【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第34章 王都への帰還

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 馬車がフェルゼンを出発する。

 カイルが隣にいる。私たちは、婚約のために王都へ向かう。

 一年前、婚約破棄されて逃げるように去った王都へ。

 領主館の前には、住民たちが集まっていた。

「お嬢様、必ず幸せになってください」

「お幸せに」

 オスカーは穏やかに微笑んでいた。

「領地は、私たちに任せてください」

 グレンの声には力がこもっていた。

 私は馬車の窓から手を振った。

 住民たちが手を振り返してくれる。

 温かい光景だった。

 この一年で、フェルゼンは私の本当の家になった。

 馬車が動き出す。

 門が遠ざかっていく。

 私は深く息を吸った。

 カイルが隣で静かに座っている。

 彼の存在が、私に勇気をくれる。

 馬車の揺れが心地よかった。

 窓の外には緑の風景が広がっている。

 春の日差しが柔らかい。

 カイルが口を開いた。

「緊張しているか」

 その声は優しかった。

 私は少し笑った。

「……少し」

 嘘をついても仕方がない。

 父に会うのは、一年ぶりだ。

 しかも、今回は婚約の許しを得るために。

 カイルの手が、私の手を包んだ。

「大丈夫だ。私が守る」

 温かい手だった。

 私は彼の顔を見た。

 真剣な眼差しが、私を見つめている。

「あなたがいるから、恐くない」

 本心だった。

 カイルは微笑んだ。

「君がそう言ってくれるなら、何も恐れることはない」

 手を握り合ったまま、私たちは黙った。

 言葉はいらなかった。

 互いの存在だけで、十分だった。

 馬車は静かに進んでいく。

 王都まで、あと数時間。

 私はカイルの横顔を見つめた。

 整った顔立ち。

 意志の強い眉。

 優しい瞳。

 この人と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。

 そう思えた。

「エリナ」

 カイルが私の名前を呼んだ。

「明日、君の父上に会いに行く」

「……ええ」

「正式に、婚約の許しをいただく」

 彼の声には決意が満ちていた。

「あなたと結婚したい。それを、父に認めてもらう」

 私は頷いた。

「お父様は、厳しい方です」

「分かっている」

 カイルは私の手を強く握った。

「それでも、君を諦めるつもりはない」

 胸が熱くなった。

 この人は、私のために戦ってくれる。

 身分の壁も、父の反対も、全てを乗り越えてくれる。

「ありがとう、カイル」

 私の声は震えていた。

 カイルは優しく微笑んだ。

「礼を言うのは私の方だ」

「君がいてくれるから、私は生きていける」

 馬車は進み続けた。

 時間が穏やかに流れていく。

 私たちは手を握り合ったまま、窓の外を眺めていた。

 やがて、遠くに王都の城壁が見えてきた。

 高くそびえる石の壁。

 その向こうには、かつて私を拒絶した街がある。

「着いたな」

 カイルが呟いた。

 私は息を吸った。

「……ええ」

 心臓が早く打っている。

 緊張が、体の中を駆け巡る。

 だが、恐くはなかった。

 カイルがいるから。

 馬車が城門に近づく。

 門番たちが、馬車を見た。

 彼らの目が大きく見開かれる。

「あれは……エリナ様?」

 一人が呟いた。

「財務大臣様と一緒に……」

 もう一人が驚いた声を上げた。

 門番たちが慌てて敬礼する。

 馬車が門をくぐった。

 王都の街並みが広がる。

 石畳の道。

 立ち並ぶ建物。

 行き交う人々。

 一年前と、何も変わっていない。

 だが、人々の視線が違った。

「見ろ、あれは……」

「エリナ様だ」

「財務大臣様と一緒だぞ」

「まさか……」

 ざわめきが広がる。

 私は背筋を伸ばした。

 もう、逃げ隠れする必要はない。

 カイルの隣に座る、彼の婚約者として。

 馬車が通りを進む。

 人々が立ち止まり、私たちを見ている。

 噂が瞬く間に広がっていくのが分かった。

