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第45章 街道整備計画
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商会の成功で、資金が潤沢になった。
次の投資先は、街道と倉庫。
フェルゼンを、王国の物流拠点にする計画。
商業ギルドとの戦いから、一週間が過ぎた。
フェルゼンに戻った私たちは、すぐに次の計画に取りかかっていた。
執務室の机には、街道の地図が広げられている。
私とグレン、そしてオスカーが、それを見つめていた。
カイルも、隣に座っている。
私は、地図上の線を指でなぞった。
「ここが、王都へ続く街道です」
その線は、曲がりくねっていた。
途中には、森や沼地が描かれている。
グレンが、顔をしかめた。
「この道、かなり荒れています」
「馬車が通るのも、一苦労です」
オスカーが、書類を見る。
「現在、王都までは3時間で到着できます」
「だが、道が荒れているため、貨物馬車は速度を落とさざるを得ません」
「商品の破損率も高く、せっかくの高品質小麦が傷んでしまいます」
私は、頷いた。
前世の知識が、蘇ってくる。
物流の効率化。
それこそが、経済発展の鍵だった。
「ロジスティクスが、全ての基本です」
カイルが、興味深そうに聞く。
「ロジスティクス?」
私は、説明を始めた。
「物流のことです」
「商品を安全に、大量に運べれば、商売が拡大します」
「今の道は馬車一台がやっと。しかも悪天候では通行できません」
「街道を整備すれば、大型馬車が二台並んで走れるようになります」
「そして石畳を敷けば、『フェルゼン印』
の品質を輸送中も保証できます」
グレンの目が、輝いた。
「素晴らしい」
「では、街道整備に投資しましょう」
だが、オスカーが慎重な顔をした。
「お嬢様、費用はどれくらいですか?」
グレンが、計算を始める。
指を折りながら、呟いた。
「道幅を倍に拡張し、石畳を全面に敷き、橋を補修する」
「これにより、大型馬車が二台並走できるようになります」
「さらに、倉庫を三棟建設すれば、物流拠点として機能します」
「石畳の舗装で、雨天時も『フェルゼン印』の品質が保たれます」
しばらくして、グレンが顔を上げた。
「金貨三十枚は、必要です」
オスカーが、補足する。
「ですが、これにより輸送容量は倍増し、品質保証も実現できます」
「高級ブランド『フェルゼン印』を支える、必須の投資です」
オスカーが、息を呑んだ。
「三十枚……大きな額ですね」
私は、資金台帳を開いた。
現在の残高を、確認する。
商会の利益が、順調に増えている。
王国の援助金貨五十枚もある。
そして、私の個人資産も合わせれば……。
「資金は、十分にあります」
カイルが、私の肩に手を置いた。
「エリナ、慎重にな」
「一度に大きく投資すると、リスクもある」
私は、カイルを見た。
その目が、心配そうだった。
だが、私には確信があった。
この投資は、必ず成功する。
「大丈夫です、カイル」
「この投資は、時間短縮のためではありません」
「『フェルゼン印』という高級ブランドを支えるためです」
「輸送中に品質が損なわれては、三倍の価格は維持できません」
「そして、物流容量が倍になれば、取引先も倍に増やせます」
カイルが、理解した表情を見せる。
「なるほど、品質保証とブランド戦略か」
「さすがだな、エリナ」
私は、微笑んだ。
「ありがとう」
グレンが、立ち上がる。
「では、すぐに工事の準備を始めます」
オスカーも、頷いた。
「資金の手配を、いたします」
私は、二人を見た。
「お願いします」
会議が、終わった。
だが、私の胸には期待が高まっていた。
これが、フェルゼンを変える。
必ず、成功させる。
翌日、街道整備工事が始まった。
フェルゼンの中央広場に、住民たちが集まっている。
私は、台の上に立っていた。
グレンが、隣で計画書を持っている。
皆の視線が、私に注がれた。
