【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第44章 商業ギルドとの対決

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 王都の商業ギルドから、召喚状が届いた。

「フェルゼン商会の代表者は、直ちに出頭せよ」

 グレンと私は、王都へ向かった。

 その日の朝、グレンが血相を変えて執務室に駆け込んできた。

 手には、商業ギルドの封蝋が押された書状。

 私は、その瞬間に全てを悟った。

 来るべき時が、来たのだ。

 書状を開く。

 指先が、わずかに震える。

「フェルゼン商会の代表者は、王国商業ギルドへ直ちに出頭せよ。正当な理由なき場合、営業停止処分を科す」

 冷たい文面だった。

 グレンの顔が、こわばっている。

「お嬢様……これは」

 私は、深く息を吐いた。

「予想していたことです、グレン」

 カイルが、私の肩に手を置く。

「エリナ、私も一緒に行く」

 私は、首を横に振った。

「いえ、最初はグレンと二人で」

「カイルは、最後の切り札です」

 カイルが、不安そうな表情を見せる。

 だが、私は微笑んだ。

「大丈夫です。私は、もう怖くない」

 前世の記憶が、蘇ってくる。

 二周目で、商業ギルドに潰された。

 彼らの圧力に屈し、商会は破綻した。

 あの時、私は一人だった。

 だが、今は違う。

 グレンがいる。

 カイルがいる。

 皆がいる。

 拳を、握りしめた。

「今回は、勝ちます」

 三日後、私たちは王都にいた。

 商業ギルド本部の前に、馬車が停まる。

 石造りの巨大な建物だった。

 入り口には、金色の商人のシンボルが掲げられている。

 グレンが、扉を開けた。

「お嬢様、参りましょう」

 私は、頷いた。

 中に入ると、広い円形のホールがあった。

 天井は高く、壁には歴代の商業ギルド長の肖像画が並んでいる。

 受付の女性が、私たちを見た。

「フェルゼン商会の方々ですね」

 その声が、冷たかった。

「ギルド長がお待ちです。こちらへ」

 案内されたのは、奥の大広間だった。

 円卓の周りに、十人ほどの商人が座っている。

 全員、険しい表情だった。

 円卓の隅、影の中に一人の男が座っていた。

 顔は見えないが、その存在感だけで部屋の空気が変わる。

 その男の服装は、王国のものとは少し違っていた。

 襟元の装飾が、見慣れない様式だった。

 (外国の商人……?)

 私は、一瞬そう思った。

 だが、商人にしては、その目つきが鋭すぎる。

 まるで、軍人のような。


 私は、その男に視線を向けた。

 だが、男は何も言わない。

 ただ、静かに観察しているだけだった。

 (この男は、誰……?)

