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第2章
第2章 第31話「庶民の守護団」
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朝の市場は、いつもと違う熱気に包まれていた。
王子の怪我が一段落して、久しぶりに市場視察に出た私を、商人たちが取り囲んだ。
「姫様! ご無事で!」
「心配しました!」
八百屋のおばさんが、涙ぐみながら私の手を握った。
「あの暗殺未遂の話、市場中に広まってます」
パン屋の主人が、憤慨した様子で言った。
「とんでもない奴らだ! 姫様は俺たちの希望なのに!」
周りの商人たちも口々に同意する。
「姫様のおかげで、商売が楽になった」
「子供たちも、姫様の歌を歌ってる」
「こんな良い姫様を狙うなんて!」
その時、人混みを掻き分けて、屈強な男たちが現れた。
港湾労働者たちだ。日焼けした顔に、太い腕。リーダー格の大男が前に出た。
「姫様」
ごつい手で、不器用に帽子を取った。
「俺たち、決めました」
「何を?」
「姫様を守る団を作ります」
周囲がざわめいた。
「港の荷役人、市場の商人、職人ギルド」
男が指を折って数えた。
「皆で話し合って、『導き姫守護団』を結成することにしました」
驚いて言葉が出ない。
「素人の俺たちに何ができるか、って思うでしょう」
男が照れくさそうに頭を掻いた。
「でも、王都の隅々まで知ってるのは俺たちです。怪しい奴がいたら、すぐ分かる」
商店主の女性が前に出た。
「私たちも協力します。宿を探している怪しい人物がいたら、すぐに通報します」
「配達の途中で、変な動きをする奴を見張ります」
若い配達人も声を上げた。
次々と申し出が続く。
「夜警の見回りを増やします」
「子供たちにも、注意するよう言い聞かせます」
「姫様が通る道は、事前に確認します」
胸が熱くなった。
「皆さん、ありがとうございます。でも、危険は——」
「危険なんて関係ねえ!」
港湾労働者のリーダーが、大声で言った。
「姫様は、俺たちのために戦ってくれた。今度は俺たちの番だ」
歓声が上がった。
「そうだ!」
「守護団万歳!」
「不思議姫様を守れ!」
その様子を、護衛のガヴェイン卿が複雑な表情で見ていた。
「民衆の自警団か……前代未聞だな」
でも、その声には否定的な響きはなかった。
その時、子供たちが走ってきた。
「姫様! これ!」
差し出されたのは、木で作った粗末な腕輪。編み込まれた紐に、小さな鈴がついている。
「お守りです!」
子供たちが誇らしげに言った。
「皆で作りました!」
腕輪をつけると、鈴が澄んだ音を立てた。王子からもらった銀の腕輪と、一緒に腕に収まった。
「ありがとう。大切にします」
子供たちが満面の笑みを浮かべた。
その時、騒ぎが起きた。
「おい、あいつ!」
魚屋の主人が、フードを被った男を指差した。
「昨日から、うろうろしてる奴だ!」
守護団のメンバーが、瞬時に男を取り囲んだ。
「待て、誤解だ!」
男がフードを取ると、若い行商人の顔が現れた。
「俺は、ただ商売の場所を探してただけで——」
商人組合の長が近づいて、男の商売許可証を確認した。
「本物だな。すまなかった」
男は青ざめた顔で立ち去った。
ガヴェイン卿が苦笑した。
「少し過敏かもしれないが、効果はありそうだ」
広場に戻ると、守護団の詰所が作られていた。
樽を逆さにしたテーブルに、王都の地図が広げられている。各地区の担当者が決められ、連絡網が作られていた。
「姫様の今日の予定は?」
リーダーが真剣な顔で聞いてきた。
「午後は王宮で——」
「じゃあ、その道筋を確認させてください」
プロ顔負けの手際の良さだ。
ローランド将軍が視察に来て、驚いた様子で守護団を見ていた。
「これは……軍より組織的じゃないか」
確かに、民衆の団結力は凄まじかった。
午後、王宮への道中、至る所で守護団のメンバーを見かけた。
さりげなく立っている商人、荷物を運ぶふりをして警戒する職人、屋根の上で見張る子供たち。
まるで、街全体が私を守ってくれているようだ。
「すごいな」
王子が馬車の窓から外を見ていた。まだ顔色は完全ではないが、執務に復帰している。
「君への愛情が、これほどとは」
「恥ずかしいです」
「誇りに思うべきだ」
王子が私の手を取った。
「君は、本当に民に愛される姫だ」
その手は、まだ少し熱かった。
王宮に着くと、マルタが出迎えてくれた。
「姫様、聞きました! 守護団のこと」
「大げさよね」
「いいえ!」
マルタが力強く言った。
「これが、本当の民の声です。姫様がどれだけ慕われているか」
コーデリアも頷いた。
「宮廷の一部の者たちが何と言おうと、民は姫様の味方です」
その言葉に、勇気をもらった。
夕方、執務室の窓から外を見ると、王都に灯りがともり始めていた。