私は、深く息を吸った。
「皆さん、今日からフェルゼンの街道を整備します」
声が、広場に響く。
住民たちが、ざわめいた。
一人の男が、手を挙げた。
「お嬢様、私たちに何かできることはありますか?」
私は、頷いた。
「はい、皆さんの力が必要です」
グレンが、計画書を広げる。
「道を広げ、石を敷き、橋を直します」
「これには、多くの人手が要ります」
男が、力強く頷いた。
「分かりました。私も手伝います」
他の住民たちも、声を上げた。
「俺も!」
「私も手伝います」
温かい声が、広がっていく。
私の目が、潤んできた。
この人たちが、私を支えてくれている。
ディーターが、前に出てきた。
騎士団長の彼が、剣を掲げる。
「騎士団も、全面協力します」
その声が、力強かった。
私は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、皆さん」
こうして、工事が始まった。
住民たちが、道に出ている。
男たちが、鍬を持って土を掘る。
女たちが、石を運んでいた。
子供たちも、小さな石を拾っている。
皆が、一緒に働いていた。
ディーターが、騎士団を指揮する。
「こっちに、もっと石を」
「橋の補修を、優先しろ」
的確な指示が、飛んでいく。
工事は、順調に進んでいた。
私とカイルは、現場を見て回る。
住民の一人が、汗を拭いていた。
私は、その男に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
男が、振り返った。
そして、笑顔を見せる。
「はい、お嬢様」
「こうして皆で働くのは、久しぶりです」
その目が、輝いていた。
別の女性が、近づいてくる。
「お嬢様、お水をどうぞ」
水筒を、差し出してくれた。
私は、受け取った。
「ありがとう」
一口飲む。
冷たい水が、喉を潤した。
カイルも、水を受け取る。
「皆、よく働いているな」
私は、頷いた。
「ええ。皆が、フェルゼンを愛しているんです」
カイルが、私の手を取った。
「君が、この気持ちを引き出したんだ」
胸が、温かくなった。
二週間後、道の拡張が完了した。
以前は、馬車一台がやっとだった道。
今は、二台が並んで通れる。
グレンが、満足そうに頷いた。
「これで、物流が大幅に改善します」
次は、石畳を敷く作業だった。
住民たちが、石を運んでくる。
一つ一つ、丁寧に並べていく。
マリアも、手伝っていた。
スカートの裾を少し上げて、石を運ぶ。
私も、一緒に作業をする。
カイルが、驚いた顔をした。
「エリナ、君は領主だぞ」
私は、微笑んだ。
「皆と一緒に働くのが、好きなんです」
カイルも、笑った。
そして、上着を脱ぐ。
「では、私も手伝おう」
二人で、石を運んだ。
住民たちが、驚いている。
だが、すぐに笑顔になった。
「閣下も、手伝ってくださるんですね」
「ありがとうございます」
カイルが、汗を拭う。
「久しぶりに、体を動かしたな」
私も、汗をかいていた。
だが、心地よかった。
一ヶ月後、橋の補修も終わった。
古い木造の橋が、石造りに変わっている。
頑丈で、美しい橋だった。
オスカーが、報告書を持ってくる。
「お嬢様、工事費用の集計です」
書類を見ると、金貨二十八枚と書かれていた。
予算内に、収まっている。
私は、頷いた。
「素晴らしい」
グレンが、別の書類を広げた。
「そして、倉庫の建設も始まりました」
地図上に、新しい建物が描かれている。
街道沿いに、三つの倉庫。
そこに、商品を保管する計画だった。
「収穫物を保管し、安定供給を実現します」
私は、グレンの説明に耳を傾けた。
全てが、順調に進んでいた。
三ヶ月後、街道が完成した。
フェルゼンから王都まで、広々とした道が続いている。
美しい石畳が、太陽の光を反射して輝いていた。
馬車が二台、楽々と並んで走れる幅だ。
橋も頑丈に補修され、倉庫も三棟建っている。
「これなら、雨の日でも安心して商品を運べる」
グレンが、満足そうに頷いた。
