【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第42章 新たな脅威

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 カイルが、フェルゼンに戻ってきた。

 リオンの陰謀は暴かれ、謹慎処分となった。

 だが、カイルの表情は険しいままだった。

 領主館の執務室で、私たちは対策会議を開いていた。

 カイル、グレン、オスカー、そして私。

 机の上には、王都の商人からの情報が広げられている。

 グレンが、報告書を読み上げた。

「お嬢様、問題があります」

 その声が、緊張していた。

「他国のスパイも、私たちの技術を狙っているようです」

 私は、息を呑んだ。

 前世の記憶が、蘇ってくる。

 二周目で、隣国に技術が流出した。

 その結果、フェルゼンの優位性が失われた。

 カイルが、私の肩に手を置いた。

「今回は、そうさせない」

 その声が、力強かった。

 オスカーが、別の書類を広げる。

「技術を守るには、二つの方法があります」

「一つは、秘密を徹底的に守ること」

「もう一つは……」

 私は、オスカーの言葉を引き継いだ。

「技術を王国全体に広め、独占できないようにすること」

 カイルが、眉を上げた。

「それは……?」

 私は、窓の外を見た。

 フェルゼンの街が、広がっている。

 この技術は、私だけのものではない。

 王国全体を、豊かにするためのものだ。

「私は、後者を選びます」

 その言葉に、グレンが驚いた表情を見せた。

「お嬢様、しかしそれでは……」

 私は、首を横に振る。

「技術は、人々を幸せにするためのもの」

「独占するより、共有して王国全体を豊かにしたい」

 カイルが、優しく微笑んだ。

「君は、本当に優しい」

 その目が、温かかった。

 グレンが、深く頷く。

「では、王国全土への技術普及計画を始めましょう」

「それには、大規模な組織が必要です」

 私は、決意を固めた。

「では……フェルゼン商会を設立します」

 これが、全ての始まりだった。

 だが、その時、別の場所では新たな陰謀が動き始めていた。

 謹慎を命じられてから三日が過ぎた。

 リオンは自室に閉じこもり、誰にも会おうとしなかった。

 だが、その沈黙は諦めではなく、次の一手を練る時間だった。

 部屋の窓から、王都の街並みが見える。

 夕日が、建物を赤く染めていた。

 だが、リオンの心は、夕日よりも熱く燃えていた。

 椅子に座り、じっと外を見つめている。

 拳が、膝の上で握りしめられていた。

 爪が、手のひらに食い込んでいる。

 三ヶ月の謹慎。

 王太子としての威厳を、失った。

 貴族たちの嘲笑が、聞こえてくる気がした。

 だが、この屈辱こそが、リオンの新たな原動力となっていた。

 心の中で、一つの決意が固まる。

「今度こそ……」

 小さく、だが確かな声だった。

 誰にも聞こえない。

「今度こそ、エリナを取り戻す」

 目が、鋭く光っている。

 執念が、燃え続けていた。

 扉が、ノックされた。

 リオンが、振り返る。

「入れ」

 声は、低かった。

 執事が、入ってくる。

 銀の髪をした老人だった。

 心配そうな表情で、リオンを見つめている。

「殿下、お食事をお持ちしました」

 トレイを、机の上に置く。

 だが、リオンは見向きもしなかった。

 再び、窓の外を見つめる。

 執事が、小さく溜息をついた。

「殿下、お身体を大切に」

 リオンが、首を横に振る。

「身体など、どうでもいい」

 その声には、力がなかった。

 だが、目だけは違った。

 燃えるような光が、宿っている。

 執事が、眉をひそめた。

「殿下……」

 リオンが、立ち上がった。

 窓辺に近づく。

 手を、ガラスに当てた。

 冷たい感触が、手のひらに伝わってくる。

「私は、エリナを救い出す」

 呟くように、言った。

 執事が、息を呑む。

「殿下、しかし謹慎中は……」

 リオンが、振り返った。

 その目が、鋭かった。

「謹慎だからこそだ」

「時間は、たっぷりある」

「計画を、練り直す」

 執事が、不安そうに見つめる。

「殿下、それは……」

 リオンが、手を上げた。

 執事の言葉を、遮る。

「心配するな」

「私は、正しいことをしている」

「エリナを、カイルから救い出す」

「それが、私の使命だ」

 執事は、何も言えなかった。

 深く頭を下げ、部屋を出る。

 リオンは、再び窓を見た。

 遠くに、カイルの屋敷が見える。

 あそこに、カイルがいる。

 そして、エリナと連絡を取り合っているのだろう。

 胸が、熱くなった。

 嫉妬と憎しみが、混ざり合っている。

 リオンは、机に向かった。

 紙を取り出す。

 ペンを握り、文字を書き始めた。

 計画書ではなく、書状だった。

 謹慎中の身では、直接会えない。

 だが、意志を伝えることはできる。

 エリナを取り戻すための、新たな指示。