その灯りの一つ一つに、私を守ってくれる人がいる。
案内石が、温かな光を放っていた。
まるで、民の想いに応えるように。
王子の怪我が一段落して、久しぶりに市場視察に出た私を、商人たちが取り囲んだ。
「姫様! ご無事で!」
「心配しました!」
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「あの暗殺未遂の話、市場中に広まってます」
パン屋の主人が、憤慨した様子で言った。
「とんでもない奴らだ! 姫様は俺たちの希望なのに!」
周りの商人たちも口々に同意する。
「姫様のおかげで、商売が楽になった」
「子供たちも、姫様の歌を歌ってる」
「こんな良い姫様を狙うなんて!」
その時、人混みを掻き分けて、屈強な男たちが現れた。
港湾労働者たちだ。日焼けした顔に、太い腕。リーダー格の大男が前に出た。
「姫様」
ごつい手で、不器用に帽子を取った。
「俺たち、決めました」
「何を?」
「姫様を守る団を作ります」
周囲がざわめいた。
「港の荷役人、市場の商人、職人ギルド」
男が指を折って数えた。
「皆で話し合って、『導き姫守護団』を結成することにしました」
驚いて言葉が出ない。
「素人の俺たちに何ができるか、って思うでしょう」
男が照れくさそうに頭を掻いた。
「でも、王都の隅々まで知ってるのは俺たちです。怪しい奴がいたら、すぐ分かる」
商店主の女性が前に出た。
「私たちも協力します。宿を探している怪しい人物がいたら、すぐに通報します」
「配達の途中で、変な動きをする奴を見張ります」
若い配達人も声を上げた。
次々と申し出が続く。
「夜警の見回りを増やします」
「子供たちにも、注意するよう言い聞かせます」
「姫様が通る道は、事前に確認します」
胸が熱くなった。
「皆さん、ありがとうございます。でも、危険は——」
「危険なんて関係ねえ!」
港湾労働者のリーダーが、大声で言った。
「姫様は、俺たちのために戦ってくれた。今度は俺たちの番だ」
歓声が上がった。
「そうだ!」
「守護団万歳!」
「不思議姫様を守れ!」
その様子を、護衛のガヴェイン卿が複雑な表情で見ていた。
「民衆の自警団か……前代未聞だな」
でも、その声には否定的な響きはなかった。
その時、子供たちが走ってきた。
「姫様! これ!」
差し出されたのは、木で作った粗末な腕輪。編み込まれた紐に、小さな鈴がついている。
「お守りです!」
子供たちが誇らしげに言った。
「皆で作りました!」
腕輪をつけると、鈴が澄んだ音を立てた。王子からもらった銀の腕輪と、一緒に腕に収まった。
「ありがとう。大切にします」
子供たちが満面の笑みを浮かべた。
その時、騒ぎが起きた。
「おい、あいつ!」
魚屋の主人が、フードを被った男を指差した。
「昨日から、うろうろしてる奴だ!」
守護団のメンバーが、瞬時に男を取り囲んだ。
「待て、誤解だ!」
男がフードを取ると、若い行商人の顔が現れた。
「俺は、ただ商売の場所を探してただけで——」
商人組合の長が近づいて、男の商売許可証を確認した。
「本物だな。すまなかった」
男は青ざめた顔で立ち去った。
ガヴェイン卿が苦笑した。
「少し過敏かもしれないが、効果はありそうだ」
広場に戻ると、守護団の詰所が作られていた。
樽を逆さにしたテーブルに、王都の地図が広げられている。各地区の担当者が決められ、連絡網が作られていた。
「姫様の今日の予定は?」
リーダーが真剣な顔で聞いてきた。
「午後は王宮で——」
「じゃあ、その道筋を確認させてください」
プロ顔負けの手際の良さだ。
ローランド将軍が視察に来て、驚いた様子で守護団を見ていた。
「これは……軍より組織的じゃないか」
確かに、民衆の団結力は凄まじかった。
午後、王宮への道中、至る所で守護団のメンバーを見かけた。
さりげなく立っている商人、荷物を運ぶふりをして警戒する職人、屋根の上で見張る子供たち。
まるで、街全体が私を守ってくれているようだ。
「すごいな」
王子が馬車の窓から外を見ていた。まだ顔色は完全ではないが、執務に復帰している。
「君への愛情が、これほどとは」
「恥ずかしいです」
「誇りに思うべきだ」
王子が私の手を取った。
「君は、本当に民に愛される姫だ」
その手は、まだ少し熱かった。
王宮に着くと、マルタが出迎えてくれた。
「姫様、聞きました! 守護団のこと」
「大げさよね」
「いいえ!」
マルタが力強く言った。
「これが、本当の民の声です。姫様がどれだけ慕われているか」
コーデリアも頷いた。
「宮廷の一部の者たちが何と言おうと、民は姫様の味方です」
その言葉に、勇気をもらった。
夕方、執務室の窓から外を見ると、王都に灯りがともり始めていた。
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