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テイク4「闇に羽搏く者たち」後編
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【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3
マリアの「昔」が気になる。
彼女もノアと同じように、突然スカウトされたと言っていた。
元ヤン。チェーンスモーカー。
聖女とは程遠い経歴。
なぜ彼女が選ばれた?
レオは顔だけで選ばれたのだろう。分かりやすい。
だがマリアとノアは違う。
「理由がある」キャスティングに見える。
バルドー卿は何を考えている?
……HDD、調べてみよう。
今夜、編集作業の合間に。
-----
【映像ログ:未公開(テイク31・ノア復活後)】
(ノアが目を覚ます。頬を叩かれている)
マリア:
「起きろ、新人」
ノア:
「……あれ、僕……」
マリア:
「気絶してた。30分」
ノア:
「さ、30分……」
レオ:
(腕を組んで立っている)
「コウモリ、全滅させてくれたな」
ノア:
「え……全滅……?」
マリア:
「お前の暴発で」
ノア:
「…………」
(顔が青ざめる)
ノア:
「す、すみません……また暴発……」
レオ:
「いや、結果的には助かった」
ノア:
「え?」
レオ:
「俺、一匹も倒せてなかったし」
マリア:
「珍しく素直だな」
レオ:
「事実だし」
(3秒の沈黙)
レオ:
「……まあ、編集で俺が倒したことになるけど」
マリア:
「台無しだよ」
ノア:
(困った笑顔で)
「あの……ありがとうございます、レオさん」
レオ:
「え、何が」
ノア:
「慰めてくれて」
レオ:
「慰めてねえし」
マリア:
「慰めてたろ」
レオ:
「慰めてねえって」
(テイク31・休憩中)
-----
【映像ログ:未公開(テイク38・迷宮最深部付近)】
監督:
「次、迷宮の奥で決めシーンね」
スタッフD:
「監督、この先は撮影禁止区域では……」
監督:
「え? そうなの?」
スタッフD:
「バルドー卿から指示が……」
監督:
「聞いてないけど」
トビー:
「俺は聞きました」
監督:
「なんで俺に伝わってないの」
トビー:
「……伝達ミスですかね」
(5秒の沈黙)
監督:
「じゃあ、ここまでで撮るか」
レオ:
「なんで禁止なの?」
マリア:
「知らね」
ノア:
「あの、奥に何かあるんですか?」
トビー:
「…………」
(カメラをゆっくり下ろす)
トビー:
「さあ。俺も知りません」
(奥の暗闘を一瞬だけ映す)
(古い機材の輪郭が微かに見える)
-----
【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋
(まだ少し顔色が悪い)
ノア:
「また……暴発しました」
(俯く)
ノア:
「でも今回は、結果的に……」
(少し顔を上げる)
ノア:
「レオさんが『助かった』って」
(微かに笑う)
ノア:
「嬉しかったです」
トビー(画面外):
「レオさん、意外と優しいですよね」
ノア:
「はい。……意外と」
(3秒の沈黙)
ノア:
「マリアさんも、『責めても意味ない』って」
(目が潤む)
ノア:
「僕、この現場に来て良かったです」
トビー:
「……そうですか」
ノア:
「はい。……たぶん」
(少し首を傾げる)
ノア:
「でも、なんで僕が選ばれたのかは……まだ分からないです」
トビー:
「…………」
ノア:
「広報局の人、『才能がある』って言ってたけど」
(自分の手を見る)
ノア:
「僕、制御できないだけで、才能なんて……」
トビー:
「制御できないのが、才能なのかもしれませんよ」
ノア:
「……え?」
トビー:
「何でもないです」
-----
【映像ログ:未公開(テイク45・三人の連携)】
監督:
「ラスト、三人の決めポーズね」
レオ:
「任せろ」
マリア:
「また言った」
ノア:
「頑張ります……」
監督:
「アクション!」
(三人が並ぶ)
レオ:
(剣を掲げる)
「闇を祓う光、ここにあり!」
マリア:
(杖を構える)
「聖なる加護よ、我らを守りたまえ」
ノア:
(魔法陣を展開。今度は安定している)
「古の叡智、今ここに顕現せよ」
(三つの光が交差する)
監督:
「いいよいいよ!」
(風が吹く。衣装が翻る)
監督:
「OK!」
スタッフ一同:
(拍手)
レオ:
「……今の、俺の角度どうだった?」
マリア:
「またそれか」
レオ:
「大事だろ」
マリア:
「大事じゃねえよ」
ノア:
(二人を見て、小さく笑う)
「……僕、暴発しませんでした」
