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第52章 隣国の経済圧力
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隣国ヴェルハイム王国では、密かな会議が開かれていた。
議題は「フェルゼンの経済的優位性への対抗」
リーゼンハイト王国の繁栄を、座視できない。
ヴェルハイム王国、王宮の奥深く。
重厚な扉の向こうに広い会議室があった。
天井は高く、シャンデリアが輝いている。
だがその光は冷たかった。
長いテーブルの奥、玉座に国王が座っている。
その周りに五人の大臣が並んでいた。
誰もが深刻な表情だった。
国王が口を開く。
「リーゼンハイトの繁栄は、脅威だ」
その声は低く重い。
大臣たちが頷く。
一人の老大臣が前に出た。
「陛下の仰る通りです」
「フェルゼン領の技術革新により、彼らの国力は急激に伸びています」
別の大臣が書類を広げる。
「四圃制による農業生産の増加」
「肥料技術による収穫量の倍増」
「そして、フェルゼン商会による貿易拡大」
国王の顔が歪む。
「このままでは、我が国が遅れを取る」
拳がテーブルを叩いた。
鈍い音が部屋に響く。
財務大臣が地図を広げた。
リーゼンハイト王国とヴェルハイム王国が描かれている。
「問題は、フェルゼン商会の商品が我が国にも流入していることです」
指が国境の位置を示す。
「彼らの高品質な小麦や織物が、我が国の商人を圧迫しています」
国王が地図を睨む。
「我が国の商人たちが、悲鳴を上げているな」
老大臣が一歩前に出た。
「陛下、提案があります」
国王の視線が老大臣に向く。
「申してみよ」
老大臣が深く息を吸った。
「国境での関税を大幅に引き上げるのです」
会議室が静まり返る。
国王がゆっくりと頷いた。
「続けよ」
老大臣の目が鋭く光る。
「フェルゼン産の商品に、法外な関税をかけます」
「通常の五倍、いや十倍でも構いません」
別の大臣が口を挟んだ。
「ですが、それは国際慣例に反します」
「リーゼンハイト王国が抗議するでしょう」
財務大臣が冷たく笑った。
「では、別の方法も併用する」
国王が身を乗り出す。
「別の方法とは?」
財務大臣が答えた。
「フェルゼン商会の商隊を、国境で足止めするのです」
「検査と称して、何日も留め置く」
「商品の鮮度が落ちれば、価値も下がります」
会議室の空気が重くなった。
老大臣が目を見開く。
「なるほど……巧妙ですな」
財務大臣が頷く。
「表向きは正当な検査です」
「しかし実際は、経済的な圧力」
国王がしばらく考え込む。
そしてゆっくりと口を開いた。
「……良かろう」
大臣たちが息を呑む。
「国境の関税を十倍に引き上げよ」
「そして、検査を厳格化せよ」
「フェルゼン商会に、我が国の怒りを思い知らせるのだ」
財務大臣が深くお辞儀をした。
「御意」
会議室に不穏な空気が満ちていく。
数日後。
フェルゼン商会の商隊が、国境に到着していた。
グレンが指揮を執っている。
馬車には、高品質な小麦と織物が積まれていた。
これまで何度も通った、慣れた道だった。
だが、今日は様子が違う。
国境の検問所に、いつもの倍以上の兵士がいた。
グレンが眉をひそめる。
「何かあったのか?」
商隊が検問所に到着する。
ヴェルハイムの税関職員が近づいてきた。
その顔が冷たい。
「荷物の検査を行う」
グレンが頷いた。
「もちろんです。いつも通り、よろしくお願いします」
だが、職員は動かない。
そして、冷たく言い放った。
「関税が改定された」
「フェルゼン産の商品には、特別税が課される」
グレンの顔色が変わった。
「特別税……ですと?」
職員が書類を見せる。
そこには、法外な金額が記されていた。
通常の十倍。
グレンが息を呑む。
「これは……あまりにも高すぎます」
職員が冷たく笑った。
「規則だ。払えないなら、商品は没収する」
グレンの拳が震える。
だが、ここで争っても無駄だとわかっていた。
「……わかりました。一旦引き返します」
「この件は、エリナ様に報告させていただきます」
職員が肩をすくめる。
「好きにしろ」
グレンは、商隊を率いて引き返した。
顔が怒りで紅潮している。
馬車の中で、拳を握りしめた。
「これは……明らかな嫌がらせだ」
同じ頃、別の商隊も国境で足止めされていた。
