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第3章
第3章 第45話「セーブポイントの布陣」
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翌朝、偵察隊が戻ってきた。
彼らの顔は、緊張で強張っていた。
すぐに軍議が招集された。
会議室は、昨日よりも重苦しい空気に包まれていた。
地図の上に、赤い印がいくつも置かれている。
偵察隊の隊長――ヴェルナー大尉が、報告を始めた。
「帝国軍は、南東の森から平野へ展開を開始しております」
彼の指が、地図上を滑る。
「兵力は、約五百。うち騎兵が百、歩兵が四百。重装備を確認しました」
ローランド将軍が、眉をひそめた。
「五百か。思ったより多いな」
「はい。さらに、後方に補給部隊の動きも確認されております」
「本格的な侵攻の準備だな」
アウレリウスが、静かに言った。
会議室に、沈黙が落ちた。
一人の将校が、地図を指差した。
「我が軍は、現在千二百。数では優位ですが、帝国軍は訓練された精鋭です」
「しかも、地の利は向こうにある。森を背にされると、接近が難しい」
別の将校が付け加えた。
ローランド将軍が、腕を組んだ。
「布陣をどうするか……」
彼は地図を睨んだ。
バスティオンから南東へ延びる平野。
その先に広がる森。
帝国軍は、森の縁に陣を張っているらしい。
「平野で迎え撃つか、城壁に引きつけるか……」
将校たちが、次々に意見を述べ始めた。
「平野で戦えば、騎兵の機動力が活きる」
「だが、敵も騎兵を持っている。衝突すれば損害は避けられない」
「城壁に引きつければ、防御は固い。だが、士気が下がる恐れがある」
議論が続く。
私は、ただ黙って聞いていた。
地図を見ながら、考えた。
――布陣、か。
私には軍事の知識なんてないけれど、でも……。
地図上の赤い印を見て、ふと思った。
これ、配置の問題じゃないだろうか。
倉庫の整理と同じで、どこに何を置くか――。
私は、思わず口を開いていた。
「あの……」
全員の視線が、一斉に私に向いた。
私は、少し縮こまった。
でも、アウレリウスが優しく促した。
「どうした?」
「その……布陣のことなんですけど」
私は、地図を指差した。
「これ、セーブポイントを置く位置を決める、みたいなものですよね」
将校たちが、顔を見合わせた。
「セーブポイント……?」
ローランド将軍が、私を見た。
私は、慌てて説明した。
「あ、えっと……つまり、兵士が安心できる場所、です」
私は地図上の、バスティオンと森の中間地点を指差した。
「ここに、拠点を置くんです。兵士たちが『ここまでは絶対に守られている』と思える場所を」
将校たちが、黙って聞いている。
私は、続けた。
「そうすれば、前に出た兵士も『あそこに戻れば安全だ』って思えますよね。心理的な支えになると思うんです」
ローランド将軍が、地図を見つめた。
「拠点……つまり、野営地を前線に設置するということか」
「はい。補給と休息ができて、負傷者を運び込める場所」
私は、昨日整理した補給倉庫を思い出していた。
「物資を小分けにして、そこに運んでおけば、兵士たちはすぐに補給を受けられます。疲れたら、そこで休める」
一人の将校が、眉をひそめた。
「だが、前線に拠点を置けば、敵に狙われる危険がある」
「だから、守りやすい場所を選ぶんです」
私は、地図上の小さな丘を指差した。
「ここなら、少し高くて見晴らしがいい。周りに柵を立てて、案内石を置けば……」
そこまで言って、私は口をつぐんだ。
――また、変なこと言った。
でも、将校たちの顔は、真剣だった。
ローランド将軍が、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。士気の維持拠点、か」
「姫様の『セーブポイント』は、兵士たちの心の支えになる」
