嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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番外編

彼と騎士と侍従長⑤-1

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※ロイドとユリウス、そしてリオンのお話五話目。誤解がとける……か?

          ♢♦︎♢

「ユリウス殿」
「あ、リオン殿……」

 護衛をマクシミリアンと代わった直後、ユリウスはリオンに呼ばれた。
 「着いてきて欲しい」と言われその通りにすると、連れていかれたのは、いつかの日ロイドと初めてあった宿舎のそばだった。

「ッ、ここは……」
「ユリウス殿、話があります」
「は、はいっ!」

 どうしてこの場所を彼が知っているのかと、不安に思うのも束の間。どこか硬い声のリオンに背筋を伸ばして顔を向ける。

「貴方はアイツ……、失礼。ロイド侍従長と私の関係を誤解しておられるようだ」
「…………誤解?」

 親しげに『アイツ』と呼んだのに、なにが誤解か。黒いモヤが胸に広がっていくのを感じていれば、リオンはため息をひとつ。

「ほらまた。いいですか? 私と彼は、貴方が思っているような関係では断じてありません。むしろ私は彼のことが嫌いです」
「……そんなの、嘘だ」
「嘘ではありません。彼は昔からヘラヘラとしていて、軟派で。人をからかっては楽しむような人間で、大嫌いでした」
「昔から……」

 自分の知らない彼を知っている。嫌いというならどうしてそんなにも親しげなのか。リオンの言いたいことが分からなくてイライラしてしまう。

「っ、あの! 何の話をしたいのか分かりませんが、私はそろそろ戻らせていただいてよろしいですか!?」
「それはダメだ」
「ッ!! ロ、イド殿……」
「来るのが遅い!」
「悪い悪い。……っつーかリオン。お前の説明で多分、勘違いもっと酷くなってるぞ」
「はぁ!?」

 驚いてユリウスを見れば、瞬間的に顔を逸らす。左手で逆の腕をギュッと抱き寄せる様を見て、リオンは己の失敗を悟った。

「あー……。そうでしたか。ユリウス殿、すみませんでした」
「え、ぁ……いえ。別に……」
「何度も言いますが、私とこの人は貴方が想像するような関係ではありません。というか、コイツを好きになるわけがないんです」
「それは、どうしてですか」
「だって俺たち、兄弟だからな」

 小さく落とされたユリウスの問いに答えたのはロイドだ。あっけらかんと言い放ったそれに、ユリウスの俯いた顔があがる。

「兄弟……?」
「そうだ。ファルバロン伯爵家三男、ロイド・ファルバロン。そんでこっちが」
「…………四男、リオン・ファルバロンです」
「見てわかんないもんかねぇ? 髪も目の色も同じだろうに」

 やれやれといった様子のロイド。その横で忌々しげにリオンが呟く。

「ほかの兄様にに似るならまだしも、一番似てるのがお前だなんて、本当に最悪だ……」

 ーー確かに、共通点はいくらもあった。
 髪と目の色もそうだが、髪質も同じでくせっ毛のようだし、なにより所作が似ている。洗練された美しい動きは、同じ場所ーーつまり家庭で修練したと考えれば納得がいく。

「っ、たしかに、似てる……でも」

 納得は出来るが、受け入れられるかは別だ。
 ユリウスがすぐに誤解を解けないのには、理由があった。ーーそれはロイドから距離を取り出した原因でもある。

「でも、兄弟だったら、キスなんかしない……っ!」
「はぁ!? キスだと? 俺とリオンがかっ?」
「そうですっ! 二年前私は見たんだ、貴方たちがキスしているところを!」

          ♢♦︎♢

 それは二年前の花祭りの日だった。

 ユリウスは街の警備についていたが、その時たまたまリオンを見かけたのだ。どうやら彼は休日のようで、いつもの仕事着とは違う出で立ちだった。
 珍しいこともあるものだと思いながら、彼の主人であるアシュレイもこの街にいることから、花祭りを満喫がてら様子を見に来たのだろうくらいに考えていた。

「……え」

 だが、リオンが一瞬人混みに紛れたかと思えば、次に現れた時、隣にロイドの姿を見つけてユリウスは酷く驚く。
 ロイドはリオンと違い仕事着を身につけてはいるが、彼の主人である国王ウィリアムは今城にいるはず。一体何用でこの場所にいるのか。

「待ち合わせ……? いや、きっとなにか買い出しとか」

 ドクドクと心臓の音がうるさい。
 偶然この場で会った可能性もあるというのに、なぜか気になって仕方がない。視線が外せないまま注視していれば、彼らは顔を寄せ合ったり親しげに話していて、その度ユリウスの胸は軋んだ音を立てる。そしてーー。

「う、そ……」

 こちらの存在に気付いていない二人の体が重なる。
 リオンの頬に添えられたロイドの手のひらが、ゆっくりと離れる顔が、すべてスローモーションで見えた。
 距離をとったあとリオンはなにか喚いているようにも見えたが、ユリウスはそれどころではなかった。
 胸に去来するのはロイドと過ごしたこの二年間のことだ。
 会う度、見かける度声をかけてくれたこと。優しく頭を撫でてくれたこと。落ち込んだ時、悩んだ時に相談に乗ってくれたこと。
 『可愛い』『俺のものになってほしい』と、甘く熱い声で伝えてきたことーー。

 ……その全部が彼のお世辞であったのだと、この時理解した。
 彼の一挙一動に惹かれ、甘い言葉に絆され、その気になっていた自分とは違い、ロイドは自分のことなどなんとも思っていなかったのだと分かってしまった。

 二人が並んで歩き出すのが見える。きっとこの後のフラワーシャワーまで一緒に過ごし、そしてプロポーズでもするのだろう。

「っは、ははは……ッ。馬鹿だな俺。少し考えれば分かることなのに。だって、"好き"なんて、言われたことないじゃないか。それなのに本気で好きになったりして……。ほんと、どうしようもない」

 甘い言葉を囁かれたが、その中に一度でも『好きだ』というものはなかった。頭を撫でられはしてもそれだけ。キスなんて、贈られたことなどない。

「気持ち、伝えてなくてよかった……!!」

 知らず流れ出した涙を拭うと、二人の姿を脳裏から追い出す。仕事に集中するのだと、唇を噛みながら自分に言い聞かせた。

          ♢♦︎♢

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちょっと長くなるので一旦切ります~。
⑤-2へ続く。
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