42 / 50
番外編
彼と騎士と侍従長⑤-1
しおりを挟む※ロイドとユリウス、そしてリオンのお話五話目。誤解がとける……か?
♢♦︎♢
「ユリウス殿」
「あ、リオン殿……」
護衛をマクシミリアンと代わった直後、ユリウスはリオンに呼ばれた。
「着いてきて欲しい」と言われその通りにすると、連れていかれたのは、いつかの日ロイドと初めてあった宿舎のそばだった。
「ッ、ここは……」
「ユリウス殿、話があります」
「は、はいっ!」
どうしてこの場所を彼が知っているのかと、不安に思うのも束の間。どこか硬い声のリオンに背筋を伸ばして顔を向ける。
「貴方はアイツ……、失礼。ロイド侍従長と私の関係を誤解しておられるようだ」
「…………誤解?」
親しげに『アイツ』と呼んだのに、なにが誤解か。黒いモヤが胸に広がっていくのを感じていれば、リオンはため息をひとつ。
「ほらまた。いいですか? 私と彼は、貴方が思っているような関係では断じてありません。むしろ私は彼のことが嫌いです」
「……そんなの、嘘だ」
「嘘ではありません。彼は昔からヘラヘラとしていて、軟派で。人をからかっては楽しむような人間で、大嫌いでした」
「昔から……」
自分の知らない彼を知っている。嫌いというならどうしてそんなにも親しげなのか。リオンの言いたいことが分からなくてイライラしてしまう。
「っ、あの! 何の話をしたいのか分かりませんが、私はそろそろ戻らせていただいてよろしいですか!?」
「それはダメだ」
「ッ!! ロ、イド殿……」
「来るのが遅い!」
「悪い悪い。……っつーかリオン。お前の説明で多分、勘違いもっと酷くなってるぞ」
「はぁ!?」
驚いてユリウスを見れば、瞬間的に顔を逸らす。左手で逆の腕をギュッと抱き寄せる様を見て、リオンは己の失敗を悟った。
「あー……。そうでしたか。ユリウス殿、すみませんでした」
「え、ぁ……いえ。別に……」
「何度も言いますが、私とこの人は貴方が想像するような関係ではありません。というか、コイツを好きになるわけがないんです」
「それは、どうしてですか」
「だって俺たち、兄弟だからな」
小さく落とされたユリウスの問いに答えたのはロイドだ。あっけらかんと言い放ったそれに、ユリウスの俯いた顔があがる。
「兄弟……?」
「そうだ。ファルバロン伯爵家三男、ロイド・ファルバロン。そんでこっちが」
「…………四男、リオン・ファルバロンです」
「見てわかんないもんかねぇ? 髪も目の色も同じだろうに」
やれやれといった様子のロイド。その横で忌々しげにリオンが呟く。
「ほかの兄様にに似るならまだしも、一番似てるのがお前だなんて、本当に最悪だ……」
ーー確かに、共通点はいくらもあった。
髪と目の色もそうだが、髪質も同じでくせっ毛のようだし、なにより所作が似ている。洗練された美しい動きは、同じ場所ーーつまり家庭で修練したと考えれば納得がいく。
「っ、たしかに、似てる……でも」
納得は出来るが、受け入れられるかは別だ。
ユリウスがすぐに誤解を解けないのには、理由があった。ーーそれはロイドから距離を取り出した原因でもある。
「でも、兄弟だったら、キスなんかしない……っ!」
「はぁ!? キスだと? 俺とリオンがかっ?」
「そうですっ! 二年前私は見たんだ、貴方たちがキスしているところを!」
♢♦︎♢
それは二年前の花祭りの日だった。
ユリウスは街の警備についていたが、その時たまたまリオンを見かけたのだ。どうやら彼は休日のようで、いつもの仕事着とは違う出で立ちだった。
珍しいこともあるものだと思いながら、彼の主人であるアシュレイもこの街にいることから、花祭りを満喫がてら様子を見に来たのだろうくらいに考えていた。
「……え」
だが、リオンが一瞬人混みに紛れたかと思えば、次に現れた時、隣にロイドの姿を見つけてユリウスは酷く驚く。
ロイドはリオンと違い仕事着を身につけてはいるが、彼の主人である国王ウィリアムは今城にいるはず。一体何用でこの場所にいるのか。
「待ち合わせ……? いや、きっとなにか買い出しとか」
ドクドクと心臓の音がうるさい。
偶然この場で会った可能性もあるというのに、なぜか気になって仕方がない。視線が外せないまま注視していれば、彼らは顔を寄せ合ったり親しげに話していて、その度ユリウスの胸は軋んだ音を立てる。そしてーー。
「う、そ……」
こちらの存在に気付いていない二人の体が重なる。
リオンの頬に添えられたロイドの手のひらが、ゆっくりと離れる顔が、すべてスローモーションで見えた。
距離をとったあとリオンはなにか喚いているようにも見えたが、ユリウスはそれどころではなかった。
胸に去来するのはロイドと過ごしたこの二年間のことだ。
会う度、見かける度声をかけてくれたこと。優しく頭を撫でてくれたこと。落ち込んだ時、悩んだ時に相談に乗ってくれたこと。
『可愛い』『俺のものになってほしい』と、甘く熱い声で伝えてきたことーー。
……その全部が彼のお世辞であったのだと、この時理解した。
彼の一挙一動に惹かれ、甘い言葉に絆され、その気になっていた自分とは違い、ロイドは自分のことなどなんとも思っていなかったのだと分かってしまった。
二人が並んで歩き出すのが見える。きっとこの後のフラワーシャワーまで一緒に過ごし、そしてプロポーズでもするのだろう。
「っは、ははは……ッ。馬鹿だな俺。少し考えれば分かることなのに。だって、"好き"なんて、言われたことないじゃないか。それなのに本気で好きになったりして……。ほんと、どうしようもない」
甘い言葉を囁かれたが、その中に一度でも『好きだ』というものはなかった。頭を撫でられはしてもそれだけ。キスなんて、贈られたことなどない。
「気持ち、伝えてなくてよかった……!!」
知らず流れ出した涙を拭うと、二人の姿を脳裏から追い出す。仕事に集中するのだと、唇を噛みながら自分に言い聞かせた。
♢♦︎♢
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょっと長くなるので一旦切ります~。
⑤-2へ続く。
13
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。