マリア:
「おう。よくやった」
レオ:
「まあ、俺の指導のおかげだな」
マリア:
「何も指導してねえだろ」
レオ:
「精神的に」
マリア:
「精神的にも何もしてねえ」
(テイク45・成功)
-----
【映像ログ:未公開(テイク52・レオの要求)】
レオ:
「監督」
監督:
「……なに」
レオ:
「さっきの、もう一回」
監督:
「OKだったけど」
レオ:
「俺の左目の瞳に光が入ってなかった」
監督:
「…………」
マリア:
「瞳の光て」
レオ:
「大事だろ。煌きがないと」
監督:
「……分かった。最後の一回」
レオ:
「さすが監督」
マリア:
「甘やかすなよ……」
ノア:
(小声で)
「瞳の光……」
マリア:
「気にするな。病気だから」
レオ:
「聞こえてるんだけど」
(テイク52・レオの要求で撮り直し)
-----
【映像ログ:未公開(テイク58・突発アクシデント)】
監督:
「よし、これで……」
(天井から何かが落ちてくる)
レオ:
「え?」
(巨大なコウモリが降下)
スタッフE:
「親コウモリ! 焼けてなかった!」
レオ:
「でけえ!」
マリア:
「撃退する!」
(杖を構える)
親コウモリ:
「ギャアアアア!」
(レオの髪に突進)
レオ:
「なんで髪! なんで俺の髪!」
(親コウモリがレオの髪に着地)
レオ:
「降りろ! 降りろ! 巣にするな!」
親コウモリ:
(レオの髪を啄む)
「キュルルル……」
レオ:
「啄むな! 事務所NG! 髪もNG!」
マリア:
「燃やすぞ」
レオ:
「燃やすな! 俺ごと燃える!」
ノア:
「あ、あの、僕が……」
(杖を構える)
ノア:
「眠りの魔法なら……」
マリア:
「暴発するな」
ノア:
「し、しません……たぶん……」
(詠唱)
ノア:
「眠りの霧よ……」
(霧がふわりと広がる)
親コウモリ:
「キュ……ル……」
(眠り落ちる)
レオ:
(頭にコウモリを乗せたまま)
「……寝た?」
マリア:
「寝たな」
ノア:
「……暴発しませんでした」
マリア:
「やればできんじゃん」
レオ:
「で、これどうすんの」
(頭の親コウモリを指差す)
マリア:
「起こさないように降ろすしか」
レオ:
「誰が」
マリア:
「新人、やれ」
ノア:
「え、僕ですか……」
(テイク58・膠着状態)
-----
【映像ログ:未公開(テイク61・最終テイク)】
(ノアがそっと親コウモリを降ろす)
ノア:
「……よいしょ……」
レオ:
(息を止めている)
「…………」
マリア:
(見守っている)
「…………」
(親コウモリがゆっくり地面に置かれる)
ノア:
「……できました」
レオ:
(大きく息を吐く)
「……助かった」
マリア:
「新人、器用だな」
ノア:
「そうですか……?」
レオ:
「俺の髪、大丈夫?」
マリア:
「知らん」
レオ:
「見てくれよ」
マリア:
「鏡見ろ」
レオ:
(魔法鏡を取り出す)
「…………」
(5秒の沈黙)
レオ:
「……禿げてない? ここ」
マリア:
「気のせいだろ」
レオ:
「気のせいじゃない気がする」
ノア:
「あ、あの、毛根活性化の魔法とか……」
レオ:
「あんの?」
ノア:
「座学で習いました」
レオ:
「頼む」
マリア:
「そういうのは普通に嬉しいんだな」
(テイク61・撮影終了)
-----
【トビーの制作日誌】
王暦1547年・春の月・21日・深夜
現在、午前2時。編集室。
Abode Magi-Cut起動中。
エナジーポーション、5本目。
今日の素材:
・コウモリに顔を襲われる勇者
・禁煙でイライラする聖女
・暴発で敵を全滅させる新人(気絶)
・髪に巣を作られかける勇者
・親コウモリを頭に乗せたまま固まる勇者
これを「闘志に満ちた迷宮攻略」に編集する。
作業内容:
・レオの悲鳴:勇ましい雄叫びに変換
・マリアの禁煙イライラ:「凛とした沈黙」に再解釈
・ノアの暴発:「必殺魔法の解放」として壮大にエフェクト追加
・親コウモリ:「迷宮の主」に設定変更、サイズ3倍に拡大
・レオの禿げ疑惑:完全削除
完成映像を確認。
勇者一行は雄々しく、迷宮の闇を蹴散らしていた。
素晴らしい嘘だ。
-----
【トビーの制作日誌】
追記・極秘メモ
編集作業の合間に、HDDを調べた。
「暗黒迷宮」で検索。
古いファイルが見つかった。
ファイル名:「BH_proto_1532.mp4」
作成日:王暦1532年。
15年前の映像だ。
再生しようとした。
暗号化されていた。
バルドー卿のアクセス権限が必要らしい。
『ブレイブ・ハート』が始まったのは今年のはずだ。
なのに15年前に「BH」と名のついたファイルがある。
BHは『ブレイブ・ハート』の略称だ。
偶然か?
