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第33章 婚約の準備
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昨夜、カイルは私を愛していると言った。
そして私も、同じ気持ちだと伝えた。
夢のような夜が、今も胸に残っている。
朝の光が、部屋に差し込む。
私はベッドから起き上がった。
鏡を見る。
頬が、ほんのり赤い。
昨夜のことを思い出すだけで、胸が高鳴る。
「お嬢様」
マリアがノックして入ってきた。
その顔が、満面の笑みだった。
私は恥ずかしくなった。
マリアは私の前に来て、両手を取った。
その目に、涙が浮かんでいる。
「カイル様は、素晴らしい方です」
「ええ」
私は頷いた。
「私も、そう思います」
朝食の席に向かう。
オスカーが待っていた。
彼も、穏やかに微笑んでいる。
「お嬢様、お幸せに」
「ありがとう、オスカー」
私は微笑み返した。
温かい言葉に、胸が満たされる。
窓の外を見る。
住民たちが、いつものように働いている。
でも、時折こちらを見て、笑顔を向けてくる。
噂は、もう領地中に広がっているのだろう。
朝食を食べながら、考える。
カイルは、父に婚約の許可を求めに行くと言った。
父。
アルトハイム公爵。
私を見放した人。
一年前、婚約破棄の場にいた。
継母の言いなりで、何も言わなかった。
私を守ってくれなかった。
私が追放されても、止めなかった。
でも。
今は違う。
私には、カイルがいる。
「お嬢様」
オスカーが声をかけてきた。
「はい」
「お父上との交渉は、難航するかもしれません」
彼の声が、心配そうだ。
「アルトハイム公爵は、四大公爵家の当主」
「身分を重んじる方です」
「分かっています」
私は頷いた。
父は、家格を何より大切にする。
貧民出身のカイルを、認めないかもしれない。
「でも……」
私は窓の外を見た。
「カイルは、覚悟を決めています」
「私も、覚悟を決めます」
オスカーが微笑んだ。
「お嬢様は、強くなられました」
「ありがとう」
食後、自分の部屋に戻る。
窓辺に座る。
遠くの空を見る。
カイルは今頃、王都で働いているだろう。
私は、前世の記憶を振り返った。
一周目では、絶望に沈んだ。
二周目では、孤独に領地を守った。
そして三周目。
初めて、愛する人と共に未来を築ける。
でも、これからが本当の試練だ。
父に会いに行く。
王都の社交界に戻る。
継母も、かつて私を嘲笑った貴族たちも、まだあそこにいる。
一周目の私なら、恐怖で動けなかっただろう。
二周目の私なら、一人で立ち向かおうとしただろう。
でも、今は違う。
「カイルがいる」
私は小さく呟いた。
それだけで、どんな困難も乗り越えられる気がした。
その頃、王都では。
カイルは財務省の執務室にいた。
机の上に、書類が山積みになっている。
でも、彼の頭は別のことでいっぱいだった。
エリナ。
昨夜、告白した。
彼女は、愛していると言ってくれた。
あの瞬間が、夢ではなかったか。
何度も確かめたくなる。
「閣下」
部下のフリッツが部屋に入ってきた。
「何だ」
「お顔色が良いですね」
フリッツが笑う。
カイルは眉をひそめた。
「……そうか」
「昨夜、何か良いことでも?」
「関係ない」
カイルは書類に目を落とした。
だが、フリッツは察している様子だった。
「閣下、少しお話が」
「何だ」
カイルは顔を上げた。
フリッツの表情が、真剣になっている。
「エリナ様との婚約について」
「……聞いたのか」
「はい。宮中の噂は早いものです」
カイルは息を吐いた。
隠せるはずもなかった。
フェルゼン改革監督の職務申請の理由を、宮中は察している。
「率直に申し上げます」
フリッツが椅子に座った。
「アルトハイム公爵は、難しい相手かと」
「分かっている」
カイルは頷いた。
「四大公爵家の一つ」
「王国最古の名門だ」
「閣下は、貧民出身」
フリッツがためらいがちに言った。
「公爵は、身分を重んじる方です」
「婚約を認めない可能性が高い」
カイルは窓の外を見た。
王都の街が、眼下に広がっている。
その向こうに、フェルゼンがある。
エリナがいる。
「それでも、彼女を妻にしたい」
カイルは静かに言った。
フリッツが目を見開く。
「閣下……」
「私は貧民の出だ」
カイルは自分の手を見た。
「父は破産し、母は病死した」
「兄たちは散り散りになった」
フリッツが黙って聞いている。
「十五歳で王立会計院に首席入学した」
カイルは続ける。
「必死に勉強した」
「努力だけが、私の武器だった」
