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第41章 王都での対決
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カイルは、スパイを連れて王宮に乗り込んだ。
国王陛下の前で、リオンの陰謀を暴く。
王国を揺るがす、政治的対決の始まり。
玉座の間は、重苦しい空気に包まれていた。
国王陛下が、玉座に座っている。
その表情は、厳しかった。
カイルが、中央に立つ。
その隣には、縄で縛られたスパイがいた。
顔色が、青ざめている。
視線が、床に落ちていた。
貴族たちが、周囲に集まっている。
ざわめきが、広がっていた。
「財務大臣が、囚人を連れて……」
「何事だ」
囁き声が、あちこちから聞こえてくる。
カイルは、動じなかった。
背筋を伸ばし、国王陛下を見つめる。
その目には、揺るぎない決意があった。
国王陛下が、口を開く。
「カイル、何事だ」
声が、玉座の間に響いた。
カイルが、一歩前に出る。
「陛下、重大な報告がございます」
その声は、冷静だった。
だが、怒りが滲んでいる。
国王陛下が、身を乗り出した。
「申せ」
カイルが、スパイを指差す。
「この者は、フェルゼン領に侵入しました」
「四圃式農法の技術を、盗もうとしたのです」
貴族たちが、息を呑んだ。
ざわめきが、一気に大きくなる。
「技術を盗む?」
「そんなことが……」
国王陛下の目が、鋭く光った。
「誰の命令だ」
カイルが、玉座の間の奥を見た。
そこに、リオンが立っていた。
顔色が、少し青ざめている。
拳が、小さく震えていた。
カイルが、はっきりと言った。
「リオン殿下の命令です」
玉座の間が、静まり返った。
全ての視線が、リオンに集中する。
リオンの額に、汗が浮かんでいた。
唇が、わずかに震えている。
国王陛下が、低い声で言った。
「リオン、前に出よ」
リオンが、ゆっくりと歩み出る。
足取りが、少し乱れていた。
カイルの前に、立った。
二人の視線が、ぶつかる。
火花が散るような、緊張感だった。
国王陛下が、スパイを見た。
「そなた、本当か」
スパイが、震える声で答える。
「……はい、陛下」
「リオン様の命令で、フェルゼンに侵入しました」
リオンの顔が、蒼白になった。
拳を、強く握りしめる。
カイルが、懐から書類を取り出した。
それを、国王陛下に差し出す。
「陛下、こちらをご覧ください」
侍従が、書類を受け取る。
国王陛下の前に、広げた。
国王陛下が、それを読み始める。
目が、徐々に見開かれていく。
顔が、怒りで紅潮していった。
「これは……」
その声が、震えていた。
カイルが、説明を始める。
「リオン殿下の陰謀計画書です」
「技術の盗用、汚職の捏造」
「商業ギルドとの結託による経済的圧力」
「全てが、記されています」
貴族たちが、どよめいた。
信じられない、という表情だった。
国王陛下が、リオンを睨みつける。
「リオン、これは本当か」
リオンの唇が、開いた。
だが、言葉が出てこない。
喉が、渇いていた。
心臓が、激しく打っている。
やがて、小さく答えた。
「……それは、誤解です」
カイルの目が、冷たく光った。
「誤解?」
一歩、リオンに近づく。
その迫力に、リオンが一歩下がった。
カイルが、声を張り上げる。
「このスパイは、あなたの命令で動いたと証言している」
「計画書には、あなたの署名がある」
「これでも、誤解だと言うのか」
リオンの顔が、歪んだ。
視線が、泳いでいる。
逃げ場を、探しているようだった。
やがて、リオンが口を開いた。
「私は……」
声が、震えている。
「エリナを、救おうとしただけです」
その言葉に、カイルの拳が震えた。
怒りが、沸き上がってくる。
リオンが、続けた。
「カイルは、平民出身です」
「エリナには、相応しくありません」
「彼女は、騙されているのです」
貴族たちが、ざわついた。
リオンの言葉に、同調する者もいた。
「確かに、平民出身は……」
「王太子殿下のお考えも……」
だが、カイルは動じなかった。
むしろ、冷静に答える。
「エリナは、自分の意志で私を選んだ」
その声が、玉座の間に響いた。
全員が、カイルを見つめる。
カイルが、リオンを睨みつけた。
「それを否定するのは」
「彼女を侮辱しているのと同じだ」
リオンが、息を呑んだ。
その言葉が、胸に突き刺さる。
カイルが、さらに続けた。
