国民が熱狂する英雄譚は、全て虚構。最高視聴率番組の裏側でゴブリンADが王国の闇を記録し始めた。王国広報局番組『ブレイブ・ハート』ON AIR

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テイク4「闇に羽搏く者たち」後編

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【トビーの制作日誌】
補足メモ・その3

マリアの「昔」が気になる。

彼女もノアと同じように、突然スカウトされたと言っていた。
元ヤン。チェーンスモーカー。
聖女とは程遠い経歴。

なぜ彼女が選ばれた?

レオは顔だけで選ばれたのだろう。分かりやすい。
だがマリアとノアは違う。
「理由がある」キャスティングに見える。

バルドー卿は何を考えている?

……HDD、調べてみよう。
今夜、編集作業の合間あいまに。

-----

【映像ログ:未公開(テイク31・ノア復活後)】

(ノアが目を覚ます。頬を叩かれている)

マリア:
「起きろ、新人」

ノア:
「……あれ、僕……」

マリア:
「気絶してた。30分」

ノア:
「さ、30分……」

レオ:
(腕を組んで立っている)
「コウモリ、全滅させてくれたな」

ノア:
「え……全滅……?」

マリア:
「お前の暴発で」

ノア:
「…………」

(顔が青ざめる)

ノア:
「す、すみません……また暴発……」

レオ:
「いや、結果的には助かった」

ノア:
「え?」

レオ:
「俺、一匹も倒せてなかったし」

マリア:
めずらしく素直だな」

レオ:
「事実だし」

(3秒の沈黙)

レオ:
「……まあ、編集で俺が倒したことになるけど」

マリア:
「台無しだよ」

ノア:
(困った笑顔で)
「あの……ありがとうございます、レオさん」

レオ:
「え、何が」

ノア:
なぐさめてくれて」

レオ:
「慰めてねえし」

マリア:
「慰めてたろ」

レオ:
「慰めてねえって」

(テイク31・休憩中)

-----

【映像ログ:未公開(テイク38・迷宮最深部付近)】

監督:
「次、迷宮の奥でめシーンね」

スタッフD:
「監督、この先は撮影禁止区域きんしくいきでは……」

監督:
「え? そうなの?」

スタッフD:
「バルドー卿から指示が……」

監督:
「聞いてないけど」

トビー:
「俺は聞きました」

監督:
「なんで俺に伝わってないの」

トビー:
「……伝達ミスですかね」

(5秒の沈黙)

監督:
「じゃあ、ここまでで撮るか」

レオ:
「なんで禁止なの?」

マリア:
「知らね」

ノア:
「あの、奥に何かあるんですか?」

トビー:
「…………」

(カメラをゆっくり下ろす)

トビー:
「さあ。俺も知りません」

(奥の暗闘を一瞬だけ映す)

(古い機材の輪郭りんかくが微かに見える)

-----

【個別インタビュー】
魔法使いノア/告白部屋

(まだ少し顔色が悪い)

ノア:
「また……暴発しました」

うつむく)

ノア:
「でも今回は、結果的に……」

(少し顔を上げる)

ノア:
「レオさんが『助かった』って」

(微かに笑う)

ノア:
「嬉しかったです」

トビー(画面外):
「レオさん、意外と優しいですよね」

ノア:
「はい。……意外と」

(3秒の沈黙)

ノア:
「マリアさんも、『責めても意味ない』って」

(目がうるむ)

ノア:
「僕、この現場に来て良かったです」

トビー:
「……そうですか」

ノア:
「はい。……たぶん」

(少し首を傾げる)

ノア:
「でも、なんで僕が選ばれたのかは……まだ分からないです」

トビー:
「…………」

ノア:
「広報局の人、『才能がある』って言ってたけど」

(自分の手を見る)

ノア:
「僕、制御できないだけで、才能なんて……」

トビー:
「制御できないのが、才能なのかもしれませんよ」

ノア:
「……え?」

トビー:
「何でもないです」

-----

【映像ログ:未公開(テイク45・三人の連携)】

監督:
「ラスト、三人のめポーズね」

レオ:
「任せろ」

マリア:
「また言った」

ノア:
「頑張ります……」

監督:
「アクション!」

(三人が並ぶ)

レオ:
(剣を掲げる)
「闇をはらう光、ここにあり!」

マリア:
(杖を構える)
「聖なる加護よ、我らを守りたまえ」

ノア:
(魔法陣を展開。今度は安定している)
「古の叡智えいち、今ここに顕現けんげんせよ」

(三つの光が交差する)