「二十歳で、史上最年少の財務官補佐になった」
「二十五歳で、財務大臣になった」
カイルの声に、力がこもる。
「全て、自分の力で掴み取った」
「でも……」
カイルは顔を上げた。
「エリナと出会うまで、私は何のために生きているのか分からなかった」
フリッツが息を呑む。
「彼女は、私に生きる意味をくれた」
カイルの目に、光が宿る。
「彼女の笑顔が、私の全てだ」
「貧民出身の財務大臣と、四大公爵家の令嬢」
「釣り合わないと言われるだろう」
カイルは認めた。
「だが、それでも」
「彼女は、私の全てだ」
カイルは拳を握った。
「何を言われようと、諦めない」
フリッツが立ち上がった。
そして、深く頭を下げた。
「閣下、私も協力いたします」
「フリッツ……」
「閣下の覚悟、よく分かりました」
フリッツが顔を上げる。
その目に、決意が宿っている。
「ありがとう」
カイルは微笑んだ。
「君の力を借りる」
フリッツが退室する。
カイルは再び窓の外を見た。
三日後、フェルゼンへ向かう。
そして、エリナと共に王都へ。
父に会いに行く。
不安はある。
拒絶されるかもしれない。
でも、諦めない。
エリナを守る。
エリナと共に生きる。
カイルは羽根ペンを取った。
便箋に、文字を綴る。
エリナへの手紙。
三日後に迎えに行く、と。
共に王都へ行こう、と。
三日後。
手紙が届いた。
カイルの文字。
丁寧で、美しい。
「三日後、そちらへ向かう」
「共に王都へ行こう」
「君の父上に、正式に婚約を申し込む」
私は手紙を胸に抱いた。
三日後。
もう、すぐだ。
「お嬢様」
マリアが入ってきた。
「王都へ行かれるのですね」
「ええ」
「では、お支度を」
マリアが微笑む。
「最高のドレスを用意いたします」
「ありがとう、マリア」
オスカーも、書類を整理してくれる。
「お嬢様、領地のことはお任せください」
「グレンと共に、しっかり守ります」
「頼んだわ、オスカー」
マリアを呼ぶ。
「王都用のドレス、一番格式の高いものを用意して」
「はい、お嬢様」
マリアの目が、決意を理解したように輝いた。
もう、逃げない。
堂々と、カイルの隣に立つ。
アルトハイム公爵家の令嬢として。
そして、カイルの婚約者として。
窓の外を見る。
明後日、カイルが来る。
そして、王都へ。
私は深呼吸をした。
胸が高鳴る。
不安と期待が、入り混じる。
「父に、何と言われても」
私は小さく呟いた。
「カイルを、守る」
そして私も、同じ気持ちだと伝えた。
夢のような夜が、今も胸に残っている。
朝の光が、部屋に差し込む。
私はベッドから起き上がった。
鏡を見る。
頬が、ほんのり赤い。
昨夜のことを思い出すだけで、胸が高鳴る。
「お嬢様」
マリアがノックして入ってきた。
その顔が、満面の笑みだった。
私は恥ずかしくなった。
マリアは私の前に来て、両手を取った。
その目に、涙が浮かんでいる。
「カイル様は、素晴らしい方です」
「ええ」
私は頷いた。
「私も、そう思います」
朝食の席に向かう。
オスカーが待っていた。
彼も、穏やかに微笑んでいる。
「お嬢様、お幸せに」
「ありがとう、オスカー」
私は微笑み返した。
温かい言葉に、胸が満たされる。
窓の外を見る。
住民たちが、いつものように働いている。
でも、時折こちらを見て、笑顔を向けてくる。
噂は、もう領地中に広がっているのだろう。
朝食を食べながら、考える。
カイルは、父に婚約の許可を求めに行くと言った。
父。
アルトハイム公爵。
私を見放した人。
一年前、婚約破棄の場にいた。
継母の言いなりで、何も言わなかった。
私を守ってくれなかった。
私が追放されても、止めなかった。
でも。
今は違う。
私には、カイルがいる。
「お嬢様」
オスカーが声をかけてきた。
「はい」
「お父上との交渉は、難航するかもしれません」
彼の声が、心配そうだ。
「アルトハイム公爵は、四大公爵家の当主」
「身分を重んじる方です」
「分かっています」
私は頷いた。
父は、家格を何より大切にする。
貧民出身のカイルを、認めないかもしれない。
「でも……」
私は窓の外を見た。
「カイルは、覚悟を決めています」
「私も、覚悟を決めます」
オスカーが微笑んだ。
「お嬢様は、強くなられました」
「ありがとう」
食後、自分の部屋に戻る。
窓辺に座る。
遠くの空を見る。
カイルは今頃、王都で働いているだろう。
私は、前世の記憶を振り返った。
一周目では、絶望に沈んだ。
二周目では、孤独に領地を守った。
そして三周目。
初めて、愛する人と共に未来を築ける。
でも、これからが本当の試練だ。
父に会いに行く。
王都の社交界に戻る。
継母も、かつて私を嘲笑った貴族たちも、まだあそこにいる。