「エリナは、あなたに婚約破棄された」
「だが、彼女は立ち上がった」
「フェルゼンを再建し、王国の模範となる領地を築いた」
「それが、彼女の強さだ」
貴族たちが、静かに頷く。
その通りだ、という空気が広がった。
カイルが、国王陛下を見た。
「陛下、リオン殿下は越権行為を犯しました」
「技術の盗用は、王国の法に反します」
「そして、私への陰謀は」
「王国の財政を危機に晒す行為です」
国王陛下が、深く頷いた。
その目には、失望が滲んでいた。
玉座から、立ち上がる。
全員が、息を呑んだ。
国王陛下が、リオンを見下ろした。
「リオン」
その声は、冷たかった。
父としてではなく、王としての声だった。
リオンが、顔を上げる。
その目には、恐怖が浮かんでいた。
国王陛下が、続ける。
「お前は、王太子としての品位を欠いた」
「技術の盗用、陰謀の企て」
「全てが、許されざる行為だ」
リオンの唇が、震えた。
「父上……」
国王陛下が、手を上げる。
その仕草が、全てを遮った。
「言い訳は聞かぬ」
「お前は、しばらく謹慎せよ」
その言葉に、リオンの顔が蒼白になった。
膝が、崩れ落ちそうになる。
だが、何とか堪えた。
「謹慎……」
小さく、呟く。
国王陛下が、玉座に戻った。
そして、宣言する。
「リオンは」
「今日より三ヶ月間、謹慎を命ずる」
「その間、一切の公務を禁ずる」
玉座の間が、再び静まり返った。
王太子の謹慎。
それは、前代未聞の出来事だった。
リオンが、膝をついた。
床に、手をついている。
肩が、小さく震えていた。
侍従が、リオンを連れ出す。
その背中が、小さく見えた。
カイルは、じっとそれを見つめていた。
表情は、厳しいままだった。
国王陛下が、カイルを見た。
「カイル、よくやった」
「王国の危機を、未然に防いでくれた」
カイルが、深く頭を下げる。
「恐れ入ります、陛下」
国王陛下が、柔らかく微笑んだ。
「エリナによろしく伝えてくれ」
「彼女の功績も、忘れてはいない」
カイルの目が、少し和らいだ。
「必ず、お伝えいたします」
謁見が、終わった。
カイルは、玉座の間を出る。
廊下に出ると、深く息を吐いた。
緊張が、解けていく。
だが、胸の奥に何かが残っていた。
リオンの最後の表情。
あの目には、まだ何かがあった。
諦めではなく、別の何か。
カイルは、首を横に振った。
今は、エリナのもとへ帰ろう。
彼女に、全てを報告しなければ。
その夜、リオンは自室にいた。
部屋の窓から、月が見えていた。
だが、その光は冷たかった。
リオンは、椅子に座っている。
机の上には、何も置かれていない。
拳を、握りしめていた。
爪が、手のひらに食い込んでいる。
血が、にじんでいた。
だが、リオンは気づいていない。
頭の中は、別のことで一杯だった。
エリナの顔。
カイルの勝ち誇った表情。
国王陛下の失望した目。
全てが、頭の中を駆け巡る。
拳を、机に叩きつけた。
鈍い音が、部屋に響く。
椅子から、立ち上がる。
窓辺に立ち、夜空を見上げた。
「これで、終わりだと思ったか……カイル」
小さく、だが確かな声で呟く。
「違う。これは、始まりに過ぎない」
リオンの目が、窓の外を見据える。
王都の街明かりの中に、カイルの屋敷があるはずだ。
「俺には、まだ味方がいる」
「貴族たちは、俺の意志を理解してくれる」
「次こそは……」
その目には、冷たい決意が宿っていた。
諦めるつもりは、ない。
エリナを取り戻す。
カイルから、彼女を奪い返す。
そのためなら、何でもする。
リオンの心は、まだ折れていなかった。
むしろ、今回の敗北が新たな執念を生んでいた。
窓の外、王都の街明かりが見える。
その中の一つが、カイルの屋敷だろう。
今頃、カイルはエリナに連絡しているかもしれない。
勝利を、報告しているのだろう。
二人で、喜び合っているのだろう。
その想像が、胸を焼いた。
リオンは、歯を食いしばる。
「必ず……」
拳を、再び握りしめた。
「必ず、取り戻す」
部屋の影が、リオンを包んでいた。
その姿は、どこか哀れだった。
だが、リオン自身は気づいていない。
自分が、どれほど歪んでいるかを。
執念が、彼を蝕み始めていた。
翌朝、カイルはフェルゼンへ向かった。
馬車が、街道を進んでいく。
カイルは、窓の外を見つめていた。
リオンの最後の表情が、頭から離れない。
あれは、諦めた目ではなかった。
むしろ、何かを企んでいる目だった。
不安が、胸に広がる。
執事が、声をかけてきた。