……偶然であってほしい。
このファイルの存在は誰にも言わない。
ゴブリンは長生きしたい。
胃薬、残り1袋。
明日、発注しておこう。
-----
【映像ログ:ON AIR(放送用)】
暗黒迷宮・深部(編集後)
ナレーション:
「無数の吸血魔獣が、勇者一行を取り囲む」
(コウモリの群れ。編集で数が3倍に増えている)
レオ:
(剣を構え、不敵に笑う)
「来い。全て斬り伏せてやる」
マリア:
(杖を掲げ、光を放つ)
「聖なる光よ、闇を照らせ」
ノア:
(魔法陣を展開。荘厳なエフェクト)
「古の炎よ、顕現せよ」
(三人の攻撃が炸裂。コウモリが一掃される)
ナレーション:
「圧倒的な力で魔獣を殲滅する三人。しかし、その奥から異形の影が現れる」
(巨大な親コウモリ。編集でサイズ5倍)
ナレーション:
「迷宮の主、闇翼のヴォルガ!」
レオ:
(剣を構え直す)
「大物が来たな」
マリア:
「任せます、レオ様」
ノア:
「援護します」
レオ:
「ああ。見ていろ」
(レオが突進。聖剣が煌く)
ナレーション:
「勇者の一閃が、闇を切り裂く!」
-----
【トビーの制作日誌】
追記・その2
放送後視聴率:25.8%
また記録更新。
街の声:
「迷宮の主、迫力あった」
「三人の連携が素晴らしい」
「ノアくん、頼もしくなってきた」
レオの反応:「俺の剣の軌道、美しくない?」
マリアの反応:「煙草吸いてえ……」
ノアの反応:「暴発が必殺技になってる……」
ノアのファンクラブ会員数:450人に増加。
レオの反応:「俺の半分以下だからセーフ」
俺は今日もスタジオの隅で干し芋齧ってる。
椅子はまだない。
バルドー卿から新たなメモが届いた。
「好調を維持しろ」
「次回は更に派手に」
「予算は据え置き」
史上最高視聴率でも予算は増えない。
どういう経理システムだ。
次回撮影:「魔獣の森・深部」
敵:毒蛾の群れ
レオの心配:「毒で肌荒れない?」
マリアの要求:「火使っていいなら楽」
ノアの不安:「鱗粉吸ったら詠唱できるかな……」
また地獄の撮影が始まる。
胃薬、発注完了。
椅子は諦めた。
-----
【次回予告】
ナレーション:
「毒に侵された森で、勇者一行を待ち受けるのは無数の毒蛾! 三人は瘴気を払い、光を取り戻せるのか!」
レオ(NG映像):
「鱗粉が顔に! 事務所NGGGGG!」
マリア(NG映像):
「燃やしていい? 全部燃やしていい?」
ノア(NG映像):
「くしゃっ……詠唱が……くしゃっ……」
ナレーション:
「次回『鱗粉は涙の味(テイク65)』」
トビー(日誌):
「テイク数、そろそろ100超えそう……」
補足メモ・その3
マリアの「昔」が気になる。
彼女もノアと同じように、突然スカウトされたと言っていた。
元ヤン。チェーンスモーカー。
聖女とは程遠い経歴。
なぜ彼女が選ばれた?