監督:
「いいよいいよ!」

(風が吹く。衣装がひるがえる)

監督:
「OK!」

スタッフ一同:
(拍手)

レオ:
「……今の、俺の角度どうだった?」

マリア:
「またそれか」

レオ:
「大事だろ」

マリア:
「大事じゃねえよ」

ノア:
(二人を見て、小さく笑う)
「……僕、暴発しませんでした」

マリア:
「おう。よくやった」

レオ:
「まあ、俺の指導しどうのおかげだな」

マリア:
「何も指導してねえだろ」

レオ:
「精神的に」

マリア:
「精神的にも何もしてねえ」

(テイク45・成功)

-----

【映像ログ:未公開(テイク52・レオの要求)】

レオ:
「監督」

監督:
「……なに」

レオ:
「さっきの、もう一回」

監督:
「OKだったけど」

レオ:
「俺の左目ひだりめひとみに光が入ってなかった」

監督:
「…………」

マリア:
「瞳の光て」

レオ:
「大事だろ。きらめきがないと」

監督:
「……分かった。最後の一回」

レオ:
「さすが監督」

マリア:
「甘やかすなよ……」

ノア:
(小声で)
「瞳の光……」

マリア:
「気にするな。病気だから」

レオ:
「聞こえてるんだけど」

(テイク52・レオの要求で撮り直し)

-----

【映像ログ:未公開(テイク58・突発とっぱつアクシデント)】

監督:
「よし、これで……」

(天井から何かが落ちてくる)

レオ:
「え?」

(巨大なコウモリが降下)

スタッフE:
おやコウモリ! 焼けてなかった!」

レオ:
「でけえ!」

マリア:
「撃退する!」

(杖を構える)

親コウモリ:
「ギャアアアア!」

(レオの髪に突進)

レオ:
「なんで髪! なんで俺の髪!」

(親コウモリがレオの髪に着地)

レオ:
「降りろ! 降りろ! 巣にするな!」

親コウモリ:
(レオの髪をついばむ)
「キュルルル……」

レオ:
「啄むな! 事務所NG! 髪もNG!」

マリア:
やすぞ」

レオ:
「燃やすな! 俺ごと燃える!」

ノア:
「あ、あの、僕が……」

(杖を構える)

ノア:
「眠りの魔法なら……」

マリア:
「暴発するな」

ノア:
「し、しません……たぶん……」

(詠唱)

ノア:
「眠りのきりよ……」

(霧がふわりと広がる)

親コウモリ:
「キュ……ル……」

(眠り落ちる)

レオ:
(頭にコウモリをせたまま)
「……寝た?」

マリア:
「寝たな」

ノア:
「……暴発しませんでした」

マリア:
「やればできんじゃん」

レオ:
「で、これどうすんの」

(頭の親コウモリを指差す)

マリア:
「起こさないように降ろすしか」

レオ:
「誰が」

マリア:
「新人、やれ」

ノア:
「え、僕ですか……」

(テイク58・膠着こうちゃく状態)

-----

【映像ログ:未公開(テイク61・最終テイク)】

(ノアがそっと親コウモリを降ろす)

ノア:
「……よいしょ……」

レオ:
(息を止めている)
「…………」

マリア:
(見守っている)
「…………」

(親コウモリがゆっくり地面に置かれる)

ノア:
「……できました」

レオ:
(大きく息を吐く)
「……助かった」

マリア:
「新人、器用きようだな」

ノア:
「そうですか……?」

レオ:
「俺の髪、大丈夫?」

マリア:
「知らん」

レオ:
「見てくれよ」

マリア:
かがみ見ろ」

レオ:
(魔法鏡を取り出す)
「…………」

(5秒の沈黙)

レオ:
「……禿げてない? ここ」

マリア:
「気のせいだろ」

レオ:
「気のせいじゃない気がする」

ノア:
「あ、あの、毛根もうこん活性化かっせいかの魔法とか……」

レオ:
「あんの?」

ノア:
「座学で習いました」

レオ:
「頼む」

マリア:
「そういうのは普通に嬉しいんだな」

(テイク61・撮影終了)

-----

【トビーの制作日誌】
王暦1547年・春の月・21日・深夜

現在、午前2時。編集室。
Abode Magi-Cut起動中。
エナジーポーション、5本目。

今日の素材:
・コウモリに顔を襲われる勇者
・禁煙でイライラする聖女
・暴発で敵を全滅させる新人(気絶)
・髪に巣を作られかける勇者
・親コウモリを頭に乗せたまま固まる勇者