「閣下、大丈夫ですか」
カイルが、顔を向ける。
「ああ、大丈夫だ」
だが、その声には力がなかった。
執事が、心配そうに見つめる。
「リオン様のことですか」
カイルが、頷いた。
「彼は、まだ諦めていない」
「あの目を見て、確信した」
執事が、眉をひそめる。
「では、また何か……」
カイルが、拳を握る。
「分からない」
「だが、警戒は怠れない」
馬車が、フェルゼンに近づいていく。
カイルの心は、エリナへと向かっていた。
彼女に、全てを話さなければ。
そして、二人で次の策を考える。
リオンが何を企んでいても。
二人なら、必ず乗り越えられる。
そう、信じていた。
馬車が、領主館の門をくぐる。
エリナが、玄関で待っていた。
その姿を見て、カイルの心が温かくなった。
馬車が、止まる。
カイルが、降りた。
エリナが、駆け寄ってくる。
「お帰りなさい、カイル」
その声が、優しかった。
カイルが、エリナを抱きしめる。
「ただいま、エリナ」
「全て、終わった」
エリナが、顔を上げる。
「リオンは?」
カイルが、答える。
「謹慎処分だ。三ヶ月間」
エリナが、ホッとした表情を見せた。
「良かった……」
だが、カイルの顔は晴れない。
エリナが、それに気づく。
「カイル、何か……」
カイルが、首を横に振った。
「今は、大丈夫だ」
「中で、詳しく話そう」
二人で、領主館に入っていく。
執務室で、カイルは全てを話した。
玉座の間での対決。
リオンの弁明と敗北。
そして、最後の表情。
エリナは、じっと聞いていた。
やがて、小さく呟く。
「リオンは、まだ諦めていないのね」
カイルが、頷く。
「ああ。だから、油断はできない」
エリナが、カイルの手を握った。
「大丈夫。私たちは、一緒よ」
「何が起きても、二人で乗り越える」
カイルが、エリナを見つめる。
その目が、優しく微笑んでいた。
「ありがとう、エリナ」
二人で、静かに手を握り合った。
窓の外には、フェルゼンの平和な風景が広がっている。
だが、その平和は束の間かもしれない。
王都では、新たな陰謀が動き始めていた。
リオンの執念は、まだ終わっていない。
第二の戦いが、近づいていた。
国王陛下の前で、リオンの陰謀を暴く。
王国を揺るがす、政治的対決の始まり。
玉座の間は、重苦しい空気に包まれていた。
国王陛下が、玉座に座っている。
その表情は、厳しかった。
カイルが、中央に立つ。
その隣には、縄で縛られたスパイがいた。
顔色が、青ざめている。
視線が、床に落ちていた。
貴族たちが、周囲に集まっている。
ざわめきが、広がっていた。
「財務大臣が、囚人を連れて……」
「何事だ」
囁き声が、あちこちから聞こえてくる。
カイルは、動じなかった。
背筋を伸ばし、国王陛下を見つめる。
その目には、揺るぎない決意があった。
国王陛下が、口を開く。
「カイル、何事だ」
声が、玉座の間に響いた。
カイルが、一歩前に出る。
「陛下、重大な報告がございます」
その声は、冷静だった。
だが、怒りが滲んでいる。
国王陛下が、身を乗り出した。
「申せ」
カイルが、スパイを指差す。
「この者は、フェルゼン領に侵入しました」
「四圃式農法の技術を、盗もうとしたのです」
貴族たちが、息を呑んだ。
ざわめきが、一気に大きくなる。
「技術を盗む?」
「そんなことが……」
国王陛下の目が、鋭く光った。
「誰の命令だ」
カイルが、玉座の間の奥を見た。
そこに、リオンが立っていた。
顔色が、少し青ざめている。
拳が、小さく震えていた。
カイルが、はっきりと言った。
「リオン殿下の命令です」
玉座の間が、静まり返った。
全ての視線が、リオンに集中する。
リオンの額に、汗が浮かんでいた。
唇が、わずかに震えている。
国王陛下が、低い声で言った。
「リオン、前に出よ」
リオンが、ゆっくりと歩み出る。
足取りが、少し乱れていた。
カイルの前に、立った。
二人の視線が、ぶつかる。
火花が散るような、緊張感だった。
国王陛下が、スパイを見た。
「そなた、本当か」
スパイが、震える声で答える。
「……はい、陛下」
「リオン様の命令で、フェルゼンに侵入しました」
リオンの顔が、蒼白になった。
拳を、強く握りしめる。
カイルが、懐から書類を取り出した。
それを、国王陛下に差し出す。
「陛下、こちらをご覧ください」
侍従が、書類を受け取る。
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国王陛下が、それを読み始める。