オスカーが指揮を執る隊だった。
税関職員が、馬車の荷物を一つ一つ検査している。
異常に時間がかかっていた。
オスカーが尋ねる。
「あの……いつ通れるのでしょうか」
職員が面倒くさそうに答える。
「検査が終わるまで待て」
「規則だ」
オスカーが時計を見る。
もう三時間も待っている。
このままでは、夕方までかかるだろう。
荷物には、生鮮食品も含まれている。
鮮度が落ちれば、価値は暴落する。
オスカーの額に、冷や汗が浮かんだ。
「これは……意図的に遅らせているな」
夕方、グレンとオスカーがフェルゼンに戻ってきた。
二人とも、疲れ果てた表情だった。
私は領主館の執務室で、二人を迎えた。
「グレン、オスカー、どうしたの?」
グレンが深くお辞儀をする。
そして、報告を始めた。
「お嬢様、重大な問題が発生しました」
私の胸に、嫌な予感が走る。
「何があったの?」
グレンが書類を差し出した。
そこには、法外な関税額が記されている。
「ヴェルハイムが、関税を十倍に引き上げました」
私の目が大きく開いた。
「十倍……?」
オスカーも続ける。
「私の商隊は、検査で三時間も足止めされました」
「明らかに、意図的です」
私は書類を見つめた。
これは……経済的な圧力だ。
ヴェルハイムが、フェルゼンを狙っている。
私は深く息を吸った。
そして、カイルに連絡を取る必要があると判断した。
「グレン、すぐに王都へ伝令を」
「カイルに、この件を報告してください」
グレンが頷く。
「承知しました」
グレンが出ていく。
私は、窓の外を見た。
フェルゼンの街が、夕日に照らされている。
平和な光景だった。
だが、その平和が脅かされようとしている。
ヴェルハイムの経済的圧力。
これは、戦争の前兆かもしれない。
私は、拳を握りしめた。
絶対に、この街を守る。
その夜、カイルから返信が届いた。
すぐにフェルゼンへ向かう、と書かれていた。
翌朝、カイルが馬車で到着した。
いつもより表情が険しい。
私は、領主館の玄関でカイルを迎えた。
「カイル……」
カイルが私を抱きしめる。
「大丈夫だ。必ず、解決する」
私はカイルの胸に顔を埋めた。
「ヴェルハイムが、私たちを狙っている」
カイルが頷く。
「ああ。だが、これは予想していたことだ」
私はカイルを見上げた。
「予想していた……?」
カイルが優しく微笑む。
「フェルゼンの繁栄は、隣国の嫉妬を買う」
「それは、避けられないことだった」
執務室に移る。
カイル、グレン、オスカー、そして私。
四人で、対策を協議した。
カイルが地図を広げる。
「ヴェルハイムの狙いは、フェルゼン商会の弱体化だ」
「関税と検査で、我々の貿易を妨害している」
グレンが拳を握る。
「このままでは、商会の利益が激減します」
オスカーも頷く。
「他の商人たちも、不安がっています」
私は、考え込んだ。
これは、経済戦争だ。
武力ではなく、経済で攻めてきている。
ならば、経済で反撃する必要がある。
私は、顔を上げた。
「カイル、提案があります」
カイルが私を見る。
「何だ?」
私は、はっきりと言った。
「ヴェルハイムと、直接交渉します」
カイルの目が鋭くなる。
「交渉……か」
私は頷いた。
「ええ。彼らが欲しいのは、私たちの技術」
「それを利用して、交渉のテーブルにつく」
グレンが驚いた顔をする。
「お嬢様、危険です」
私はグレンを見た。
「でも、これ以外に方法はないわ」
「関税を払い続ければ、商会は破綻する」
「かといって、武力で対抗すれば戦争になる」
オスカーが考え込む表情。
「確かに……外交しか、道はありませんね」
カイルが私の手を取った。
「エリナ、君の考えは正しい」
「だが、一人で行かせるわけにはいかない」
「私も、同行する」
私は、カイルを見つめた。
その目が、優しい。
「ありがとう、カイル」
カイルが続ける。
「まず、王都に報告する」
「国王陛下の許可を得て、正式な使節団を組む」
「そして、ヴェルハイムと交渉する」
私は頷いた。
「交渉の内容は……」
カイルが私の言葉を継ぐ。
「技術の有償提供だ」
「彼らが望むものを与える代わりに、正当な対価を得る」
グレンが目を輝かせた。
「それは……素晴らしい」
オスカーも頷く。
「お互いに利益があれば、対立は避けられます」
私は、少し安心した。
方針が、決まった。
これから、王都へ向かう。
そして、ヴェルハイムと交渉する。
