帝国民
 「お前の全てを受け止める」って言ったらしい

77:名無しの帝国民
 >>76
 かっこいい

78:名無しの帝国民
 器がでかすぎる

79:名無しの帝国民
 さすが皇帝

80:名無しの帝国民
 でも内心は嫉妬してるだろ

81:名無しの帝国民
 >>80
 だろうな

82:名無しの帝国民
 でもそれを表に出さないのがすごい

83:名無しの帝国民
 大人の愛だな

84:名無しの帝国民
 俺には無理

85:名無しの帝国民
 >>84
 お前に彼女いないだろ

86:名無しの帝国民
 >>85
 やめろ

87:名無しの帝国民
 とにかく二人は幸せそう

88:名無しの帝国民
 それが一番だ

89:名無しの帝国民
 帝国万歳

90:名無しの帝国民
 両陛下万歳

-----

【次回予告】

日記が明かす、ティアラの過去。

「私は、彼を愛していましたわ。本当に」
「だが、今は違う」
「ええ。今は、陛下だけを愛しておりますわ」

アルベルトとの婚約時代。
マリアの登場。
そして、崩壊の始まり。

「あの頃の私は、何も知りませんでした」
「知らなくてよかったのだ」
「でも、知らなければ、今の私はいませんわ」

過去を紐解くことで、未来が見えてくる。

「余は、お前の過去を憎まない」
「陛下」
「お前の過去が、今のお前を作ったのだから」

第18話「日記の中の私は、まだ夢を見ていた」

-----

【おまけ:帝国宮殿 皇帝の寝室 深夜】

-----

 深夜。

 ジークハルトは、まだ日記を読んでいた。

 傍らで、ティアラは眠っている。

「……」

 ジークハルトは、あるページで手を止めた。

 そこには、こう書いてあった。

『今日、舞踏会がありました。氷の皇帝という方にお会いしました。変な方でした。でも、少しだけ、救われた気がします』

 ジークハルトの目が、柔らかくなった。

「……変な方、か」

 彼は、小さく笑った。

「お前こそ、変な女だ」

 そして、日記を閉じた。

 ティアラの髪を、そっと撫でる。

「余は、お前に会えてよかった」

 囁きは、夜の静寂に溶けていった。

 窓の外では、まだ雪が降っていた。

 あの夜と、同じように。
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