転生したら美少女なのに中身はRPGチュートリアルおじさんで、しかも政略結婚の花嫁だった

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第4章

第4章 第76話「目覚め」

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 夜明け前、地鳴りで目が覚めた。

 大聖堂が、揺れている。

 石造りの壁が、軋む。

 私は、ベッドから飛び起きた。

 床が、波打っている。

 地震だ。

 でも、普通の地震じゃない。

 何か、もっと深いところから来る揺れ。

 扉が、開いた。

 コーデリアが、駆け込んでくる。

「姫様、大丈夫ですか?」

「うん、でも——」

 また、揺れた。

 今度は、さらに強い。

 天井から、石の欠片が落ちてくる。

 コーデリアが、私を庇った。

 そして、揺れが止まった。

 静寂。

 でも、嫌な静寂だ。

 何かが、終わったのではない。

 何かが、始まったのだ。

 私は、窓に駆け寄った。

 外を見る。

 広場の中央で、案内石が光っている。

 赤く。

 激しく。

 まるで、心臓が暴走しているように。

 そして、案内石の周囲の地面が、割れ始めた。

 亀裂が、走る。

 放射状に、広場全体に広がっていく。

「姫様、危険です!」

 コーデリアが、私の腕を掴んだ。

 でも、私は窓から離れなかった。

 見ていた。

 案内石が、砕け始めるのを。

-----

 礼拝堂に駆けつけると、既に人が集まっていた。

 アウレリウス、ローランド将軍、ガヴェイン卿、そして侍女たち。

 みんな、案内石を見ている。

 大聖堂の中央にある、大きな石柱。

 それが、赤く光っている。

 そして、表面の亀裂から、赤い光が噴き出している。

 まるで、血が噴き出すように。

 アウレリウスが、私に気づいた。

「君、大丈夫か?」

「何が起きてるの?」

「分からない。夜明けから、案内石が暴走し始めた」

 ローランド将軍が、近づいてきた。

 彼の腕には、包帯が巻かれている。

 昨日の戦いで負傷したのだ。

「姫殿下、これは……」

「封印が、崩れてる」

 私は、案内石を見た。

「封印されていたものが、目覚めようとしてる」

 その時、案内石が大きく軋んだ。

 亀裂が、広がる。

 石の表面が、剥がれ落ちる。

 そして、その内部から、何かが見えた。

 黒い影。

 蠢いている。

 まるで、生きているように。

 みんなが、後ずさった。

 アウレリウスが、剣を抜いた。

「何だ、あれは……」

 案内石が、また軋んだ。

 そして、亀裂がさらに広がった。

 石柱の上部が、崩れ落ちる。

 轟音。

 砕けた石が、床に散らばる。

 そして、黒い影が、案内石の中から這い出てきた。

 それは、形を持たない。

 煙のような、霧のような。

 でも、確かに存在している。

 そして、冷気を放っている。

 礼拝堂の温度が、一気に下がった。

 息が、白くなる。

 黒い影が、広がっていく。

 礼拝堂の天井へ、壁へ、床へ。

 そして、それに触れたステンドグラスが、曇った。

 色が、失われていく。

 鮮やかだった赤や青が、灰色に変わる。

「みんな、下がって!」

 私は、叫んだ。

 でも、遅かった。

 黒い影が、近衛騎士の一人に触れた。

 騎士が、叫んだ。

 そして、その場に倒れた。

 動かない。

 ガヴェイン卿が、駆け寄った。

「おい、しっかりしろ!」

 でも、騎士は反応しない。

 ガヴェイン卿が、騎士の顔を覗き込んだ。

 そして、青ざめた。

「息を……していない」

 その言葉に、礼拝堂が凍りついた。

 黒い影は、命を奪う。

 触れただけで、人を殺す。

 私は、案内石を見た。

 もう、石柱の半分が崩れている。

 そして、黒い影が、さらに這い出てくる。

 止まらない。

 封印が、完全に壊れようとしている。

-----

 大聖堂から、みんなを避難させた。

 礼拝堂には、もう近づけない。

 黒い影が、広がり続けている。

 私たちは、大聖堂の外へ出た。

 広場に集まる。

 そして、見た。

 大聖堂の尖塔から、黒い影が溢れ出している。

 まるで、煙突から煙が出るように。

 でも、それは上へは昇らない。

 地面に這うように、広がっていく。

 街路へ、建物へ、城壁へ。

 そして、それに触れたものは、全て色を失う。

 草木は枯れ、石は灰色になり、水は濁る。

 王都が、死んでいく。

 ローランド将軍が、私を見た。

「姫殿下、これが……災厄ですか?」

「まだ、完全じゃない」

 私は、大聖堂を見た。

「これは、災厄の一部。本体は、まだ地下にいる」

 地面が、また揺れた。

 今度は、さらに強い。

 城壁の一部が、崩れた。

 そして、城壁の外から、叫び声が聞こえた。

 帝国軍の声だ。

 彼らも、この異変に気づいている。

 ガヴェイン卿が、城壁の方を見た。

「帝国軍が、動揺しています」

 彼は、望遠鏡を覗いた。

「陣形が、乱れています。何人かの兵が、逃げ出しています」

 災厄は、敵味方を問わない。

 王国も、帝国も、関係ない。