完成式典の日、私たちは街道の入り口に立っていた。
住民たちが、集まっている。
皆、誇らしげな表情だった。
私は、前に出た。
「皆さん、ありがとうございました」
声が、少し震える。
「この街道は、皆さんの努力の結晶です」
拍手が、起こった。
温かい拍手の音が、広がっていく。
カイルが、隣に立つ。
「フェルゼンの街道は、王国で最も美しい」
その言葉に、住民たちが歓声を上げた。
完成式典の後、最初の商隊が通った。
王都からの商人が、馬車で到着する。
商人が、馬車から降りてきた。
その顔が、驚きに染まっている。
「これは……素晴らしい」
「こんなに整備された街道は、初めてだ」
グレンが、商人に近づく。
「いかがでしたか?」
商人が、興奮した様子で答えた。
「王都から3時間、一度も速度を落とさず走れた」
「しかも、荷物が全く揺れない」
「以前は同じ3時間でも、道が荒れていて商品が傷んだものだ」
グレンの目が、輝いた。
「では、品質を保ったまま輸送できたと」
商人が、頷く。
「ああ、これなら取引が大幅に増える」
「それに、大型馬車が二台並んで走れるから、一度に運べる量も倍だ」
「フェルゼンルートは、王国で最高の物流路だ」
その言葉が、すぐに広まった。
次の週、商隊の数が倍増した。
王都から、毎日のように商人が来る。
大型馬車が二台並んで走る光景に、皆が驚いていた。
「これほど立派な街道は、王都周辺でも珍しい」
「しかも、雨が降っても商品が傷まない」
「『フェルゼン印』
の品質が、最後まで保証されるわけだ」
商会の利益も、急増した。
輸送容量が倍になり、取引先も倍増したためだった。
グレンが、報告書を持ってくる。
「お嬢様、今月の収入です」
書類には、金貨百二十枚と書かれていた。
先月の金貨八十枚から、一気に増えている。
オスカーが、別の書類を広げた。
「年間税収の予測も、更新しました」
そこには、金貨百五十枚と書かれている。
以前の予測、金貨百枚を大幅に超えていた。
私は、息を呑んだ。
「これは……」
カイルが、満足そうに微笑んだ。
「君の計画は、完璧だ」
「インフラ投資が、これほど効果的だとは」
私も、微笑んだ。
だが、それだけではなかった。
マリアが、別の報告を持ってくる。
「お嬢様、人口調査の結果です」
書類を見ると、驚くべき数字があった。
八千人。
三ヶ月で、さらに五百人も増えていた。
「どうして……?」
グレンが、説明を始めた。
「街道整備の噂が、王国中に広まりました」
「『フェルゼンは、発展している』と」
「それを聞いて、多くの人が移住してきています」
窓の外を見ると、新しい家が建っている。
市場も、以前より賑わっていた。
人々の笑顔が、溢れている。
私は、立ち上がった。
窓辺に立ち、街を見下ろす。
一年前、ここは荒れ地だった。
だが、今は違う。
活気に満ちた、希望の街になっている。
涙が、溢れてきた。
カイルが、私の肩を抱く。
「よく頑張ったな、エリナ」
私は、カイルに寄り添った。
「カイルがいてくれたから」
「一人じゃ、ここまで来られなかった」
カイルが、優しく微笑む。
「これからも、一緒に歩こう」
私は、頷いた。
「ええ」
二人で、静かに街を見つめた。
この景色が、ずっと続けばいい。
心から、そう願った。
だが、成長の裏で新たな課題が生まれていた。
翌日、オスカーが慌てて執務室に駆け込んできた。
顔色が、悪かった。
「お嬢様、大変です」
私は、驚いて立ち上がる。
「どうしたの、オスカー」
オスカーが、書類を差し出した。
手が、震えている。
「住民が、増えすぎています」
書類を見ると、詳細な調査結果があった。
現在の人口、八千人。
だが、住居は七千人分しかない。
つまり、千人が適切な住居を持っていなかった。
私は、眉をひそめた。
「これは、問題ね」
グレンも、入ってくる。
「お嬢様、移住者が毎日来ています」
「このままでは、住居不足が深刻化します」
カイルが、地図を広げた。
「新しい居住区が、必要だな」
私は、地図を見た。