別の将校が言った。
「確かに、戻れる場所があるというのは、大きい」
ヴェルナー大尉が、地図を指差した。
「この丘なら、敵の動きも見渡せます。伝令の中継地点としても使えるかもしれない」
議論が、活発になった。
将校たちが、次々に意見を出し合う。
「拠点を三つ設置して、段階的に前進するのはどうだ」
「補給路を確保しやすくなる」
「負傷者の後送も早くなる」
アウレリウスが、静かに言った。
「姫の言葉を、戦術として採用する」
会議室が、一瞬静まった。
ローランド将軍が、深く頷いた。
「了解しました。早速、準備に取りかかります」
将校たちが、敬礼した。
-----
会議が終わり、人々が部屋を出ていく。
私は、その場に残っていた。
――また、やってしまった。
私の言葉が、戦術になってしまった。
アウレリウスが、隣に来た。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「あの……私、また変なこと言いましたよね」
「変?」
彼は、首を傾げた。
「的確な提案だったと思うが」
「でも、セーブポイントとか……」
「ああ」
アウレリウスは、微笑んだ。
「君の独特な言い回しは、もう慣れた」
彼は、私の肩に手を置いた。
「それに、兵士たちも同じだ。君の言葉は、彼らに希望を与える」
「でも……」
「君は、自分の力を過小評価しすぎだ」
彼は、真剣な目で私を見た。
「君の『段取り』は、人の命を救う。それが、どれほど素晴らしいことか」
その言葉に、私は何も言えなかった。
ただ、彼の目を見つめていた。
外から、兵士たちの声が聞こえてきた。
「拠点の準備だ!」
「姫様の導きに従え!」
彼らの声は、力強かった。
-----
午後、私は準備作業を見に行った。
丘の上では、兵士たちが柵を組み立てていた。
木の杭を地面に打ち込み、横木を渡していく。
その中央に、小さな案内石が運ばれてきた。
バスティオンから持ってきた、儀礼用の石だ。
エドリック中尉が、汗を拭いながら私に報告した。
「姫様、拠点の準備は順調です」
「ありがとうございます」
「いえ、姫様の導きのおかげです」
彼は、嬉しそうに笑った。
「兵士たちも、『セーブポイント』ができると聞いて、士気が上がっています」
私は、丘の上を見回した。
兵士たちが、忙しく動いている。
柵の中には、補給用の樽と医療品の箱が運び込まれていた。
一人の兵士が、私に気づいて声をかけてきた。
「姫様! ここが、セーブポイントなんですよね?」
「あ、はい……」
「これで安心して戦えます!」
彼は、拳を握りしめた。
「もし危なくなっても、ここに戻ればいい。姫様が守ってくれる場所だから」
その言葉に、胸が詰まった。
――守る、なんて。
私は、何も守れない。
ただ、倉庫整理の延長で配置を考えただけなのに。
でも、彼の目は本気だった。
私は、ただ頷いた。
「……はい。どうか、無事で」
「必ず、生きて帰ります!」
彼は敬礼をして、作業に戻っていった。
私は、その背中を見送った。
風が吹いて、髪が揺れた。
腕輪の鈴が、小さく鳴った。
-----
夕刻、拠点が完成した。
丘の上に、木の柵で囲まれた小さな陣地。
中央には案内石が置かれ、周りには補給物資と医療品が整然と並んでいる。
アウレリウスと私は、その拠点を見上げていた。
「立派なものだな」
彼が言った。
「兵士たちが、一丸となって作り上げた」
「みんな、頑張ってくれましたね」
私は笑った。
アウレリウスが、私の方を向いた。
「明日、帝国軍が動く」
「……はい」
「偵察の報告では、彼らは攻撃の準備を整えている」
彼の声は、静かだった。
「恐らく、明日の午前中には接触するだろう」
私は、息を呑んだ。
――明日、戦いが始まる。
アウレリウスが、私の手を取った。
「怖いか」
「……はい」
正直に答えた。
彼は、優しく握り返した。
「私も、怖い」
