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番外編
合同婚約パーティ
しおりを挟むそれは花の二の月の二十日も過ぎた、よく晴れた日のこと。
開放された王宮の大広間には、大勢の人が集まっていた。
「本日は私とエルチェット侯爵家令嬢である、ミレイア・エルチェット。そして我が弟であるアシュレイと、そのつがいで精霊の神子であるカナメの、婚約パーティに集まって頂きまことに感謝する! まずはひとりずつ挨拶でもしてもらおうか」
ウィリアムが言い終わるとミレイアが立ち上がる。
「ご紹介にあずかりました、エルチェット侯爵家の娘、ミレイア・エルチェットでございます。このような素敵な日に、皆様に祝福していただけて恐悦至極。ウィリアム陛下共々これからもよろしくお願いいたしますわ」
「次は私だな。アシュレイ・クリフォード・ネオブランジェだ。兄たちと共に祝ってもらえること、心より感謝する。これからも私たちを見守ってもらえたら幸いだ」
凛とした声で言い放ったアシュレイ。それから彼に促され、枢も立ち上がる。
「っ、アシュレイ殿下のつがいの、仲谷枢です……ッ! まだまだ未熟で、わからないこともたくさんありますが、殿下と二人で頑張ります……‼︎ よ、よろしくお願いしますっ」
「我々のために集まってくれたことに、再度礼を言う! 短い時間だが、楽しんでいってくれると幸いだ‼︎」
ウィリアムの言葉に、部屋を揺らすほどの拍手が響き渡る。
枢はアシュレイの隣に腰を下ろしながら、会場全体に視線を巡らせた。
「すごい、たくさんの人……」
「それはそうだろう。国王兄弟がまとめて婚約発表をするんだ。相手を一目見ようと国中から人が集まっているんだろう」
「……うぅ。僕、相応しくないって思われてたらどうしよう…………」
「なにを言っているんだ。ミレイアを守ったお前の活躍は、貴族たちには知れ渡っているはずだ。相応しくないなどと思うものか」
「そう、かなぁ……? そうだといいな……」
食事を楽しむ者、知人と談笑する者、こちらに話しかけに来る者、さまざまな客人たちを見やる。
ミレイアの誕生パーティーで見かけた者たちもいて、あの事件の後教えてもらった、貴族の名前を脳内で思い返す。
自身に向けられる視線や興味にドキドキしつつも、過去と訣別した枢はあの頃のように怯えて下を向くことはない。
緊張でなかなか入っていかないながら、食事を進めていると、司会のロドリゴからダンスへ移行する旨が伝えられる。
「さぁカナメ? 特訓の成果を発表する時間だ」
「……足、踏んでも我慢してね?」
「フォローは任せろ」
合同婚約パーティーの話を了承したあの日から、枢はこの日のために毎日みっちりとダンスの練習をしてきた。
貴族のダンスなど見たことも踊ったこともなく、ステップの難しさや足の痛みにヒィヒィ言いながら、このパーティーを準備してくれた陛下やリオンたち、何よりアシュレイに恥をかかせないよう必死に努力した。
差し出されたアシュレイの手を取り、ホールの中心に進んでいく。隣を見るとウィリアムとミレイアもスタンバイしていた。
緩やかに音楽が流れ出す。
それに合わせて一歩踏み出す。腰に回されたアシュレイの手が、次の動きを教えるように優しく引かれ、互いの体が密着する。
「大丈夫だ。私がリードしてやる。私だけ見て、身を預けてくれ」
「うん……」
囁かれた声に視線をあげれば、やさしく輝く紫の宝石。枢はそれに囚われ、他の人の視線も声も存在も、全て忘れてしまう。
硬かった体は音楽に合わせ、流れるようにステップを踏む。アシュレイと一体となり、優雅なダンスを披露していた。
そして気がつくと音楽が止まり、いつの間にかホールはしんと静まっていた。
「あれ? 終わった……?」
少し弾んだ息のままあたりを見渡す。すると割れんばかりの拍手が。
「ぅわ⁉︎ びっくりした!」
「完璧だったぞカナメ。美しいダンスだった」
「本当に! 一緒にたくさん練習した甲斐がございましたわねカナメ様!」
「あぁ。素晴らしかった。まぁ私たちも負けてはいないがな」
主役の二組はにこやかに笑い合う。
二曲目が始まっても、違う人と踊ることはせず、己の愛する人と密着し、小さく何かを囁き合う。
その仲睦まじい様子を見た貴族たちは、国王兄弟とそのつがいたちの幸せと、この国の平穏を確信したという。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ということで合同婚約パーティーです。
めちゃめちゃ短期間で枢はダンスを習得しました。もともと頭はいい(特待生で外部入学した人だから)ので、覚えるのは簡単だったんですが、体がついてこないというね。
パートが女性なので、ミレイアにみっちりしごかれたと思います。
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