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オリジナル
㊴一途幼なじみ×浮気された(美形×平凡)
しおりを挟むーーあ、無理。
そう思った瞬間、気持ちがサッと冷めたのがわかった。
帰宅したばかりの家から静かに出て、そうして夜道を歩きながら、たった今心の底から嫌いになった恋人に『別れる』とのメッセージを送り、それから連絡先を消した。
「ーーってことで泊めて」
「いやどういう事だよ……」
「いいから!説明は今からするから、とりあえず泊めてよ!」
「わかったよ……」
ムカムカした気持ちのまま向かったのは、幼なじみ(利成)の家。
ズカズカ上がり込んで、勝手に冷蔵庫から酒を取りだしてテーブルへと運ぶ。
「おい、勝手にとんなよ」
「飲まなきゃやってらんないの!いいからここ座って!」
自分の隣に座れと指示し、それから酒を煽る。やれやれと言ったふうの利成が横に腰を下ろすと、怒涛の勢いで喋り始めた。
「マジでありえないんだけどさっ!」
……平凡な見た目の男(瀬那)には、高校卒業した時から付き合っている恋人がいた。
ゲイであった瀬那。高校3年間片想いで、大学が別になるからと当たって砕けろ精神で告白したら、なぜか成功した。それからずっと一途に恋人を愛してきた。元々好きになったらのめり込むタイプで、恋人のためにアレやコレやと世話を焼き身の回りの世話をし、とことん尽くしてきたのだ。それなのにいつからか、恋人は浮気をするようになった。初めて発覚した時は、彼の部屋に女物の服があって、問い詰めたら白状した。めちゃめちゃ怒って大喧嘩になったけど、「もうしない」「お前が一番」という言葉を信じて許した。
でも、それ以降浮気が止むことは無かった。彼の部屋を掃除しに行けば浮気の証拠を見つけたり、時にはヤッてる最中に出くわしたり。
部屋以外でもホテルに行くのにばったり出くわしたりもした。
その度喧嘩して、別れると告げて、なのに「お前だけだ」と言われて絆されて。
ーーそうしてついさっきだ。
バイトで疲れた体を引き摺って自宅に帰ったら、玄関に恋人の靴があった。でもそれだけじゃなくて、知らない人の靴も隣に。なんだと思えば中から聞こえるいかにも最中ですと言った声。自宅で浮気されてるというだけでもショックはでかかったのに、漏れてきた喘ぎ声が女にしては低く、瞬間男と浮気していると悟った。
今までの浮気は全て女。男は自分だけだと思えばまだギリギリ許せたのに、今回はもうダメだった。
脳みそが男と浮気した事実を理解した瞬間、恋人の全てが汚らわしく思えて、気持ちの全てが抜け落ちてしまった。
「……で、キモすぎて帰りたくないし、ここに泊めて!!」
「…………なんて言っていいかわかんねーわ」
「ほんっと、合鍵なんて渡さなきゃよかった!!どうせ最近あいつの部屋掃除に行ってなかったから汚くて、浮気相手上げらんなかったんだろ。だからって俺の部屋でするか普通!?イカれてるだろっ!!」
「……荷物とかどうすんだよ」
「明日取りに行く。そんであの家引っ越す」
「マジか……」
すでに何本かビールを空けた瀬那。引き気味な利成に絡みながら、怒りを爆発させていた。
「マジだよ!キモいやつらがちちくりあった部屋に住めるわけない。親に言えば引越し費用くらいはどうにかしてくれると思うし」
「そっか」
「…………もう、疲れちゃったな」
さっきまでの勢いはどこへやら。小さな声で呟いた瀬那は、俯いて震えている。
「瀬那……」
「信じてたのに何回も裏切られて、ほんとバカみたい。俺って、都合のいい存在だったのかな……」
いつしか啜り泣く声が部屋に落ちる。
呆然からの怒り。そして悲しみ。瀬那の気持ちはぐちゃぐちゃで、涙が止められなかった。そうしたら。
「瀬那、好きだ」
「ふ、ぇ……」
隣から急に抱きしめられ、耳元で告げられた。
「え、な……、なにっ」
「好き。ずっと昔から好きだった。そんなクソ野郎の事忘れさせてやるから、俺と付き合って」
驚いて利成を見たら、真剣な顔をしている。誰もが見惚れるようなイケメンから熱心に見つめられて、瀬那の心臓がドクンとひとつ跳ねる。
「そ、んなの、無理……っ」
「なんで」
「なんでって……。だって、別れたばっかだし、気持ちの整理だって……」
「ずっと幼なじみだったから、すぐにはそういう対象に見れないかもしれないけど、俺本気だから。お前が受け入れてくれるまで、ずっと好きって言い続けるから」
ズイッと顔寄せてくる利成。驚きと恥ずかしさとで身を引けば、酔いの回った体はバランスを崩して床に倒れ込む。