「え?」
「君を危険に晒すことが、何よりも怖い」
彼の青い瞳が、私を見つめていた。
「だが、君の力が必要だ。兵士たちは、君を信じている」
私は、俯いた。
「私、何もできないのに……」
「そんなことはない」
アウレリウスは、私の顎に指を添えて、顔を上げさせた。
「君がここにいる。それだけで、兵士たちは勇気を持てる」
その言葉に、涙が出そうになった。
私は、必死に堪えた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
彼は微笑んだ。
夕日が、二人を照らしていた。
遠くで、兵士たちが夕餉の準備をしている音が聞こえた。
バスティオンの夜が、また訪れようとしていた。
-----
その夜、私は一人で丘の拠点を訪れた。
誰もいない静けさの中で、案内石が青白く光っていた。
私は、その石の前に立った。
「明日、戦いが始まる」
呟いた。
「みんな、私を信じてくれてる」
石は、静かに光っていた。
「でも、私は……ただのおじさんで」
私は、石に手を伸ばした。
「お願い。みんなを、守って」
案内石が、温かく光った。
まるで、答えるように。
私は、その光に包まれて、少しだけ安心した。
――もしかしたら。
本当に、何か力があるのかもしれない。
だとしたら――私は、それを信じてみよう。
風が吹いた。
遠くで、狼の遠吠えが聞こえた。
南東の空を見ると、暗闇の中に小さな灯りが見えた。
帝国軍の野営地だ。
明日、あそこから敵が来る。
私は、深呼吸をした。
――怖い。
でも、逃げられない。
私は、ここにいる。
みんなと一緒に。
腕輪の鈴が、風に揺れて鳴った。
銀の鈴、木の鎖、侍女団の証、祝祭の景品――。
どれも、誰かが私を想ってくれた証。
私は一人じゃない。
そう、自分に言い聞かせた。
月が、雲の間から顔を出した。
丘の上の拠点が、月明かりに照らされた。
明日、ここが本当の『セーブポイント』になる。
兵士たちの、命を守る場所に――。
彼らの顔は、緊張で強張っていた。
すぐに軍議が招集された。
会議室は、昨日よりも重苦しい空気に包まれていた。
地図の上に、赤い印がいくつも置かれている。
偵察隊の隊長――ヴェルナー大尉が、報告を始めた。
「帝国軍は、南東の森から平野へ展開を開始しております」
彼の指が、地図上を滑る。
「兵力は、約五百。うち騎兵が百、歩兵が四百。重装備を確認しました」
ローランド将軍が、眉をひそめた。
「五百か。思ったより多いな」
「はい。さらに、後方に補給部隊の動きも確認されております」
「本格的な侵攻の準備だな」
アウレリウスが、静かに言った。
会議室に、沈黙が落ちた。
一人の将校が、地図を指差した。
「我が軍は、現在千二百。数では優位ですが、帝国軍は訓練された精鋭です」
「しかも、地の利は向こうにある。森を背にされると、接近が難しい」
別の将校が付け加えた。
ローランド将軍が、腕を組んだ。
「布陣をどうするか……」
彼は地図を睨んだ。
バスティオンから南東へ延びる平野。
その先に広がる森。
帝国軍は、森の縁に陣を張っているらしい。
「平野で迎え撃つか、城壁に引きつけるか……」
将校たちが、次々に意見を述べ始めた。
「平野で戦えば、騎兵の機動力が活きる」
「だが、敵も騎兵を持っている。衝突すれば損害は避けられない」
「城壁に引きつければ、防御は固い。だが、士気が下がる恐れがある」
議論が続く。
私は、ただ黙って聞いていた。
地図を見ながら、考えた。
――布陣、か。
私には軍事の知識なんてないけれど、でも……。
地図上の赤い印を見て、ふと思った。
これ、配置の問題じゃないだろうか。
倉庫の整理と同じで、どこに何を置くか――。
私は、思わず口を開いていた。
「あの……」
全員の視線が、一斉に私に向いた。
私は、少し縮こまった。
でも、アウレリウスが優しく促した。
「どうした?」