 三日後の夜、ある貴族の邸宅に灯りが灯った。

 密かに、人影が集まってくる。

 フードを被り、顔を隠している。

 誰にも気づかれないように、裏口から入っていく。

 邸宅の奥、地下室。

 そこに、円卓が置かれていた。

 ろうそくの炎だけが、室内を照らしている。

 五人の貴族が、座っていた。

 全員、リオンの支持者だった。

 だが、リオン本人の姿はなかった。

 円卓の中央に、一通の書状が置かれている。

 リオンの署名と、王太子の封蝋。

 謹慎中の身で直接来ることはできないが、彼の意志は確実にここにあった。

 貴族Aが、円卓を見渡した。

「諸君、前回の失敗を繰り返してはならない」

 その声が、低く響いた。

「スパイが一人捕まり、計画書が押収された」

「あまりに粗雑だった」

 貴族Bが、顔をしかめる。

「カイルは、予想以上に用心深かった」

 貴族Cが、拳を握る。

「だが、今度は違う」

「殿下の書状には、より慎重な計画が記されている」

 一人が、口を開く。

「集まってくれて、感謝する」

 貴族Aだった。

 年配の男性で、顔に深い皺が刻まれている。

 目が、鋭く光っていた。

 別の貴族が、書状を手に取った。

「殿下からの書状を、読ませていただく」

 封を切り、中の紙を広げる。

 声に出して、読み始めた。

「『私は謹慎の身ゆえ、直接会うことは叶わない。だが、私の意志を代行してほしい』」

 貴族Aが、頷いた。

「殿下のご意向は、理解している」

 別の貴族が続けた。

「我々が動けば、殿下の手は汚れない」

「完璧な計画だ」

 一人が、書状を机に置いた。

 そして、全員を見渡す。

「では、財務大臣カイルが、王太子を謹慎に追い込んだ」

 拳で、机を叩く。

 鈍い音が、響いた。

 他の貴族たちが、頷く。

 不満の表情だった。

 貴族Bが、続けた。

「しかも、エリナまで奪った」

 若い男性だった。

 金髪を後ろで結んでいる。

 顔が、怒りで紅潮していた。

「四大公爵家の令嬢を、平民出身の男が」

「許せない」

 貴族Cが、腕を組んだ。

 太った中年男性だった。

 汗が、額に浮かんでいる。

「カイルは、王国の財政を握っている」

「我々の利権も、次々と削られている」

「このままでは……」

 言葉が、途切れた。

 だが、全員が理解していた。

 カイルの改革が、古い貴族たちを追い詰めている。

 貴族Dが、前のめりになった。

 痩せた老人だった。

 目が、細く鋭い。

「彼を失脚させれば、我々の利権を取り戻せる」

「それが、今夜の議題だ」

 全員の視線が、書状に向けられた。

 リオンの意志が、ここにある。

 謹慎中で直接来ることはできないが、その執念は伝わってくる。

 貴族Aが、口を開いた。

「殿下の書状には、こうある」

 再び、書状を手に取る。

「『エリナの技術も、気になる』」

 その声は、静かだった。

 だが、執念が込められている。

「『フェルゼンの改革……あの技術は、王国の宝だ』」

 貴族たちが、耳を傾ける。

 貴族Aが、続けた。

「『だが、カイルとエリナが独占している』」

「『それは、王国のためにならない』」

 貴族Cが、頷いた。

「その通りです、殿下」

「技術は、王国全体で共有すべきです」

 貴族Aの目が、冷たく光った。

「技術を奪い、カイルを失脚させる」

 貴族たちが、顔を見合わせた。

 誰もが、同意している様子だった。

 そして、貴族Aが最後に言った。

「……そして、エリナを救い出す」

 その言葉が、部屋に響いた。

 貴族たちは、何も言わなかった。

 リオンの執念を、理解していたからだ。

 彼にとって、これは復讐ではない。

 救済なのだ。

 エリナを、カイルから救い出す。

 それが、リオンの正義だった。

 貴族Aが、計画を説明し始めた。

「前回の失敗から学ばねばならない」

 その声が、慎重だった。

「スパイは、今回は複数送り込む」

「一人が捕まっても、他が動ける体制だ」

 貴族Bが、小さな袋を取り出した。

「そして、今回は商人に変装させます」

「旅の商人として領地に入り、自然に情報を集める」

「前回のような、夜間の侵入はしません」

 貴族Dが、頷く。

「警備が強化されているはずだ」

「正面から、堂々と入るのが最善」

 地図を、広げる。

 フェルゼン領が、描かれていた。

 指で、肥料研究所を示す。

「ここに、四圃式農法の秘密がある」

「技術の詳細を、盗み出す」

 貴族Bが、別の場所を指した。

「領主館も、狙います」

「カイルとエリナの往復書簡を入手し」

「汚職の証拠を捏造する」

 貴族Cが、ニヤリと笑った。

「前回のような粗雑なものではない」

「今回は、より巧妙に」

「彼が平民出身である以上、疑惑だけで十分」

「貴族たちは、カイルを信じていない」

「少しでも疑いがあれば、皆が動く」

 貴族Dが、頷く。

「さらに、商業ギルドにも圧力をかける」

「フェルゼン商会を、ギルドから締め出す」