 全てを、等しく滅ぼす。

-----

 午前中、帝国軍から使者が来た。

 白旗を持った、一人の将校。

 彼は、門の前で立ち止まった。

「王国の方々、話がしたい」

 アウレリウスが、城壁の上から答えた。

「何の用だ?」

「我々は、一時休戦を提案したい」

 将校は、大聖堂を見た。

「あれは、何だ?」

「災厄だ。封印されていたものが、目覚めた」

 将校の顔が、青ざめた。

「では、伝説は本当だったのか……」

「知っているのか?」

「我々の古文書にも、記されている。千年前、異界より来たりし者が封じた、世界を滅ぼす災厄」

 将校は、深く息を吐いた。

「我が国の皇子、カール殿下が、その力を求めていた。封印を解き、その力を手に入れようと」

「何だと?」

 アウレリウスの声が、怒りに震えた。

「お前たちが、封印を壊そうとしたのか?」

「いや、違う」

 将校は、首を横に振った。

「我々は、封印の力を研究していた。しかし、解くつもりはなかった。カール殿下が、独断で……」

 彼は、言葉を切った。

「とにかく、今はそれどころではない。あの災厄が広がれば、王国も帝国も、滅ぶ」

 彼は、アウレリウスを見た。

「だから、一時休戦を。そして、共に災厄を封じよう」

 アウレリウスは、私を見た。

 私は、頷いた。

 今は、戦っている場合じゃない。

 アウレリウスが、将校に答えた。

「分かった。休戦を受け入れる」

-----

 午後、王国軍と帝国軍の代表が集まった。

 城門の外、中立地帯に設けられた天幕の中。

 王国側は、アウレリウス、ローランド将軍、そして私。

 帝国側は、先ほどの将校と、数名の副官。

 そして、一人の青年。

 黒い髪、鋭い目。

 彼が、口を開いた。

「初めまして、王子アウレリウス。そして、戦術姫」

 彼の声は、冷たい。

「私が、カール。カースヴァルト帝国第二皇子だ」

 アウレリウスが、剣の柄に手をかけた。

「お前が、封印を壊そうとした張本人か」

「壊すつもりはなかった」

 カールは、椅子に座った。

「ただ、研究していただけだ。封印の力を理解し、それを制御しようと」

「その結果が、これか」

 私は、大聖堂の方を指さした。

 黒い影が、まだ広がり続けている。

 カールは、それを見た。

 そして、表情を変えずに言った。

「予想外だった。封印は、もっと強固だと思っていた」

「お前の記章機構が、封印を弱めたんだ」

 私は、彼を睨んだ。

「魔法を封じることで、案内石への負荷を増やした。それが、封印を綻ばせた」

 カールは、私を見た。

 その目には、興味が浮かんでいる。

「なるほど。戦術姫は、封印の仕組みを理解しているのか」

「理解している。そして、お前たちのせいで、封印が崩れた」

「ならば、お前にも責任がある」

 カールは、冷たく言った。

「お前が力を使うたびに、封印は削られた。案内石の記録を見た。お前の『神託』が、封印を最も弱めたのだ」

 その言葉に、息を呑んだ。

 彼は、正しい。

 私も、封印を壊した一人だ。

 アウレリウスが、立ち上がった。

「責任の話は、後だ。今は、災厄を止める方法を考えろ」

 カールは、頷いた。

「その通りだ」

 彼は、地図を広げた。

「災厄の本体は、王都の地下にある。大聖堂の真下、深さ百メートルの空洞だ」

「どうやって、それを知っている?」

「記章機構で、地下を探査した」

 カールは、地図に印をつけた。

「ここに、巨大な空間がある。そして、強力な魔力反応。おそらく、それが災厄の本体だ」

 私は、地図を見た。

 確かに、大聖堂の真下に印がある。

「では、そこへ行けば……」

「災厄と、対峙できる」

 カールは、私を見た。

「お前が、継承者なら、災厄を再び封じることができるかもしれない」

「でも、どうやって?」

「分からない」

 カールは、正直に答えた。

「古文書には、方法は書かれていない。ただ、『継承者の言葉が、災厄を鎮める』とだけ」

 継承者の言葉。

 私の、チュートリアル口癖。

 でも、それで本当に災厄を封じられるのか。

 私は、拳を握りしめた。

 やるしかない。

 他に、方法はない。

「分かった。地下へ行く」

 アウレリウスが、私を見た。

「君一人で行かせるわけにはいかない」

「でも——」

「私も行く。そして、近衛騎士団も」

 彼は、カールを見た。

「お前たちは、どうする?」

「我々も、援軍を出す」

 カールは、立ち上がった。

「この戦いは、もはや王国と帝国の戦いではない。人類と災厄の戦いだ」

 彼は、手を差し出した。

 アウレリウスは、一瞬ためらった。

 そして、その手を握った。

「一時的な同盟だ」

「了解した」

 カールは、握手を解いた。

 そして、私を見た。

「戦術姫。お前の力に、期待している」

 私は、何も答えなかった。

 ただ、大聖堂を見た。

 黒い影が、まだ広がり続けている。

 そして、地下で、何かが目覚めようとしている。

 災厄が。

 私は、深呼吸をした。

 行くしかない。

 地下へ。

 災厄の元へ。

 そして、全てを終わらせる。
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