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シナリオ

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平日。授業終わりの学校の図書室はいつも静かだ。
誰が来る訳でもない。利用者はもちろん僕のみだった。
最近は明李音のところに真っ直ぐ行っていたために、随分とご無沙汰の雰囲気だった。
静かな図書室には、時計の秒針と司書の寝息、外の雨音 
、それから小説を書く僕のペンの音が響いていた。
そんな静寂を突き破ったのは、図書室のドアが開く音だった。

白のロングソックスにスカートは今にもパンツが見えそうな丈。制服のリボンをだらしなく着用し、髪は毛先をクルクルと巻いている。メイクは、、よくわからない。

「ジロジロ見ないでくんない?そんなに私が魅力的?」

「勘違いもその辺にしてくれないか。気色悪い。」

「へぇー。そんなこと言っちゃんだ。帰るけど。」

「明李音のことだ。」

まさか、僕がこいつを呼び出すことになるとは思ってもみなかった。
白石 美裕(しらいし みゆ)
僕へのいじめが始まったのはこいつのせいだ。
まぁ僕もまた、悪いのだが。

「明李音が、どうかしたの??」

「最近僕を避けるようになったんだ。
今年が受験年だって気づいてから、僕に気を使ってるみたいで。」

「それでまたあんたも避けてるわけ??」

「そうじゃなくて。僕はもう明李音から逃げないって決めたんだ。
ただ、気を使わないでって話したけど、明李音は本気みたいだった。」

「迷惑かけたくないのかもね。」

「そうなんだろうけど、、」

「あんたはどう思ってるの??」

「そりゃ、できるなら、一生側にいたい。」

「なら。」

「でも、どうしたらいいかわからない。
明李音になんと言ってあげたらいいのか。」

「あんたは。
あんたは、なんて言ってあげたいのよ。」

「え?」

「前にも言ったけど、明李音はあんたのこと一生分愛してんの。あんたが生き甲斐なの。
明李音が避けるからって、あんたが避ける理由にはならないでしょ。
何のための小説なの。何のために明李音の人生を書いてるの!?
もし、このままもう二度と会えなかったら?
さよならも言わないまま終わってもいいの!?
そんなの、あまりにも明李音が可哀想だよ。
もっと、正面からぶつかりなさいよ!
あんたの行動は気遣いじゃない。ただの保守。
色んな視点を書くくせに、中身はただのエゴイスト?
笑わせんじゃないわよ。別にあんたが後悔しようと何も思わない。
でも、明李音を後悔させるのは、許さないから。」

「偉そうに。
お前の悪事を明李音に伝えてもいいんだ。」

「うぅ、それは、、謝ったでしょ。。」

「ふっ。確かに。白石の言う通りだ。
僕は、明李音のことになると理性を失う。
自分がどう行動していいか分からなくなる。」

「大丈夫。あんたは、明李音の命を救った。」

「どうしてそれを。」

「あの子が言わないと思う?
泣きながら言ってたよ。
暖に何回命救ってもらうんだろうって。
悔しいけど、あんたじゃなかったら止められなかったと思う。
自分のこと、信じてみてもいいんじゃない?」

僕の中に、自分を信じるという引き出しはなかった。
それだけ、人に頼って生きてきた証拠だ。
自分の趣味に固着して、他のものに目を向けようとしなかった。その結果がこれだ。

「悔しいけど、白石がいて、よかった。」

「今度ズタバ奢ってね。」

「気が向いたら。」

朝から降っていた雨は、明るい月とともに上がっていた。

「今日は、こないのかな。」
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