嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

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 「……またあの夢…。あの後ろ姿って……」

 枢に似ていた。そう瑞希は思った。それに聞こえてきた声が、以前と少し変わっていた。

 「もうすぐ……って、なんだ?どういう意味?」

 キラキラ光るモノは告げた。
 『もうすぐだよ』『もうすぐあの子の痛みが分かるよ』と。

 悶々としながら一日が始まる。けれど今日は夢になど構っていられないのだ。
 何せ襲われた稔が登校してくるはずだから。彼の顔を見ることより大事なものは無い。

 訳の分からない夢のことは頭から追い出し、稔がどんな反応をするかということを考え出す。すると次第に気分は良くなって行った。

 そして学校に行く。……が。

 「……休み?」
「う、うん……。早河くん、今日は休みだって先生が…」
「…………そう」

 休み時間に稔のクラスに行けば、彼は休みだとクラスメイトが教えてくれた。

 (なんだそれ、クソつまんねー!)

 一気にイライラが募る。
 気分が晴れないまま放課後になり、そうして稔の姿を見ないまま数日が過ぎた。

 「マジでなに?アイツいつまで休んでるわけ!?」

 面白くなくて、寮の同室だという生徒に話を聞けば、外泊していて居ないのだという。詳しく話を聞けば「家の用事だと言って帰った」との事。

 「そんな訳あるか!……あーあ。逃げたのかよ、マジでつまんねー!!」

 枢は襲われた翌日も登校してきたと言うのに、なんと骨のないことか!瑞希はガッカリしていた。

 それから一週間経っても稔は学校に来なかった。

 「あの根暗、瑞希の周りで見なくなったな??学校辞めたのか?」
「だったら良いんですけどね。僕の可愛い瑞希に寄ってくる虫は、少ない方がいい」
「だから、副かいちょーのじゃないってば~」

 (うるさ……)

 元生徒会の面々が好き勝手に言っているが、瑞希はどうでもよかった。辞めたとなればまたオモチャを探す必要があるからだ。

 (卒業までもう少しなんだからさー。あとちょっと頑張ってくれたら良かったのに)

 大きな溜息をつく瑞希に、取り巻きたちがさらに煩くなるのを放置して、その日は部屋に戻ったのだった。

ーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーー
ーー

 『来たよ』
『やっとだね』
『さようなら、愚かな子。罪の重さを思い知るといい』

 飛んで行った先には、幸せそうに笑う枢が居る。隣には美しい銀髪の男。

 (枢?どうして生きて……?それにやっとって…)

 何もかもわからないまま、唐突に夢が終わってしまう。

 「罪、って……」

 なんの事だと思うが、なんだか嫌な感じがする。なにか、良くないことが起こるような、そんな。

 「気の所為、だよな……?」

 全部ただの夢だと片付けて、瑞希は学校へ行く。
 朝のホームルームが始まると、急遽集会が開かれると担任から告げられた。
 授業を潰して今から行われるらしく、全員揃って体育館へと移動になった。

 (なんだ急に……?なんかあったか?)

 元生徒会役員達からも何も聞いていない。なのにどうして?そう思いながら体育館に着くと、ステージ上には既に彼らが揃って登壇していた。
 反対側には、見知らぬ美しい男が傍らに稔を抱いて立っている。

 「稔……!アイツ何して…」
『3-A、白戸瑞希。ステージに上がってこい』

 しばらくぶりに見た稔に驚いていると、突然マイクを使って呼び出される。稔を抱いているその男は、こちらを射殺さんばかりに睨みつけている。
 衆人環視の中逃れられる訳もなく、仕方なく登壇する。元生徒会長達に庇われるように、彼らの真ん中に立ち正面を見据えた。

 「ーー全校生徒に集まってもらったのには理由がある。それは今からお前たちを、この学園から排除するために公開処刑するからだ」
「……は?」

 見知らぬ男から発せられた言葉に、体育館にいる人間は皆ざわめいた。

 「なんだよそれ、俺たちを排除するだと?ふざけるな!」
「どなたか存じませんが、我々を誰だとお思いで?」
「僕らにそんなことしたら、アンタただじゃ済まないよ~?わかってんの?」

 元生徒会の面々は名家の生まれで、この学園にも莫大な寄付金を払っていると聞く。それを排除するとなっては、この学園も大事なのだ。

 「それがどうした?この学園は私が買い取った。だから私の好きにさせてもらう」
「っ、はぁ!?買い取っただと!?」
「理事長はどうしたんですか!?」

 男が事も無げに言い放った言葉に、途端に顔色を変える元会長達。さすがに瑞希も焦っていた。

 (コイツ、何者?この学園って、超金持ちが建てたんだろ?それを買い取ったって……やばいんじゃ…)

 何がヤバいって、淡々と話す男の横に、ぴったりと寄り添って離れない稔の存在だ。自分がこのステージ上に呼ばれたことと確実に関係しているだろう。

 「理事長には退いてもらったさ。彼は教育者として相応しくないからな。こんなバカ共を寄付金の為に野放しにするなんて、聞いて呆れる」
「なんだと……!?」
「口の利き方に気を付けろ。私はこの学園の理事長だ。さらに言えばお前たちの実家より権力も金も持っている。逆らったらどうなるか身をもって教えてやろう」
「っ、貴方は……誰、なんですか」

 男から放たれる威圧感に気圧される。それでも元副会長は聞いた。
 男は少し考えてから口を開く。「最後の餞に教えてやろう」そう言って告げられたのは、この国屈指の名家で、旧財閥として名を馳せた権力者一族の名であった。

 「どうあっても私に太刀打ちできないことは分かったみたいだな」

 挑発するように言うが、誰一人として言い返すことは出来ない。
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