一周目の私なら、恐怖で動けなかっただろう。
二周目の私なら、一人で立ち向かおうとしただろう。
でも、今は違う。
「カイルがいる」
私は小さく呟いた。
それだけで、どんな困難も乗り越えられる気がした。
その頃、王都では。
カイルは財務省の執務室にいた。
机の上に、書類が山積みになっている。
でも、彼の頭は別のことでいっぱいだった。
エリナ。
昨夜、告白した。
彼女は、愛していると言ってくれた。
あの瞬間が、夢ではなかったか。
何度も確かめたくなる。
「閣下」
部下のフリッツが部屋に入ってきた。
「何だ」
「お顔色が良いですね」
フリッツが笑う。
カイルは眉をひそめた。
「……そうか」
「昨夜、何か良いことでも?」
「関係ない」
カイルは書類に目を落とした。
だが、フリッツは察している様子だった。
「閣下、少しお話が」
「何だ」
カイルは顔を上げた。
フリッツの表情が、真剣になっている。
「エリナ様との婚約について」
「……聞いたのか」
「はい。宮中の噂は早いものです」
カイルは息を吐いた。
隠せるはずもなかった。
フェルゼン改革監督の職務申請の理由を、宮中は察している。
「率直に申し上げます」
フリッツが椅子に座った。
「アルトハイム公爵は、難しい相手かと」
「分かっている」
カイルは頷いた。
「四大公爵家の一つ」
「王国最古の名門だ」
「閣下は、貧民出身」
フリッツがためらいがちに言った。
「公爵は、身分を重んじる方です」
「婚約を認めない可能性が高い」
カイルは窓の外を見た。
王都の街が、眼下に広がっている。
その向こうに、フェルゼンがある。
エリナがいる。
「それでも、彼女を妻にしたい」
カイルは静かに言った。
フリッツが目を見開く。
「閣下……」
「私は貧民の出だ」
カイルは自分の手を見た。
「父は破産し、母は病死した」
「兄たちは散り散りになった」
フリッツが黙って聞いている。
「十五歳で王立会計院に首席入学した」
カイルは続ける。
「必死に勉強した」
「努力だけが、私の武器だった」
「二十歳で、史上最年少の財務官補佐になった」
「二十五歳で、財務大臣になった」
カイルの声に、力がこもる。
「全て、自分の力で掴み取った」
「でも……」
カイルは顔を上げた。
「エリナと出会うまで、私は何のために生きているのか分からなかった」
フリッツが息を呑む。
「彼女は、私に生きる意味をくれた」
カイルの目に、光が宿る。
「彼女の笑顔が、私の全てだ」
「貧民出身の財務大臣と、四大公爵家の令嬢」
「釣り合わないと言われるだろう」
カイルは認めた。
「だが、それでも」
「彼女は、私の全てだ」
カイルは拳を握った。
「何を言われようと、諦めない」
フリッツが立ち上がった。
そして、深く頭を下げた。
「閣下、私も協力いたします」
「フリッツ……」
「閣下の覚悟、よく分かりました」
フリッツが顔を上げる。
その目に、決意が宿っている。
「ありがとう」
カイルは微笑んだ。
「君の力を借りる」
フリッツが退室する。
カイルは再び窓の外を見た。
三日後、フェルゼンへ向かう。
そして、エリナと共に王都へ。
父に会いに行く。
不安はある。
拒絶されるかもしれない。
でも、諦めない。
エリナを守る。
エリナと共に生きる。
カイルは羽根ペンを取った。
便箋に、文字を綴る。
エリナへの手紙。
三日後に迎えに行く、と。
共に王都へ行こう、と。
三日後。
手紙が届いた。
カイルの文字。
丁寧で、美しい。
「三日後、そちらへ向かう」
「共に王都へ行こう」
「君の父上に、正式に婚約を申し込む」
私は手紙を胸に抱いた。
三日後。
もう、すぐだ。
「お嬢様」
マリアが入ってきた。
「王都へ行かれるのですね」
「ええ」
「では、お支度を」
マリアが微笑む。
「最高のドレスを用意いたします」
「ありがとう、マリア」
オスカーも、書類を整理してくれる。
「お嬢様、領地のことはお任せください」
「グレンと共に、しっかり守ります」
「頼んだわ、オスカー」
マリアを呼ぶ。
「王都用のドレス、一番格式の高いものを用意して」
「はい、お嬢様」
マリアの目が、決意を理解したように輝いた。
もう、逃げない。
堂々と、カイルの隣に立つ。
アルトハイム公爵家の令嬢として。
そして、カイルの婚約者として。
窓の外を見る。
明後日、カイルが来る。
そして、王都へ。
私は深呼吸をした。
胸が高鳴る。
不安と期待が、入り混じる。
「父に、何と言われても」
私は小さく呟いた。
「カイルを、守る」
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