「その……布陣のことなんですけど」
私は、地図を指差した。
「これ、セーブポイントを置く位置を決める、みたいなものですよね」
将校たちが、顔を見合わせた。
「セーブポイント……?」
ローランド将軍が、私を見た。
私は、慌てて説明した。
「あ、えっと……つまり、兵士が安心できる場所、です」
私は地図上の、バスティオンと森の中間地点を指差した。
「ここに、拠点を置くんです。兵士たちが『ここまでは絶対に守られている』と思える場所を」
将校たちが、黙って聞いている。
私は、続けた。
「そうすれば、前に出た兵士も『あそこに戻れば安全だ』って思えますよね。心理的な支えになると思うんです」
ローランド将軍が、地図を見つめた。
「拠点……つまり、野営地を前線に設置するということか」
「はい。補給と休息ができて、負傷者を運び込める場所」
私は、昨日整理した補給倉庫を思い出していた。
「物資を小分けにして、そこに運んでおけば、兵士たちはすぐに補給を受けられます。疲れたら、そこで休める」
一人の将校が、眉をひそめた。
「だが、前線に拠点を置けば、敵に狙われる危険がある」
「だから、守りやすい場所を選ぶんです」
私は、地図上の小さな丘を指差した。
「ここなら、少し高くて見晴らしがいい。周りに柵を立てて、案内石を置けば……」
そこまで言って、私は口をつぐんだ。
――また、変なこと言った。
でも、将校たちの顔は、真剣だった。
ローランド将軍が、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。士気の維持拠点、か」
「姫様の『セーブポイント』は、兵士たちの心の支えになる」
別の将校が言った。
「確かに、戻れる場所があるというのは、大きい」
ヴェルナー大尉が、地図を指差した。
「この丘なら、敵の動きも見渡せます。伝令の中継地点としても使えるかもしれない」
議論が、活発になった。
将校たちが、次々に意見を出し合う。
「拠点を三つ設置して、段階的に前進するのはどうだ」
「補給路を確保しやすくなる」
「負傷者の後送も早くなる」
アウレリウスが、静かに言った。
「姫の言葉を、戦術として採用する」
会議室が、一瞬静まった。
ローランド将軍が、深く頷いた。
「了解しました。早速、準備に取りかかります」
将校たちが、敬礼した。
-----
会議が終わり、人々が部屋を出ていく。
私は、その場に残っていた。
――また、やってしまった。
私の言葉が、戦術になってしまった。
アウレリウスが、隣に来た。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「あの……私、また変なこと言いましたよね」
「変?」
彼は、首を傾げた。
「的確な提案だったと思うが」
「でも、セーブポイントとか……」
「ああ」
アウレリウスは、微笑んだ。
「君の独特な言い回しは、もう慣れた」
彼は、私の肩に手を置いた。
「それに、兵士たちも同じだ。君の言葉は、彼らに希望を与える」
「でも……」
「君は、自分の力を過小評価しすぎだ」
彼は、真剣な目で私を見た。
「君の『段取り』は、人の命を救う。それが、どれほど素晴らしいことか」
その言葉に、私は何も言えなかった。
ただ、彼の目を見つめていた。
外から、兵士たちの声が聞こえてきた。
「拠点の準備だ!」
「姫様の導きに従え!」
彼らの声は、力強かった。
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午後、私は準備作業を見に行った。
丘の上では、兵士たちが柵を組み立てていた。
木の杭を地面に打ち込み、横木を渡していく。
その中央に、小さな案内石が運ばれてきた。
バスティオンから持ってきた、儀礼用の石だ。
エドリック中尉が、汗を拭いながら私に報告した。
「姫様、拠点の準備は順調です」
「ありがとうございます」
