ここはお前に任せて先に行くと仲間に見捨てられた結果、収納魔法を極めて最強になったのでざまぁするとしようか

あべし

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仲間と思っていたのは僕だけだったようだ

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 このままじゃ全滅だ。
 誰が言うでもなく、僕たちパーティーはそれを理解していた。


「これで終わりか、勇者よ」


 二本のツノが印象的な人型のモンスターが人語で勇者に問う。
 悠然と構えるその姿はモンスターというより武人の出で立ちに近い。

 
「クソッ! どうしてこうなった!」


 勇者テラスは拳を振り上げ地面に叩きつける。
 普段の自信過剰な彼の面影はそこにはない。
 圧倒的な実力差を前に、すでに欠片ほどの戦意も残っていないようだった。


「テ、テラスが賞金額に目が眩んで退治しようって言うからこんなことに……」


 聖女は現実逃避をしている。
 緊迫した状況であるにも関わらず責任の追求をする。彼女もまた冷静さを失っているようだった。


「ふざけるなッ! お前たち全員が同意しただろうが! 金に目が眩んだって言うならお前たちも同罪だ!」


 テラスが吠えると聖女と他の二人の仲間も抗議をし戦闘をするどころか口論が始まってしまう。


「ふむ……強者との戦いを望んでいたが、やって来たのがパーティーとも呼べぬような烏合の衆とはな。せめてもの情けだ。心ゆくまで罵り合うがいい」


 僕はモンスターに戦闘の意志がないと判断し、テラスたちに声をかける。


「みんな落ち着こう。きっと活路はあるはずだ。どんな困難も僕たち五人で乗り越えて来たじゃないか!」


 僕は冷静さを取り戻すように促す。


「アイン、てめぇ! 収納魔法しか能がない荷物持ちの分際でなに言ってやがる! いつも後ろに隠れてるだけの、やつ……が…………」


 勇者は途中でなにかに気づいたように言葉が途切れる。


「……いや、アインの言うとおりだ。お前たち悪かった。俺に考えがあるから協力してくれ」


 話は後方にいる僕のところにまでは聞こえてこないけど、テラスの話を聞いてみんなに落ち着きが戻ってくるのが見て取れた。


 これで戦闘を再開できる。問題はあのモンスターをどうするかだけど……。


 そう考えていたら首根っこを掴まれ放り投げられた。


「……え」


 訳がわからずさっきまで自分が居た場所を見る。
 そこにはテラスが立っていた。


「悪いな、アイン。俺たちはここで終わるわけにはいかないんだわ! だから――」


 嫌な予感がした。その先は聞いてはいけないという警鐘が脳内で鳴り響く。


「ここはお前に任せて先に行く!」


 たったひと言。
 そのひと言を残し、五年間一緒に旅をしてきた仲間たちは、振り返ることもなく逃走していった。
 そうして残された僕は――


「哀れだな。だが弱者とて容赦はせぬよ」


 最強のモンスターから逃げるための囮とされたのだった。
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