 貴族Aが、懐から小瓶を取り出した。

「こちらは、睡眠薬です」

「警備兵に使えば、簡単に潜入できます」

 貴族Bが、書類を広げる。

「偽の帳簿も、準備しました」

「カイルの署名を偽造してあります」

 貴族Cが、ニヤリと笑った。

「あとは、フェルゼンに送り込むだけです」

 沈黙が、部屋を支配した。

 全員が、書状を見つめている。

 リオンの意志が、ここにある。

「いつ、実行する?」

 貴族Aの声が、低く響いた。

 貴族Bが、答える。

「一週間後です」

「スパイは、既に準備しております」

 全員が、頷いた。

 計画は、動き始めた。

 密談が終わり、貴族たちは去っていく。

 最後に、貴族Aが書状を手に取った。

 リオンの言葉を、もう一度読む。

「『エリナ……俺は、君を取り戻す』」

 その文字が、ろうそくの光に照らされていた。

 同じ頃、王宮のリオンの自室では。

 リオンが、窓辺に立っていた。

 遠く、貴族の邸宅の方角を見つめている。

 今頃、彼らは動き始めているはずだ。

 自分は動けない。

 だが、彼らが動く。

 それで十分だった。

 月が、雲に隠れている。

 暗い夜だった。

 まるで、リオンの心を映すように。

 リオンは、深く息を吐いた。

 椅子に、もたれかかる。

 天井を、見上げた。

 これでいいのか。

 また、同じ問いが浮かんだ。

 だが、答えは出ない。

 いや、出したくなかった。

 エリナへの執念が、全てを支配していた。

 窓の外、王都の街明かりが見える。

 その中の一つが、カイルの屋敷だろう。

 今頃、カイルはエリナに連絡しているかもしれない。

 勝利を、報告しているのだろう。

 二人で、喜び合っているのだろう。

 その想像が、胸を焼いた。

 リオンは、歯を食いしばる。

「エリナ……」

 拳を、握りしめた。

「俺は、君を取り戻す」

「カイルから、君を救い出す」

「前回は、焦りすぎた」

 小さく、呟く。

「だが、今度は違う」

「彼らには、時間をかけて動いてもらう」

「謹慎が解ければ、俺も動ける」

「それまでに、基盤を整える」

 部屋の影が、リオンを包んでいた。

 その姿は、どこか哀れだった。

 だが、リオン自身は気づいていない。

 自分が、どれほど歪んでいるかを。

 執念が、彼を蝕み始めていた。

 やがて、眠りに落ちる。

 だが、その眠りは浅かった。

 悪夢が、リオンを苦しめ続けた。

 同じ頃、フェルゼン領では。

 グレンが、夜の巡回をしていた。

 騎士団の部下を連れ、領地を回る。

 松明の明かりが、道を照らしていた。

 グレンの顔は、険しかった。

 最近、妙な気配を感じていた。

 誰かが、領地を監視している。

 そんな予感がする。

 部下が、声をかけてきた。

「団長、何か気になることが?」

 グレンが、頷く。

「最近、怪しい人物がうろついている」

「何度か、見かけたんだ」

 部下が、眉をひそめた。

「旅の商人でしょうか」

 グレンが、首を横に振る。

「いや、違う」

「商人にしては、動きが不自然だ」

「何かを、探っているように見える」

 部下の表情が、険しくなった。

「では、スパイかもしれません」

 グレンが、拳を握る。

「可能性は高い」

「警戒を強めねば」

 二人は、領主館へと向かった。

 オスカーに、報告しなければならない。

 領主館に着くと、オスカーが待っていた。

 執務室で、書類を整理している。

 グレンが、扉をノックした。

「失礼します」

 オスカーが、顔を上げる。

「グレン、どうした」

 夜遅くに来るのは、珍しかった。

 グレンが、報告を始める。

「怪しい人物が、領地を監視しています」

 オスカーの表情が、変わった。

 眉間に、皺が寄る。

「詳しく聞かせてくれ」

 グレンが、これまでの状況を説明した。

 何度か目撃した、不審な人物のこと。

 旅の商人を装っているが、動きが不自然なこと。

 オスカーは、じっと聞いていた。

 やがて、深く頷く。

「やはり、来たか」

 その言葉に、グレンが驚いた。

「やはり、とは?」

 オスカーが、立ち上がった。

 窓辺に立ち、外を見る。

 月明かりが、領地を照らしていた。

「王都での対決後、こうなると思っていた」

「リオン様は、諦めていない」

「必ず、また動く」

 グレンの顔が、険しくなった。

「では、警備を強化します」

 オスカーが、頷く。

「頼む」

「そして、お嬢様とカイル閣下にも報告しよう」

 二人は、深夜まで対策を練った。

 巡回の強化、見張りの増員。

 全てを、決めていく。

 窓の外、闇の中で何かが動いていた。

 だが、誰も気づいていない。

 陰謀の影が、フェルゼンに迫っていた。

 静かに、確実に。

 嵐の前の静けさだった。

 やがて、大きな波乱が訪れる。

 それは、もうすぐそこまで来ていた。
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