フェルゼンの街は、領主館を中心に広がっている。
だが、もう拡張の余地が少なかった。
私は、地図上の空き地を指差した。
「ここに、新しい居住区を作りましょう」
グレンが、計算を始める。
「それには、さらなる投資が必要です」
「家を建て、井戸を掘り、道を整備する」
「金貨五十枚は、かかります」
オスカーが、資金台帳を確認した。
「現在の資金で、可能です」
「だが、余裕はあまりありません」
私は、深く考えた。
フェルゼンは、急速に成長している。
だが、その成長に追いつくのは大変だった。
課題が、次々と生まれてくる。
だが、それは良い兆候でもあった。
成長している証拠だった。
私は、決断した。
「新しい居住区を、作ります」
グレンが、頷く。
「分かりました」
「すぐに、計画を立てます」
オスカーも、資金の手配を始める。
カイルが、私の肩に手を置いた。
「エリナ、無理はするな」
私は、微笑んだ。
「大丈夫です」
「私には、皆がいますから」
カイルが、優しく頷いた。
窓の外を見ると、夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光が、街を照らしていた。
フェルゼンは、変わり続けている。
小さな領地が、都市へと変貌しようとしていた。
その変化を、私は導いていく。
どんな課題が来ても、乗り越える。
皆と一緒なら、きっとできる。
そう、信じていた。
だが、その時はまだ気づいていなかった。
成長の速さが、新たな問題を生むことに。
そして、その問題が私たちを試すことになる。
それを、知るのはもう少し先のことだった。
そして、王国の外からも、視線が注がれていることに。
フェルゼンの成功は、もはや王国内だけの話ではなくなっていた。
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【作者コメント】
この作品をお読みいただき、ありがとうございました。
感想やご意見などございましたら、お気軽にお寄せください。
今後ともよろしくお願いいたします。
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次の投資先は、街道と倉庫。
フェルゼンを、王国の物流拠点にする計画。
商業ギルドとの戦いから、一週間が過ぎた。
フェルゼンに戻った私たちは、すぐに次の計画に取りかかっていた。
執務室の机には、街道の地図が広げられている。
私とグレン、そしてオスカーが、それを見つめていた。
カイルも、隣に座っている。
私は、地図上の線を指でなぞった。
「ここが、王都へ続く街道です」
その線は、曲がりくねっていた。
途中には、森や沼地が描かれている。
グレンが、顔をしかめた。
「この道、かなり荒れています」
「馬車が通るのも、一苦労です」
オスカーが、書類を見る。
「現在、王都までは3時間で到着できます」
「だが、道が荒れているため、貨物馬車は速度を落とさざるを得ません」
「商品の破損率も高く、せっかくの高品質小麦が傷んでしまいます」
私は、頷いた。
前世の知識が、蘇ってくる。
物流の効率化。
それこそが、経済発展の鍵だった。
「ロジスティクスが、全ての基本です」
カイルが、興味深そうに聞く。
「ロジスティクス?」
私は、説明を始めた。
「物流のことです」
「商品を安全に、大量に運べれば、商売が拡大します」
「今の道は馬車一台がやっと。しかも悪天候では通行できません」
「街道を整備すれば、大型馬車が二台並んで走れるようになります」
「そして石畳を敷けば、『フェルゼン印』
の品質を輸送中も保証できます」
グレンの目が、輝いた。
「素晴らしい」
「では、街道整備に投資しましょう」
だが、オスカーが慎重な顔をした。
「お嬢様、費用はどれくらいですか?」
グレンが、計算を始める。
指を折りながら、呟いた。
「道幅を倍に拡張し、石畳を全面に敷き、橋を補修する」
「これにより、大型馬車が二台並走できるようになります」
