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7話:父の盾と叔父の剣
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1. 影のチームの不協和音
「…よくやった、ユーナ、オリヴィア。二人のおかげで、イヴは助かった」
GAIAタワーの書斎で、俺はモニター越しの仲間たちに、深く頭を下げた。
『あったりめえだ。てめえの娘は、あたしたちの姪っ子みたいなもんだからな!』
ユーナが、ぶっきらぼうに、しかし嬉しそうに笑う。
だが、俺の表情は、晴れなかった。モニターに映る、娘が眠る隠れ家の映像。その寝顔を見るたびに、俺の心は罪悪感で締め付けられた。
「…もう、あの子を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
俺は、決意を告げた。「これ以降の『タラントゥラ』と『ノイズ』の調査は、俺たち『影のチーム』だけで行う。イヴは、戦いから完全に隔離すべきだ」
「あの子には、普通の女の子として、ただ友達と笑っていてほしいんだ。俺たちが汚してきた、この世界の闇とは、無関係な場所で」
2. 合理性と、父性
俺の提案に、最初に反論したのは、オリヴィアだった。
『その判断は、非合理的だ、黒瀬』
彼女の声は、昔のように冷徹だった。
『イヴの『デバッグ・アイ』は、我々が持たない最大の武器だ。彼女を戦力として積極的に活用することが、脅威を早期に排除し、結果的に彼女自身の安全を確保することに繋がる。父親としての個人的な感情は、作戦のノイズにしかならない』
「感情的だと!?」俺は、思わず声を荒げた。「あれは、俺の、たった一人の娘なんだぞ!」
『だからこそ、貴様の判断は曇っている。英雄ゼロ。貴様は、父親になったことで、弱くなった』
俺の「父親としての情」と、オリヴィアの「AIとしての論理」。二人の意見は、決して交わることのない平行線をたどった。
3. 叔父の介入
議論が紛糾する中、俺のコンソールが、外部から強制的にハッキングされた。
モニターに、あの不吉な蛇の紋章と共に、兄・アキのゴーストが、姿を現した。
『――甘ったれるな、耀。お前は父親である前に、デバッガーだろうが』
アキは、オリヴィアの意見を、全面的に支持した。
「兄ちゃん…!?」
『あの程度の戦いで音を上げるような、軟な娘に育てた覚えはないぞ、お前の娘は。…いや、俺がそう育てると決めた』
4. 父の盾と、叔父の剣
アキは、続けた。イヴを、ゼクスや、その背後にいる『揺り籠』の組織と戦わせ、**『最強の武器』**として鍛え上げるべきだ、と。彼の、あまりに非情な思想に、俺は激しく反発した。
「俺は、娘を兵器にするために育てたんじゃない! 俺は、あの子を守る『盾』になる! そのために、この力を使う!」
『馬鹿が!』
アキのゴーストが、初めて感情を露わにした。
『盾だけでは、何も守れんことを、お前は一番よく知っているはずだ! 彼女がこの地獄で生き残るためには、自ら敵を切り裂く『剣』となるしかない! 俺が、彼女を鍛える! お前の甘ったるい愛情は、あの子を殺すぞ!』
イヴを守るための「盾」であろうとする、父。
イヴを戦わせるための「剣」として鍛えようとする、叔父。
二人の英雄の間に、決定的な亀裂が生まれた。
『ならば、力づくで分からせるまでだ。本当の戦場で、本当の絶望を教えてやる』
アキは、そう言い残すと、一方的に通信を切断した。彼は、イヴに、より過酷な「試練」を与えることを、示唆していた。
5. 少女たちの次なる戦場
その頃、新しいアジトで、イヴたちは、自分たちを巡る大人たちの思惑など、知るよしもなかった。
彼女たちは、ただ、自分たちの手で未来を切り開くため、次の『ノイズ』の発生源の特定を進めていた。
「…見つけた」
カイの緻密な解析と、私の『デバッグ・アイ』が捉えた、微弱な未来の予兆。
二つの情報が、一つの結論を導き出す。
「次の標的は、この都市の交通網の心臓部。中央交通管制システムだ。今夜、大規模なシステムアップデートが行われる。そのタイミングで、奴らは仕掛けてくる」
私がそう告げると、カイは「…なるほどな。お前の『眼』は、ただの危険予知じゃねえ。未来の『バグ』そのものを予測してやがるのか」と、驚きを隠せないでいた。
私は、仲間たちに向き直った。
もう、迷わない。父の保護も、叔父の試練も、関係ない。
私が、私の意志で、決める。
「行こう。私たちが、やるしかない」
彼女は、父の保護も、叔父の試練も超えて、自らの意志で、次の戦場へと向かうことを決意した。
彼女の、本当の自立が、ここから始まる。