レオは顔だけで選ばれたのだろう。分かりやすい。
だがマリアとノアは違う。
「理由がある」キャスティングに見える。
バルドー卿は何を考えている?
……HDD、調べてみよう。
今夜、編集作業の合間に。
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【映像ログ:未公開(テイク31・ノア復活後)】
(ノアが目を覚ます。頬を叩かれている)
マリア:
「起きろ、新人」
ノア:
「……あれ、僕……」
マリア:
「気絶してた。30分」
ノア:
「さ、30分……」
レオ:
(腕を組んで立っている)
「コウモリ、全滅させてくれたな」
ノア:
「え……全滅……?」
マリア:
「お前の暴発で」
ノア:
「…………」
(顔が青ざめる)
ノア:
「す、すみません……また暴発……」
レオ:
「いや、結果的には助かった」
ノア:
「え?」
レオ:
「俺、一匹も倒せてなかったし」
マリア:
「珍しく素直だな」
レオ:
「事実だし」
(3秒の沈黙)
レオ:
「……まあ、編集で俺が倒したことになるけど」
マリア:
「台無しだよ」
ノア:
(困った笑顔で)
「あの……ありがとうございます、レオさん」
レオ:
「え、何が」
ノア:
「慰めてくれて」
レオ:
「慰めてねえし」
マリア:
「慰めてたろ」
レオ:
「慰めてねえって」
(テイク31・休憩中)
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【映像ログ:未公開(テイク38・迷宮最深部付近)】
監督:
「次、迷宮の奥で決めシーンね」
スタッフD:
「監督、この先は撮影禁止区域では……」
監督:
「え? そうなの?」
スタッフD:
「バルドー卿から指示が……」
監督:
「聞いてないけど」
トビー:
「俺は聞きました」
監督:
「なんで俺に伝わってないの」
トビー:
「……伝達ミスですかね」
(5秒の沈黙)
監督:
「じゃあ、ここまでで撮るか」
レオ:
「なんで禁止なの?」
マリア:
「知らね」
ノア:
「あの、奥に何かあるんですか?」
トビー:
「…………」
(カメラをゆっくり下ろす)
トビー:
「さあ。俺も知りません」
(奥の暗闘を一瞬だけ映す)
(古い機材の輪郭が微かに見える)
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【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋
(まだ少し顔色が悪い)
ノア:
「また……暴発しました」
(俯く)
ノア:
「でも今回は、結果的に……」
(少し顔を上げる)
ノア:
「レオさんが『助かった』って」
(微かに笑う)
ノア:
「嬉しかったです」
トビー(画面外):
「レオさん、意外と優しいですよね」
ノア:
「はい。……意外と」
(3秒の沈黙)
ノア:
「マリアさんも、『責めても意味ない』って」
(目が潤む)
ノア:
「僕、この現場に来て良かったです」
トビー:
「……そうですか」
ノア:
「はい。……たぶん」
(少し首を傾げる)
ノア:
「でも、なんで僕が選ばれたのかは……まだ分からないです」
トビー:
「…………」
ノア:
「広報局の人、『才能がある』って言ってたけど」
(自分の手を見る)
ノア:
「僕、制御できないだけで、才能なんて……」
トビー:
「制御できないのが、才能なのかもしれませんよ」
ノア:
「……え?」
トビー:
「何でもないです」
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【映像ログ:未公開(テイク45・三人の連携)】
監督:
「ラスト、三人の決めポーズね」
レオ:
「任せろ」
マリア:
「また言った」
ノア:
「頑張ります……」
監督:
「アクション!」
(三人が並ぶ)
レオ:
(剣を掲げる)
「闇を祓う光、ここにあり!」
マリア:
(杖を構える)
「聖なる加護よ、我らを守りたまえ」
ノア:
(魔法陣を展開。今度は安定している)
「古の叡智、今ここに顕現せよ」
(三つの光が交差する)
監督:
「いいよいいよ!」
(風が吹く。衣装が翻る)
監督:
「OK!」
スタッフ一同:
(拍手)
レオ:
「……今の、俺の角度どうだった?」
マリア:
「またそれか」
レオ:
「大事だろ」
マリア:
「大事じゃねえよ」
ノア:
(二人を見て、小さく笑う)
「……僕、暴発しませんでした」
マリア:
「おう。よくやった」
レオ:
「まあ、俺の指導のおかげだな」
マリア:
「何も指導してねえだろ」
レオ:
「精神的に」
マリア:
「精神的にも何もしてねえ」
(テイク45・成功)
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【映像ログ:未公開(テイク52・レオの要求)】