目が、徐々に見開かれていく。
顔が、怒りで紅潮していった。
「これは……」
その声が、震えていた。
カイルが、説明を始める。
「リオン殿下の陰謀計画書です」
「技術の盗用、汚職の捏造」
「商業ギルドとの結託による経済的圧力」
「全てが、記されています」
貴族たちが、どよめいた。
信じられない、という表情だった。
国王陛下が、リオンを睨みつける。
「リオン、これは本当か」
リオンの唇が、開いた。
だが、言葉が出てこない。
喉が、渇いていた。
心臓が、激しく打っている。
やがて、小さく答えた。
「……それは、誤解です」
カイルの目が、冷たく光った。
「誤解?」
一歩、リオンに近づく。
その迫力に、リオンが一歩下がった。
カイルが、声を張り上げる。
「このスパイは、あなたの命令で動いたと証言している」
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「これでも、誤解だと言うのか」
リオンの顔が、歪んだ。
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逃げ場を、探しているようだった。
やがて、リオンが口を開いた。
「私は……」
声が、震えている。
「エリナを、救おうとしただけです」
その言葉に、カイルの拳が震えた。
怒りが、沸き上がってくる。
リオンが、続けた。
「カイルは、平民出身です」
「エリナには、相応しくありません」
「彼女は、騙されているのです」
貴族たちが、ざわついた。
リオンの言葉に、同調する者もいた。
「確かに、平民出身は……」
「王太子殿下のお考えも……」
だが、カイルは動じなかった。
むしろ、冷静に答える。
「エリナは、自分の意志で私を選んだ」
その声が、玉座の間に響いた。
全員が、カイルを見つめる。
カイルが、リオンを睨みつけた。
「それを否定するのは」
「彼女を侮辱しているのと同じだ」
リオンが、息を呑んだ。
その言葉が、胸に突き刺さる。
カイルが、さらに続けた。
「エリナは、あなたに婚約破棄された」
「だが、彼女は立ち上がった」
「フェルゼンを再建し、王国の模範となる領地を築いた」
「それが、彼女の強さだ」
貴族たちが、静かに頷く。
その通りだ、という空気が広がった。
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「陛下、リオン殿下は越権行為を犯しました」
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「リオン」
その声は、冷たかった。
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国王陛下が、続ける。
「お前は、王太子としての品位を欠いた」
「技術の盗用、陰謀の企て」
「全てが、許されざる行為だ」
リオンの唇が、震えた。
「父上……」
国王陛下が、手を上げる。
その仕草が、全てを遮った。
「言い訳は聞かぬ」
「お前は、しばらく謹慎せよ」
その言葉に、リオンの顔が蒼白になった。
膝が、崩れ落ちそうになる。
だが、何とか堪えた。
「謹慎……」
小さく、呟く。
国王陛下が、玉座に戻った。
そして、宣言する。
「リオンは」
「今日より三ヶ月間、謹慎を命ずる」
「その間、一切の公務を禁ずる」
玉座の間が、再び静まり返った。
王太子の謹慎。
それは、前代未聞の出来事だった。
リオンが、膝をついた。
床に、手をついている。
肩が、小さく震えていた。
侍従が、リオンを連れ出す。
その背中が、小さく見えた。
カイルは、じっとそれを見つめていた。
表情は、厳しいままだった。
国王陛下が、カイルを見た。
「カイル、よくやった」
「王国の危機を、未然に防いでくれた」
カイルが、深く頭を下げる。
「恐れ入ります、陛下」
国王陛下が、柔らかく微笑んだ。
「エリナによろしく伝えてくれ」
「彼女の功績も、忘れてはいない」
カイルの目が、少し和らいだ。
「必ず、お伝えいたします」
謁見が、終わった。
カイルは、玉座の間を出る。
廊下に出ると、深く息を吐いた。
緊張が、解けていく。
だが、胸の奥に何かが残っていた。
リオンの最後の表情。
あの目には、まだ何かがあった。
諦めではなく、別の何か。
カイルは、首を横に振った。
今は、エリナのもとへ帰ろう。
彼女に、全てを報告しなければ。
