転生したら美少女なのに中身はRPGチュートリアルおじさんで、しかも政略結婚の花嫁だった

チャビューヘ

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第1章

第1章 第11話「枢密院の注視」

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 枢密院の扉の前で、深呼吸を繰り返した。

 今日は正式な招集がかかったのだ。議題は「導きの姫の件」。まさか自分が国の最高機関の議題になるとは。

「大丈夫」

 王子が隣で励ましてくれたが、緊張で手が震えた。

 重い扉が開くと、円形の議場が現れた。高い天井、荘厳な柱、そして半円状に並ぶ席。すでに十二人の重臣たちが着席していた。

 中央の最も大きな椅子に、白髪の老人が座っている。宰相のマルセル侯爵。セラフィーヌ嬢の父親だ。

「ようこそ、姫君」

 威厳のある声が議場に響いた。

 用意された席に、王子と並んで座った。重臣たちの視線が、値踏みするように注がれる。

「本日の議題は」

 宰相が口を開いた。

「姫君がもたらしている……変化について」

 変化。確かにそうかもしれない。市場の列、侍女の休憩、舞踏会の新しい踊り。小さなことばかりだけど。

 軍務大臣のローランド将軍が、最初に発言した。鋼のような髭を蓄えた、いかにも軍人らしい風貌の男性だ。

「姫君の言動が、民衆に与える影響は無視できません」

 財務大臣が頷いた。

「市場の効率化により、商取引が三割増加しました」

「三割?」

 思わず声を上げてしまった。

「はい。列ができたことで、客も商人も安心して取引できるようになったのです」

 そんなに影響があったのか。

 外務大臣が続けた。

「リセンヌ同盟との交渉も、姫君のおかげで有利に進みました」

「インデックスという手法、我が省でも導入したいのですが」

 内務大臣まで身を乗り出してきた。

「ちょっと待ってください」

 思わず立ち上がってしまった。

「私はただ、当たり前のことをしているだけで」

 宰相が興味深そうに眉を上げた。

「当たり前、ですか」

「はい。効率を考えれば、自然な改善です」

 神官長のヨアヒム猊下が、杖を床に突いた。

「しかし、案内石が反応するのは事実」

 その通りだった。なぜか案内石は、私の言葉に反応してしまう。

「千年ぶりの完全な祈り、忘れられません」

 神官長の言葉に、議場がざわめいた。

 学院総長が挙手した。眼鏡をかけた、学者然とした初老の男性だ。

「姫君の言葉を分析してみました」

 羊皮紙の束を広げる。

「『セーブ』『ボタン』『矢印キー』……これらは古代語の変形かもしれません」

 まさか学術的に分析されているとは。

「古代文明には、我々の知らない概念があったはずです」

 総長が熱く語り始めた。

「姫君は、その記憶を持って生まれたのでは」

 とんでもない方向に話が進んでいる。

 宰相が手を挙げて、議論を整理した。

「つまり、姫君は王国にとって重要な存在ということですな」

 全員が頷いた。

「では、どう扱うべきか」

 軍務大臣が提案した。

「護衛を増やすべきです。これほど重要な方を、無防備にはできません」

「いえ、それでは民との距離が」

 内務大臣が反対する。

「姫君の魅力は、親しみやすさにあります」

 議論が白熱し始めた。私を「資源」として、どう活用するかを真剣に話し合っている。

 正直、気分が良くなかった。物扱いされているような。

「あの」

 小さく手を挙げた。

「私の意見も聞いてもらえませんか」

 議場が静まった。

「もちろんです」

 宰相が促してくれた。

 立ち上がって、ゆっくりと話し始めた。

「確かに、色々なことが起きています。でも、私は特別な力があるわけじゃない」

 重臣たちが顔を見合わせる。

「ただ、皆さんと違う視点を持っているだけです」

 王子が優しい目で見守ってくれているのを感じた。

「だから、普通に接してください。特別扱いは、かえって動きづらくなります」

 沈黙が流れた。

 そして、宰相が微笑んだ。

「なるほど。さすが導きの姫」

 どこがさすがなのか分からないが、他の重臣たちも納得したような顔をしている。

「では、現状維持ということで」

「ただし」

 軍務大臣が付け加えた。

「陰ながら警護は強化させていただきます」

 それくらいなら、と頷いた。

 議事が終わり、退室しようとすると、宰相に呼び止められた。

「姫君、一つ聞かせてください」

「はい」

「本当に、特別な力はないのですか?」

 真剣な眼差しだった。嘘はつけない。でも、真実も言えない。

「少なくとも、自覚はありません」

 それは本当だった。なぜ案内石が光るのか、私にも分からない。

 宰相は少し考えてから、頷いた。

「分かりました。ただ、姫君が王国の宝であることは変わりません」

 王国の宝、か。重い称号だ。

 議場を出ると、王子が待っていた。

「お疲れ様」

「重臣たちは、私を何だと思っているんでしょう」

 王子が苦笑した。

「正直、僕にも分からない」

 そして、真面目な顔になった。

「でも、一つだけ確かなことがある」

「何ですか?」

「君は、この国に必要な人だ」

 その言葉が、胸に響いた。

 必要とされている。それは、前世では感じたことのない感覚だった。

 回廊を歩きながら、窓の外を見た。城下町が夕陽に染まっている。

 あの街の人たちも、私を「不思議姫」として受け入れてくれている。

 この世界で、私の居場所ができつつある。

 それが嬉しくもあり、怖くもあった。
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