平和のために。
翌日、私とカイルは王都へ向かった。
馬車の中で、私はカイルの手を握っていた。
「カイル、うまくいくかしら」
カイルが優しく微笑む。
「君の提案は、いつも正しい」
「必ず、成功する」
私は、カイルの肩に頭を預けた。
その温もりが、心強かった。
窓の外、景色が流れていく。
春の陽光が、美しい。
でも、私の心は揺れていた。
ヴェルハイムとの交渉。
成功すれば、平和が訪れる。
失敗すれば、戦争になるかもしれない。
その重圧が、肩にのしかかる。
カイルが私の手を握り返した。
「大丈夫だ。二人で、乗り越えよう」
私は、頷いた。
「ええ。一緒に」
フェルゼンでは。
住民たちが、不安そうに集まっていた。
商会の活動が止まったことは、すぐに広まった。
マリアが、毎日祈っている。
「お嬢様とカイル閣下が、無事に戻ってきますように」
ディーター騎士団長が、警備を強化していた。
万が一、ヴェルハイムが武力で攻めてきた場合に備えて。
グレンとオスカーは、商会の業務を最小限に抑えていた。
みんなが、不安を抱えている。
だが、エリナとカイルを信じていた。
二人なら、必ず解決してくれる。
そう信じて、待っていた。
ヴェルハイム王国では。
国王が、報告を受けていた。
「フェルゼンの商隊は、引き返しました」
財務大臣が満足そうに報告する。
国王が頷く。
「よし。これで、彼らも我が国の力を思い知っただろう」
だが、老大臣が懸念を示す。
「陛下、リーゼンハイト王国が抗議してくる可能性があります」
国王が手を振る。
「構わん。我が国の規則に従ったまでだ」
会議室に、重い沈黙が流れた。
だが、その時。
伝令が駆け込んできた。
「陛下、リーゼンハイト王国から使節が参ります」
国王の目が鋭くなる。
「使節……だと?」
伝令が頷く。
「はい。財務大臣カイル・ヴェルナーと、エリナ・フォン・アルトハイムが」
国王が考え込む。
「……彼らが直接来るのか」
財務大臣が驚いた顔をする。
「予想外です」
国王が立ち上がった。
「面白い。では、彼らの提案を聞こう」
「場合によっては、交渉してもよい」
老大臣が頷く。
「賢明な判断です」
国王が窓の外を見る。
春の陽光が、王宮を照らしていた。
これから、重要な交渉が始まる。
二つの国の未来を左右する、交渉が。
議題は「フェルゼンの経済的優位性への対抗」
リーゼンハイト王国の繁栄を、座視できない。
ヴェルハイム王国、王宮の奥深く。
重厚な扉の向こうに広い会議室があった。
天井は高く、シャンデリアが輝いている。
だがその光は冷たかった。
長いテーブルの奥、玉座に国王が座っている。
その周りに五人の大臣が並んでいた。
誰もが深刻な表情だった。
国王が口を開く。
「リーゼンハイトの繁栄は、脅威だ」
その声は低く重い。
大臣たちが頷く。
一人の老大臣が前に出た。
「陛下の仰る通りです」
「フェルゼン領の技術革新により、彼らの国力は急激に伸びています」
別の大臣が書類を広げる。
「四圃制による農業生産の増加」
「肥料技術による収穫量の倍増」
「そして、フェルゼン商会による貿易拡大」
国王の顔が歪む。
「このままでは、我が国が遅れを取る」
拳がテーブルを叩いた。
鈍い音が部屋に響く。
財務大臣が地図を広げた。
リーゼンハイト王国とヴェルハイム王国が描かれている。
「問題は、フェルゼン商会の商品が我が国にも流入していることです」
指が国境の位置を示す。
「彼らの高品質な小麦や織物が、我が国の商人を圧迫しています」
国王が地図を睨む。
「我が国の商人たちが、悲鳴を上げているな」
老大臣が一歩前に出た。
「陛下、提案があります」
国王の視線が老大臣に向く。
「申してみよ」
老大臣が深く息を吸った。
「国境での関税を大幅に引き上げるのです」
会議室が静まり返る。
国王がゆっくりと頷いた。
「続けよ」
老大臣の目が鋭く光る。
「フェルゼン産の商品に、法外な関税をかけます」
「通常の五倍、いや十倍でも構いません」
別の大臣が口を挟んだ。
「ですが、それは国際慣例に反します」
「リーゼンハイト王国が抗議するでしょう」
財務大臣が冷たく笑った。
「では、別の方法も併用する」
国王が身を乗り出す。
「別の方法とは?」
財務大臣が答えた。
「フェルゼン商会の商隊を、国境で足止めするのです」
「検査と称して、何日も留め置く」
「商品の鮮度が落ちれば、価値も下がります」
