「俺と一緒に海を見ませんか?」

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第5話「真実が明らかになる朝」

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 朝日が窓から差し込んで、翔太の瞼を照らした。隣で眠る蓮の寝顔を見つめながら、この数日間のことを思い返していた。台風の夜から始まった二人の物語。もうすぐ終わりが来るような気がした。

「おはよう」

 蓮が目を開けた。朝の光に照らされた蓮の顔は、いつもより穏やかに見えた。

「おはようございます」

「よく眠れましたか」

「はい。蓮さんは?」

「久しぶりによく眠れました」

 二人は抱き合ったまま、しばらく朝の静寂を楽しんだ。

「蓮さん」

「はい」

「田中さんに連絡してみませんか」

 昨夜の約束を翔太は忘れていなかった。蓮は少し躊躇したが、翔太の手を握り返した。

「分かりました」

 朝食を済ませた後、蓮は古い手帳から田中の電話番号を探し出した。三年間、かけることのなかった番号。

「緊張します」

「大丈夫。俺がいます」

 翔太に背中を押されて、蓮は電話をかけた。コール音が三回響いて、相手が出た。

「はい、田中です」

 懐かしい声だった。蓮の胸が詰まる。

「田中……俺だ。蓮だ」

「蓮?」

 相手は驚いているようだった。

「久しぶりだな。元気にしてるのか」

「ええ……田中は?」

「俺も元気だよ。どうしたんだ、急に」

 蓮は翔太を見た。翔太は頷いた。

「会えないか?話したいことがあるんだ」

 田中は少し考えてから答えた。

「いいよ。どこで会う?」

「昔よく行ったカフェ、まだあるか?」

「ああ、ある。二時間後でいいか」

「ありがとう」

 電話を切ると、蓮は深く息を吐いた。

「よくできました」

 翔太が蓮の肩を叩く。

「俺も一緒に行こうか?」

「いや、これは俺の問題だ」

「でも」

「大丈夫。翔太がいてくれるだけで強くなれる」

 蓮は翔太にキスをした。

「行ってきます」

「気をつけて」

 蓮が出かけた後、翔太は一人でアパートにいた。窓から見える空は、台風が去って以来、初めて完全に晴れていた。

 二時間後、蓮はカフェにいた。田中は既に来ていて、窓際の席に座っていた。三年ぶりに会う親友は、少し老けて見えたが、相変わらず人懐っこい笑顔を浮かべていた。

「蓮、痩せたな」

「田中も……」

「まあ、色々あったからな」

 二人はコーヒーを注文し、しばらく当たり障りのない話をした。しかし蓮は本題を切り出さずにはいられなかった。

「田中、あの時のこと……」

「ああ」

 田中の表情が少し曇った。

「俺、お前を裏切った」

「蓮……」

「お前が正しいことをしようとしてたのに、俺は怖がって止めた」

 蓮の声が震えた。

「許してくれとは言わない。ただ、謝りたかった」

 田中は静かにコーヒーを飲んだ。

「蓮、お前は何も悪くない」

「そんなことない」

「いや、悪くない」

 田中は蓮を真っ直ぐ見つめた。

「あの時、俺が無謀だった。お前を巻き込んでしまった」

「田中……」

「お前には守るべきものがあった。安定した仕事、将来の計画。それを壊すなんてできないよ」

 蓮の目に涙がにじんだ。

「でも結果的に、お前が犠牲になった」

「犠牲じゃない」

 田中は微笑んだ。

「俺は自分のやりたいことをやっただけ。後悔してない」

「今は何を?」

「小さな運送会社を立ち上げた。従業員は俺一人だけだけど、楽しくやってる」

 蓮は安堵した。田中は幸せそうに見えた。

「蓮はどうなんだ?タクシーの運転手をしてるって聞いたが」

「ええ。夜勤で」

「一人が好きになったのか?」

 蓮は首を振った。

「最近、大切な人ができました」

 田中の目が輝いた。

「へえ、どんな人だ?」

「俺と似たような過去を持つ人です」

 蓮は翔太のことを簡単に話した。田中は興味深そうに聞いていた。

「その人のおかげで、お前に連絡する勇気が出たのか」

「はい」

「いいじゃないか。俺も嬉しい」

 田中は立ち上がった。

「蓮、お前は俺の大切な友達だ。それは昔も今も変わらない」

 蓮も立ち上がり、二人は握手をした。

「ありがとう、田中」

「こちらこそ。また連絡しろよ」

「はい」

 カフェを出ると、蓮は軽やかな足取りでアパートに向かった。長い間背負っていた重荷が、ようやく下ろせたような気がした。