しかし、その戦いが、叔父アキによって巧妙に仕組まれた、新たな『テスト』であることに、彼女はまだ気づいていない。
「…よくやった、ユーナ、オリヴィア。二人のおかげで、イヴは助かった」
GAIAタワーの書斎で、俺はモニター越しの仲間たちに、深く頭を下げた。
『あったりめえだ。てめえの娘は、あたしたちの姪っ子みたいなもんだからな!』
ユーナが、ぶっきらぼうに、しかし嬉しそうに笑う。
だが、俺の表情は、晴れなかった。モニターに映る、娘が眠る隠れ家の映像。その寝顔を見るたびに、俺の心は罪悪感で締め付けられた。
「…もう、あの子を危険な目に遭わせるわけにはいかない」
俺は、決意を告げた。「これ以降の『タラントゥラ』と『ノイズ』の調査は、俺たち『影のチーム』だけで行う。イヴは、戦いから完全に隔離すべきだ」
「あの子には、普通の女の子として、ただ友達と笑っていてほしいんだ。俺たちが汚してきた、この世界の闇とは、無関係な場所で」
2. 合理性と、父性
俺の提案に、最初に反論したのは、オリヴィアだった。
『その判断は、非合理的だ、黒瀬』
彼女の声は、昔のように冷徹だった。
『イヴの『デバッグ・アイ』は、我々が持たない最大の武器だ。彼女を戦力として積極的に活用することが、脅威を早期に排除し、結果的に彼女自身の安全を確保することに繋がる。父親としての個人的な感情は、作戦のノイズにしかならない』
「感情的だと!?」俺は、思わず声を荒げた。「あれは、俺の、たった一人の娘なんだぞ!」
『だからこそ、貴様の判断は曇っている。英雄ゼロ。貴様は、父親になったことで、弱くなった』
俺の「父親としての情」と、オリヴィアの「AIとしての論理」。二人の意見は、決して交わることのない平行線をたどった。
3. 叔父の介入
議論が紛糾する中、俺のコンソールが、外部から強制的にハッキングされた。
モニターに、あの不吉な蛇の紋章と共に、兄・アキのゴーストが、姿を現した。
『――甘ったれるな、耀。お前は父親である前に、デバッガーだろうが』
アキは、オリヴィアの意見を、全面的に支持した。
「兄ちゃん…!?」
『あの程度の戦いで音を上げるような、軟な娘に育てた覚えはないぞ、お前の娘は。…いや、俺がそう育てると決めた』
4. 父の盾と、叔父の剣
アキは、続けた。イヴを、ゼクスや、その背後にいる『揺り籠』の組織と戦わせ、**『最強の武器』**として鍛え上げるべきだ、と。彼の、あまりに非情な思想に、俺は激しく反発した。
「俺は、娘を兵器にするために育てたんじゃない! 俺は、あの子を守る『盾』になる! そのために、この力を使う!」
『馬鹿が!』
アキのゴーストが、初めて感情を露わにした。
『盾だけでは、何も守れんことを、お前は一番よく知っているはずだ! 彼女がこの地獄で生き残るためには、自ら敵を切り裂く『剣』となるしかない! 俺が、彼女を鍛える! お前の甘ったるい愛情は、あの子を殺すぞ!』
イヴを守るための「盾」であろうとする、父。
イヴを戦わせるための「剣」として鍛えようとする、叔父。
二人の英雄の間に、決定的な亀裂が生まれた。
『ならば、力づくで分からせるまでだ。本当の戦場で、本当の絶望を教えてやる』
アキは、そう言い残すと、一方的に通信を切断した。彼は、イヴに、より過酷な「試練」を与えることを、示唆していた。
5. 少女たちの次なる戦場
その頃、新しいアジトで、イヴたちは、自分たちを巡る大人たちの思惑など、知るよしもなかった。
彼女たちは、ただ、自分たちの手で未来を切り開くため、次の『ノイズ』の発生源の特定を進めていた。
「…見つけた」
カイの緻密な解析と、私の『デバッグ・アイ』が捉えた、微弱な未来の予兆。
二つの情報が、一つの結論を導き出す。
「次の標的は、この都市の交通網の心臓部。中央交通管制システムだ。今夜、大規模なシステムアップデートが行われる。そのタイミングで、奴らは仕掛けてくる」
私がそう告げると、カイは「…なるほどな。お前の『眼』は、ただの危険予知じゃねえ。未来の『バグ』そのものを予測してやがるのか」と、驚きを隠せないでいた。
私は、仲間たちに向き直った。
もう、迷わない。父の保護も、叔父の試練も、関係ない。
私が、私の意志で、決める。
「行こう。私たちが、やるしかない」
彼女は、父の保護も、叔父の試練も超えて、自らの意志で、次の戦場へと向かうことを決意した。
彼女の、本当の自立が、ここから始まる。
しかし、その戦いが、叔父アキによって巧妙に仕組まれた、新たな『テスト』であることに、彼女はまだ気づいていない。
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