レオ:
「監督」
監督:
「……なに」
レオ:
「さっきの、もう一回」
監督:
「OKだったけど」
レオ:
「俺の左目の瞳に光が入ってなかった」
監督:
「…………」
マリア:
「瞳の光て」
レオ:
「大事だろ。煌きがないと」
監督:
「……分かった。最後の一回」
レオ:
「さすが監督」
マリア:
「甘やかすなよ……」
ノア:
(小声で)
「瞳の光……」
マリア:
「気にするな。病気だから」
レオ:
「聞こえてるんだけど」
(テイク52・レオの要求で撮り直し)
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【映像ログ:未公開(テイク58・突発アクシデント)】
監督:
「よし、これで……」
(天井から何かが落ちてくる)
レオ:
「え?」
(巨大なコウモリが降下)
スタッフE:
「親コウモリ! 焼けてなかった!」
レオ:
「でけえ!」
マリア:
「撃退する!」
(杖を構える)
親コウモリ:
「ギャアアアア!」
(レオの髪に突進)
レオ:
「なんで髪! なんで俺の髪!」
(親コウモリがレオの髪に着地)
レオ:
「降りろ! 降りろ! 巣にするな!」
親コウモリ:
(レオの髪を啄む)
「キュルルル……」
レオ:
「啄むな! 事務所NG! 髪もNG!」
マリア:
「燃やすぞ」
レオ:
「燃やすな! 俺ごと燃える!」
ノア:
「あ、あの、僕が……」
(杖を構える)
ノア:
「眠りの魔法なら……」
マリア:
「暴発するな」
ノア:
「し、しません……たぶん……」
(詠唱)
ノア:
「眠りの霧よ……」
(霧がふわりと広がる)
親コウモリ:
「キュ……ル……」
(眠り落ちる)
レオ:
(頭にコウモリを乗せたまま)
「……寝た?」
マリア:
「寝たな」
ノア:
「……暴発しませんでした」
マリア:
「やればできんじゃん」
レオ:
「で、これどうすんの」
(頭の親コウモリを指差す)
マリア:
「起こさないように降ろすしか」
レオ:
「誰が」
マリア:
「新人、やれ」
ノア:
「え、僕ですか……」
(テイク58・膠着状態)
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【映像ログ:未公開(テイク61・最終テイク)】
(ノアがそっと親コウモリを降ろす)
ノア:
「……よいしょ……」
レオ:
(息を止めている)
「…………」
マリア:
(見守っている)
「…………」
(親コウモリがゆっくり地面に置かれる)
ノア:
「……できました」
レオ:
(大きく息を吐く)
「……助かった」
マリア:
「新人、器用だな」
ノア:
「そうですか……?」
レオ:
「俺の髪、大丈夫?」
マリア:
「知らん」
レオ:
「見てくれよ」
マリア:
「鏡見ろ」
レオ:
(魔法鏡を取り出す)
「…………」
(5秒の沈黙)
レオ:
「……禿げてない? ここ」
マリア:
「気のせいだろ」
レオ:
「気のせいじゃない気がする」
ノア:
「あ、あの、毛根活性化の魔法とか……」
レオ:
「あんの?」
ノア:
「座学で習いました」
レオ:
「頼む」
マリア:
「そういうのは普通に嬉しいんだな」
(テイク61・撮影終了)
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【トビーの制作日誌】
王暦1547年・春の月・21日・深夜
現在、午前2時。編集室。
Abode Magi-Cut起動中。
エナジーポーション、5本目。
今日の素材:
・コウモリに顔を襲われる勇者
・禁煙でイライラする聖女
・暴発で敵を全滅させる新人(気絶)
・髪に巣を作られかける勇者
・親コウモリを頭に乗せたまま固まる勇者
これを「闘志に満ちた迷宮攻略」に編集する。
作業内容:
・レオの悲鳴:勇ましい雄叫びに変換
・マリアの禁煙イライラ:「凛とした沈黙」に再解釈
・ノアの暴発:「必殺魔法の解放」として壮大にエフェクト追加
・親コウモリ:「迷宮の主」に設定変更、サイズ3倍に拡大
・レオの禿げ疑惑:完全削除
完成映像を確認。
勇者一行は雄々しく、迷宮の闇を蹴散らしていた。
素晴らしい嘘だ。
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【トビーの制作日誌】
追記・極秘メモ
編集作業の合間に、HDDを調べた。
「暗黒迷宮」で検索。
古いファイルが見つかった。
ファイル名:「BH_proto_1532.mp4」
作成日:王暦1532年。
15年前の映像だ。
再生しようとした。
暗号化されていた。
バルドー卿のアクセス権限が必要らしい。
『ブレイブ・ハート』が始まったのは今年のはずだ。
なのに15年前に「BH」と名のついたファイルがある。
BHは『ブレイブ・ハート』の略称だ。
偶然か?