「追放された令嬢が、財務大臣を連れて戻ってきた」

 そんな囁きが、街中に響く。

 貴族たちの邸宅の窓から、顔が覗いている。

 彼らの表情は、驚きに満ちていた。

 ある者は目を丸くし、ある者は口を開けている。

 私は静かに微笑んだ。

 もう、あなたたちを恐れない。

 馬車が、ある邸宅の前を通り過ぎた。

 その窓から、一人の男が私たちを見ていた。

 リオンだった。

 彼の顔は青ざめている。

 窓枠を掴む手が震えていた。

 リオンと目が合った。

 彼の瞳には、信じられないという色が浮かんでいた。

 私は静かに視線を外した。

 もう、あなたとは関係ない。

 馬車は通り過ぎていく。

 カイルが私の手を握った。

「大丈夫か」

「ええ」

 私は頷いた。

「もう、何も恐くありません」

 本当だった。

 リオンを見ても、心は揺れなかった。

 ただ、過去の一部として、そこにあるだけ。

 馬車が貴族街を抜ける。

 やがて、カイルの屋敷が見えてきた。

 立派な門構え。

 美しい庭園。

 一年前に訪れたときよりも、整備されている。

 馬車が門の前で止まった。

 使用人たちが出迎えに出てくる。

「閣下、お帰りなさいませ」

 執事が深々と頭を下げた。

「エリナ様、ようこそいらっしゃいました」

 私は馬車から降りた。

 カイルが手を差し伸べてくれる。

 その手を取って、地面に足をつけた。

 屋敷の玄関には、マリアが待っていた。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 彼女は涙ぐんでいた。

 フェルゼンから先回りして、準備をしてくれていたのだ。

「ただいま、マリア」

 私は微笑んだ。

「お部屋の準備はできております」

 マリアが先導してくれる。

 屋敷の中は静かだった。

 廊下を歩く足音だけが響く。

 カイルが私の隣を歩いている。

「今日はゆっくり休んでくれ」

「明日が、大事な日だからな」

 その声には、決意が込められていた。

 客室に案内された。

 美しい部屋だった。

 窓からは庭園が見える。

 マリアが荷物を運んできた。

「お嬢様、何かございましたらお呼びください」

「ありがとう、マリア」

 彼女は静かに部屋を出ていった。

 私は窓辺に立った。

 王都の夕暮れが広がっている。

 オレンジ色の空。

 遠くに見える王宮の塔。

 一年前、あの王宮で婚約破棄を告げられた。

 リオンに、セリアに、全ての貴族たちの前で。

 だが、今は違う。

 カイルがいる。

 彼が私を愛してくれている。

 明日、父に会いに行く。

 婚約の許しを得るために。

 胸が高鳴った。

 緊張と期待が入り混じる。

 父は、何と言うだろうか。

 認めてくれるだろうか。

 それとも、拒絶するだろうか。

 ノックの音がした。

「エリナ、入ってもいいか」

 カイルの声だった。

「どうぞ」

 扉が開き、カイルが入ってきた。

 彼は私の隣に立った。

「考え事か」

「……ええ」

 私は正直に答えた。

「明日のことを」

 カイルは私の肩を抱いた。

「大丈夫だ」

「君の父上がどんなに厳しくても、私は諦めない」

「必ず、婚約の許しを得る」

 その声は揺るぎなかった。

 私は彼を見上げた。

「あなたは、本当に強い」

 カイルは微笑んだ。

 夜が訪れる。

 王都の街に、灯りが灯り始めた。

 私は窓辺に立って、その光景を眺めていた。

 明日、国王に謁見する。

 そして、婚約を正式に発表する。

 かつて私を追放した王都で。

 今度は、カイルと共に。

 カイルが隣に来た。

「考え事か」

「ええ、少し」

 私は彼を見た。

「でも、不安ではありません」

「あなたがいるから」

 カイルは私を抱きしめた。

「私も、君がいるから強くなれる」

「君は、私の全てだ」

 その言葉が、胸に染み込んだ。

「私も、あなたが全てです」

 遠くから、鐘の音が聞こえた。

 王宮の鐘だ。

 夜の訪れを告げる音。

 明日。

 新しい戦いが始まる。
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