【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第1章「三度目の婚約破棄」

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「公爵令嬢エリナ、婚約を解消する」

 三度目だ。

 王太子殿下がこの台詞を言うのは、これで三度目だ。

 王立学園の卒業式。大広間の中央で、リオン殿下は私を指差していた。

 金色の髪が陽光を受けて輝いている。整った顔立ちは、絵画から抜け出したようだ。

 彼の隣には、涙を浮かべたセリアが立っていた。

 平民出身の特待生。原作ヒロインその人だ。

「エリナ、君は冷酷で心がない」

 リオンの声が大広間に響く。

 貴族たちが息を呑んだ。ひそひそと囁き声が広がっていく。

 私は静かに立っていた。

 視線を落とさず、背筋を伸ばしたまま。

「セリアを傷つけた罪は重い」

 殿下の言葉が続く。

 私の唇に、微かな笑みが浮かんだ。

 1周目は泣いた。

 大広間で泣き崩れて、そのまま実家に運ばれた。

 2周目は慌てた。

 必死に弁解して、かえって状況を悪化させた。

 3周目の今は——冷静に、すべてを観察できる。

 リオンの後ろに、継母が立っていた。

 アデライーデ・フォン・アルトハイム。私の父の後妻だ。

 彼女の口元が、わずかに歪んでいる。

 あと7秒で、彼女が叫ぶ。

 6、5、4——

「恥知らず!」

 予定通りだった。

 継母の声が甲高く響く。

「アルトハイム家の恥さらしめ!」

 貴族たちがざわめいた。

 ある者は同情の視線を向け、ある者は嘲笑を浮かべた。

 セリアが小さく身体を震わせている。

 演技だ。

 前世の記憶がそう告げている。

 橘恵理、41歳。大手経営コンサルティング会社のシニアマネージャー。

 私の前世の名前だ。

 企業再建を専門とし、数々の倒産寸前の会社を立て直してきた。

 最期は過労死。3日間徹夜でプランを作成中、心臓が止まった。

 気づいたら、この世界にいた。

 リオンが一歩前に出た。

「エリナ、これ以上の弁明は無用だ」

 彼の青い瞳が、私を見つめている。

 優しさと決意が混ざった表情。

 1周目でも、2周目でも見た顔だ。

 私は深く息を吸った。

 そして——

「ありがとうございます、殿下」

 予定を変更して、私は深々と頭を下げた。

 大広間が静まり返った。

 風の音さえ聞こえそうなほどの静寂。

 リオンの目が見開かれた。

 セリアが息を呑む音が聞こえた。

 継母が「え?」

 と小さく声を漏らした。

 これは、1周目も2周目も使わなかった対応だ。

「殿下のおかげで、自由になれます」

 私は顔を上げた。

 口元に微笑みを浮かべる。

 貴族たちがざわめいた。

「エリナ様、気でも狂われたか」

「婚約破棄を喜ぶなど」

「殿下を愛していなかったのか」

 囁き声が波のように広がっていく。

「エリナ……?」

 リオンの声が震えていた。

 困惑と、わずかな後悔が混じっている。

 予想外の反応に、彼は動揺していた。

「私は、殿下の重荷でしかありませんでした」

 私は静かに言葉を続けた。

「これで殿下も、セリア様も、幸せになれます」

 セリアの顔が青ざめた。

 彼女の計算が狂ったのだ。

 私が泣き叫ぶはずだった。

 私が醜態を晒すはずだった。

 それなのに——

 私は優雅に一礼した。

 踵を返し、大広間の扉に向かって歩き出す。

 背筋を伸ばし、歩幅を一定に保つ。

 視線は真っ直ぐ前を向いたまま。

 誰にも目を合わせない。

 ざわめきが大きくなった。

「あの令嬢、本当に喜んでいる」

「殿下を愛していなかったのか」

「いや、気丈に振る舞っているだけでは」

 扉の前で、執事のオスカーが待っていた。

 45歳の忠実な使用人。私の幼い頃からの味方だ。

「お嬢様」

 彼の声は低く、安心感がある。

「帰りましょう、オスカー」

 私は静かに答えた。

 大広間を出た。

 廊下の窓から、王都の街並みが見えた。

 石造りの建物が整然と並んでいる。

 美しい街だ。

 でも、もう私の居場所ではない。

「お嬢様、本当によろしかったのですか」

 オスカーが心配そうに尋ねた。

「ええ」

 私は頷いた。

「これで良かったの」

 馬車が待っている中庭に向かいながら、私は考えを巡らせた。

 1周目の失敗。

 婚約破棄のショックで引きこもり、2年後に病死。

 2周目の失敗。

 辺境の荒れ地を買ったものの、資金不足で改革に失敗。5年後に破産。

 でも今回は違う。

 前世の経営知識がある。

 1周目の人間関係の教訓がある。

 2周目の経済的失敗の教訓がある。

 三重の知識で、完璧な準備ができる。

「オスカー」

 私は歩きながら言った。

「明日、フェルゼン伯爵と会う約束を取ってちょうだい」

「フェルゼン伯爵……あの破産した?」

 オスカーが驚いた声を出した。

「そう。彼の領地を買うの」

 私は静かに答えた。

「あの荒れ地を、ですか」

「誰も欲しがらない土地だからこそ、価値がある」

 中庭に出た。

 馬車が待機している。

 御者が急いで扉を開けた。

 私は馬車に乗り込んだ。

 オスカーも続いて乗り込む。

 馬車がゆっくりと動き出した。

 窓の外を眺めながら、私は計画を練った。

 フェルゼン伯領。

 王都から馬車で片道3時間の距離にある辺境の地。

 前領主の失政で荒廃した、誰も欲しがらない土地。

 2周目では金貨300枚で買った。

 全財産を投じた結果、運転資金が足りなくなった。

 今回は違う。

 金貨100枚で交渉する。

 前世の不動産交渉スキルを使えば、可能だ。

 そして残りの資金で、人材を集める。

 農業技師。

 商人。

 職人。

 前世の人事評価メソッドで、本当に有能な人材を見抜く。

「お嬢様」

 オスカーが静かに言った。

「私は、どこまでもお供いたします」

 私は彼を見た。

 忠実な執事。私の数少ない味方。

「ありがとう、オスカー」

 私は微笑んだ。

「これから大変な道のりになるわ」

「お嬢様となら、どんな困難も乗り越えられます」

 彼の言葉に、胸が温かくなった。

 1周目も、2周目も、オスカーは最後まで私を支えてくれた。

 今回こそ、彼を幸せにする。

 そして、あの荒れ地で暮らす人々も。

 馬車は王立学園を離れ、街の中心部に向かっていた。

 石畳の道を、車輪の音が響く。

 私は窓の外を見た。

 王都の街並み。

 貴族たちの華やかな生活。

 もうすぐ、全てに別れを告げる。

 でも後悔はなかった。

 むしろ、期待が胸に広がっていた。

 今度こそ、誰にも邪魔されない人生を手に入れる。

 自分の力で、自分の居場所を作る。

 辺境の荒れ地が、私の新しい舞台だ。

 馬車が揺れた。

 石畳の凹凸を乗り越える振動。

 私は目を閉じた。

 明日からの計画を、頭の中で整理していく。

 フェルゼン伯爵との交渉。

 荒れ地の実態調査。

 人材採用。

 農業改革。

 商業改革。

 前世の知識と、2回のループ経験。

 そのすべてを活用する。

 辺境の荒れ地を買う交渉は、明日から始めよう。

 そして——

 必ず成功させる。


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