「さらに、倉庫を三棟建設すれば、物流拠点として機能します」
「石畳の舗装で、雨天時も『フェルゼン印』の品質が保たれます」
しばらくして、グレンが顔を上げた。
「金貨三十枚は、必要です」
オスカーが、補足する。
「ですが、これにより輸送容量は倍増し、品質保証も実現できます」
「高級ブランド『フェルゼン印』を支える、必須の投資です」
オスカーが、息を呑んだ。
「三十枚……大きな額ですね」
私は、資金台帳を開いた。
現在の残高を、確認する。
商会の利益が、順調に増えている。
王国の援助金貨五十枚もある。
そして、私の個人資産も合わせれば……。
「資金は、十分にあります」
カイルが、私の肩に手を置いた。
「エリナ、慎重にな」
「一度に大きく投資すると、リスクもある」
私は、カイルを見た。
その目が、心配そうだった。
だが、私には確信があった。
この投資は、必ず成功する。
「大丈夫です、カイル」
「この投資は、時間短縮のためではありません」
「『フェルゼン印』という高級ブランドを支えるためです」
「輸送中に品質が損なわれては、三倍の価格は維持できません」
「そして、物流容量が倍になれば、取引先も倍に増やせます」
カイルが、理解した表情を見せる。
「なるほど、品質保証とブランド戦略か」
「さすがだな、エリナ」
私は、微笑んだ。
「ありがとう」
グレンが、立ち上がる。
「では、すぐに工事の準備を始めます」
オスカーも、頷いた。
「資金の手配を、いたします」
私は、二人を見た。
「お願いします」
会議が、終わった。
だが、私の胸には期待が高まっていた。
これが、フェルゼンを変える。
必ず、成功させる。
翌日、街道整備工事が始まった。
フェルゼンの中央広場に、住民たちが集まっている。
私は、台の上に立っていた。
グレンが、隣で計画書を持っている。
皆の視線が、私に注がれた。
私は、深く息を吸った。
「皆さん、今日からフェルゼンの街道を整備します」
声が、広場に響く。
住民たちが、ざわめいた。
一人の男が、手を挙げた。
「お嬢様、私たちに何かできることはありますか?」
私は、頷いた。
「はい、皆さんの力が必要です」
グレンが、計画書を広げる。
「道を広げ、石を敷き、橋を直します」
「これには、多くの人手が要ります」
男が、力強く頷いた。
「分かりました。私も手伝います」
他の住民たちも、声を上げた。
「俺も!」
「私も手伝います」
温かい声が、広がっていく。
私の目が、潤んできた。
この人たちが、私を支えてくれている。
ディーターが、前に出てきた。
騎士団長の彼が、剣を掲げる。
「騎士団も、全面協力します」
その声が、力強かった。
私は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、皆さん」
こうして、工事が始まった。
住民たちが、道に出ている。
男たちが、鍬を持って土を掘る。
女たちが、石を運んでいた。
子供たちも、小さな石を拾っている。
皆が、一緒に働いていた。
ディーターが、騎士団を指揮する。
「こっちに、もっと石を」
「橋の補修を、優先しろ」
的確な指示が、飛んでいく。
工事は、順調に進んでいた。
私とカイルは、現場を見て回る。
住民の一人が、汗を拭いていた。
私は、その男に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
男が、振り返った。
そして、笑顔を見せる。
「はい、お嬢様」
「こうして皆で働くのは、久しぶりです」
その目が、輝いていた。
別の女性が、近づいてくる。
「お嬢様、お水をどうぞ」
水筒を、差し出してくれた。
私は、受け取った。
「ありがとう」
一口飲む。
冷たい水が、喉を潤した。
カイルも、水を受け取る。
「皆、よく働いているな」
私は、頷いた。
「ええ。皆が、フェルゼンを愛しているんです」
カイルが、私の手を取った。
「君が、この気持ちを引き出したんだ」
胸が、温かくなった。