会議室の空気が重くなった。
老大臣が目を見開く。
「なるほど……巧妙ですな」
財務大臣が頷く。
「表向きは正当な検査です」
「しかし実際は、経済的な圧力」
国王がしばらく考え込む。
そしてゆっくりと口を開いた。
「……良かろう」
大臣たちが息を呑む。
「国境の関税を十倍に引き上げよ」
「そして、検査を厳格化せよ」
「フェルゼン商会に、我が国の怒りを思い知らせるのだ」
財務大臣が深くお辞儀をした。
「御意」
会議室に不穏な空気が満ちていく。
数日後。
フェルゼン商会の商隊が、国境に到着していた。
グレンが指揮を執っている。
馬車には、高品質な小麦と織物が積まれていた。
これまで何度も通った、慣れた道だった。
だが、今日は様子が違う。
国境の検問所に、いつもの倍以上の兵士がいた。
グレンが眉をひそめる。
「何かあったのか?」
商隊が検問所に到着する。
ヴェルハイムの税関職員が近づいてきた。
その顔が冷たい。
「荷物の検査を行う」
グレンが頷いた。
「もちろんです。いつも通り、よろしくお願いします」
だが、職員は動かない。
そして、冷たく言い放った。
「関税が改定された」
「フェルゼン産の商品には、特別税が課される」
グレンの顔色が変わった。
「特別税……ですと?」
職員が書類を見せる。
そこには、法外な金額が記されていた。
通常の十倍。
グレンが息を呑む。
「これは……あまりにも高すぎます」
職員が冷たく笑った。
「規則だ。払えないなら、商品は没収する」
グレンの拳が震える。
だが、ここで争っても無駄だとわかっていた。
「……わかりました。一旦引き返します」
「この件は、エリナ様に報告させていただきます」
職員が肩をすくめる。
「好きにしろ」
グレンは、商隊を率いて引き返した。
顔が怒りで紅潮している。
馬車の中で、拳を握りしめた。
「これは……明らかな嫌がらせだ」
同じ頃、別の商隊も国境で足止めされていた。
オスカーが指揮を執る隊だった。
税関職員が、馬車の荷物を一つ一つ検査している。
異常に時間がかかっていた。
オスカーが尋ねる。
「あの……いつ通れるのでしょうか」
職員が面倒くさそうに答える。
「検査が終わるまで待て」
「規則だ」
オスカーが時計を見る。
もう三時間も待っている。
このままでは、夕方までかかるだろう。
荷物には、生鮮食品も含まれている。
鮮度が落ちれば、価値は暴落する。
オスカーの額に、冷や汗が浮かんだ。
「これは……意図的に遅らせているな」
夕方、グレンとオスカーがフェルゼンに戻ってきた。
二人とも、疲れ果てた表情だった。
私は領主館の執務室で、二人を迎えた。
「グレン、オスカー、どうしたの?」
グレンが深くお辞儀をする。
そして、報告を始めた。
「お嬢様、重大な問題が発生しました」
私の胸に、嫌な予感が走る。
「何があったの?」
グレンが書類を差し出した。
そこには、法外な関税額が記されている。
「ヴェルハイムが、関税を十倍に引き上げました」
私の目が大きく開いた。
「十倍……?」
オスカーも続ける。
「私の商隊は、検査で三時間も足止めされました」
「明らかに、意図的です」
私は書類を見つめた。
これは……経済的な圧力だ。
ヴェルハイムが、フェルゼンを狙っている。
私は深く息を吸った。
そして、カイルに連絡を取る必要があると判断した。
「グレン、すぐに王都へ伝令を」
「カイルに、この件を報告してください」
グレンが頷く。
「承知しました」
グレンが出ていく。
私は、窓の外を見た。
フェルゼンの街が、夕日に照らされている。
平和な光景だった。
だが、その平和が脅かされようとしている。
ヴェルハイムの経済的圧力。
これは、戦争の前兆かもしれない。
私は、拳を握りしめた。
絶対に、この街を守る。
その夜、カイルから返信が届いた。
すぐにフェルゼンへ向かう、と書かれていた。
翌朝、カイルが馬車で到着した。
いつもより表情が険しい。
私は、領主館の玄関でカイルを迎えた。
「カイル……」
カイルが私を抱きしめる。
「大丈夫だ。必ず、解決する」
私はカイルの胸に顔を埋めた。
「ヴェルハイムが、私たちを狙っている」
カイルが頷く。
「ああ。だが、これは予想していたことだ」
私はカイルを見上げた。
「予想していた……?」
カイルが優しく微笑む。
「フェルゼンの繁栄は、隣国の嫉妬を買う」
「それは、避けられないことだった」
