嫌われ者は異世界で王弟殿下に愛される

希咲さき

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第二部

はじまり

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「ーーお疲れ様です。そろそろ引き上げましょうか」
「カナメ術師長様もお疲れ様です!」
「はい。騎士の皆さんもお疲れ様でした。お怪我はありませんか?」

 振り返った背中で、艶やかな黒髪が揺れる。

 水の月のとある日、群れをなした魔獣の討伐任務を受けた。騎士たちと共に現場に向かった枢は、すっかり術師長として成長した姿を見せている。

 ーー枢がネオブランジェに現れてから、まる三年が経っていた。
 まだ幼さの残っていた顔も随分と成熟したように見え、他の術師からの信頼も厚いようだった。

「カナメ!」
「あ、アシュレイ」

 かけられた声に振り向けば、こちらに走りよってくるアシュレイが。
 精悍な顔つきも、がっしりとした体格も纏った雰囲気も、数年経ってもなにも変わらない。
 ただ枢に向けられる視線だけが、年々甘く優しく変化しているのだが。

「今回も怪我人もなく終わってよかったな。術師の皆のおかげだ」
「そんなことないです。術師の皆もですけど、騎士の皆さんが頑張ってくれたから、こんなに早く片付いたんですよ」
「ああ、そうだな。……さて、皆も疲れているだろうから、早く城に戻るとするか」

 仲睦まじく寄り添いながら、馬車を停めてある場所まで歩き出す。その時枢はあることに気づいた。

「……あれ? 精霊さん?」

 視界の端にフワリと、どこかに飛んでいく精霊が見える。
 自分たちの作業は終わり、精霊の森に帰ったと思ったのだが違ったのか。一匹だけではない彼らが気になり、アシュレイに声をかけた。

「ねぇアシュレイ。なんか精霊さんが向こうに行ってるんだけど」
「なに? 何かあるのか?」
「わかんないけど、精霊さんが興味を引かれるものとか、もしかしたら誰かが祈りを捧げてるのかも。……ちょっと行ってもいいかな?」
「……そうだな」

 アシュレイは少し考えてから頷く。
 騎士や術師たちには先に戻るよう告げ、それから精霊が飛んで行った方向へ駆け出す。後ろには二人の後を着いてきたマクシミリアンとユリウスもいた。

「っあ、あそこに集まって……」
「! 誰か倒れている!!」

 キラキラと輝く場所を見つけて駆け寄れば、傍に人が倒れていた。

「大丈夫ですか!? しっかり!」
「ぅ、あ……。ル、ゥ……」
「え!?」

 横たわっていたのは黒いローブを纏った老婆であった。声は嗄れ、顔も青白くなっており、今にも命の灯火が消えてしまいそうだ。
 そんな老婆が何かを呟きながら体を動かす。力なくまくったローブの下からは、同じように倒れている小さな人影が現れた。

「子供……!?」
「この子……、ルゥを。ルゥ、を頼み……ます、っ。どうか……守って…………」
「ちょ、ちょっと!! お婆さん……!?」

 最後の力を振り絞ったのか、傍に膝をついていた枢の服を強く掴むと、そのままパタリと手が落ちた。
 そうしてピクリとも動かなくなる。慌てて隣で精霊魔法をかけていたユリウスを見るが、彼は顔を伏せて首を振った。

「そんな……」
「この子供は息があるぞ!!」
「っ、!!」

 事切れた老婆に愕然としていれば、鋭く飛んだアシュレイの声にハッとする。
 慌ててそちらに近寄れば、折れそうなほど痩せこけ、ぐったりとしている小さな子供がいた。
 アシュレイが老婆の下から子供を引っ張り出せば、枢はすぐさま精霊魔法をかける。
 幾らか呼吸は楽になったようだが、目が開くことはなかった。

「とりあえず、二人を連れて城に戻ろう」
「っそ、そうだね……!」

 『ルゥを守って』そう言い残して逝ってしまった老婆と、彼女に守られていた子供。
 
 ーーこの出会いが枢とアシュレイの歯車を、再び回すことになる。
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