「いえ、姫様の導きのおかげです」
彼は、嬉しそうに笑った。
「兵士たちも、『セーブポイント』ができると聞いて、士気が上がっています」
私は、丘の上を見回した。
兵士たちが、忙しく動いている。
柵の中には、補給用の樽と医療品の箱が運び込まれていた。
一人の兵士が、私に気づいて声をかけてきた。
「姫様! ここが、セーブポイントなんですよね?」
「あ、はい……」
「これで安心して戦えます!」
彼は、拳を握りしめた。
「もし危なくなっても、ここに戻ればいい。姫様が守ってくれる場所だから」
その言葉に、胸が詰まった。
――守る、なんて。
私は、何も守れない。
ただ、倉庫整理の延長で配置を考えただけなのに。
でも、彼の目は本気だった。
私は、ただ頷いた。
「……はい。どうか、無事で」
「必ず、生きて帰ります!」
彼は敬礼をして、作業に戻っていった。
私は、その背中を見送った。
風が吹いて、髪が揺れた。
腕輪の鈴が、小さく鳴った。
-----
夕刻、拠点が完成した。
丘の上に、木の柵で囲まれた小さな陣地。
中央には案内石が置かれ、周りには補給物資と医療品が整然と並んでいる。
アウレリウスと私は、その拠点を見上げていた。
「立派なものだな」
彼が言った。
「兵士たちが、一丸となって作り上げた」
「みんな、頑張ってくれましたね」
私は笑った。
アウレリウスが、私の方を向いた。
「明日、帝国軍が動く」
「……はい」
「偵察の報告では、彼らは攻撃の準備を整えている」
彼の声は、静かだった。
「恐らく、明日の午前中には接触するだろう」
私は、息を呑んだ。
――明日、戦いが始まる。
アウレリウスが、私の手を取った。
「怖いか」
「……はい」
正直に答えた。
彼は、優しく握り返した。
「私も、怖い」
「え?」
「君を危険に晒すことが、何よりも怖い」
彼の青い瞳が、私を見つめていた。
「だが、君の力が必要だ。兵士たちは、君を信じている」
私は、俯いた。
「私、何もできないのに……」
「そんなことはない」
アウレリウスは、私の顎に指を添えて、顔を上げさせた。
「君がここにいる。それだけで、兵士たちは勇気を持てる」
その言葉に、涙が出そうになった。
私は、必死に堪えた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
彼は微笑んだ。
夕日が、二人を照らしていた。
遠くで、兵士たちが夕餉の準備をしている音が聞こえた。
バスティオンの夜が、また訪れようとしていた。
-----
その夜、私は一人で丘の拠点を訪れた。
誰もいない静けさの中で、案内石が青白く光っていた。
私は、その石の前に立った。
「明日、戦いが始まる」
呟いた。
「みんな、私を信じてくれてる」
石は、静かに光っていた。
「でも、私は……ただのおじさんで」
私は、石に手を伸ばした。
「お願い。みんなを、守って」
案内石が、温かく光った。
まるで、答えるように。
私は、その光に包まれて、少しだけ安心した。
――もしかしたら。
本当に、何か力があるのかもしれない。
だとしたら――私は、それを信じてみよう。
風が吹いた。
遠くで、狼の遠吠えが聞こえた。
南東の空を見ると、暗闇の中に小さな灯りが見えた。
帝国軍の野営地だ。
明日、あそこから敵が来る。
私は、深呼吸をした。
――怖い。
でも、逃げられない。
私は、ここにいる。
みんなと一緒に。
腕輪の鈴が、風に揺れて鳴った。
銀の鈴、木の鎖、侍女団の証、祝祭の景品――。
どれも、誰かが私を想ってくれた証。
私は一人じゃない。
そう、自分に言い聞かせた。
月が、雲の間から顔を出した。
丘の上の拠点が、月明かりに照らされた。
明日、ここが本当の『セーブポイント』になる。
兵士たちの、命を守る場所に――。
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