その夜、リオンは自室にいた。
部屋の窓から、月が見えていた。
だが、その光は冷たかった。
リオンは、椅子に座っている。
机の上には、何も置かれていない。
拳を、握りしめていた。
爪が、手のひらに食い込んでいる。
血が、にじんでいた。
だが、リオンは気づいていない。
頭の中は、別のことで一杯だった。
エリナの顔。
カイルの勝ち誇った表情。
国王陛下の失望した目。
全てが、頭の中を駆け巡る。
拳を、机に叩きつけた。
鈍い音が、部屋に響く。
椅子から、立ち上がる。
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「これで、終わりだと思ったか……カイル」
小さく、だが確かな声で呟く。
「違う。これは、始まりに過ぎない」
リオンの目が、窓の外を見据える。
王都の街明かりの中に、カイルの屋敷があるはずだ。
「俺には、まだ味方がいる」
「貴族たちは、俺の意志を理解してくれる」
「次こそは……」
その目には、冷たい決意が宿っていた。
諦めるつもりは、ない。
エリナを取り戻す。
カイルから、彼女を奪い返す。
そのためなら、何でもする。
リオンの心は、まだ折れていなかった。
むしろ、今回の敗北が新たな執念を生んでいた。
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今頃、カイルはエリナに連絡しているかもしれない。
勝利を、報告しているのだろう。
二人で、喜び合っているのだろう。
その想像が、胸を焼いた。
リオンは、歯を食いしばる。
「必ず……」
拳を、再び握りしめた。
「必ず、取り戻す」
部屋の影が、リオンを包んでいた。
その姿は、どこか哀れだった。
だが、リオン自身は気づいていない。
自分が、どれほど歪んでいるかを。
執念が、彼を蝕み始めていた。
翌朝、カイルはフェルゼンへ向かった。
馬車が、街道を進んでいく。
カイルは、窓の外を見つめていた。
リオンの最後の表情が、頭から離れない。
あれは、諦めた目ではなかった。
むしろ、何かを企んでいる目だった。
不安が、胸に広がる。
執事が、声をかけてきた。
「閣下、大丈夫ですか」
カイルが、顔を向ける。
「ああ、大丈夫だ」
だが、その声には力がなかった。
執事が、心配そうに見つめる。
「リオン様のことですか」
カイルが、頷いた。
「彼は、まだ諦めていない」
「あの目を見て、確信した」
執事が、眉をひそめる。
「では、また何か……」
カイルが、拳を握る。
「分からない」
「だが、警戒は怠れない」
馬車が、フェルゼンに近づいていく。
カイルの心は、エリナへと向かっていた。
彼女に、全てを話さなければ。
そして、二人で次の策を考える。
リオンが何を企んでいても。
二人なら、必ず乗り越えられる。
そう、信じていた。
馬車が、領主館の門をくぐる。
エリナが、玄関で待っていた。
その姿を見て、カイルの心が温かくなった。
馬車が、止まる。
カイルが、降りた。
エリナが、駆け寄ってくる。
「お帰りなさい、カイル」
その声が、優しかった。
カイルが、エリナを抱きしめる。
「ただいま、エリナ」
「全て、終わった」
エリナが、顔を上げる。
「リオンは?」
カイルが、答える。
「謹慎処分だ。三ヶ月間」
エリナが、ホッとした表情を見せた。
「良かった……」
だが、カイルの顔は晴れない。
エリナが、それに気づく。
「カイル、何か……」
カイルが、首を横に振った。
「今は、大丈夫だ」
「中で、詳しく話そう」
二人で、領主館に入っていく。
執務室で、カイルは全てを話した。
玉座の間での対決。
リオンの弁明と敗北。
そして、最後の表情。
エリナは、じっと聞いていた。
やがて、小さく呟く。
「リオンは、まだ諦めていないのね」
カイルが、頷く。
「ああ。だから、油断はできない」
エリナが、カイルの手を握った。
「大丈夫。私たちは、一緒よ」
「何が起きても、二人で乗り越える」
カイルが、エリナを見つめる。
その目が、優しく微笑んでいた。
「ありがとう、エリナ」
二人で、静かに手を握り合った。
窓の外には、フェルゼンの平和な風景が広がっている。
だが、その平和は束の間かもしれない。
王都では、新たな陰謀が動き始めていた。
リオンの執念は、まだ終わっていない。
第二の戦いが、近づいていた。
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