……偶然であってほしい。
このファイルの存在は誰にも言わない。
ゴブリンは長生きしたい。
胃薬、残り1袋。
明日、発注しておこう。
-----
【映像ログ:ON AIR(放送用)】
暗黒迷宮・深部(編集後)
ナレーション:
「無数の吸血魔獣が、勇者一行を取り囲む」
(コウモリの群れ。編集で数が3倍に増えている)
レオ:
(剣を構え、不敵に笑う)
「来い。全て斬り伏せてやる」
マリア:
(杖を掲げ、光を放つ)
「聖なる光よ、闇を照らせ」
ノア:
(魔法陣を展開。荘厳なエフェクト)
「古の炎よ、顕現せよ」
(三人の攻撃が炸裂。コウモリが一掃される)
ナレーション:
「圧倒的な力で魔獣を殲滅する三人。しかし、その奥から異形の影が現れる」
(巨大な親コウモリ。編集でサイズ5倍)
ナレーション:
「迷宮の主、闇翼のヴォルガ!」
レオ:
(剣を構え直す)
「大物が来たな」
マリア:
「任せます、レオ様」
ノア:
「援護します」
レオ:
「ああ。見ていろ」
(レオが突進。聖剣が煌く)
ナレーション:
「勇者の一閃が、闇を切り裂く!」
-----
【トビーの制作日誌】
追記・その2
放送後視聴率:25.8%
また記録更新。
街の声:
「迷宮の主、迫力あった」
「三人の連携が素晴らしい」
「ノアくん、頼もしくなってきた」
レオの反応:「俺の剣の軌道、美しくない?」
マリアの反応:「煙草吸いてえ……」
ノアの反応:「暴発が必殺技になってる……」
ノアのファンクラブ会員数:450人に増加。
レオの反応:「俺の半分以下だからセーフ」
俺は今日もスタジオの隅で干し芋齧ってる。
椅子はまだない。
バルドー卿から新たなメモが届いた。
「好調を維持しろ」
「次回は更に派手に」
「予算は据え置き」
史上最高視聴率でも予算は増えない。
どういう経理システムだ。
次回撮影:「魔獣の森・深部」
敵:毒蛾の群れ
レオの心配:「毒で肌荒れない?」
マリアの要求:「火使っていいなら楽」
ノアの不安:「鱗粉吸ったら詠唱できるかな……」
また地獄の撮影が始まる。
胃薬、発注完了。
椅子は諦めた。
-----
【次回予告】
ナレーション:
「毒に侵された森で、勇者一行を待ち受けるのは無数の毒蛾! 三人は瘴気を払い、光を取り戻せるのか!」
レオ(NG映像):
「鱗粉が顔に! 事務所NGGGGG!」
マリア(NG映像):
「燃やしていい? 全部燃やしていい?」
ノア(NG映像):
「くしゃっ……詠唱が……くしゃっ……」
ナレーション:
「次回『鱗粉は涙の味(テイク65)』」
トビー(日誌):
「テイク数、そろそろ100超えそう……」
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本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。
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--これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語--
※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています)
※27話あたりからが新規です
※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ)
※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け
※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。
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※他Webサイトにも投稿しております。
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