執務室に移る。
カイル、グレン、オスカー、そして私。
四人で、対策を協議した。
カイルが地図を広げる。
「ヴェルハイムの狙いは、フェルゼン商会の弱体化だ」
「関税と検査で、我々の貿易を妨害している」
グレンが拳を握る。
「このままでは、商会の利益が激減します」
オスカーも頷く。
「他の商人たちも、不安がっています」
私は、考え込んだ。
これは、経済戦争だ。
武力ではなく、経済で攻めてきている。
ならば、経済で反撃する必要がある。
私は、顔を上げた。
「カイル、提案があります」
カイルが私を見る。
「何だ?」
私は、はっきりと言った。
「ヴェルハイムと、直接交渉します」
カイルの目が鋭くなる。
「交渉……か」
私は頷いた。
「ええ。彼らが欲しいのは、私たちの技術」
「それを利用して、交渉のテーブルにつく」
グレンが驚いた顔をする。
「お嬢様、危険です」
私はグレンを見た。
「でも、これ以外に方法はないわ」
「関税を払い続ければ、商会は破綻する」
「かといって、武力で対抗すれば戦争になる」
オスカーが考え込む表情。
「確かに……外交しか、道はありませんね」
カイルが私の手を取った。
「エリナ、君の考えは正しい」
「だが、一人で行かせるわけにはいかない」
「私も、同行する」
私は、カイルを見つめた。
その目が、優しい。
「ありがとう、カイル」
カイルが続ける。
「まず、王都に報告する」
「国王陛下の許可を得て、正式な使節団を組む」
「そして、ヴェルハイムと交渉する」
私は頷いた。
「交渉の内容は……」
カイルが私の言葉を継ぐ。
「技術の有償提供だ」
「彼らが望むものを与える代わりに、正当な対価を得る」
グレンが目を輝かせた。
「それは……素晴らしい」
オスカーも頷く。
「お互いに利益があれば、対立は避けられます」
私は、少し安心した。
方針が、決まった。
これから、王都へ向かう。
そして、ヴェルハイムと交渉する。
平和のために。
翌日、私とカイルは王都へ向かった。
馬車の中で、私はカイルの手を握っていた。
「カイル、うまくいくかしら」
カイルが優しく微笑む。
「君の提案は、いつも正しい」
「必ず、成功する」
私は、カイルの肩に頭を預けた。
その温もりが、心強かった。
窓の外、景色が流れていく。
春の陽光が、美しい。
でも、私の心は揺れていた。
ヴェルハイムとの交渉。
成功すれば、平和が訪れる。
失敗すれば、戦争になるかもしれない。
その重圧が、肩にのしかかる。
カイルが私の手を握り返した。
「大丈夫だ。二人で、乗り越えよう」
私は、頷いた。
「ええ。一緒に」
フェルゼンでは。
住民たちが、不安そうに集まっていた。
商会の活動が止まったことは、すぐに広まった。
マリアが、毎日祈っている。
「お嬢様とカイル閣下が、無事に戻ってきますように」
ディーター騎士団長が、警備を強化していた。
万が一、ヴェルハイムが武力で攻めてきた場合に備えて。
グレンとオスカーは、商会の業務を最小限に抑えていた。
みんなが、不安を抱えている。
だが、エリナとカイルを信じていた。
二人なら、必ず解決してくれる。
そう信じて、待っていた。
ヴェルハイム王国では。
国王が、報告を受けていた。
「フェルゼンの商隊は、引き返しました」
財務大臣が満足そうに報告する。
国王が頷く。
「よし。これで、彼らも我が国の力を思い知っただろう」
だが、老大臣が懸念を示す。
「陛下、リーゼンハイト王国が抗議してくる可能性があります」
国王が手を振る。
「構わん。我が国の規則に従ったまでだ」
会議室に、重い沈黙が流れた。
だが、その時。
伝令が駆け込んできた。
「陛下、リーゼンハイト王国から使節が参ります」
国王の目が鋭くなる。
「使節……だと?」
伝令が頷く。
「はい。財務大臣カイル・ヴェルナーと、エリナ・フォン・アルトハイムが」
国王が考え込む。
「……彼らが直接来るのか」
財務大臣が驚いた顔をする。
「予想外です」
国王が立ち上がった。
「面白い。では、彼らの提案を聞こう」
「場合によっては、交渉してもよい」
老大臣が頷く。
「賢明な判断です」
国王が窓の外を見る。
春の陽光が、王宮を照らしていた。
これから、重要な交渉が始まる。
二つの国の未来を左右する、交渉が。
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