 アパートに戻ると、翔太が心配そうに迎えてくれた。

「お帰りなさい。どうでしたか?」

「田中は……俺を許してくれました」

 翔太の顔が輝いた。

「良かった!」

「翔太のおかげです」

 蓮は翔太を抱きしめた。

「ありがとう」

「俺も嬉しいです」

 二人はソファに座り、蓮が田中との会話を詳しく話した。翔太は最後まで熱心に聞いていた。

「田中さん、素敵な人ですね」

「ええ。翔太と少し似ています」

「どんなところが?」

「人を許すのが上手なところ」

 翔太は照れくさそうに笑った。

「蓮さんも、俺を許してくれました」

「お互い様です」

 夕日が窓を染め始めていた。

「翔太」

「はい」

「今夜は特別にしませんか」

「特別に?」

 蓮は翔太の手を取った。

「お互いの新しい始まりを祝って」

 翔太は頬を赤らめながら頷いた。

 シャワーを浴びて、二人は寝室に向かった。夕日がカーテン越しに部屋を暖かく照らしている。

「きれいですね」

 翔太が夕日を見つめながら呟く。

「君の方がきれい」

 蓮の言葉に、翔太は振り返った。

「もう、そんなこと言わないでください」

「本当のことです」

 蓮は翔太を抱き寄せ、深くキスをした。今夜は時間をかけて愛し合いたかった。

 服を脱がせ合いながら、二人はベッドに横になった。夕日に照らされた翔太の肌は、まるで黄金のように美しかった。

「今夜は……ゆっくり」

 蓮の提案に、翔太は頷いた。

「はい」

 蓮は翔太の体をゆっくりと愛撫した。首筋、鎖骨、胸、腹。指先で優しく撫でると、翔太の肌に鳥肌が立つ。

「気持ちいい……」

 翔太も蓮の体に触れた。この数日でずいぶん慣れた。蓮の筋肉の硬さ、肌の温度、全てが愛おしかった。

 二人は並んで横になり、お互いの勃起に手を伸ばした。同時に愛撫し合いながら、視線を交わす。

「蓮さん……」

「翔太……」

 お互いの名前を呼び合いながら、手の動きを合わせていく。相手の呼吸、表情の変化、全てを観察しながら。

「一緒に……」

 翔太が囁く。今度こそ、同じタイミングで。

 二人の手の動きが速くなる。互いの快感を高め合いながら、絶頂に向かっていく。

「もう……」

「俺も……」

 今度は本当に同時だった。二人の精液が宙に舞い、ベッドシーツを汚した。

「できました……」

 翔太が嬉しそうに笑う。

「ええ。完璧でした」

 蓮も満足そうだった。

 体を清めた後、二人は再び抱き合った。

「蓮さん」

「はい」

「明日から、どうしましょう」

 翔太の問いに、蓮は少し考えた。

「翔太はどうしたい?」

「俺は……会社に戻ろうと思います」

「佐藤さんのことで?」

「はい。本当のことを上司に話して、佐藤を連れ戻したいんです」

 蓮は驚いた。

「危険かもしれません」

「でも、正しいことです」

 翔太の目には強い意志が宿っていた。

「俺も一緒に行きます」

「え?」

「翔太一人では心配です。それに」

 蓮は翔太を見つめた。

「俺も逃げるのはもうやめにします」

 翔太の目に涙がにじんだ。

「蓮さん……」

「一緒に戦いましょう」

「はい!」

 翌朝、二人は翔太の会社に向かった。翔太が人事部長に真実を話している間、蓮は外で待っていた。

 一時間後、翔太が出てきた。疲れた顔をしていたが、どこか晴れやかだった。

「どうでした?」

「部長は処分されることになりました。佐藤も復職できるそうです」

「良かった」

「俺は……一週間の減給処分です」

 翔太は苦笑いした。

「でもすっきりしました」

 蓮は翔太の肩を抱いた。

「よく頑張りました」

「蓮さんがいてくれたから」

 二人は会社を後にした。

「これから佐藤さんに報告ですか?」

「はい。それから……」

 翔太は蓮を見上げた。

「今夜はお祝いしませんか?」

「もちろん」

 青空の下、二人は手を繋いで歩いていった。台風が去った後の空は、どこまでも青く澄んでいた。

 翔太と蓮の人生にも、新しい季節が始まろうとしていた。過去の痛みを乗り越えて、二人は前に進んでいく。お互いを支え合いながら。

 海岸では今日も波が寄せては返している。しかし台風の荒波ではない。穏やかで美しい波だった。二人の心と同じように。

 ――完――
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