【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

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第53章 外交交渉

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 ヴェルハイムの経済圧力は、王宮を揺るがした。

 国王陛下は、緊急会議を召集。

 戦争か、外交か。選択の時が来た。

 王都、王宮の大広間。

 いつもより多くの貴族が集まっていた。

 ざわめきが部屋中に満ちている。

 誰もが不安そうな顔をしていた。

 玉座に国王陛下が座っている。

 その隣にはカイルが立っていた。

 私もカイルの後ろに控えている。

 国王が手を上げた。

 広間が静まり返る。

「諸君、重大な事態が発生した」

 国王の声が響く。

「ヴェルハイム王国が、我が国に経済的圧力をかけてきた」

 貴族たちが息を呑む。

「フェルゼン商会の商品に法外な関税を課し」

「国境で検査と称して、商隊を足止めしている」

 広間がどよめいた。

 国王の目が鋭くなる。

「これは、経済戦争の始まりだ」

 一人の貴族が立ち上がった。

 軍事派の重鎮、バルトロメウス侯爵だった。

 白い髭を蓄えた、厳格な顔つき。

「陛下!」

 その声は怒りに満ちている。

「戦争だ!」

「ヴェルハイムを叩き潰すべきです!」

 他の貴族たちも立ち上がる。

「そうだ!」

「我が国を侮辱した!」

「報復を!」

 広間が騒然となった。

 国王が再び手を上げる。

 広間が静まった。

「バルトロメウス侯爵、続けよ」

 侯爵が一歩前に出る。

「陛下、我が国の軍事力は十分です」

「ヴェルハイムなど、一ヶ月で制圧できます」

 別の貴族が頷く。

「我が騎士団も、準備万端です」

 だが、別の貴族が立ち上がった。

 財務派の重鎮、クラウス公爵。

 眼鏡をかけた細身の男だった。

「お待ちください」

 バルトロメウス侯爵が睨む。

「何だ、クラウス」

 クラウス公爵が冷静に答える。

「戦争には、莫大な費用がかかります」

 手に書類を持っている。

「軍の動員に金貨5,000枚」

「補給と維持に毎月金貨1,000枚」

「戦争が長引けば、国家財政は破綻します」

 貴族たちがざわめく。

 バルトロメウス侯爵が反論した。

「だが、国の誇りはどうする!」

「侮辱されて黙っているのか!」

 クラウス公爵が眼鏡を押し上げる。

「誇りも大切です。しかし国民の生活も」

 二人の視線がぶつかった。

 その時、カイルが前に出た。

「陛下、発言をお許しください」

 国王が頷く。

「カイル、申せ」

 カイルが広間を見渡す。

 そして静かに話し始めた。

「戦争は、最後の手段です」

 バルトロメウス侯爵が口を挟む。

「だが、カイル閣下、相手は我が国の経済を攻撃した!」

 カイルが頷いた。

「その通りです。許し難い行為」

「しかし、まずは外交交渉を試みるべきです」

 クラウス公爵が同意する。

「カイル閣下に賛成です」

 カイルが続ける。

「ヴェルハイムが経済圧力をかけてきたのは、何故か」

「彼らも国の発展を望んでいるからです」

「ならば、その欲求を満たす方法がある」

 貴族たちがざわめく。

 私はカイルの背中を見つめていた。

 彼は冷静に状況を分析している。

 戦争を避けようとしている。

 私と同じ考えだった。

 国王がカイルに聞く。

「どんな方法だ?」

 カイルが私を見た。

 その目が優しい。

「エリナが提案を持っています」

 貴族たちの視線が一斉に私に向く。

 重圧を感じた。

 でも、逃げられない。

 私は前に出た。

 深く息を吸う。

 そして話し始めた。

「陛下、そして皆様」

 私の声が広間に響く。

「私には提案があります」

 国王が身を乗り出す。

「申してみよ、エリナ」

 私は頷いた。

「ヴェルハイム王国に、技術を有償で提供するのです」

 広間がどよめいた。

 バルトロメウス侯爵が立ち上がる。

「何を言う!」

「敵に我が国の技術を渡すのか!」

 私は彼を見つめた。

「はい。ただし条件をつけます」

 侯爵が眉をひそめる。

「条件?」

 私は続けた。

「第一に、技術使用料として毎年金貨100枚」

 貴族たちが息を呑む。

 金貨100枚は大金だった。

「第二に、技術改良の成果も共有すること」

「お互いに発展できるように」

 クラウス公爵が目を輝かせる。

「それは……素晴らしい」

 私はさらに続けた。

「第三に、相互不可侵条約を締結します」