「った!!」
「瀬那」
「ぅひっ!」
すぐ近くで聞こえた声に閉じた目を開けると、自分に覆い被さるようにして、真上から見つめてくる瞳と視線がぶつかる。
「本気だから、覚悟しとけよ」
「……っ」
慈しむように頬を撫でられ、それから瀬那の上からどいた利成。
呆然としている瀬那をそのままに、利成は布団の準備を始める。
「お前が受け入れるまで何もしねぇよ。俺はソファで寝るから、ベッド使えな。じゃ俺はもう寝るぞ。電気、よろしくな」
言い捨てて利成は、瀬那の傍のソファで本当に寝てしまった。
(…………なにこの展開)
しばらく床に倒れたまま固まっていた瀬那は、ノロノロと体を起こして、言われた通り利成のベッドへ。それから色々な出来事のせいでパンクしそうになった頭は休息を求めたのだろう、すぐに眠りに落ちた。
ーーそれから。
利成は本当に瀬那にアプローチをガンガンに掛けてきた。目が合えば好きと告げてくるし、隙あらば手を握ってくる。家探しをする瀬那に「このまま俺の家に住んでいいよ」と言ってきたり瀬那のバイト先まで迎えに来てくれたり……と、瀬那の気持ちを揺さぶってくるのだ。
裏切られるくらいなら恋なんてもう、しばらくはいい……と家を出た時考えていた瀬那も、これにはやられてしまった。
こんなに好意を伝えられて、惚れないわけが無い。
利成の家に転がり込んで一週間。瀬那はついに彼の告白を受け入れたのだった。
それから瀬那は、利成にめちゃめちゃ甘やかされることに。キスにハグ、セックス。全部優しく慈しまれてトロトロにされるし、アフターケアもばっちり。休日にデートもするし、記念日とか何でもない日にもプレゼントをくれる。大事に大事に愛されて瀬那は利成のことが大好きになっていた。
そんなある日のこと。
「瀬那……!!」
「……げ」
瀬那の前に元彼が現れたのだ。
バイトからの帰り道。待ち伏せていたかのような元彼。
万が一鉢合わせたら嫌だから、バイトのシフトも変更していたし、大学から出る時も注意深く周りを確認していた。前の家にも元彼が大学の時間を狙って荷物を取りに行ってたし、とことん避けていたのに……。
「……どちら様ですか」
「何言ってんだよ!ふざけてないで、なんで連絡返してくれないのか説明してくれよ!」
「何のことでしょうか」
「だからっ」
「急いでるんで。どいてください」
完全に存在を無かったことにして、利成の家に帰ろうとする瀬那。けれど腕を掴まれる。その瞬間。
「っ触んな!」
「っ!?」
「その汚い手で俺に触んな!よくもノコノコと俺の前に顔出せたな?クソキモ浮気男が」
「お前っ」
「あ?逆ギレ?ホントのことだろ。他人の家で浮気相手とセックスするクズだろ?俺はお前とは終わってんの。……二度とそのツラ見せんな」
言って元彼を放置して歩き出す。
「待っーー」
「俺の恋人になんか用か」
またしても瀬那を引き留めようとする元彼に、被せるように利成の声が聞こえた。
「利成!!」
「来るの遅くなってゴメンな」
「全然!早く帰ろ!」
「ああ」
「待っーー」
「いい加減ウザイ」
なおも追いすがろうとする元彼を、今度は瀬那が遮り、そして隣の利成の首をグイ、と引き寄せた。
そして熱いキスを交わし、それを元彼に見せつける。
「……っん、はぁ。見てわかったか?お前なんかより遥かにいい男と俺は付き合ってるし、未練も1ミリもない。最高に今が幸せだから、さっさと消えてくれない?」
「そ、んな……だって、俺は……」
「あ。『本当に好きだったのはお前』とか、そういうクソみたいな話は聞きたくないから。ホントに好きなら浮気とかしないしな。じゃ、行こう?利成」
「ああそうだな」
元彼を視界から追い出して、瀬那は利成だけを見つめて言う。
優しく笑う彼はそれに頷いて歩き出すが、ふと後ろを振り返る。
「瀬那に次近づいたら、そんときはストーカーだっつって警察呼ぶから。それ以外にも振られた腹いせに嫌がらせとか、そういう変なこと考えんなよ。見つけたらタダじゃ済まさないから。じゃ」
それだけ真顔で告げると、二人は仲良く手を繋いで家へと歩き出した。
残された元彼は、悔しそうに唇を噛んで、それから肩を落として引き返して行ったのだった。
それから瀬那たちは誰にも何にも邪魔されず、ずっと幸せに毎日を過ごしていくのでした。
一途幼なじみ×浮気された平凡
CP名:古賀利成×赤羽瀬那
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