二週間後、道の拡張が完了した。
以前は、馬車一台がやっとだった道。
今は、二台が並んで通れる。
グレンが、満足そうに頷いた。
「これで、物流が大幅に改善します」
次は、石畳を敷く作業だった。
住民たちが、石を運んでくる。
一つ一つ、丁寧に並べていく。
マリアも、手伝っていた。
スカートの裾を少し上げて、石を運ぶ。
私も、一緒に作業をする。
カイルが、驚いた顔をした。
「エリナ、君は領主だぞ」
私は、微笑んだ。
「皆と一緒に働くのが、好きなんです」
カイルも、笑った。
そして、上着を脱ぐ。
「では、私も手伝おう」
二人で、石を運んだ。
住民たちが、驚いている。
だが、すぐに笑顔になった。
「閣下も、手伝ってくださるんですね」
「ありがとうございます」
カイルが、汗を拭う。
「久しぶりに、体を動かしたな」
私も、汗をかいていた。
だが、心地よかった。
一ヶ月後、橋の補修も終わった。
古い木造の橋が、石造りに変わっている。
頑丈で、美しい橋だった。
オスカーが、報告書を持ってくる。
「お嬢様、工事費用の集計です」
書類を見ると、金貨二十八枚と書かれていた。
予算内に、収まっている。
私は、頷いた。
「素晴らしい」
グレンが、別の書類を広げた。
「そして、倉庫の建設も始まりました」
地図上に、新しい建物が描かれている。
街道沿いに、三つの倉庫。
そこに、商品を保管する計画だった。
「収穫物を保管し、安定供給を実現します」
私は、グレンの説明に耳を傾けた。
全てが、順調に進んでいた。
三ヶ月後、街道が完成した。
フェルゼンから王都まで、広々とした道が続いている。
美しい石畳が、太陽の光を反射して輝いていた。
馬車が二台、楽々と並んで走れる幅だ。
橋も頑丈に補修され、倉庫も三棟建っている。
「これなら、雨の日でも安心して商品を運べる」
グレンが、満足そうに頷いた。
完成式典の日、私たちは街道の入り口に立っていた。
住民たちが、集まっている。
皆、誇らしげな表情だった。
私は、前に出た。
「皆さん、ありがとうございました」
声が、少し震える。
「この街道は、皆さんの努力の結晶です」
拍手が、起こった。
温かい拍手の音が、広がっていく。
カイルが、隣に立つ。
「フェルゼンの街道は、王国で最も美しい」
その言葉に、住民たちが歓声を上げた。
完成式典の後、最初の商隊が通った。
王都からの商人が、馬車で到着する。
商人が、馬車から降りてきた。
その顔が、驚きに染まっている。
「これは……素晴らしい」
「こんなに整備された街道は、初めてだ」
グレンが、商人に近づく。
「いかがでしたか?」
商人が、興奮した様子で答えた。
「王都から3時間、一度も速度を落とさず走れた」
「しかも、荷物が全く揺れない」
「以前は同じ3時間でも、道が荒れていて商品が傷んだものだ」
グレンの目が、輝いた。
「では、品質を保ったまま輸送できたと」
商人が、頷く。
「ああ、これなら取引が大幅に増える」
「それに、大型馬車が二台並んで走れるから、一度に運べる量も倍だ」
「フェルゼンルートは、王国で最高の物流路だ」
その言葉が、すぐに広まった。
次の週、商隊の数が倍増した。
王都から、毎日のように商人が来る。
大型馬車が二台並んで走る光景に、皆が驚いていた。
「これほど立派な街道は、王都周辺でも珍しい」
「しかも、雨が降っても商品が傷まない」
「『フェルゼン印』
の品質が、最後まで保証されるわけだ」
商会の利益も、急増した。
輸送容量が倍になり、取引先も倍増したためだった。
グレンが、報告書を持ってくる。
「お嬢様、今月の収入です」
書類には、金貨百二十枚と書かれていた。
先月の金貨八十枚から、一気に増えている。
オスカーが、別の書類を広げた。
「年間税収の予測も、更新しました」
そこには、金貨百五十枚と書かれている。
以前の予測、金貨百枚を大幅に超えていた。
私は、息を呑んだ。
「これは……」
カイルが、満足そうに微笑んだ。
「君の計画は、完璧だ」
「インフラ投資が、これほど効果的だとは」