 心の中で、疑問が浮かぶ。

 だが、ギルド長が口を開いたため、私は注意を戻した。

 一番奥に座る男が、ギルド長だと分かった。

 五十代くらい。

 太った体に、高価な服。

 だが、目は鋭かった。

 ギルド長が、私たちを見下ろした。

「フェルゼン商会か」

 その声には、敵意が滲んでいた。

 私は、深々と頭を下げた。

「お招きいただき、ありがとうございます」

 グレンも、礼をする。

 ギルド長が、鼻を鳴らした。

「礼など、いらん」

 拳で、机を叩く。

 鈍い音が、響いた。

「単刀直入に言おう」

「お前たちの商会は、成長しすぎだ」

 私は、顔を上げた。

「成長しすぎ……ですか?」

 ギルド長の目が、細くなる。

「一ヶ月で取引先十件」

「高級市場を、ほぼ独占している」

「これは、市場の秩序を乱す行為だ」

 隣の商人が、書類を広げた。

「価格も、通常の三倍」

「他の商人たちが、商売できなくなっている」

 別の商人が、顔を歪めた。

「我々の利益を、奪っている」

 私は、冷静さを保った。

「それは、誤解です」

 ギルド長が、眉を上げる。

「誤解?」

 私は、一歩前に出た。

「私たちは、正当な取引をしています」

「価格は、品質に見合ったものです」

 ギルド長が、笑った。

 だが、笑みは目に届いていない。

「品質?ただの小麦ではないか」

 グレンが、口を開く。

「ただの小麦ではありません」

「フェルゼン産は、四圃式農法により――」

 ギルド長が、手を振った。

「農法など、どうでもいい」

「問題は、お前たちが我々の許可なく商売を始めたことだ」

 私の心臓が、高鳴った。

 これが、本音だった。

 彼らは、新参者を潰したいだけ。

 品質も、価格も、口実に過ぎない。

 だが、私は動じなかった。

 むしろ、笑みを浮かべた。

「では、許可が必要だったのですか?」

 ギルド長が、頷く。

「当然だ。商業ギルドは、王国の商取引を管理している」

 私は、首を傾げた。

「では、なぜ私たちに事前に通知がなかったのですか?」

 ギルド長の顔が、赤くなる。

「それは……」

 私は、続けた。

「私たちは、王国の法律に従って商会を設立しました」

「商業ギルドの許可は、法律上必要ありません」

 商人たちが、ざわめいた。

 グレンが、書類を取り出す。

「これが、フェルゼン領の商業免許証です」

「領主、カイル・ヴェルナーの承認済みです」

 ギルド長が、書類を奪い取った。

 目を通す。

 顔色が、変わっていく。

「……確かに、合法だ」

 だが、すぐに机に叩きつけた。

「だが、価格が高すぎる」

「これは、市場の独占行為だ」

 私は、深く息を吸った。

 今こそ、反撃の時だった。

「では、品質を証明しましょう」

 その言葉に、ギルド長が眉を上げた。

「証明?」

 私は、頷いた。

「はい。フェルゼン産小麦と、他産地の小麦を比較していただきます」

 グレンが、袋を取り出した。

 中には、二種類の小麦が入っている。

 一つは、フェルゼン産。

 もう一つは、王都近郊の小麦だった。

 私は、それを机に並べた。

「こちらが、フェルゼン産」

「こちらが、一般的な小麦です」

 ギルド長が、興味深そうに見た。

「見た目は、確かに違うな」

 フェルゼン産は、粒が大きく艶やかだった。

 色も、明るい金色をしている。

 対して、一般的な小麦は小さく、色もくすんでいた。

 私は、商人たちを見回した。

「皆様の中で、製粉業者の方はいらっしゃいますか?」

 一人の男が、手を挙げた。

「私が、製粉業者だ」

 私は、小麦を渡した。

「では、この二つを挽いてみてください」

 男は、少し戸惑いながらも受け取った。

 その場で、小さな石臼を使って挽き始める。

 しばらくして、二種類の粉が出来上がった。

 男の目が、見開かれた。

「これは……」

 その声が、震えている。

「フェルゼン産は、粉が細かい」

「そして、香りが違う」

 男は、粉を鼻に近づけた。

「小麦の香りが、非常に強い」

 ギルド長が、立ち上がった。

「本当か?」

 男は、頷く。

「はい、間違いありません」

「この品質なら、高級パンに最適です」

 私は、微笑んだ。

「では、実際にパンにしてみましょう」

 グレンが、小さなオーブンを持ってきた。

 これも、事前に準備していたものだった。

 その場で、二種類のパンを焼く。

 部屋中に、香ばしい匂いが広がった。

 十五分後、パンが焼き上がった。

 私は、それを切り分けて商人たちに配った。

「どうぞ、お召し上がりください」

 商人たちが、恐る恐るパンを口にする。

 最初は、疑いの表情だった。

 だが、すぐに顔が変わった。

「これは……」

「なんという味だ」

「フェルゼン産の方が、明らかに美味い」

 ギルド長も、パンを食べた。

 その顔が、驚愕に染まる。

「……本当に、違う」

「こんなに差があるとは」

 影の中の男も、パンを食べていた。

 だが、表情は変わらない。

 ただ、じっと私を見つめている。

 その視線が、背筋に冷たいものを走らせた。

 私は、全員を見渡した。

「これが、フェルゼン産の品質です」

「私たちは、四圃式農法という革新的な技術を使っています」

「土地を休ませず、連作障害を防ぎ、品質を向上させる」

「この技術により、従来の小麦とは比べ物にならない品質を実現しました」

 商人たちが、顔を見合わせる。

 誰も、反論できなかった。

 私は、ギルド長を見た。

「価格が高いのは、この品質があるからです」

「王都の高級レストランや貴族の方々が、喜んで購入してくださる」

「それは、不当な独占ではありません」

「正当な、価値の提供です」

 ギルド長の顔が、赤くなった。

 だが、言葉が出てこない。

 私は、続けた。

「もし、あなた方も同じ品質を出せるなら、同じ価格で売れるでしょう」