「お互いの国境を侵さない約束」

「第四に、貿易協定も結びます」

「正当な関税率を定め、検査も合理化する」

「経済的に繋がれば、戦争のリスクは減ります」

 国王が顎に手を当てる。

 考え込んでいる様子だった。

 しばらくの沈黙。

 そして国王が口を開いた。

「……賢明な提案だ」

 バルトロメウス侯爵が反論する。

「ですが、陛下!」

「経済圧力をかけてきた国を、信用できるのですか!」

 私は侯爵を見た。

「だからこそ条約が必要なのです」

「法的な拘束力があれば、違反すれば国際的な非難を受けます」

 カイルが補足する。

「エリナの提案を私も支持します」

「戦争で失うものより、外交で得るものの方が大きい」

 クラウス公爵が計算を始めた。

「年間金貨100枚の収入」

「10年で1,000枚」

「戦争の費用を考えれば、遥かに得です」

 他の貴族たちも頷き始める。

 バルトロメウス侯爵はまだ不満そうだった。

 だが、多数の意見は外交派に傾いている。

 国王が立ち上がった。

「決めた」

 広間が静まり返る。

「エリナの提案を採用する」

 バルトロメウス侯爵が顔を歪める。

「陛下……」

 国王が侯爵を見た。

「バルトロメウス、お前の忠誠心は理解している」

「だが王国の未来を考えれば、これが最善だ」

 侯爵は唇を噛んだ。

 だが深くお辞儀をする。

「……御意」

 国王が宣言した。

「ヴェルハイム王国に使者を送る」

「エリナの提案を伝え、交渉せよ」

 カイルが前に出る。

「陛下、私が使者の任を」

 国王が頷く。

「頼む、カイル」

「そしてエリナも同行せよ」

 私は驚いた。

「私も、ですか?」

 国王が微笑む。

「君の提案だ。君が説明するのが最善」

 私は深くお辞儀をした。

「承知しました」

 会議が終わり、貴族たちが去っていく。

 カイルと私だけが広間に残った。

 カイルが私の手を取る。

「よく言ってくれた」

 私は微笑んだ。

「戦争だけは避けたかったんです」

 カイルが優しく微笑む。

「君は本当に賢い」

「そして優しい」

 私の頬が熱くなる。

「カイル……」

 カイルが私を抱きしめた。

「これからヴェルハイムに行く」

「二人で平和を作ろう」

 私もカイルを抱きしめ返した。

「ええ。一緒に」

 数日後。

 使者の一行がヴェルハイム王国へ向けて出発した。

 カイルと私、そして護衛の騎士たち。

 馬車に揺られながら国境へ向かう。

 私は窓の外を見ていた。

 緑の草原が広がっている。

 美しい景色だった。

 でも心は落ち着かない。

 ヴェルハイムが提案を受け入れてくれるだろうか。

 もし拒否されたら戦争になる。

 多くの人が死ぬ。

 そんな未来は見たくなかった。

 カイルが私の手を握った。

「大丈夫だ」

 私はカイルを見た。

「本当にうまくいくでしょうか」

 カイルが頷く。

「君の提案は理にかなっている」

「ヴェルハイムも戦争より利益を選ぶはずだ」

 私は少し安心した。

 そうであってほしい。

 馬車は国境へと進んでいく。

 夕日が空を染めていた。

 オレンジ色の光が美しい。

 でもその向こうには。

 ヴェルハイム王国がある。

 対立する国。

 私たちはそこへ向かっている。

 カイルの手が私の手を強く握る。

 その温もりが心強かった。

 二人で平和を作る。

 それが私たちの使命だった。

 フェルゼン領では。

 グレンとオスカーが領地を守っていた。

 住民たちも不安そうにしている。

 ディーターが警備を強化していた。

 マリアは毎日祈っていた。

「お嬢様とカイル閣下が無事に戻ってきますように」

 住民たちも祈っている。

 平和が訪れることを。

 戦争にならないことを。

 フェルゼンの街は静かだった。

 だがみんなの心は揺れていた。

 ヴェルハイム王国では。

 リーゼンハイトからの使者が来ることが伝えられていた。

 国王は驚いていた。

「使者だと?」

 大臣が頷く。

「はい。提案を持って来るそうです」

 国王が考え込む。

「どんな提案だ?」

「戦争の宣言か?」

 大臣が首を振る。

「いえ、技術提供の提案だそうです」

 国王の目が大きく開いた。

「技術提供……だと?」

 国王は興味を持った。

 もしかしたら戦争せずに技術が手に入るかもしれない。

 そう思った。

 国王は決断する。

「使者を迎え入れろ」

「提案を聞こう」

 私たちの馬車は国境に近づいていた。

 緊張の日々が始まろうとしていた。
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