私も、微笑んだ。
だが、それだけではなかった。
マリアが、別の報告を持ってくる。
「お嬢様、人口調査の結果です」
書類を見ると、驚くべき数字があった。
八千人。
三ヶ月で、さらに五百人も増えていた。
「どうして……?」
グレンが、説明を始めた。
「街道整備の噂が、王国中に広まりました」
「『フェルゼンは、発展している』と」
「それを聞いて、多くの人が移住してきています」
窓の外を見ると、新しい家が建っている。
市場も、以前より賑わっていた。
人々の笑顔が、溢れている。
私は、立ち上がった。
窓辺に立ち、街を見下ろす。
一年前、ここは荒れ地だった。
だが、今は違う。
活気に満ちた、希望の街になっている。
涙が、溢れてきた。
カイルが、私の肩を抱く。
「よく頑張ったな、エリナ」
私は、カイルに寄り添った。
「カイルがいてくれたから」
「一人じゃ、ここまで来られなかった」
カイルが、優しく微笑む。
「これからも、一緒に歩こう」
私は、頷いた。
「ええ」
二人で、静かに街を見つめた。
この景色が、ずっと続けばいい。
心から、そう願った。
だが、成長の裏で新たな課題が生まれていた。
翌日、オスカーが慌てて執務室に駆け込んできた。
顔色が、悪かった。
「お嬢様、大変です」
私は、驚いて立ち上がる。
「どうしたの、オスカー」
オスカーが、書類を差し出した。
手が、震えている。
「住民が、増えすぎています」
書類を見ると、詳細な調査結果があった。
現在の人口、八千人。
だが、住居は七千人分しかない。
つまり、千人が適切な住居を持っていなかった。
私は、眉をひそめた。
「これは、問題ね」
グレンも、入ってくる。
「お嬢様、移住者が毎日来ています」
「このままでは、住居不足が深刻化します」
カイルが、地図を広げた。
「新しい居住区が、必要だな」
私は、地図を見た。
フェルゼンの街は、領主館を中心に広がっている。
だが、もう拡張の余地が少なかった。
私は、地図上の空き地を指差した。
「ここに、新しい居住区を作りましょう」
グレンが、計算を始める。
「それには、さらなる投資が必要です」
「家を建て、井戸を掘り、道を整備する」
「金貨五十枚は、かかります」
オスカーが、資金台帳を確認した。
「現在の資金で、可能です」
「だが、余裕はあまりありません」
私は、深く考えた。
フェルゼンは、急速に成長している。
だが、その成長に追いつくのは大変だった。
課題が、次々と生まれてくる。
だが、それは良い兆候でもあった。
成長している証拠だった。
私は、決断した。
「新しい居住区を、作ります」
グレンが、頷く。
「分かりました」
「すぐに、計画を立てます」
オスカーも、資金の手配を始める。
カイルが、私の肩に手を置いた。
「エリナ、無理はするな」
私は、微笑んだ。
「大丈夫です」
「私には、皆がいますから」
カイルが、優しく頷いた。
窓の外を見ると、夕日が沈んでいく。
オレンジ色の光が、街を照らしていた。
フェルゼンは、変わり続けている。
小さな領地が、都市へと変貌しようとしていた。
その変化を、私は導いていく。
どんな課題が来ても、乗り越える。
皆と一緒なら、きっとできる。
そう、信じていた。
だが、その時はまだ気づいていなかった。
成長の速さが、新たな問題を生むことに。
そして、その問題が私たちを試すことになる。
それを、知るのはもう少し先のことだった。
そして、王国の外からも、視線が注がれていることに。
フェルゼンの成功は、もはや王国内だけの話ではなくなっていた。
────────────────────────
【作者コメント】
この作品をお読みいただき、ありがとうございました。
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今後ともよろしくお願いいたします。
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