「それを妬むなら、あなた方も努力すべきです」

 その言葉に、ギルド長が拳を握りしめた。

「……くっ」

 だが、その時だった。

 扉が、開いた。

 全員が、振り返る。

 そこには、カイルが立っていた。

 紺色の財務大臣の制服を着ている。

 胸には、王国の紋章が輝いていた。

 ギルド長の顔色が、変わった。

「財務大臣閣下……」

 カイルが、室内に入ってくる。

 その足音が、重く響いた。

「商業ギルドは、不当な圧力をかけるのか」

 その声が、冷たかった。

 ギルド長が、慌てて頭を下げた。

「いえ、そのようなことは」

 カイルが、私の隣に立つ。

 手が、私の肩に置かれた。

「フェルゼン商会は、王国経済の模範だ」

「技術革新により、品質を向上させ、新たな市場を開拓した」

「これこそ、王国が求める商業の姿だ」

 ギルド長が、言葉に詰まる。

 カイルが、全員を見渡した。

「もし、商業ギルドがフェルゼン商会を妨害するなら」

「それは、王国経済への反逆とみなす」

 その言葉に、商人たちの顔が青ざめた。

 ギルド長が、深く頭を下げた。

「申し訳ございません、閣下」

「私たちの、不明でした」

 カイルが、頷く。

「分かればいい」

 そして、私を見た。

「エリナ、行こう」

 私は、最後にギルド長を見た。

「今日は、お時間をいただきありがとうございました」

 そう言って、深々と頭を下げた。

 礼儀を、欠かさない。

 グレンも、礼をする。

 私たちは、静かに広間を出た。

 だが、扉を閉める直前、私は振り返った。

 影の中の男が、まだ座っている。

 その顔は、闇に隠れて見えない。

 だが、その視線だけは確かに感じた。

 冷たく、鋭い視線。

 まるで、全てを見透かすような。

 背筋に、悪寒が走った。

 商業ギルドを出ると、青空が広がっていた。

 風が、心地よく吹いている。

 グレンが、大きく息を吐いた。

「お嬢様、お見事でした」

 その声が、感動に震えていた。

 私は、微笑んだ。

「グレンのおかげです」

 カイルが、私の手を取る。

「よく頑張ったな、エリナ」

 その目が、優しかった。

 私は、カイルを見上げた。

「ありがとう、カイル」

「最後に来てくれて」

 カイルが、微笑む。

「当然だ。君を守るのが、私の役目だ」

 胸が、温かくなった。

 だが、心の奥に小さな引っかかりが残っていた。

 あの影の中にいた男。

 最後まで、一言も発さなかった。

 ただ、私たちを観察していただけ。

 あの視線は、ギルド長のような敵意ではなかった。

 冷静で、分析的で、まるで……。

 (まるで、データを収集しているような)

 カイルが、私の表情を見て首を傾げた。

「エリナ、何が気になる?」

 私は、少し迷ったが、伝えることにした。

「あの、影の中にいた男性……」

「外国の方のように見えました」

 カイルの表情が、わずかに変わる。

「外国?」

「ああ、確かに……」

 カイルも、何かに気づいた様子だった。

「最近、隣国の商人が増えていると報告があった」

「技術への関心が、高まっているのかもしれない」

 前世の記憶が、かすかに蘇る。

 二周目で、隣国のスパイに技術を盗まれた。

 あの時も、こんな違和感があった気がする。

 私は、首を横に振った。

 今は、考えすぎかもしれない。

 だが、警戒は怠れない。

 カイルが、私の肩に手を置いた。

「エリナ、何か気になることが?」

 私は、首を横に振った。

「いえ、何でもありません」

 だが、胸の奥の不安は消えなかった。

 三人で、馬車に乗り込む。

 御者が、手綱を引いた。

 馬車が、ゆっくりと動き出す。

 私は、窓から王都の街を見た。

 活気に満ちた街並みが、広がっている。

 この街で、私たちは勝った。

 商業ギルドという、巨大な壁を乗り越えた。

 グレンが、書類を広げる。

「お嬢様、これで商業ギルドも敵に回せないはずです」

 私は、頷いた。

「ええ、これからは堂々と商売ができます」

 カイルが、私を見た。

「次は、何をする?」

 私は、少し考えた。

 前世の知識が、蘇ってくる。

 商会の成功には、流通が不可欠だった。

「次は、流通ルートの確保です」

 カイルが、興味深そうに聞く。

「流通ルート?」

 私は、頷いた。

「はい。街道を整備して、物流を効率化します」

「そうすれば、商品をより速く、より多くの場所に届けられます」

 グレンが、目を輝かせた。

「素晴らしいアイデアです」

「では、街道整備の計画を立てましょう」

 カイルが、満足そうに微笑んだ。

「さすがだな、エリナ」

「君の経営手腕は、本物だ」

 私は、頬が熱くなった。

 恥ずかしさと、誇らしさが混ざっている。

 窓の外を見ると、王都の城壁が見えた。

 もうすぐ、城門を出る。

 フェルゼンへ、帰る道だった。

 私は、心の中で誓った。

 必ず、フェルゼンを王国一の領地にする。

 そして、皆が幸せに暮らせる場所にする。

 その夢が、少しずつ現実になっていた。

 馬車が、城門を抜けた。

 前には、長い街道が続いている。

 この道を、もっと良くしよう。

 人々が、安全に速く移動できるように。

 商品が、滞りなく流通するように。

 次の投資先は、インフラだった。

 街道整備と、倉庫建設。

 フェルゼンを、王国の物流拠点にする。

 その計画が、頭の中で形になっていく。

 カイルが、私の手を握った。

「エリナ、一緒に頑張ろう」

 私も、カイルの手を握り返した。

「はい、一緒に」

 二人で、未来を見つめた。

 希望に満ちた、未来を。

 だが、まだ私たちは知らなかった。

 あの影の中にいた男が、誰だったのかを。

 そして、その男の正体が、私たちの平和を脅かすことになることを。
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