これを「闘志に満ちた迷宮攻略」に編集する。

作業内容:
・レオの悲鳴:勇ましい雄叫おたけびに変換
・マリアの禁煙イライラ:「凛とした沈黙」に再解釈
・ノアの暴発:「必殺ひっさつ魔法の解放」として壮大にエフェクト追加
・親コウモリ:「迷宮のぬし」に設定変更、サイズ3倍に拡大
・レオの禿げ疑惑:完全削除

完成映像を確認。
勇者一行は雄々おおしく、迷宮の闇を蹴散けちらしていた。

素晴らしい嘘だ。

-----

【トビーの制作日誌】
追記・極秘メモ

編集作業の合間に、HDDを調べた。

「暗黒迷宮」で検索。

古いファイルが見つかった。
ファイル名:「BH_proto_1532.mp4」
作成日:王暦1532年。
15年前の映像だ。

再生しようとした。
暗号化あんごうかされていた。

バルドー卿のアクセス権限が必要らしい。

『ブレイブ・ハート』が始まったのは今年のはずだ。
なのに15年前に「BH」と名のついたファイルがある。

BHは『ブレイブ・ハート』の略称だ。
偶然か?

……偶然であってほしい。

このファイルの存在は誰にも言わない。
ゴブリンは長生きしたい。

胃薬、残り1袋。
明日、発注はっちゅうしておこう。

-----

【映像ログ:ON AIR(放送用)】
暗黒迷宮・深部(編集後)

ナレーション:
「無数の吸血魔獣まじゅうが、勇者一行を取り囲む」

(コウモリの群れ。編集で数が3倍に増えている)

レオ:
(剣を構え、不敵ふてきに笑う)
「来い。全てせてやる」

マリア:
(杖を掲げ、光を放つ)
「聖なる光よ、闇をらせ」

ノア:
(魔法陣を展開。荘厳そうごんなエフェクト)
「古の炎よ、顕現けんげんせよ」

(三人の攻撃が炸裂さくれつ。コウモリが一掃される)

ナレーション:
「圧倒的な力で魔獣を殲滅せんめつする三人。しかし、その奥から異形いぎょうの影が現れる」

(巨大な親コウモリ。編集でサイズ5倍)

ナレーション:
「迷宮の主、闇翼あんよくのヴォルガ!」

レオ:
(剣をかまえ直す)
「大物が来たな」

マリア:
「任せます、レオ様」

ノア:
「援護します」

レオ:
「ああ。見ていろ」

(レオが突進。聖剣がきらめく)

ナレーション:
「勇者の一閃いっせんが、闇をく!」

-----

【トビーの制作日誌】
追記・その2

放送後視聴率:25.8%
また記録更新。

街の声:
「迷宮の主、迫力はくりょくあった」
「三人の連携が素晴らしい」
「ノアくん、頼もしくなってきた」

レオの反応:「俺の剣の軌道きどう、美しくない?」
マリアの反応:「煙草吸いてえ……」
ノアの反応:「暴発が必殺技になってる……」

ノアのファンクラブ会員数:450人に増加。
レオの反応:「俺の半分以下だからセーフ」

俺は今日もスタジオの隅で干し芋かじってる。
椅子はまだない。

バルドー卿から新たなメモが届いた。
「好調を維持しろ」
「次回は更に派手に」
「予算は据え置き」

史上最高視聴率でも予算は増えない。
どういう経理システムだ。

次回撮影:「魔獣まじゅうもり・深部」
敵:毒蛾どくがの群れ

レオの心配:「毒で肌荒れない?」
マリアの要求:「火使っていいなら楽」
ノアの不安:「鱗粉りんぷんったら詠唱えいしょうできるかな……」

また地獄の撮影が始まる。

胃薬、発注完了。
椅子はあきらめた。

-----

【次回予告】

ナレーション:
どくおかされた森で、勇者一行を待ち受けるのは無数の毒蛾! 三人は瘴気しょうきはらい、光を取り戻せるのか!」

レオ(NG映像):
「鱗粉が顔に! 事務所NGGGGG!」

マリア(NG映像):
「燃やしていい? 全部燃やしていい?」

ノア(NG映像):
「くしゃっ……詠唱が……くしゃっ……」

ナレーション:
「次回『鱗粉りんぷんなみだあじ(テイク65)』」

トビー(日誌):
「テイク数、そろそろ100超えそう……」
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